イングリッシュ・オープニングの創生(1) 

(by Yamagishi, edit ayu)

2005年01月10日

イングリッシュ・オープニングの創生

オープニング研究シリーズ第二段としてイングリッシュ・
オープニングを採り上げます。種本は次の本です。

「Chess from Morphy to Botwinnik」 Imre Konig 著、
Dover Publications 発行

副題として「A Century of Chess Evolution」が付けられて
います。Dover 版は絶版になっていますが、Hardinge
Simpole 社から2002年に復刻版が出ています(ISBN
1843820196)。この本は四つのオープニング - 「ルイ・ロペ
ス」「クィーンズ・ギャンビット」「イングリッシュ・オープニング」
「キングズ・ギャンビット」 - について定跡の進歩・発展の
過程を解き明かしたものです。一貫して流れるテーマは
「センターの支配」です。白がセンターをどのように支配しよ
うとし黒がどのようにそれをはね除けようとしてきたかが
ポール・モーフィーからミハイル・ボトビニクまでのマスター達
の実戦棋譜を元に解説されています。

「イングリッシュ・オープニング」編は全部で15の棋譜から
成っています。戦型は4種類です。この本は1950頃に
出版されたので棋譜自体は古いです。しかし現在最善と
されているオープニングの手順をいろいろ覚えるよりも、
その根底を流れる考え方や着想を理解し身に付けるほうが
はるかに応用が効くと思います。

1.e4/1.d4 はセンターをポーンで占拠することによりセンター
の支配を目指しています。1.c4 は一見センターに無関心の
ようですが、決してそんなことはありません。1.c4 も 1.e4/
1.d4 と同様にセンターの支配を目指しています。実はセン
ターの支配とセンターの占拠は同じではありません。イング
リッシュ・オープニングは離れたところから役駒でセンターを
支配しようとし、もし黒がセンターにポーンを進めて支配しよ
うとすればそれらを攻撃目標とします。ここにイングリッシュ・
オープニングの本質があります。

一応「研究編」と銘打っていますが「実戦編」はやらないと
思います(私がイングリッシュ・オープニングを指さないので)。
一週間に2回ぐらいのペースを考えているので、終わるまで
2ヶ月くらいかかると思います。

【第1局】 24番勝負第12局、1843年
スタントン(H.Staunton) - サン・タマン(P.C.F.de Saint-Amant)

イングリッシュ・オープニングという戦法名は19世紀の中頃
に英国の選手たちによってしばしば用いられたところから
名づけられました。そもそも最初に戦法として採用したのは
スタントンで、イングリッシュ・オープニングの創始者と云わ
れています。しかしその後はパタッと指されなくなりました。
復活したのは1920頃の超現代派(hypermodern school)
たちによってでした。彼らは自分たちの創案した新しい理論
(側面からセンターを掌握する)を実証するためにこぞって
イングリッシュ・オープニングを実戦に採用しました。

  1.c4 c5 2.Nc3 f5 3.e4 d6 4.Bd3 e6 5.Nh3 Nf6
  6.exf5 exf5 7.O-O Be7 8.b3 Nc6 9.Bb2 O-O
  10.Nf4 Ng4

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ここまでは初めてイングリッシュ・オープニングが指された
ことで有名な第6局とほぼそっくりです。第6局ではサン・
タマンが 7...g6 8.b3 Be7 9.Bb2 O-O 10.Nf4 Nc6 の手順を
取ったため(10...Ng4 の代わりに 10...g6 と指した勘定に
なっている)a1-h8 の斜筋が弱くなりました。そして
11.Ncd5 Nxd5 12.Nxd5 Be6 13.Nxe7+ Qxe7 14.Qe2 と
進み、b2 のビショップの威力で白が優勢になりました。

  11.Nfd5

次に 12.f4 がある分 11.Ncd5 より優ります。

  11...Bf6 12.Nxf6+ Nxf6 13.Ne2 Ng4 14.f4 b6
  15.h3 Nh6 16.Rf3 Qh4 17.Rg3

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  17...g6

白はようやく黒のキングの周辺を弱めさせることができま
した。もし黒が 17...Rf7 と守れば 18.Rg5 で、Qf1 としてか
ら g3 として黒のクィーンを捕らえる狙いが生じます。

  18.Qe1

スタントンの評によると 18.Qf1(Rg5 として g3 で黒のクィー
ンを捕獲する狙い)Qe7 19.Qf3 として Qh5 を狙ったほうが
紛れがなくて効果的だったそうです。しかし黒は 18...Nf7
で守ることができます。傑出したポジッショナル・プレーヤー
のスタントンにしては珍しくタクティクスに惑わされました。
ポジッショナルな手順は 18.Qc2! Bb7 (18...Nd4 19.Qc3)
19.Qc3 Nd4 20.Nxd4 Qxg3 21.Nc6 で白の勝ちとなるところ
でした。開いた斜筋(a1-h8)を支配する b2 のビショップが
いかに強力かが如実に分かります。

  18...Qe7

19.Rxg6+ でクィーンを素抜かれる手を避けました。

  19.Qf2 Nb4 20.Re1 Bb7

20...Nxa2 とポーンをかすめ取ると 21.Nc1 でクィーン・ナイト取りになります。

  21.Bb1 Rae8 22.Re3 Qd8 23.Ng3 Kf7 24.Qe2 Rxe3

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  25.dxe3

25.Qxe3 と取ると 25...Re8 でドローっぽくなります。

  25...Qh4

黒が 25...d5 なら 26.a3 としてナイトを追い払ってから Rd1
と回ります。

  26.Nf1 Ng8 27.Rd1 Rd8 28.Nd2 Qg3

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  29.Nf1

この手は緩手でした。正着は 29.e4 で以下のように強い
攻撃が展開されるところでした。
(a) 29...Re8 30.Nf3! h6 (30...Qxf4? 31.Bc1!) 31.Rxd6
(Ne5+ が狙い)
(b) 29...fxe4 (29...Qxf4 30.exf5) 30.Nxe4 Bxe4 31.Qxe4

  29...Qh4 30.Nh2 h6 31.Nf3 Qg3 32.Ne1

ポーン損を防ぐために 32.Nh2 と戻らなければなりません
でした。

  32...Re8 33.Qf2

33.Rxd6 は 33...Rxe3 でたちまち黒の勝ちです。

  33...Qxe3 34.a3 Nc6 35.Nf3

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  35...Qxf2+

35...Qxf4 と交換を避けるのは 36.Bc1 でクィーンが死にます。

  36.Kxf2 Re6 37.g4 Nce7 38.Nh4 Be4 39.Bxe4 Rxe4
  40.Rxd6 fxg4 41.hxg4 Rxf4+ 42.Kg3

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  42...g5?

この手が悪手である理由は、黒のキング側ポーンの数の
優位を無価値にしたことと、白のナイトをわざわざ良い位置
に追ったことにあります。この手の代わりに 42...Rf1
43.Nf3 Rb1 なら黒優勢を維持できました。

  43.Nf3 Re4?

狙いにはまりました。43...Nf6 の方が良く、44.Bxf6 Rxf6
45.Ne5+ Kg7 46.Rd7 となるところでした。

  44.Rxh6 Re3

44...Rxg4+ 45.Kxg4 Nxh6+ ならドローだったでしょう。

  45.Rh7+ Ke8 46.Bc1 Rxb3 47.Bxg5 Rxa3 48.Kf4

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  48...a5

この手で形勢が逆転しました。48...Ra1 としてルークを守り
に活用すべきでした。そうすれば 49.Ne5 Rf1+ 50.Ke4 の
時 50...Nf6+ 51.Bxf6 Rxf6 52.g5 はこのポーンが強すぎて
黒は勝てないですが、50...Re1+ でドローに持ち込むことは
できました。

  49.Ne5 Ra1

50.Bxe7 Nxd7 51.Rh8+ に対処するにはこの手しかありません。

  50.Bxe7 Rf1+ 51.Ke4 Nxe7 52.Rh8+ Rf8

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  53.Rh6

スタントンによれば 53.Rxf8+ とルークを交換するのは
ドローにしかなりません。

  53...Ng8

53...Nc8 は 54.g5 でパスポーンがが強くなります。

  54.Rxb6 Nf6+ 55.Ke3 Nd7 56.Re6+ Kd8 57.Rd6 Ke7
  58.Rxd7+ Ke6 59.Rd5 Rf1 60.Nd3 Rg1 61.Nxc5+ Kf6
  62.g5+ Kg6 63.Ne4

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以下89手目で白勝ち

イングリッシュ・オープニングの黎明期の本局には、二つの
重要なアイデアの萌芽が見られます。

まず一つ目は相手のセンター・ポーンを破壊するための、
スタントンの周到に練られた作戦です。サン・タマンの 2...f5
に対する 3.e4 についてスタントン自身は次のように述べて
います。
「黒の手に対する強硬な応手である。もし黒からポーンを
交換してくれば白のナイトがキング側の好位置に来る。黒
から交換して来なければ黒のセンター・ポーンがセンター
の外に行くだろう(6.exf5 exf5)。」

二つ目はクィーン側フィアンケットの採用という重要な手法
です。これについてもスタントンは次のように言っています。
「クィーン側ビショップに出口を与えるためのこのポーン突き
(8.b3)は本局以降広く用いられるようになった。旧システム
と比較して、本局の手法の利点は全くもって明らかである。」

投稿者 yamagishi : 21:33 | コメント (0)