2005年02月09日
イングリッシュ・オープニングの創生(11)
第2章 20世紀のイングリッシュ・オープニング(6)
イングリッシュ・オープニングの現代の戦型 - メーソンの指し方
スタントンは白のキング側ビショップの威力を理解していま
したが、これが一般に認められるまでには長い時間がかか
りました。シシリアン・ディフェンスのドラゴン戦法は19世
紀末には既に指されていましたが、逆「ドラゴン」の登場は
1902年にジェームズ・メーソンによって指されるまで待た
なければなりませんでした。
「タラシュ時代」にこのような新手を披露するのは革命的な
できごとでした。その頃はたった3手目にセンターの支配
を黒にゆだねるのは「大胆」とみなされていました。しかし
メーソンは早期にポーンを
d4
と突くことによって黒のセン
ターを消滅させることができることを実証して見せました。
彼の構想は第一次大戦後まであまり賛同を得られません
でしたが、その後超現代派によって新定跡が広められま
した。
【第6局】メーソン(J.Mason) − ミーゼス(J.Mieses)
モンテカルロ、1902年
1.c4 e5 2.Nc3 Nf6 3.g3
この戦型では早期にフィアンケットを行います。
3...d5 4.cxd5 Nxd5 5.Bg2
5...Be6
ナイトを守りながら展開するこんな自然な手が疑問視され
るとは当時ほとんど信じられないことでした。今日(1950年
頃)では 5...Nb6
6.Nf3 Nc6 7.O-O Be7 8.d3 Be6 9.Be3
O-O で黒が十分と考えられています。この後はたとえば
10.d4
exd4 11.Nxd4 Nxd4 12.Bxd4 c6 13.Qd3 Bf6 14.Rad1
Bxd4
(サボ(Szabo)対ランダウ(Landau)、ヘースティングズ
(Hastings)、1938-39年) となって形勢互角です。
6.Nf3 Nc6
6...f6 なら 7.O-O Nc6 8.d4 exd4 9.Nb5 Bc5 10.Nfxd4 Nxd4
11.Nxd4 Bf7 12.Qa4+
Kf8 13.Rd1
(アリョーヒン(Alekhine)
対ドゥス・チョティミルスキー(Dus-Chotimirsky)、カルルス
バート(Carlsbad)、1911年)となり白有利でした。
7.O-O Be7 8.d4 exd4 9.Nxd4
9...Ncxd4
9...Nxc3 10.bxc3 Nxd4 11.cxd4 c6 と指す方がわずかに
良いですが、それでも白の有利は変わりません。
10.Qxd4 Bf6 11.Qa4+ c6 12.Nxd5 Bxd5 13.Rd1
8手目からの白の戦略は明白です。局面がもう少し進行す
れば黒の形勢は絶望的になります。今日ではこのような
指し回しは常識的で驚くには当たりません。しかし1902年
にはこのような指し方は知られていませんでした。メーソン
の局面の理解がどのくらい同時代の者より進んでいたかが
良く分かります。
13...b5 14.Qc2 Qc8
15.e4!
15.Bxd5 cxd5 16.Qxc8+ Rxc8 17.Rxd5 a6 18.Rd6 Ke7
19.Rxa6 Rhd8 20.Be3 Bxb2
21.Rb1 Rc2 はあまりはっきり
しません(ポーン損でも黒の駒の配置が良くなっています)。
15...Bc4 16.e5 Be7 17.b3 Bd5 18.Bxd5 cxd5 19.Qxc8+
Rxc8 20.Rxd5
明らかに白は、16手目からの展開で3手得するとともに、
黒のビショップを強い斜筋から追いやりました。
20...Rc5 21.Rxc5 Bxc5 22.Bb2 Ke7 23.Rc1 Bb6
24.Kf1
Rd8 25.Ke2 Ke6
26.f3
この手は 26.f4 より強い手です。
26...Rd7 27.Rc6+ Kf5 28.g4+ Kf4 29.e6 Re7
30.Bxg7
fxe6 31.Bf8 Re8 32.Bd6+
32...e5
32...Kg5 なら 33.Bg3 の後 34.h4+ です。
33.Bc5!
この手は 34.Rxb6 axb6 35.Be3#
のメイトが狙いで、黒に
ルーク・エンディングに入ることを余儀なくさせています。
そしてメーソンの卓越したエンディングの技量が発揮され
ることになります。
33...Bxc5 34.Rxc5 a6 35.Rc7! h6 36.Rc6 e4
37.Rf6+ Kg5
38.Rxa6 Rc8 39.h4+ Kxh4
40.Rxh6+ Kg3 41.fxe4 Rc2+ 42.Kd3 Rxa2
43.Rb6
Kxg4 44.Rxb5 Ra1 45.Rd5 Rd1+
46.Kc4 Rc1+ 47.Kb5 Kf4 48.e5 1-0
メーソンはどのようにセンターの攻撃を行うべきかを明快に
教えてくれました。自分自身のポーンの進路を開けるため
にセンター・ポーンを交換し、それまでは時期が来るまで
ポーン突きを慎重に控えておくという彼の構想は特筆に
値します。
この試合の見所は定跡手順ではなく、彼のこの戦略構想
にあります。この試合に見られた定跡手順は今日では見
られなくなっています。それは5手目に対する参考局に見
られるように白はセンターで早期にポーン交換を挑むことを
黒から避けられていて、そうかといって後からでは有利に
ならないからです。