2005年02月24日
イングリッシュ・オープニングの創生(16)
第2章 20世紀のイングリッシュ・オープニング(10)
ルビーンシュタインの防御システム
【第10局】ニムゾヴィッチ(A.Nimzovitch) −
ルビーンシュタイン(A.Rubinstein)
ドレスデン(Dresden)、1926年
1.c4 c5 2.Nf3 Nf6 3.Nc3 d5
ルビーンシュタインは決まってこの手を指していました。その
狙いは白が局面を完全に掌握できないうちに、強硬手段で
センターの優位を勝ち取ろうというものです。
4.cxd5 Nxd5 5.e4
この手はニムゾヴィッチの発案で、d 筋のポーンがバック
ワードになるのは甘受して、代償に駒の展開を良くしよう
という考えです。
5...Nb4 6.Bc4 e6
6...Nd3+ 7.Ke2 Nf4+ 8.Kf1 は白に 9.d4
という強力な狙い
が残ります。この手は弱点のバックワード・ポーンをすぐに
解消し、局面を開放状態にします。開放的な局面は常に
展開に勝る方に有利に働きます。
7.O-O N8c6
7...N4c6 の方が優りました。
8.d3 Nd4
b4 のナイトの退路をつくるためにこの手が必要です。
9.Nxd4 cxd4 10.Ne2 a6
白の 11.Bb5+ の防ぎです。
11.Ng3 Bd6
12.f4
12.Qg4 Qf6 (12...O-O 13.Bg5 Be7 14.Bh6) 13.f4 (13.Nh5
Qg6!) の方が強力でした。
12...O-O 13.Qf3 Kh8 14.Bd2 f5 15.Rae1 Nc6 16.Re2
Qc7 17.exf5 exf5
18.Nh1
一見奇妙なこの手の意味は、ナイトを f2,h3 から g5
へ運
ぼうというものです。そうなれば黒のキングに対する攻撃
に絶好の位置になります。これはニムゾヴィッチの独創的
で先入観のない考え方の好例です。開放された
e 筋を利
用するという型にはまった考え方では 18.Rfe1 Bd7 19.Be6
Rae8 20.Bxd7 Rxe2 21.Qxe2
となります。これでも悪くは
ありませんが、ニムゾヴィッチの指し方のほうがより良い
結果をもたらします。
18...Bd7 19.Nf2 Rae8 20.Rfe1 Rxe2 21.Rxe2 Nd8
21...Re8 は 22.Qd5 で不可です。(訳注 Fritz8によれば
22...Rf8 とルークを戻して全くの互角のようです。)白が e
筋を支配し攻勢に立っていることが分かります。
22.Nh3
22...Bc6
22...Re8 は 23.Qh5 Rxe2 24.Ng5 h6 25.Qg6 があるので
良くありません。(訳注 Fritz8によれば途中
24...Rxg2+
25.Kxg2 Bc6+ で結構難しいようです。)
簡単な手筋によって白は黒が e
筋から反撃するのを阻止
することができるということが分かります。中盤においても
技術が進歩したことが見て取れます。新たにより組織的で
広域的な戦略が旧来の駒運びに取って代わりました。
白は目的を達成し、これからナイトを g5
に置いてキング側
攻撃に向かいます。黒のキング側に弱点を作らせ防御の
手薄なキングを裸にします。そうなれば黒陣は2,3手で
崩壊します。
23.Qh5 g6 24.Qh4
白は黒にキングの周りの黒枡を弱体化させ、d6 のビショッ
プをキング側から引き離して黒枡をさらに弱くします。
24...Kg7 25.Qf2
25...Bc5
25...Qb6 なら 26.b4! で 27.Bc3 が狙いとして残ります。
26.b4 Bb6 27.Qh4!
ビショップを追い払ったのでまた攻撃に向かいます。今度は
e7 の地点が狙いに加わりました。
27...Re8 28.Re5!
28...Nf7
28...Rxe5 なら 29.fxe5 Qxe5 30.Qh6+ で以下詰みになり
ます。また 28...h6 なら 29.g4 fxg4
30.f5 Qxe5 31.f6+ Qxf6
32.Qxh6# で詰みです。
29.Bxf7 Qxf7 30.Ng5 Qg8 31.Rxe8 Bxe8 32.Qe1
32...Bc6
駒数が残り少ないにも拘わらず白の攻撃は切れません。
32...Kf8 なら 33.Qe5 Bd8 34.Ne6+ Ke7 35.Qc5+ Kd7
36.Nf8+ というニムゾヴィッチの素晴らしい読みがあります。
33.Qe7+ Kh8 34.b5
ビショップが攻撃に参加できるようにします。
34...Qg7
34...axb5 なら 35.Ne6 h5 36.Qf6+ Kh7 37.Ng5+ Kh6
38.Bb4 で以下詰みになります。
35.Qxg7+ Kxg7 36.bxc6 1-0
まとめ
19世紀のイングリッシュ・オープニングと現代(1950年頃)
の戦型を調べてきたのは、この複雑なオープニングの過去
100年の発展を紹介するのが目的でした。1840年から1860
年までの試合では戦型を分類するのは容易ではありませ
ん。しかし今日の目で見れば、イングリッシュとレティ・オー
プニングとカタラン・システムが混ざり合っています。。ある
システムからより有利な別のシステムに移行することは
オープニングにおける最も重要な要諦です。しかしシステム
と移行の研究は本書の範囲を越えることなので、ここでは
「純粋な」イングリッシュ・オープニングだけを取上げました。
20世紀のイングリッシュ・オープニングは次の4システム
に分類できます。
(1)
白はセンターへの進攻を見合わせゆっくり駒を展開す
ることにより(フィアンケットなしに)、黒にセンターを占拠す
るよう仕向けます。このシステムはニムゾヴィッチの試合
(第1局)とシュピールマンの試合(第2局)とに見られます。
両者の成功は、黒が一手遅れているためにセンターでの
積極策がうまくいかないことに気がついていなかったこと
にありました。
(2) 4ナイト戦法。白は 5.d4 と指し、フィアンケットにより
(レティの試合、第3、4局)あるいはビショップが g5
にか
かることにより(ボトヴィニクの試合、第5局)、重要地点の
d5 を支配しようとします。
(3) イングリッシュ・オープニングの現在形。早期のフィアン
ケット(3.g3 と 4.Bg2)により重要地点の d5
の支配を目指し
ます。ただし局面が単純化しがちな早期の d4 へのポーン
突きは行いません。
(4) 黒が 1.e5 と指さない作戦。代わりに 1...c5 または 1...e6
で、弱点を作るのを避けながら d4
の地点を支配します。フ
ロールとニムゾヴィッチの試合(第9、10局)は、この場合
でも黒はオープニングの課題を十分に解決するには多くの
困難があることを示しています。