イングリッシュ・オープニングの創生(17) 

(by Yamagishi, edit ayu)

2005年03月03日

イングリッシュ・オープニングの創生(17)

ボトヴィニクのイングリッシュ・オープニング(1)

本講座の締めくくりにボトヴィニクのイングリッシュ・オープ
ニングを2局お目にかけます。ICC(Internet Chess Club 
http://www.chessclub.com/)では会員向けに35本の講座
を定時に流しています。内容はオープニングからエンディン
グまで、レベルは初心者向けから上級者向けまで多彩で
す。その中に「An Exciting Game by Botvinnik」という講座
が2本あり、本講座の解説はそれを基にしています。

【第1局】ボトヴィニク(Botvinnik) − ポルティッシュ(Portisch)
モンテカルロ(Monte Carlo)、1968年

ボトヴィニクは1970年に実戦から引退しました。本局は彼
が57歳の頃の対局です。ボトヴィニクは世界選手権戦の
防衛戦で勝ち越して防衛したことがなかったため、一部で
はあまり強いチャンピオンではないというように感じている
人があります。彼にとって初期の防衛戦を戦った1950年
代は学位論文を書くためにあまり大会に出ることができま
せんでした。従って責められるべきはボトヴィニクではなく、
実戦不足の彼を倒せなかった挑戦者達の方です。ボトヴィ
ニクがチェスを覚えたのは12歳の時でこの世界では晩学
です。世界選手権者になる人は6、7歳の頃にチェスを覚え
ているのが普通です。世界選手権者になったのは37歳頃
で、それから約15年近く世界選手権者の地位を保ったこと
はもっと高く評価されてよいと思います。

挑戦者のポルティッシュは旧ソ連外の強豪選手でした。挑
戦者を決めるトーナメントに何回も進出しています。この対
戦の時は31歳くらいで、指し盛りを迎えていました。しかし
あと2年で引退するボトヴィニクはそんな彼を難なく倒してし
まいます。

  1.c4

このオープニングは19世紀のイギリスの選手ハワード・ス
タントン(Howard Staunton)によって頻繁に用いられたので
イングリッシュと名づけられています。

  1...e5

黒は最も攻撃的な手で応じます。この手で戦型は白黒逆
のシシリアン・ディフェンスに向かいます。

  2.Nc3 Nf6 3.g3

ボトヴィニクは 3.d4 も指したことがありますが、それは黒が
やや楽な展開といわれています。それでボトヴィニクは戦
端を開く前に攻撃態勢を準備します。

  3...d5

黒はシシリアン・ディフェンスの白側の手順を指しています。
1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.d4 を踏襲しているわけです。違いは
もちろん黒が一手遅れていることです。つまりこの局面で
白は 3.g3 の分だけ一手先行しているわけです。

  4.cxd5 Nxd5 5.Bg2 Be6 6.Nf3 Nc6 7.O-O Nb6 8.d3 Be7

Y050303A.GIF

ここから中盤戦の始まりです。白の作戦はシシリアン・ドラ
ゴンの黒と同じでセンターとクィーン側で戦いを進めること
です。そのためボトヴィニクはまずクィーン側の陣地を拡張
します。

  9.a3 a5 10.Be3 O-O 11.Na4

Y050303B.GIF

このような局面ではナイトはしばしば c5 の地点を目指し
ます。それで黒はそこへ行かせないためにナイトを交換し
ます。

  11...Nxa4 12.Qxa4 Bd5 13.Rfc1 Re8 14.Rc2

Y050303C.GIF

白はさらにクィーン側の強化を続けます。

  14...Bf8 15.Rac1 Nb8

黒はクィーン側の白の圧力を何としてもはねのけようとしま
す。しかしこの手では 15...e4 16.dxe4 Bxe4 としてセンター
から反撃すべきでした。それならば白の有利は最小限に
とどまっていました。

本譜の手で黒は駒を組み替えようとしました。もし白がルー
クで c7 のポーンを取ってくればルークを閉じ込めることが
できます。

  16.Rxc7

Y050303D.GIF

しかしそれでもボトヴィニクはポーンを取ってきました。

  16...Bc6

ここでポルティッシュは白の次の手に気がついたに違いあ
りません。しかしもうどうすることもできません。もし予定の
手を指さなければ白のポーン得になります。ボトヴィニクは
深い読みに基づいた手を指し、小競り合いが始まります。

  17.R1xc6

交換損の手です。ポルティッシュが 15...Nb8 と指した時に
見落としていたのはこの手でした。しかしこの手は更なる
駒捨ての始まりにすぎませんでした。

  17...bxc6 18.Rxf7

Y050303E.GIF

今度はこちらのルークも捨てます!

  18...h6

ポルティッシュはルーク取りを拒否しました。もちろん取れ
ば 19.Qc4+ で決まってしまいます。しかし 18...e4
19.Ng5 h6 は考えられました。

  19.Rb7

ボトヴィニクは幸便にルークを逃げ、新たに開いた7段目を
利用しての攻撃を意図します。

  19...Qc8 20.Qc4+ Kh8 21.Nh4

Y050303F.GIF

ルークを見捨てて詰みを目指します。

  21...Qxb7 22.Ng6+ Kh7

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どうやって敵キングを仕留めたら良いでしょうか?

  23.Be4

勿論この一手です。

  23...Bd6 24.Nxe5+ g6 25.Bxg6+ Kg7

ここでボトヴィニクは最後の決め手を放ちます。局面を良く
見つめてその手を見つけてください。ちょっとの読みと殺戮
本能が必要ですよ!

  26.Bxh6+ 1-0

Y050303H.GIF

そうです、この手です。ポルティッシュはこの手を見て投了
しました。もしビショップを取らなければ 26...Kh8
27.Nf7+ Kg8 28.Nxd6+ で即詰みになります。

ビショップを取れば 26...Kxh6 27.Qh4+ Kg7 28.Qh7+ Kf8
29.Qxb7 でクィーンを取られ、しかも f7 での詰みが残って
います。もう少し続ければ 29...Re7 30.Qxa8 Rxe5
31.Qa7 Re7 32.Qd4 となり、d6 のビショップ取りとクィーン
が h8 に入る詰みの狙いで受け切れません。

勝者のボトヴィニクは本局のような果敢な切込みをする棋
風ではありませんでした。本来は理詰めの指し方で名高
い選手でした。本局はあと2年で引退するボトヴィニクの長
く華やかな棋歴を飾る名局となりました。

投稿者 yamagishi : 16:02 | コメント (0)