2005年03月06日
イングリッシュ・オープニングの創生(18)
ボトヴィニクのイングリッシュ・オープニング(2)
今回の対戦相手のハンス・リー(Hans Ree)は1944年生ま
れのオランダの選手です。現在は文筆業の方で活躍して
いて New In
Chess には毎号掲載されています。
【第2局】ボトヴィニク(Botvinnik) − リー(Ree)
Bevewijk、1969年
1.c4 e5 2.Nc3 Nf6 3.g3 Bb4
白と黒はそれぞれの戦略に従って駒を展開していきます。
白は離れた所から役駒でセンターを支配しようとしています。
黒は展開の速度を重視し、...Bxc3
で白にダブル・ポーンを
作らせます。
4.Bg2 O-O 5.Nf3 Re8
5...e4 の方が厳しいですが、この手も悪くありません。
6.O-O Nc6
この手は疑問手です。現代のGMの試合では同様の局面が
少し違う手順で現れます。黒はナイトを先に c6 に跳ねます。
そしてルークがまだ e8
に回っていない場合黒は e5 のポー
ンを e4 に突くのが良いとされています。ところが本局では
そう指さずにルークを e8
に寄せた結果になっています。
従って最善手は 6...Bxc3 とナイトを取るか、すぐにポーンを
6...e4 と突いて 7.Nd4 Nc6
のように進めるかでした。本譜
は白が通常よりも良い形になります。
7.Nd5 Bc5 8.d3
この手があるので 6...Nc6 が疑問手とされるのです。白の
9.Bg5 を防ぐために黒はナイトを交換せざるを得ません。
8...Nxd5 9.cxd5 Nd4 10.Nd2
もし白のポーンが d2 のままならば白はナイトを e1 に引く
か交換するかしかありませんでした。現実は幸便に d2
に
引いて次にバネのように反発します。
10...d6 11.e3 Nf5 12.Nc4
白の「反発」が始まります。狙いはクィーン側の陣地拡張
です。
12...Bd7 13.Bd2
この手の狙いはポーンを b4 と a4 に突くことです。黒はビ
ショップの逃げ場を作らなければなりません。
13...a6 14.b4 Ba7 15.Na5
白の強手です。黒のクィーン側は強い圧迫を受けています。
黒としては 15...Rb8 は受け一方で指しにくいので別の手で
受けました。
15...Bc8 16.Rc1
白は当然 c7 のポーンに狙いを付けます。
16...Nh6
黒は 17...f5 による反撃を狙います。
17.Rc3 f5 18.Qc2
白は c7 により一層の圧力をかけ黒はさらに守りを強化し
ます。
18...Re7 19.Rc1 Bb6
黒は一旦引っ込めたビショップを出して守らざるをえません。
しかしボトヴィニクはこの機会を待っていました。
20.d4
大胆で且つ心理的に揺さぶりをかけた手です。もし黒が
20...exd4 21.exd4 Bxd4 と来れば白は当然 c7
のポーンを
取ります。これはダブル・ポーンと健全なポーンとの交換で
得な取引です。しかも 7 段目に侵入できます。
もし 20...e4 とすろと黒は容易に ...f4
とできなくなるので、
キング側の縦筋をこじ開けて反撃するという狙いを捨てなけ
ればならなくなります。
従って黒はセンターの緊張を維持する手を選びました。
20...Ng4
ボトヴィニクはこの手について最も無害な手と評しています。
しかし実際のところ黒に他に選択の余地はありませんでし
た。取り敢えず形勢が急激に悪化するのだけは避けてい
ます。
21.dxe5 Nxe5
この手の替わりに 21...Rxe5 は 22.h3 Nf6 23.Nc4 Re8
24.Nxb6 cxb6
となって黒のポーンの形が悲惨な状態にな
り c 筋が白のものになってしまいます。それで黒はナイト
で取りました。
22.Nc4 Nxc4 23.Rxc4 Bd7 24.a4
ボトヴィニクはさらにクィーン側の圧力を強め、ポーンを a5
に突いてビショップを下がらせ c7 のポーンを取るのを狙い
ます。
24...a5 25.bxa5 Bc5
もし 25...Bxa5 とポーンを取り返せば 26.Bxa5 Rxa5
27.Rxc7 Rxa4 (27...Bxa4 28.Rc8)
28.Rxb7 となって白に
非常に有利なエンディングになります。
本譜の手で黒はクィーン側をブロックし、キング側に手を回
そうとします。しかしボトヴィニクの読みはそれを上回ってい
ました。
26.Rxc5!
既にポーンを得しているのでエクスチェンジ・サクリファイス
をする余裕があると彼は考えました。もう一つポーンを得し
双ビショップで主導権を握れるというのがその読みでした。
26...dxc5 27.Qxc5 c6
何とかクィーン側を支えようとします。しかし黒陣には弱点
が多すぎました。
28.Rb1 Be8
b7 のポーンを守ろうとしますが、今度は黒枡の弱点をつか
れます。
29.Bb4 Rf7 30.Rd1
またしてもボトヴィニクの強手です。白のすべての駒が d
ポーンの進撃に向けて働いています。
30...Rc8 31.d6
黒が d5 のポーンを狙ってきたのでポーンを進めてそれを
かわします。
31...Bd7
黒は何とかポーンのブロックに成功しました。そこでボトヴィ
ニクはキングの回りを固めて黒からの反撃を封じます。
32.h3 h6 33.Kh2 Qg5 34.Rd2 Re8
キングの安全を確保し終わったのでボトヴィニクは勝ちを
決めに出ます。
35.f4 Qf6 36.Bc3 Qe6 37.Be5
黒に対抗するビショップのなくなった黒枡ビショップが黒を
締め付けます。
37...Qb3
黒は白陣で唯一の弱点である a4 を狙っています。しかし
ボトヴィニクは喜んでそれを取らせて代わりに b7 のポーン
を取ります。
38.Rb2 Qxa4 39.Rxb7 Ra8 40.Bc3
ちょうどすべてを守りきっています。白の2個のパスポーン
は交換損を補って余りあります。黒は 40 手目を指し、指し
かけになりました。
40...Qc2 1-0
しかしリーは再開せずに投了しました。多分ボトヴィニクが
41.Qc4!
と指すと予測したのでしょう。このピンは黒にとって
致命的です。41...Kh8 又は 41...Kf8 でピンをはずせば
42.Bxg7+
Kxg7 43.Qxc2 でクィーンを取られます。従って
黒は 43...Rd8 と指すしかありませんが白は 44.a6
と突いて
クィーン作りを目指します。黒には抵抗の余地がありません。
ペトロシアンに負けて世界選手権者の地位を失ってからも
ボトヴィニクの強さは健在でした。本局では新進気鋭の若者
に力を出させず完ぺきな指し回しを見せてくれました。
「イングリッシュ・オープニングの創生」は今回で終了です。