イングリッシュ・オープニングの創生(4) 

(by Yamagishi, edit ayu)

2005年01月19日

イングリッシュ・オープニングの創生(4)

第1章 19世紀のイングリッシュ・オープニング(4)

「ワイヴィルの手法(2)」

本局は黒の視点から見たイングリッシュ・オープニングの
進化の例です。黒は 1.c4 に対して堅実に 1...e6 と応じて
います。シュタイニッツは 1...e5 よりも形を決めないだけ
安全な指し方であると考えていました。

【第4局】ワイヴィル(M.Wyvill) − ケネディ船長(Capt.G.Kennedy)
ロンドン、1851年

  1.c4 e6 2.e3 d5 3.g3 c5 4.Bg2

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  4...Nc6

この手についてスタントンは「ポーンを交換(4...dxc4)するの
はセンターを自らばらばらにするだけでなく、白からすぐに
クィーンのチェックでポーンを取り返されるので指し過ぎで
あろう」と述べています。現代(1950年頃)の定跡では
4...dxc4 5.Qa4+ Bd7 6.Qxc4 Bc6 7.Nf3 となってカタラン・
システムのような形になります。この場合白が e3 とポー
ンを突くのは甘い手とされています(キング側の白枡を弱め
るから)。

  5.Ne2 Nf6 6.d3 Bd6 7.Nc3 Bc7 8.O-O h5

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この攻撃は時期尚早とスタントンはみています。

  9.Qb3 Na5

ちょっと気のつかない手です。9...d4 では 10.exd4 cxd4
11.Nb5 Bb6 12.Bf4 となって白にはずみがつきます。

  10.Qb5+ Nc6 11.cxd5 exd5 12.e4!

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(訳注 12.Qxc5 とポーンを取っても問題ないようです。)
センターへのこのポーン突きと、9.Qb3 によるそのための
準備は、g2 のビショップの強さを発揮させるためでした。
ここに優れた戦略家としてのワイヴィルの洞察力が現れて
います。今日でもこれはイングリッシュ・オープニングの
基盤となっています。

  12...d4 13.Nd5 Nd7 14.Bg5 f6 15.Bf4


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スタントンはこの辺では白がだいぶ優勢であると見ていま
した。

  15...Be5 16.Bh3

黒は c5 のポーンを守れないように見えますが、ケネディは
非常に巧妙な手を用意していました。

  16...Qa5 17.Qb3

17.Qxa5 と交換に応じると 17...Nxa5 18.Bxe5 Nxe5
19.Nc7+ Kd8 20.Nxa8 Bxh3 21.Rfd1 となって白のナイトは
逃げられずルークと小駒2枚の交換となり黒が有利です。

  17...Nb6 18.Bxc8 Rxc8


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  19.Rfd1

ここまでのワイヴィルの戦略は見事でしたが、この手は
好機を逃しました。19.Rac1 ならば黒はクィーンをぶつけて
交換を迫ることができず(19...Qa4 20.Rxc5)指す手に
困ったことでしょう。

  19...Qa4 20.Qxa4 Nxa4 21.Bc1 Nb6


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ここでスタントンは「ケネディ船長は難解な局面を勇敢に
戦ってきたが、この時点では形勢に差はついていないよう
に見える。」と評しています。この評は実に面白いです。
というのは現代の局面評価に貴重な一石を投じているから
です。スタントンが黒の15手目から21手目までの間に形勢
を互角にできたと考えたに違いないのは明らかです。現代
の視点では白が19手目で大きな判断誤りによる手を指さ
なければ黒は形勢を挽回できなかったはずと躊躇なく断言
できます。

  22.Nef4 g5?

これは悪手でした。22...Bxf4 と、このナイトを取らなければ
なりませんでした。

  23.Nxb6 axb6 24.Nd5 g4

24...b5 としてこのポーンを助けると 25.f4 で f6 のポーンが
落ちます。

  25.Nxb6 Rc7 26.Bf4 h4


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  27.Rac1

27.Nd5 の方が簡明でした。27...Rch7 ならば
28.Bxe5 fxe5 29.Nf6+ です。

  27...hxg3 28.fxg3 Rch7 29.Rd2 Bxf4 30.gxf4 g3
  31.Rxc5 gxh2+

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黒に突然反撃のチャンスがめぐって来ました。

  32.Kh1 Kd8 33.Nd5 Rh3 34.Rc1 f5 35.Rf1

35.e5 の方が勝りました。

  35...fxe4 36.dxe4 d3 37.Rff2 Nd4 38.Nb4

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  38...Re3

スタントンは 38...Rg8 と指せば以下の手順で黒が勝って
いたといっています。
(a) 39.Rxh2 Rxh2+ 40.Rxh2 Nf3
(b) 39.Rg2 Rxg2 40.Rxg2 Re3 41.Nxd3 Nf3 42.Rg8+ Kc7
43.Nf2 Re1+ 44.Kg2 Rg1+ 45.Kxf3 Rxg8
(訳注 Fritz8によると 43.Rg7+ でパーペチュアル・チェック
になります。黒キングがそれを避ければルークを d 筋に
廻します。)
(c) 39.Rd1 Nf3 40.Rg2 (40.Rxf3 Rg1+! 41.Rxg1 hxg1=Q+)
Rxg2 41.Kxg2 h1=Q+ 42.Rxh1 Rxh1 43.Kxh1 d2
(d) 39.Rf1 Ne2 40.Rxd3+ Rxd3 41.Nxd3 Ng3+ 42.Kxh2 Nxf1+
これらの変化を見ればスタントンの分析家としての能力の
高さを推し量ることができます。

  39.Nxd3 Rxe4 40.Rxh2 Rxh2+ 41.Rxh2 Ne2
  42.Rf2 Ke7 43.Kg2 Kf6

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敗勢の局面でのポカ。

  44.Kf3 Ra4 45.Rxe2 Rxa2 46.Re5 Ra6 47.Rb5 Rd6
  48.Ne5 b6 49.Nc4 Rd3+ 50.Ke4 Rd1 51.Rxb6+ Ke7
  52.f5 Rc1 53.f6+ Kf7 54.Ne5+ Kg8 55.f7+ Kh7

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  56.Rh6+

なぜ黒が投了しないで指し続けたのか見当がつきます。
56.f8=Q を誘ってルークで白のキングをチェックしてステー
ルメイトを狙ったのでした。(訳注 Fritz8によればステール
メイトにはならないようです。)

  56...Kxh6 57.f8=Q+ 以下白勝ち。

この試合には大きな見どころが二つあります。一つは黒の
センターに対する土台攻撃(undermining)に見られるワイ
ヴィルの卓越した戦略、もうひとつはその後のケネディ船長
の見事なタクティクス能力です。

投稿者 yamagishi : 20:14 | コメント (0)