2005年01月22日
イングリッシュ・オープニングの創生(5)
第1章 19世紀のイングリッシュ・オープニング(5)
「アンデルセンの指し方」
アンデルセンがイングリッシュ・オープニングを指すのは
非常にまれでしたが、現代(1950年頃)の定跡との関連
からは彼の指し方は非常に重要です。本局では白番な
がらシシリアン・ディフェンスのような指し方をしています。
通常のオープニングではモーフィーに圧倒されてしまうた
めとレーベンタールは指摘しています。
アンデルセンはキング側ビショップをフィアンケットしないで
クラシカル・シシリアンのように指し進めました。このため
スタントンらの英国派の指し方とは非常に異なっています。
【第5局】アンデルセン(A.Anderssen) − モーフィー(P.Morphy)
11番勝負第6局、1858年
1.a3 e5 2.c4
手順前後でイングリッシュ・オープニングに戻りました。
2...Nf6 3.Nc3 d5 3.cxd5 Nxd5 4.e3 Be6 5.Nf3 Bd6
6.Be2 O-O 8.d4
8...Nxc3
この交換は現在でもよく指されますが正確ではありません。
黒はセンターの形を決めるためにまず 8...exd4 と指すべき
です。9.exd4
と取り返してくれば 9...Nf4 で孤立ポーンにな
るので明らかに白の悪い形です。9.Nxd4 ならば 9...Nxc3!
10.bxc3
(10.Nxe6 Qf6! 11.bxc3 fxe6) Bd5! で黒好調でしょう。
9.bxc3 e4 10.Nd2 f5 11.f4 g5
モーフィーらしい鋭い手です。彼はこの手に満足せず第8
局では 11...Qh4+ 12.g3 Qh3 13.Bf1 Qh6
と指しましたが、
本局ほどは良くなりませんでした。
12.Bc4 Bxc4 13.Nxc4 gxf4 14.exf4
14...Qe8
センターの白優勢を黒は 14...c5 15.Nxd6 Qxd6 16.a4 Qg6
で破壊すべきでした。この手順中 15.a4 (15.d5
b5) ならば
15...cxd4 16.Nxd6 Qxd6 17.Ba3 Qxf4 18.Bxf8 Qe3+ 19.Qe2
(19.Kf1
Qf4+) Qxc3+ 20.Kf2 e3+ 21.Kg3 Qc7+ 22.Kh3 Kxf8
で黒良しです。
15.O-O Qc6 16.Qb3 Qd5 17.Rb1 b6 18.Qa2 c6
この手は 19.Rb5 の防ぎです。
19.Qe2 Nd7 20.Ne3 Qe6 21.c4 Nf6 22.Rb3
22...Kf7
白は 23.d5 でd筋を開けることを狙っています。以下 23...cxd5
24.cxd5 Nxd5 25.Nxd5 Qxd5 26.Rg3+
となって白勝勢です。
キングの移動は一時的にこの白の狙いをかわしますが、
この位置は不安定です。22...Rf7 と守っても 23.Bb2 Bf8
24.Rd1 Rd8 25.d5 cxd5 26.Bxf6 Rxf6 27.Nxd5 で白はセン
ターを破壊したでしょう。
23.Bb2 Rac8 24.Kh1 Rg8 25.d5 cxd5 26.cxd5 Qd7
26...Nxd5? なら 27.Qh5+ です。
27.Nc4!
27...Ke7
27...Nxd5 ならば 28.Rh3 が決め手となります。
28.Bxf6+
この手でも十分ですが、強力なビショップを切らずとももっと
直接的な決め手がありそうです。ラスカーの解説に耳を傾
けることによって、現代の巨匠たちの考え方と技法を知る
手がかりが得られます。彼によれば先ほどの変化での決
め手であった
28.Rh3 は 28...Qb5! で防がれます。正しい
手順は 28.Be5 Bxe5 29.fxe5 Nxd5 30.Nd6 Rcf8
31.Rh3 Rg7 32.Rh5 です。
28...Kxf6 29.Qb2+ Kf7
30.Rh3
勝負を決めるチャンスを逃がしました。30.Qd4! Rc5
(31.Ne5+ Bxe5 32.fxe5 の防ぎ) 31.Rh3 Rg7
32.Rh6 Bc7
33.d6 Kg8 34.Rd1 Bd8 35.Ne5 Qb5 36.Re6 h6 37.d7 Qe2
38.Qg1
Rc2 39.Re8+ Kh7 40.Rxd8 Rxg2 41.Rh8+ Kxh8
42.d8=Q+
でメイトになるところでした。マローツィのこのすば
らしい読みは、攻撃とはどのように行うべきかを示唆してく
れます。
30...Rg7 31.Qd4 Kg8!
白の手順前後のため黒は危機(Ne5+)を逃れました。
32.Rh6 Bf8 33.d6
33...Rf7
このあたりはモーフィーの巧妙な受けが効を奏しています。
34.Ne5 なら 34...Qb5 です。
34.Rh3 Qa4! 35.Rc1 Rc5
白のクィーンが d5 から e6 へ入ってくる手を防いでいます。
35...b5 は誤りで 36.d7 Rd8 37.Rg3+ Bg7
38.Rxg7+ Rxg7
39.Qd5+ Kh8 40.Ne5 とかわされます。
36.Rg3+ Bg7 37.h3 Kh8
38.Rxg7
このサクリファイスはドローにしかなりません。38.Qd2 なら
ばまだ白が優勢を維持したでしょう。アンデルセンは 38...Qc6
でピンされるのを恐れたのかもしれませんが、39.Rd1 で
大丈夫でした。
38...Rxg7 39.Rc3 e3!
アンデルセンはこの起死回生の手を見落としたに違いあり
ません。モーフィーによれば 39...Kg8 は防ぎにならず
40.Rg3! Qd7
(40...Rxg3? 41.d7!) 41.Ne5 Rxe5 42.Rxg7+
の後 fxe5 で白勝勢です。
40.Rxe3
この手が敗着となりました。40.Qf6 ならまだドローでした。
40...Rxc4 41.Qf6
まだしも 41.Qe5 でした。
41...Rc1+ 42.Kh2 Qxf4+ 0-1
この試合の最終盤を除いてどのようにモーフィーが圧倒さ
れたかを見るのは興味深いものがあります。同じオープニ
ングになった他の2局ではモーフィーはさらに不利に陥りま
した。
レーベンタールはモーフィーのオープニングの指し方を次の
ように誉めそやしています。「(モーフィーはどんなオープニ
ングを指しても)何の違いもないように思われるし、彼ほど
棋理に精通した者に違いを期待すべきではないだろう。」
実際は全く逆で、これらの試合の結果からすると偉大なチェ
スの天才でもあらかじめ研究しなければこのオープニングを
マスターすることはできなかったことを証明しているというの
が我々の見解です。