2005年01月31日
イングリッシュ・オープニングの創生(8)
第2章 20世紀のイングリッシュ・オープニング(3)
4ナイト・システム − 白のセンター早期征服作戦 − レティの貢献(1)
ここまでは白が防御的な態勢を取るシステムを見てきまし
た。そこでは白の陣形の潜在力による利得を後で収穫し
黒を力で圧倒するために、黒に一時的にセンターを占拠さ
せていました。このいわば「待ち伏せ」システムの成功の
主因は、実際上一手手持ちにしたシシリアン・ディフェンス
に他ならないこのオープニングに潜む途方もない潜在力を
相手が認識できなかったことによるものでした。
イングリッシュ・オープニングの発展の次の段階は、この
「待ち伏せ」作戦をしなくても済むか、つまりすぐにセンター
に進攻してそこを支配できるかどうかを探求することでした。
第一次大戦後すぐに超現代派はこの新しい作戦を産み出
しました。本局で白は早期の Pd2-d4
突きによりこの直接
的な手法を試みます。これはスコッチ・ゲーム(1.e4 e5
2.Nf3 Nc6
3.d4)を連想させる全く理にかなった構想です。
レティは確かにこのシステムの発案者ではありませんでし
たが、その定跡に大いに貢献したことにより、ウィーンで活
躍した彼の名はこのシステムに深く刻み込まれています。
彼の深遠で明晰な指し方は現代のダイナミックなセンター
の概念に大きく貢献しました。彼の厳しい棋風の典型的な
一例と、戦略的な概念のすばらしさは、次の棋譜に遺憾な
く発揮されています。
【第3局】レティ(R.Reti) − プシーピョルカ(D.Przepiorka)
マリエンバード(Marienbad)、1925年
1.c4 Nf6 2.Nc3 e5 3.Nf3 Nc6 4.d4
4...exd4
4...e4 5.Nd2 Nxd4 6.Ndxe4 Ne6 7.g3 Nxe4 8.Nxe4 Bb4+
9.Bd2 Bxd2+ 10.Qxd2
O-O 11.Bg2 d6 12.O-O Bd7
13.Nc3 Bc6 14.Nd5 a5 15.e4 Nc5
(ボトビニク対フロール、
12番勝負第5局、1933年)は黒が堅固な陣形にもかか
わらずまだ完全には互角の形勢に至りませんでした。
5.Nxd4 Bc5
この手は当時の流行でした。役駒を展開するという現在の
概念に合致し、白にセンターをどうするのかを聞いています。
しかしもっと良い手は 5...Bb4 で、第5局のボトビニク対レベ
ンフィッシュ戦に現れます。
6.Nxc6 bxc6 7.g3 d5 8.Bg2 Be6 9.O-O O-O 10.Qa4
オープニングの第一段階が終わり、タラシュ(Tarrasch)派
の教義によれば黒がセンターをしっかり掌握している局面
が出現しました。これに反して初期の「超現代派」の解釈
では弱いポーンのために黒が負けることになります。
今日ならば黒がセンターのポーンの形を決め過ぎたと言っ
た方が良いでしょう。というのはセンターの構造が維持でき
るならば攻撃を仕掛ける要となっていると言えますが、現
実は既に圧力を受けているからです。
10...Bd7
この手は一時しのぎに過ぎません。10...Qe8 とすべきで、
以下 11.Rd1 (11.Bg5 なら 11...Bd4 12.Rad1 Bxc3
13.bxc3 Ne4!) Bb6 12.cxd5 (12.Bg5 なら 12...Ng4!) cxd5
13.Qxe8 Raxe8
14.Nxd5 Nxd5 15.Bxd5 Bxd5 16.Rxd5 Rxe2
で黒は受け切れます。
11.Bg5 Be7
11...Be8 の方が良かったかもしれません。
12.Rfd1 h6 13.Bxf6 Bxf6 14.Qa6 Rb8
黒の受けの構想が見えてきました。黒は白の b2
に圧力
をかけることによって反撃の機会を得ることを期待していま
す。しかし白は黒のクィーンの位置の悪さにつけこんで d
筋のより効果的な狙いにより黒の希望を粉砕します。
15.cxd5 cxd5
15...Rxb2 なら 16.dxc6 です。
16.Nxd5 Bxb2
16...Rxb2 なら 17.Nxf6+ gxf6 18.Bh3 Bc8 19.Bxc8 Qxc8
20.Qxf6 で白良しです。
17.Rab1 c6
すぐに 17...Be5 とビショップを引くと 18.Rxb8 Qxb8 19.Ne7+
で d7 のビショップを取られます。
18.Qxa7
異色ビショップになりますが、実際は最も早い勝ち方です。
黒の f7 に大きな圧力をかけています。
18...cxd5 19.Rxd5 Qe8 20.Rxd7 Qxe2 21.Rxf7 Be5
22.Rxb8 Rxb8 23.Rxg7+
Bxg7 24.Qxb8+ Kh7
25.Qb1+ Kh8 26.Be4
26...Be5
26...Bd4 なら 27.Qb8+ Kg7 28.Qc7+ Kg8 (28...Kf6 なら
29.Qd6+) 29.Qd8+
でビショップが取られます。
27.Qb7 1-0
この試合から分かることは、現代(1950年頃)の定跡に対
するレティの偉大な貢献は、センターの「支配」とはポーン
による占拠ましてや役駒による支配を意味するのではな
いということをまざまざと示してくれたことです。この「遠隔
支配」の概念は輝かしく深遠な「レティ・オープニング」の
根底の考え方を成し、彼はそのオープニングで当時数々
の大会で成功を収めました。
相手にセンターを一時的に占拠させてそのポーン構造の
弱点を突くというレティの手法は、強いセンターと弱いセン
ターの概念の知識を飛躍的に増大させました。