2005年03月06日
イングリッシュ・オープニングの創生(18)
ボトヴィニクのイングリッシュ・オープニング(2)
今回の対戦相手のハンス・リー(Hans Ree)は1944年生ま
れのオランダの選手です。現在は文筆業の方で活躍して
いて New In
Chess には毎号掲載されています。
【第2局】ボトヴィニク(Botvinnik) − リー(Ree)
Bevewijk、1969年
1.c4 e5 2.Nc3 Nf6 3.g3 Bb4
白と黒はそれぞれの戦略に従って駒を展開していきます。
白は離れた所から役駒でセンターを支配しようとしています。
黒は展開の速度を重視し、...Bxc3
で白にダブル・ポーンを
作らせます。
4.Bg2 O-O 5.Nf3 Re8
5...e4 の方が厳しいですが、この手も悪くありません。
6.O-O Nc6
この手は疑問手です。現代のGMの試合では同様の局面が
少し違う手順で現れます。黒はナイトを先に c6 に跳ねます。
そしてルークがまだ e8
に回っていない場合黒は e5 のポー
ンを e4 に突くのが良いとされています。ところが本局では
そう指さずにルークを e8
に寄せた結果になっています。
従って最善手は 6...Bxc3 とナイトを取るか、すぐにポーンを
6...e4 と突いて 7.Nd4 Nc6
のように進めるかでした。本譜
は白が通常よりも良い形になります。
7.Nd5 Bc5 8.d3
この手があるので 6...Nc6 が疑問手とされるのです。白の
9.Bg5 を防ぐために黒はナイトを交換せざるを得ません。
8...Nxd5 9.cxd5 Nd4 10.Nd2
もし白のポーンが d2 のままならば白はナイトを e1 に引く
か交換するかしかありませんでした。現実は幸便に d2
に
引いて次にバネのように反発します。
10...d6 11.e3 Nf5 12.Nc4
白の「反発」が始まります。狙いはクィーン側の陣地拡張
です。
12...Bd7 13.Bd2
この手の狙いはポーンを b4 と a4 に突くことです。黒はビ
ショップの逃げ場を作らなければなりません。
13...a6 14.b4 Ba7 15.Na5
白の強手です。黒のクィーン側は強い圧迫を受けています。
黒としては 15...Rb8 は受け一方で指しにくいので別の手で
受けました。
15...Bc8 16.Rc1
白は当然 c7 のポーンに狙いを付けます。
16...Nh6
黒は 17...f5 による反撃を狙います。
17.Rc3 f5 18.Qc2
白は c7 により一層の圧力をかけ黒はさらに守りを強化し
ます。
18...Re7 19.Rc1 Bb6
黒は一旦引っ込めたビショップを出して守らざるをえません。
しかしボトヴィニクはこの機会を待っていました。
20.d4
大胆で且つ心理的に揺さぶりをかけた手です。もし黒が
20...exd4 21.exd4 Bxd4 と来れば白は当然 c7
のポーンを
取ります。これはダブル・ポーンと健全なポーンとの交換で
得な取引です。しかも 7 段目に侵入できます。
もし 20...e4 とすろと黒は容易に ...f4
とできなくなるので、
キング側の縦筋をこじ開けて反撃するという狙いを捨てなけ
ればならなくなります。
従って黒はセンターの緊張を維持する手を選びました。
20...Ng4
ボトヴィニクはこの手について最も無害な手と評しています。
しかし実際のところ黒に他に選択の余地はありませんでし
た。取り敢えず形勢が急激に悪化するのだけは避けてい
ます。
21.dxe5 Nxe5
この手の替わりに 21...Rxe5 は 22.h3 Nf6 23.Nc4 Re8
24.Nxb6 cxb6
となって黒のポーンの形が悲惨な状態にな
り c 筋が白のものになってしまいます。それで黒はナイト
で取りました。
22.Nc4 Nxc4 23.Rxc4 Bd7 24.a4
ボトヴィニクはさらにクィーン側の圧力を強め、ポーンを a5
に突いてビショップを下がらせ c7 のポーンを取るのを狙い
ます。
24...a5 25.bxa5 Bc5
もし 25...Bxa5 とポーンを取り返せば 26.Bxa5 Rxa5
27.Rxc7 Rxa4 (27...Bxa4 28.Rc8)
28.Rxb7 となって白に
非常に有利なエンディングになります。
本譜の手で黒はクィーン側をブロックし、キング側に手を回
そうとします。しかしボトヴィニクの読みはそれを上回ってい
ました。
26.Rxc5!
既にポーンを得しているのでエクスチェンジ・サクリファイス
をする余裕があると彼は考えました。もう一つポーンを得し
双ビショップで主導権を握れるというのがその読みでした。
26...dxc5 27.Qxc5 c6
何とかクィーン側を支えようとします。しかし黒陣には弱点
が多すぎました。
28.Rb1 Be8
b7 のポーンを守ろうとしますが、今度は黒枡の弱点をつか
れます。
29.Bb4 Rf7 30.Rd1
またしてもボトヴィニクの強手です。白のすべての駒が d
ポーンの進撃に向けて働いています。
30...Rc8 31.d6
黒が d5 のポーンを狙ってきたのでポーンを進めてそれを
かわします。
31...Bd7
黒は何とかポーンのブロックに成功しました。そこでボトヴィ
ニクはキングの回りを固めて黒からの反撃を封じます。
32.h3 h6 33.Kh2 Qg5 34.Rd2 Re8
キングの安全を確保し終わったのでボトヴィニクは勝ちを
決めに出ます。
35.f4 Qf6 36.Bc3 Qe6 37.Be5
黒に対抗するビショップのなくなった黒枡ビショップが黒を
締め付けます。
37...Qb3
黒は白陣で唯一の弱点である a4 を狙っています。しかし
ボトヴィニクは喜んでそれを取らせて代わりに b7 のポーン
を取ります。
38.Rb2 Qxa4 39.Rxb7 Ra8 40.Bc3
ちょうどすべてを守りきっています。白の2個のパスポーン
は交換損を補って余りあります。黒は 40 手目を指し、指し
かけになりました。
40...Qc2 1-0
しかしリーは再開せずに投了しました。多分ボトヴィニクが
41.Qc4!
と指すと予測したのでしょう。このピンは黒にとって
致命的です。41...Kh8 又は 41...Kf8 でピンをはずせば
42.Bxg7+
Kxg7 43.Qxc2 でクィーンを取られます。従って
黒は 43...Rd8 と指すしかありませんが白は 44.a6
と突いて
クィーン作りを目指します。黒には抵抗の余地がありません。
ペトロシアンに負けて世界選手権者の地位を失ってからも
ボトヴィニクの強さは健在でした。本局では新進気鋭の若者
に力を出させず完ぺきな指し回しを見せてくれました。
「イングリッシュ・オープニングの創生」は今回で終了です。
投稿者 yamagishi : 16:22 | コメント (0)
2005年03月03日
イングリッシュ・オープニングの創生(17)
ボトヴィニクのイングリッシュ・オープニング(1)
本講座の締めくくりにボトヴィニクのイングリッシュ・オープ
ニングを2局お目にかけます。ICC(Internet Chess
Club
http://www.chessclub.com/)では会員向けに35本の講座
を定時に流しています。内容はオープニングからエンディン
グまで、レベルは初心者向けから上級者向けまで多彩で
す。その中に「An
Exciting Game by Botvinnik」という講座
が2本あり、本講座の解説はそれを基にしています。
【第1局】ボトヴィニク(Botvinnik) − ポルティッシュ(Portisch)
モンテカルロ(Monte Carlo)、1968年
ボトヴィニクは1970年に実戦から引退しました。本局は彼
が57歳の頃の対局です。ボトヴィニクは世界選手権戦の
防衛戦で勝ち越して防衛したことがなかったため、一部で
はあまり強いチャンピオンではないというように感じている
人があります。彼にとって初期の防衛戦を戦った1950年
代は学位論文を書くためにあまり大会に出ることができま
せんでした。従って責められるべきはボトヴィニクではなく、
実戦不足の彼を倒せなかった挑戦者達の方です。ボトヴィ
ニクがチェスを覚えたのは12歳の時でこの世界では晩学
です。世界選手権者になる人は6、7歳の頃にチェスを覚え
ているのが普通です。世界選手権者になったのは37歳頃
で、それから約15年近く世界選手権者の地位を保ったこと
はもっと高く評価されてよいと思います。
挑戦者のポルティッシュは旧ソ連外の強豪選手でした。挑
戦者を決めるトーナメントに何回も進出しています。この対
戦の時は31歳くらいで、指し盛りを迎えていました。しかし
あと2年で引退するボトヴィニクはそんな彼を難なく倒してし
まいます。
1.c4
このオープニングは19世紀のイギリスの選手ハワード・ス
タントン(Howard
Staunton)によって頻繁に用いられたので
イングリッシュと名づけられています。
1...e5
黒は最も攻撃的な手で応じます。この手で戦型は白黒逆
のシシリアン・ディフェンスに向かいます。
2.Nc3 Nf6 3.g3
ボトヴィニクは 3.d4
も指したことがありますが、それは黒が
やや楽な展開といわれています。それでボトヴィニクは戦
端を開く前に攻撃態勢を準備します。
3...d5
黒はシシリアン・ディフェンスの白側の手順を指しています。
1.e4 c5 2.Nf3 Nc6 3.d4
を踏襲しているわけです。違いは
もちろん黒が一手遅れていることです。つまりこの局面で
白は 3.g3 の分だけ一手先行しているわけです。
4.cxd5 Nxd5 5.Bg2 Be6 6.Nf3 Nc6 7.O-O Nb6 8.d3 Be7
ここから中盤戦の始まりです。白の作戦はシシリアン・ドラ
ゴンの黒と同じでセンターとクィーン側で戦いを進めること
です。そのためボトヴィニクはまずクィーン側の陣地を拡張
します。
9.a3 a5 10.Be3 O-O 11.Na4
このような局面ではナイトはしばしば c5 の地点を目指し
ます。それで黒はそこへ行かせないためにナイトを交換し
ます。
11...Nxa4 12.Qxa4 Bd5 13.Rfc1 Re8 14.Rc2
白はさらにクィーン側の強化を続けます。
14...Bf8 15.Rac1 Nb8
黒はクィーン側の白の圧力を何としてもはねのけようとしま
す。しかしこの手では 15...e4 16.dxe4 Bxe4
としてセンター
から反撃すべきでした。それならば白の有利は最小限に
とどまっていました。
本譜の手で黒は駒を組み替えようとしました。もし白がルー
クで c7 のポーンを取ってくればルークを閉じ込めることが
できます。
16.Rxc7
しかしそれでもボトヴィニクはポーンを取ってきました。
16...Bc6
ここでポルティッシュは白の次の手に気がついたに違いあ
りません。しかしもうどうすることもできません。もし予定の
手を指さなければ白のポーン得になります。ボトヴィニクは
深い読みに基づいた手を指し、小競り合いが始まります。
17.R1xc6
交換損の手です。ポルティッシュが 15...Nb8
と指した時に
見落としていたのはこの手でした。しかしこの手は更なる
駒捨ての始まりにすぎませんでした。
17...bxc6 18.Rxf7
今度はこちらのルークも捨てます!
18...h6
ポルティッシュはルーク取りを拒否しました。もちろん取れ
ば 19.Qc4+ で決まってしまいます。しかし 18...e4
19.Ng5 h6
は考えられました。
19.Rb7
ボトヴィニクは幸便にルークを逃げ、新たに開いた7段目を
利用しての攻撃を意図します。
19...Qc8 20.Qc4+ Kh8 21.Nh4
ルークを見捨てて詰みを目指します。
21...Qxb7 22.Ng6+ Kh7
どうやって敵キングを仕留めたら良いでしょうか?
23.Be4
勿論この一手です。
23...Bd6 24.Nxe5+ g6 25.Bxg6+ Kg7
ここでボトヴィニクは最後の決め手を放ちます。局面を良く
見つめてその手を見つけてください。ちょっとの読みと殺戮
本能が必要ですよ!
26.Bxh6+ 1-0
そうです、この手です。ポルティッシュはこの手を見て投了
しました。もしビショップを取らなければ 26...Kh8
27.Nf7+ Kg8
28.Nxd6+ で即詰みになります。
ビショップを取れば 26...Kxh6 27.Qh4+ Kg7 28.Qh7+ Kf8
29.Qxb7 でクィーンを取られ、しかも f7
での詰みが残って
います。もう少し続ければ 29...Re7 30.Qxa8 Rxe5
31.Qa7 Re7 32.Qd4 となり、d6
のビショップ取りとクィーン
が h8 に入る詰みの狙いで受け切れません。
勝者のボトヴィニクは本局のような果敢な切込みをする棋
風ではありませんでした。本来は理詰めの指し方で名高
い選手でした。本局はあと2年で引退するボトヴィニクの長
く華やかな棋歴を飾る名局となりました。
投稿者 yamagishi : 16:02 | コメント (0)
2005年02月24日
イングリッシュ・オープニングの創生(16)
第2章 20世紀のイングリッシュ・オープニング(10)
ルビーンシュタインの防御システム
【第10局】ニムゾヴィッチ(A.Nimzovitch) −
ルビーンシュタイン(A.Rubinstein)
ドレスデン(Dresden)、1926年
1.c4 c5 2.Nf3 Nf6 3.Nc3 d5
ルビーンシュタインは決まってこの手を指していました。その
狙いは白が局面を完全に掌握できないうちに、強硬手段で
センターの優位を勝ち取ろうというものです。
4.cxd5 Nxd5 5.e4
この手はニムゾヴィッチの発案で、d 筋のポーンがバック
ワードになるのは甘受して、代償に駒の展開を良くしよう
という考えです。
5...Nb4 6.Bc4 e6
6...Nd3+ 7.Ke2 Nf4+ 8.Kf1 は白に 9.d4
という強力な狙い
が残ります。この手は弱点のバックワード・ポーンをすぐに
解消し、局面を開放状態にします。開放的な局面は常に
展開に勝る方に有利に働きます。
7.O-O N8c6
7...N4c6 の方が優りました。
8.d3 Nd4
b4 のナイトの退路をつくるためにこの手が必要です。
9.Nxd4 cxd4 10.Ne2 a6
白の 11.Bb5+ の防ぎです。
11.Ng3 Bd6
12.f4
12.Qg4 Qf6 (12...O-O 13.Bg5 Be7 14.Bh6) 13.f4 (13.Nh5
Qg6!) の方が強力でした。
12...O-O 13.Qf3 Kh8 14.Bd2 f5 15.Rae1 Nc6 16.Re2
Qc7 17.exf5 exf5
18.Nh1
一見奇妙なこの手の意味は、ナイトを f2,h3 から g5
へ運
ぼうというものです。そうなれば黒のキングに対する攻撃
に絶好の位置になります。これはニムゾヴィッチの独創的
で先入観のない考え方の好例です。開放された
e 筋を利
用するという型にはまった考え方では 18.Rfe1 Bd7 19.Be6
Rae8 20.Bxd7 Rxe2 21.Qxe2
となります。これでも悪くは
ありませんが、ニムゾヴィッチの指し方のほうがより良い
結果をもたらします。
18...Bd7 19.Nf2 Rae8 20.Rfe1 Rxe2 21.Rxe2 Nd8
21...Re8 は 22.Qd5 で不可です。(訳注 Fritz8によれば
22...Rf8 とルークを戻して全くの互角のようです。)白が e
筋を支配し攻勢に立っていることが分かります。
22.Nh3
22...Bc6
22...Re8 は 23.Qh5 Rxe2 24.Ng5 h6 25.Qg6 があるので
良くありません。(訳注 Fritz8によれば途中
24...Rxg2+
25.Kxg2 Bc6+ で結構難しいようです。)
簡単な手筋によって白は黒が e
筋から反撃するのを阻止
することができるということが分かります。中盤においても
技術が進歩したことが見て取れます。新たにより組織的で
広域的な戦略が旧来の駒運びに取って代わりました。
白は目的を達成し、これからナイトを g5
に置いてキング側
攻撃に向かいます。黒のキング側に弱点を作らせ防御の
手薄なキングを裸にします。そうなれば黒陣は2,3手で
崩壊します。
23.Qh5 g6 24.Qh4
白は黒にキングの周りの黒枡を弱体化させ、d6 のビショッ
プをキング側から引き離して黒枡をさらに弱くします。
24...Kg7 25.Qf2
25...Bc5
25...Qb6 なら 26.b4! で 27.Bc3 が狙いとして残ります。
26.b4 Bb6 27.Qh4!
ビショップを追い払ったのでまた攻撃に向かいます。今度は
e7 の地点が狙いに加わりました。
27...Re8 28.Re5!
28...Nf7
28...Rxe5 なら 29.fxe5 Qxe5 30.Qh6+ で以下詰みになり
ます。また 28...h6 なら 29.g4 fxg4
30.f5 Qxe5 31.f6+ Qxf6
32.Qxh6# で詰みです。
29.Bxf7 Qxf7 30.Ng5 Qg8 31.Rxe8 Bxe8 32.Qe1
32...Bc6
駒数が残り少ないにも拘わらず白の攻撃は切れません。
32...Kf8 なら 33.Qe5 Bd8 34.Ne6+ Ke7 35.Qc5+ Kd7
36.Nf8+ というニムゾヴィッチの素晴らしい読みがあります。
33.Qe7+ Kh8 34.b5
ビショップが攻撃に参加できるようにします。
34...Qg7
34...axb5 なら 35.Ne6 h5 36.Qf6+ Kh7 37.Ng5+ Kh6
38.Bb4 で以下詰みになります。
35.Qxg7+ Kxg7 36.bxc6 1-0
まとめ
19世紀のイングリッシュ・オープニングと現代(1950年頃)
の戦型を調べてきたのは、この複雑なオープニングの過去
100年の発展を紹介するのが目的でした。1840年から1860
年までの試合では戦型を分類するのは容易ではありませ
ん。しかし今日の目で見れば、イングリッシュとレティ・オー
プニングとカタラン・システムが混ざり合っています。。ある
システムからより有利な別のシステムに移行することは
オープニングにおける最も重要な要諦です。しかしシステム
と移行の研究は本書の範囲を越えることなので、ここでは
「純粋な」イングリッシュ・オープニングだけを取上げました。
20世紀のイングリッシュ・オープニングは次の4システム
に分類できます。
(1)
白はセンターへの進攻を見合わせゆっくり駒を展開す
ることにより(フィアンケットなしに)、黒にセンターを占拠す
るよう仕向けます。このシステムはニムゾヴィッチの試合
(第1局)とシュピールマンの試合(第2局)とに見られます。
両者の成功は、黒が一手遅れているためにセンターでの
積極策がうまくいかないことに気がついていなかったこと
にありました。
(2) 4ナイト戦法。白は 5.d4 と指し、フィアンケットにより
(レティの試合、第3、4局)あるいはビショップが g5
にか
かることにより(ボトヴィニクの試合、第5局)、重要地点の
d5 を支配しようとします。
(3) イングリッシュ・オープニングの現在形。早期のフィアン
ケット(3.g3 と 4.Bg2)により重要地点の d5
の支配を目指し
ます。ただし局面が単純化しがちな早期の d4 へのポーン
突きは行いません。
(4) 黒が 1.e5 と指さない作戦。代わりに 1...c5 または 1...e6
で、弱点を作るのを避けながら d4
の地点を支配します。フ
ロールとニムゾヴィッチの試合(第9、10局)は、この場合
でも黒はオープニングの課題を十分に解決するには多くの
困難があることを示しています。
投稿者 yamagishi : 20:50 | コメント (3)
2005年02月21日
イングリッシュ・オープニングの創生(15)
第2章 20世紀のイングリッシュ・オープニング(9)
黒がより堅実な防御システムを採用
これからの2局では黒が別の防御システムを用います。
これらのシステムでは黒は 1...e5 と形を決めるのを避け、
3...d5 と突いて
d5 の地点を争います。
その功罪はまだ定まっていませんが、これまでのシステム
よりは黒にとって良い防御法であるとみなされています。
というのは早期に 1...e5
と指さなければ白に(d4 または
f4 による)攻撃目標を与えないからです。
【第9局】フロール(S.Flohr) − カシュダン(I.Kashdan)
フォークストン(Folkestone)、1939年
1.c4 Nf6 2.Nc3 e6 3.e4 d5
黒はこの手でセンターの緊張を明らかにしようとします。
しかし 3...c5 の方がもっと堅実です。4.e5 ならば 4...Ng8
5.Nf3 Nc6 6.g3 Ne7 7.b3 Ng6 8.Qe2 d6 9.exd6 Bxd6
で
黒良しです(ランダウ対エイベ、10番勝負第7局、1939年)。
4.Nf3 なら 4...Nc6 5.d4 cxd4 6.Nxd4 Bb4
でシシリアン・
ディフェンスに移行し互角の形勢です。
4.e5 d4 5.exf6 dxc3 6.bxc3 Qxf6 7.d4 b6 8.Nf3 Bb7
9.Be2 Nd7 10.O-O Bd6
この手が後の紛糾の元でした。10...h6 と突いておかなけ
ればなりませんでした。
11.Bg5 Qf5 12.Qa4 c6 13.c5!
黒が次にキャッスリングしようとするまさにその時に d 筋を
開けます。
13...bxc5 14.dxc5 Qxc5
14...Bxc5 (14...Nxc5 Qd4!) は 15.Rad1 Ne5 16.Nxe5 Qxe5
17.Ba6 Qc7
で、危険そうですが黒も指せそうです。
15.Rfd1 Be7
16.Be3 があるので黒はキャッスリングしている暇がありません。
16.Rxd7
このルーク切りの好手で白は主導権を握ります。当面
駒得につながる切りではないので特に賞賛に値します。
16...Kxd7 17.Be3 Qa3
17...Qf5 と逃げると 18.g4! Qf6 19.Rb1 Rhb8 20.Bd4 Qf4
21.Ne5+ Kc8 (21...Ke8
22.Rxb7 Rxb7 23.Qxc6+ Kd8
24.Qxb7) 22.Rxb7 Rxb7 23.Qxc6+ Kb8 24.Qe8+
で白が
勝ちます。小駒が良く働いています。
18.Qd4+ Ke8 19.Qxg7 Rf8 20.Ng5 Rd8
21.Bh5
罠には引っかかりません。21.Nxh7 は 21...Qb2! 22.Re1 Qxe2
で黒の勝ちです(訳注 Fritz8によると
23.Qxf8+ Bxf8
24.Nf6+ Ke7 25.Ng8+ Ke8 26.Nf6+ でドローです)。
21...Bxg5 22.Bxg5 Rd5 23.c4 Rxg5
ルークをお返しするしかありません。23...Rd7 は 24.Qf6 Qd6
25.Re1 となり、Rxe6 と切る狙いで白の勝勢です。
24.Qxg5
24...Kd7
24...Qb2 25.Rd1 Qb6 ならまだ抵抗の余地があったでしょう。
25.Rd1+ Kc8 26.Bxf7! Kb8
27.Bxe6 Qxa2 28.Rd8+
Kc7
(訳注 Fritz8によると 28...Bc8 29.Rxc8+ Rxc8 で
互角のようです。従って白は急がずに
28.f3 とでも指し
ておけば勝勢を維持できました。)
29.Qe7+ Kb6 30.c5+
1-0
投稿者 yamagishi : 15:47 | コメント (0)
2005年02月18日
イングリッシュ・オープニングの創生(14)
第2章 20世紀のイングリッシュ・オープニング(8)
ゴロンベクの指し方
ポーンを f4 と突くのは、交換にしかならないセンター・ポー
ンの d4
突きよりも強力であることが前局から分かりました。
しかしアリョーヒンの指した Nf3
はフィアンケットしたビショッ
プの斜筋を邪魔するという欠点がありました。本局ではゴロ
ンベクはナイトを h3
に跳ねています。これはより柔軟性の
ある指し方です。
【第8局】ゴロンベク(H.Golombek) − クルス(O.Cruz)
ブエノスアイレス団体戦、1939年
1.c4 e5 2.Nc3 Nf6 3.g3 d5 4.cxd5 Nxd5 5.Bg2 Nb6
6.Nh3
この手はゴロンベクの創始によるものです。この手の意味
はナイトを活動させるのとビショップの利きを妨げないこと
です。
6...Nc6 7.O-O Be7 8.f4 O-O 9.d3
9...Bg4?
この手は手損になります。9...f6 と突いてセンターの補強に
努めるべきでした。
10.Nf2 Be6 11.fxe5 Qd4
黒が 11...Rb8 と指さなかったのは 12.Bf4 g5 13.Bd2 Nxe5
でキング側の形が弱くなるのを嫌ったためでした。しかし
その方がまだましでした。本譜はクィーンがいじめられます。
12.e3 Qxe5 13.d4
13...Qa5
駒損を避けるにはここへ逃げるしかありません。13...Qg5
や 13...Qf5 では 14.e4 の後 15.d5 で両取りです。
14.a3 Bf5 15.Re1 Rad8 16.Bd2
17.Nd5 の後の 18.Nxc7 を狙っています。
16...Qa6 17.b3 Bd3 18.Nxd3 Qxd3 19.Be4
クィーンを追い払います。
19...Qa6 20.Qc2 Nc8
クィーンを助けるには h7 のポーンを見捨てるしかありませ
ん。20...g6 では 21.Bd3 Qa5 22.Nb5
でクィーンの逃げ場
がありません。
21.Bxh7+ Kh8 22.Bd3 Qb6
戦いを続けるには 22.Qa5
しかありませんでした。しかし
ポーン損と駒の配置の悪さのため絶望的な局勢です。
本譜は面白い戦いが見られます。
23.Na4 Nxd4
この手は 24.exd4 Qxd4+ の後 d3
のビショップを取る狙い
です。しかし白はこの手に対してちょっと気付き難い対策
を用意していました。
24.Qd1!
冷静な好手です。
24...Nxb3
クィーン取りとナイト取りと 25.Qh5+ からのメイトを全部同
時に防ぐ手がありません。24...Qd6 は25.Qh5+ Qh6
26.Qxh6+ gxh6 27.exd4 Rxd4 28.Bc3 で白勝ちです。
25.Nxb6 Rxd3 26.Nxc8 Rxc8
26...Rxd2 とビショップを取ると 27.Qh5+ Kg8 28.Nxe7# で
メイトです。
27.Ra2 Kg8 28.Rb2 Rcd8 29.Rxb3 1-0
現在(1950年頃)のところこのシステムはイングリッシュ・
オープニングの飛躍的な進化と考えてよいでしょう。本局
は役駒とポーンの協力でどのようにセンターを支配するか
を分かり易く見せてくれました。
投稿者 yamagishi : 14:40 | コメント (0)
2005年02月15日
イングリッシュ・オープニングの創生(13)
第2章 20世紀のイングリッシュ・オープニング(7)
アリョーヒンの指し方
これまでの試合から黒は白のセンター進攻を遅らせること
はできても阻止することはできないことが分かりました。シ
シリアン・ディフェンスでは黒は一般に
d6 のバックワード・
ポーンを d5 と突いて白の e
筋のポーンと相殺できれば
形勢互角にできます。しかしイングリッシュ・オープニング
の白は同様の方針はとれません。それは白の立場として
ドローっぽくなるのでは不満足だからです。従って黒の
e
筋のポーンと交換するもっと強力な手が求められました。
そしてついに早期にポーンを f4
と突く手が最も効果的で
あることが分かってきました。
これは必ずしも新しい考え方ではありません。以前に紹介
したようにワイヴィル(Wyvill)が試みています。しかし彼は
ポーンを e3
と突きキング側ナイトを e2 に置いてから f4 と
突いていました。これは現代の感覚からすると手間がかか
りすぎています。
【第7局】アリョーヒン(A.Alekhine) − タラシュ(S.Tarrasch)
ウィーン、1922年
1.c4 e5 2.Nc3 Nc6 3.g3 g6 4.Bg2 Bg7 5.d3 Nge7 6.f4
現在(1950年頃)ではポーンを d4 と突くよりも、f4 と突いて
黒のセンターを破壊する方が強力であると考えられています。
6...d6 7.Nf3
新しい指し方の 7.Nh3 については次回に紹介します。
7...O-O 8.O-O h6 9.e4 f5 10.Nd5
この戦型のポイントとなるこの手は、一番最初のスタントン
対サン・タマン戦で既にスタントンにより試みられています。
違いはアリョーヒンがポーンを交換する前にナイトを
d5
に
跳ねたのに対し、スタントンはセンターの緊張を解消してか
らナイトを跳ねたことです。アリョーヒンの手法はよりダイナ
ミックな指し方です。
10...Nxd5 11.exd5 Nd4 12.fxe5 Nxf3+ 13.Bxf3 dxe5
14.Be3 Bd7 15.Qb3
クィーンとビショップで b7 の地点に圧力をかけるのは19
世紀に指されていた指し方の二つ目の特徴です。
15...Qc8 16.c5 Kh7 17.Qc4 g5 18.d4
18...Qe8
18...e4 とポーンを突くのは 19.Bg2 で黒のポーンが動けな
くなります。さらに白は準備してから g4
とポーンを突いて
黒のポーンを破壊することができます。
19.c6 bxc6 20.dxc6 Be6 21.d5 Bg8 22.Bg2
22...Kh8
22...e4 なら 23.g4 です。
23.Rae1 Qg6 24.b4 Rfd8 25 Rd1 f4 26.Bf2 Bh7 27.Rfe1
27...Qc2
クィーンの交換は白を利するだけです。替わりに 27...Qh5
は 28.d6 f3 29.g4 です。恐らく 27...Qf7 と引いて白の
28.d6 を阻止しながら 28...f3 を狙うのが最善だったでしょう。
28.Qxc2 Bxc2 29.Rd2 Ba4 30.d6!
中央突破を図ります。ここから興味深い戦いが展開されます。
30...Rxd6 31.Rxd6 cxd6 32.c7 Rc8 33.Rc1 Bd7 34.Bb7 e4
35.Bxe4!
35.Bxc8 とルークを取るのは 35...Bxc8 36.Rd1 Bf8
37.Bc5 e3!
となってあまりはっきりしません。本譜の方が
簡明です。
35...d5! 36.Bxd5 Be5 37.Re1 fxg3 38.Rxe5 gxf2+
39.Kxf2 Rxc7 40.Re7 Rc2+ 41.Ke3 Bb5 42.Rxa7 Rxh2
43.a4
43...Bf1
43...Rh3+ は 44.Kd4 Ra3 45.Ra8+ の後 46.axb5 とビショ
ップを取られます。
44.b5 Rb2 45.Kd4
45...g4
タラシュはビショップと引き換えに白の2個のポーンを取る
予定でしたがうまくいきません。45...Bxb5 の後 46.Kc3 Rb1
47.Rb7 Rc1+ 48.Kd2 で白の必勝形です。
46.Kc3 Rb1 47.Be4 Rc1+ 48.Kd2 Rc4 49.b6 Rxe4
50.b7 Rb4 51.Ke3 Bc4 52.Ra8+ Kg7 53.b8=Q Rxb8
54.Rxb8 h5 55.Rb4 Bd5
56.a5 g3 57.a6 1-0
本局に於いてアリョーヒンは広い陣地の確保自体が優勢
につながるだけでなく、現代のマスターには柔軟性が要求
されていることも示してくれました。それゆえに、複雑な戦い
や駒の交換の後の
45 手目の後で彼は非常に微差の有利
にもかかわらず着実に勝利をものにすることができました。
投稿者 yamagishi : 16:04 | コメント (0)
2005年02月12日
イングリッシュ・オープニングの創生(12)
前局に関連した一局を紹介します。前局では 5...Be6 と
ナイトを守りましたが、本局では 5...Nb6
とナイトを引いて
います。出典は「LOGICAL CHESS Move by Move」
(Irving Chernev 著、faber and
faber 発行、1957年初版)
です。この本はすべての指し手に解説が付けられていま
す。1.e4 や 1.d4
のような当たり前の手にも毎局何らかの
解説が付けられています。本局の全ての解説を訳すのは
大変なので、参考になる部分だけを和訳しました。
【参考局】ピトシャク(Pitschak) − フロール(Flohr)
リーブヴェルダ(Liebwerda)、1934年
1.c4 e5 2.Nc3 Nf6 3.g3 d5 4.cxd5 Nxd5 5.Bg2
5...Nb6
5...Be6 としないのはビショップをナイトの守り以外に使お
うという意図からです。ナイトは b6 からセンターの d5
に
影響力を及ぼしています。また白のビショップが g2 にフィ
アンケットしたことにより手薄になった c4
の地点にも圧力
を及ぼしています。後に明らかになるように、このナイトは
素晴らしい働きをします。
6.Nf3 Nc6 7.O-O Be7 8.d3 O-O 9.Be3 Bg4
白のキング側の動きと、d4 へのポーン突きを牽制して
います。それでも白が 10.d4 とポーンを突くと、10...Nc4
が受けづらくなります。(訳注 Fritz8によると 10...Bxf3
11.Bxf3 exd4 12.Bxc6 dxc3 13.Bxb7
cxb2 で黒優勢の
ようです。10...Nc4 は 11.d5 で黒有利とはならないよう
です。)11.Nxe5 とポーンを取ると
11...N6xe5 12.dxe5 Nxe3
13.fxe3 でオープン・ファイルに3重ポーンが残ってしま
います。11.Qc1 として b2
のポーンを守りながらクィーン
で e3 の枡に利かせると、11...Nxe3 12.Qxe3 exd4
13.Qe4 Bxf3 で、c3
のナイトを取られてしまいます。白の
最善手は 10.Na4 としてさらに c5 へ跳ぶ手だったでしょう。
白は急所の c5
の地点を支配しなければいけません。ある
いは 10.Rc1 としてからナイトの展開を考える手もあったで
しょう。
10.h3
目障りなビショップにちょっと嫌がらせ(引くかナイトと交換
するかを迫る)をしたいだけの理由で指された手です。あい
にく論理でなく感情でだけ指されたこのような手は、キャッ
スリングした陣形に悪影響をもたらすだけです。キングの
周りのポーンを動かせば、たとえ周りに守りの駒がいても
相手からの攻撃に弱くなります。
10...Bh5
ここへ引いて圧力を緩めません。利き筋は限定されますが、
白にとってはこの方が嫌です。e6
へ引けば利き筋は増え
ますが、相手への影響は減少します。
11.Rc1
c 筋を支配してクィーン側で攻勢を取ろうという手です。
他に考えられる手は 11.Qb3 で、ルークを d1 に廻しポー
ンを突いて d
筋を開け、センターから逆襲を狙います。
格言:キング側攻撃に対する最良の対策はセンターからの反撃。
11...Qd7
クィーンを攻撃に参加させます。
12.Na4
次に c5 へ跳んでクィーン側で行動を起こし、黒のキング
側での攻撃を遅らせようという意図です。普通に 12.Kh2
と守るのは黒に
12...f5 から 13...f4 とされてキング側の
ポーンの形を崩されます。
12...Bxf3 13.Bxf3
13.exf3 と取り返せば d3 のポーンが孤立します。白は
すぐにポーンを取り返せることを見越して h3
のポーンを
取らせる方を選びました。
13...Qxh3
14...f5 の後黒には明確な二つの攻撃の方針があります。
一つはさらに 15...f4 とポーンを進めて、白の守りの要で
ある g3
のポーンを不安定にさせることです。もう一つは
15...Rf6 のあとルークを g6 または h6
の地点に廻して
白のキングを攻撃することです。
14.Bxc6
ポーンを取り返すよりも 14.Bg2 として白のクィーンを追い
払うべきでした。
14...bxc6
黒は白のビショップが消えてかえって安心しました。
15.Rxc6
駒の損得はなくなりましたが、白のキングは危険な状態
にあります。
15...Nd5
快心のナイト跳ねです。次の狙いは 16...Nxe3 17.fxe3 Qxg3+
18.Kh1 Qh3+ 19.Kg1 Bg5
です。16...Nf6、17...Ng4、18...Qh2#
という狙いもあります。
16.Qe1
つらい手ですが、16...Nxe3 17.fxe3 の後 g3 のポーンを
守るためには仕方がありません。
白は最初 16.Bc5 と指すつもりだったのかもしれません。
もし黒がすぐに 16...Nf6 と来れば 17.Rxf6 Bxf6 18.Bxf8
でまだ戦えます。しかし 16...Bxc5 17.Nxc5 Nf6 とされる
と 18...Ng4 の後の 19...Qh2 を防ぐためにルークで
f6 の
ナイトを取らないといけません。これに気付いての予定変
更だったのでしょう。
16...f5
すぐに 16...Nf6 は 17.f3 でナイトが g4 に行けません。こ
の時 g3 のポーンが守られていないといけません。(訳注
Fritz8によればそれでも 17...Nh5 で黒優勢のようです。
18.Bf2 と守れば 18...Bh4 で、19.gxh4 と取れば
19...Nf4
です。)
16...f5 の後黒は 17...f4 を狙っています。18.gxf4 と取ると
18...Rxf4 19.Bxf4 Nxf4 で g2
の地点での詰みが受かりま
せん。18.Bc5 なら 18...f3 19.exf3 Nf4 20.gxf4 Rf5 で、
20...Rh5
の後の詰みが受かりません。
17.Bc5
もし 17...Bxc5 と取ってくれれば 18.Nxc5 Nf6 19.f3、また
は 17...Nf6 ならば 18.Rxf6
で、悪いながらもまだ望みが
あります。
17.Bc5 の替わりに 17.Nc3 として黒のナイトと交換しよう
とすると、黒は 17...Nf6 18.f3 Nh5 19.Bf2 Bh4
20.gxh4 Nf4
として g2 の地点での詰みを狙います。
17...f4
g3 のポーンに当てると共に、ルークを f5 から h5 に転回
させる狙いを秘めています。
18.Bxe7
黒が 18...Nxe7 と取ってくれれば脅威が遠のきます。
18...fxg3 19.fxg3 Ne3 0-1
受けがないので白は投了しました。20.Rf2 は 20...Qxg3+
21.Kh1 Rxf2、20.Rxf8+ は 20...Rxf8
21.Qf2 Rxf2
22.Kxf2 Qg2+ 23.Kxe3 Qxc6 です。白は 10.h3
がキング
の守りを弱めて負けの遠因になりました。
投稿者 yamagishi : 16:52 | コメント (0)
2005年02月09日
イングリッシュ・オープニングの創生(11)
第2章 20世紀のイングリッシュ・オープニング(6)
イングリッシュ・オープニングの現代の戦型 - メーソンの指し方
スタントンは白のキング側ビショップの威力を理解していま
したが、これが一般に認められるまでには長い時間がかか
りました。シシリアン・ディフェンスのドラゴン戦法は19世
紀末には既に指されていましたが、逆「ドラゴン」の登場は
1902年にジェームズ・メーソンによって指されるまで待た
なければなりませんでした。
「タラシュ時代」にこのような新手を披露するのは革命的な
できごとでした。その頃はたった3手目にセンターの支配
を黒にゆだねるのは「大胆」とみなされていました。しかし
メーソンは早期にポーンを
d4
と突くことによって黒のセン
ターを消滅させることができることを実証して見せました。
彼の構想は第一次大戦後まであまり賛同を得られません
でしたが、その後超現代派によって新定跡が広められま
した。
【第6局】メーソン(J.Mason) − ミーゼス(J.Mieses)
モンテカルロ、1902年
1.c4 e5 2.Nc3 Nf6 3.g3
この戦型では早期にフィアンケットを行います。
3...d5 4.cxd5 Nxd5 5.Bg2
5...Be6
ナイトを守りながら展開するこんな自然な手が疑問視され
るとは当時ほとんど信じられないことでした。今日(1950年
頃)では 5...Nb6
6.Nf3 Nc6 7.O-O Be7 8.d3 Be6 9.Be3
O-O で黒が十分と考えられています。この後はたとえば
10.d4
exd4 11.Nxd4 Nxd4 12.Bxd4 c6 13.Qd3 Bf6 14.Rad1
Bxd4
(サボ(Szabo)対ランダウ(Landau)、ヘースティングズ
(Hastings)、1938-39年) となって形勢互角です。
6.Nf3 Nc6
6...f6 なら 7.O-O Nc6 8.d4 exd4 9.Nb5 Bc5 10.Nfxd4 Nxd4
11.Nxd4 Bf7 12.Qa4+
Kf8 13.Rd1
(アリョーヒン(Alekhine)
対ドゥス・チョティミルスキー(Dus-Chotimirsky)、カルルス
バート(Carlsbad)、1911年)となり白有利でした。
7.O-O Be7 8.d4 exd4 9.Nxd4
9...Ncxd4
9...Nxc3 10.bxc3 Nxd4 11.cxd4 c6 と指す方がわずかに
良いですが、それでも白の有利は変わりません。
10.Qxd4 Bf6 11.Qa4+ c6 12.Nxd5 Bxd5 13.Rd1
8手目からの白の戦略は明白です。局面がもう少し進行す
れば黒の形勢は絶望的になります。今日ではこのような
指し回しは常識的で驚くには当たりません。しかし1902年
にはこのような指し方は知られていませんでした。メーソン
の局面の理解がどのくらい同時代の者より進んでいたかが
良く分かります。
13...b5 14.Qc2 Qc8
15.e4!
15.Bxd5 cxd5 16.Qxc8+ Rxc8 17.Rxd5 a6 18.Rd6 Ke7
19.Rxa6 Rhd8 20.Be3 Bxb2
21.Rb1 Rc2 はあまりはっきり
しません(ポーン損でも黒の駒の配置が良くなっています)。
15...Bc4 16.e5 Be7 17.b3 Bd5 18.Bxd5 cxd5 19.Qxc8+
Rxc8 20.Rxd5
明らかに白は、16手目からの展開で3手得するとともに、
黒のビショップを強い斜筋から追いやりました。
20...Rc5 21.Rxc5 Bxc5 22.Bb2 Ke7 23.Rc1 Bb6
24.Kf1
Rd8 25.Ke2 Ke6
26.f3
この手は 26.f4 より強い手です。
26...Rd7 27.Rc6+ Kf5 28.g4+ Kf4 29.e6 Re7
30.Bxg7
fxe6 31.Bf8 Re8 32.Bd6+
32...e5
32...Kg5 なら 33.Bg3 の後 34.h4+ です。
33.Bc5!
この手は 34.Rxb6 axb6 35.Be3#
のメイトが狙いで、黒に
ルーク・エンディングに入ることを余儀なくさせています。
そしてメーソンの卓越したエンディングの技量が発揮され
ることになります。
33...Bxc5 34.Rxc5 a6 35.Rc7! h6 36.Rc6 e4
37.Rf6+ Kg5
38.Rxa6 Rc8 39.h4+ Kxh4
40.Rxh6+ Kg3 41.fxe4 Rc2+ 42.Kd3 Rxa2
43.Rb6
Kxg4 44.Rxb5 Ra1 45.Rd5 Rd1+
46.Kc4 Rc1+ 47.Kb5 Kf4 48.e5 1-0
メーソンはどのようにセンターの攻撃を行うべきかを明快に
教えてくれました。自分自身のポーンの進路を開けるため
にセンター・ポーンを交換し、それまでは時期が来るまで
ポーン突きを慎重に控えておくという彼の構想は特筆に
値します。
この試合の見所は定跡手順ではなく、彼のこの戦略構想
にあります。この試合に見られた定跡手順は今日では見
られなくなっています。それは5手目に対する参考局に見
られるように白はセンターで早期にポーン交換を挑むことを
黒から避けられていて、そうかといって後からでは有利に
ならないからです。
投稿者 yamagishi : 13:15 | コメント (0)
2005年02月06日
イングリッシュ・オープニングの創生(10)
第2章 20世紀のイングリッシュ・オープニング(5)
現代の指し方(2)
レティは4ナイト・システムのキング側フィアンケットを採用
して成功を収めましたが、後にランダウとの番勝負での対
戦で実はタクティクスによりうまくいかないことを実証しまし
た。これは戦略的に妥当と思われてもタクティクスの面から
修正を余儀なくされる例の一つです。
従ってセンター、特にd5の枡を支配する別の方策が探求さ
れ、ビショップをg5に展開して黒のキング側ナイトをピンする
手が考案されました。このピンは黒にとって対処が大変難し
く、本局はその良い例です。
【第5局】ボトヴィニク(M.M.Botwinnik) − レベンフィッシュ(G.Levenfish)
ソ連選手権、1940年
1.c4 e5 2.Nc3 Nf6 3.Nf3 Nc6 4.d4 exd4 5.Nxd4 Bb4
6.Bg5
6...h6
最新型では 6...O-O 7.Rc1 d5! 8.Nxc6 (8.cxd5 なら 8...Qxd5
9.Bxf6 gxf6) bxc6 9.a3
(9.Bxf6 なら 9...Qxf6 10.cxd5 cxd5
11.Qxd5 Be6) 9...Be7 10.e3 Be6 11.cxd5 cxd5
12.Be2 c5
(サマリアン対バロフ、ブラソフ、1947年) という戦いになっ
ています。
7.Bh4 Bxc3+ 8.bxc3
8...Ne5
この手では 8...d6 と指すのもありますが、以下 9.f3 O-O
10.e4 Ne5 11.Be2 Ng6 12.Bf2 Nd7
13.Qd2 Nb6
14.Nb3 Be6 (ボトヴィニク対ピルツ、モスクワ、1935年)で
白やや良しとされています。
9.e3
より強い手は 9.f4 で、以下 9...Ng6 (9...Nxc4 なら
10.e4 Ne3 11.Qe2 Nxf1 12.e5 O-O
13.Nf5!) 10.Bxf6 Qxf6
11.g3 c5 12.Nb5! という展開になります。
9...Ng6 10.Bg3 Ne4 11.Qc2 Nxg3 12.hxg3 d6
13.f4!
以前に手番が逆で同一局面になったことがあり、その時は
レベンフィッシュは 13.Be2 と指しましたが、本譜の手の方
が強い手です。
13...Qe7
先に 13...Nf8 と備えるべきでした。
14.Kf2 Nf8
14...Bd7 ならば 15.Bd3 Nf8 16.Be4 c6 17.Rab1 となって
b筋に圧力がかかります。
15.c5 dxc5 16.Bb5+ Nd7
16...Bd7 と受けると 17.Nf5 Qf6 18.Qe4+ で負けます。
17.Nf5 Qf6 18.Rad1
18...g6
この手は見損じのようです。しかしいずれにしても白の攻撃
を受けきるのは容易ではありません。18...c6 (18...a6 は
19.Qe4+) なら 19.Rd6 Qd8 20.Qe4+ Kf8 21.Bc4 Rg8
22.Bxf7 Kxf7 23.Qe6+ Kf8
24.Nh4 で白の勝ちです。
19.Nxh6 Rf8 20.g4 a6 21.g5 Qe6 22.Be2 Nb6
23.Ng4 Ke7 24.Nf6 Qc6
25.Rh7 Bf5 26.e4 Be6 27.f5
1-0
もし 27...gxf5 と取れば 28.exf5 Bc4 29.Bxc4 Nxc4
30.Qe4+ Qxe4 31.Rd7#
で詰んでしまいます。単に
27...Bc4 と逃げれば 28.Bxc4 Nxc4 29.Nd5+ Kd7 30.Nb4+
でクィーンを取られます。
白がセンターの枡を支配し、黒が白の圧力を無効にするた
めに単純化をして反撃する典型的な例でした。白が黒の
反発を克服できるのかはまだ分かりません(6手目の参考
局を参照)。もしかしたらスコッチ4ナイト・ゲームと同じ運命
をたどって(実際非常によく似た戦型です)、ドローになり易
いと断定されるかもしれません。
投稿者 yamagishi : 13:16 | コメント (3)
2005年02月03日
イングリッシュ・オープニングの創生(9)
第2章 20世紀のイングリッシュ・オープニング(4)
4ナイト・システム − 白のセンター早期征服作戦 − レティの貢献(2)
本局もセンターの概念に貢献した重要な一局です。本局
では黒はポーンセンターにすることを控えました。。そして
役駒の展開を進めて白に対し、センターの支配をポーン得
などの何らかの具体的な利益に結びつけられるのかという
問題を突きつけています。
【第4局】レティ(R.Reti) − グリュンフェルド(E.Grunfeld)
バーデンバーデン(Baden Baden)、1925年
1.g3 e5 2.Bg2 Nf6 3.Nf3 Nc6 4.d4 exd4 5.Nxd4 Bc5
6.Nxc6 bxc6 7.c4
手順の違いはありますが、イングリッシュ・オープニングの
典型的な型になりました。レティは巧妙に黒から ...Bb4
と
してナイトをピンされる手順を避けています。このピンは黒
の最も有力な対抗策と考えられています。
7...O-O 8.O-O Re8 9.Nc3 Bf8 10.Bf4
10.Bg5 は効果がありません。黒はすぐに 10...h6 と突いて
ピンをはずすことができます。
10...Rb8 11.Qc2 Bb7 12.Rfd1 a6
この手は単に 12...c5 と突くと 13.Nb5 と跳ねられるのを
防いでいます。
13.Rd2
13...c5
ようやく黒はセンターにポーンを突くことを決めます。しかし
ポーンが宙吊り状態になる 13...d5
ではなく、ルイ・ロペス
定跡のシュタイニッツ戦法に見られる堅固な形を目指しま
す。それでも白はこの形に特有な d5
の枡の支配を得るこ
とができます。
この手の代わりに 13...d6 と指せば、14.Qa4 Qd7
15.Bg5 Be7 16.Bxf6 Bxf6 17.Nd5 (18.Nb4
の狙い)という
展開が予想されます。
14.Bxb7 Rxb7 15.Bg5
黒の d5 が弱くなったのでこの手が有力になってきました。
15...Be7 16.Qa4 h6
ポーン損になっても黒は白の b2 に圧力をかけることにより
何らかの反撃のチャンスを得ることを狙っています。
17.Bxf6 Bxf6 18.Rxd7 Qb8
19.Rd2
優勢を維持する最も単純な手です。さらに有利を拡大する
ために 19.Nd5 Bxb2 20.Rd1
も考えられ色々な狙いがあり
ます(21.Ne7+ として次に Nc6 としたり、21.Nxc7 と取るな
ど)。
19...Bxc3 20.bxc3 Rb1+ 21.Rxb1 Qxb1+ 22.Kg2 Re6
23.Qc2 Qxc2 24.Rxc2
Re4
黒はポーンを取り返すことができますが、白は整然とキン
グ側のポーンの数の優位を保っています。
25.f3 Rxc4 26.e4 Kf8 27.Kf2 Ke7 28.Ke3 Ra4
29.Kd3 Kd6 30.Rb2 c4+
31.Ke3 Kc5 32.f4 Ra3 33.Rc2
33...g6
黒はルークを働かせることができないのでエンディングで
不利な戦いを強いられています。33...Ra5 と引き次に
34...Rb5
を狙ったら互角の戦いになるチャンスがあったか
もしれません。その後は ...Rb1 と突っ込んだり、ポーンを
...a5,...a4,...a3
と進めてから ...Rb2 と入る狙いです。
34.Kf3 Kd6 35.Ke3 Kc5 36.h4 h5 37.f5 gxf5
38.exf5 Kd6 39.Kf4 f6 40.g4
hxg4 41.Kxg4 Ke7
42.h5 Kf7 43.h6 Kg8 44.Kh5 Kh7
45.Rd2
このルークによる進入が決め手です。
45...Rxc3 46.Rd7+ Kh8 47.Kg6 Rg3+ 48.Kxf6
48...c5
48...Rh3 の方がもっと頑強な抵抗でした。以下
49.Kg5 Rg3+ 50.Kh4 Rf3 51.Kg4 の後 52.Rxc7
という
展開になるでしょう。
49.Rc7 c3 50.Rxc5 Kh7 51.Kf7 Kxh6 52.f6 Rf3
53.a4 Rd3 54.a5 Rf3
55.Rc6 Kg5 56.Kg7 1-0
黒は負けはしましたが敗因は見当たりません。勝敗を分け
た要因はそもそも白のすぐれた戦略にあったと考えるべき
でしょう。
投稿者 yamagishi : 16:25 | コメント (0)
2005年01月31日
イングリッシュ・オープニングの創生(8)
第2章 20世紀のイングリッシュ・オープニング(3)
4ナイト・システム − 白のセンター早期征服作戦 − レティの貢献(1)
ここまでは白が防御的な態勢を取るシステムを見てきまし
た。そこでは白の陣形の潜在力による利得を後で収穫し
黒を力で圧倒するために、黒に一時的にセンターを占拠さ
せていました。このいわば「待ち伏せ」システムの成功の
主因は、実際上一手手持ちにしたシシリアン・ディフェンス
に他ならないこのオープニングに潜む途方もない潜在力を
相手が認識できなかったことによるものでした。
イングリッシュ・オープニングの発展の次の段階は、この
「待ち伏せ」作戦をしなくても済むか、つまりすぐにセンター
に進攻してそこを支配できるかどうかを探求することでした。
第一次大戦後すぐに超現代派はこの新しい作戦を産み出
しました。本局で白は早期の Pd2-d4
突きによりこの直接
的な手法を試みます。これはスコッチ・ゲーム(1.e4 e5
2.Nf3 Nc6
3.d4)を連想させる全く理にかなった構想です。
レティは確かにこのシステムの発案者ではありませんでし
たが、その定跡に大いに貢献したことにより、ウィーンで活
躍した彼の名はこのシステムに深く刻み込まれています。
彼の深遠で明晰な指し方は現代のダイナミックなセンター
の概念に大きく貢献しました。彼の厳しい棋風の典型的な
一例と、戦略的な概念のすばらしさは、次の棋譜に遺憾な
く発揮されています。
【第3局】レティ(R.Reti) − プシーピョルカ(D.Przepiorka)
マリエンバード(Marienbad)、1925年
1.c4 Nf6 2.Nc3 e5 3.Nf3 Nc6 4.d4
4...exd4
4...e4 5.Nd2 Nxd4 6.Ndxe4 Ne6 7.g3 Nxe4 8.Nxe4 Bb4+
9.Bd2 Bxd2+ 10.Qxd2
O-O 11.Bg2 d6 12.O-O Bd7
13.Nc3 Bc6 14.Nd5 a5 15.e4 Nc5
(ボトビニク対フロール、
12番勝負第5局、1933年)は黒が堅固な陣形にもかか
わらずまだ完全には互角の形勢に至りませんでした。
5.Nxd4 Bc5
この手は当時の流行でした。役駒を展開するという現在の
概念に合致し、白にセンターをどうするのかを聞いています。
しかしもっと良い手は 5...Bb4 で、第5局のボトビニク対レベ
ンフィッシュ戦に現れます。
6.Nxc6 bxc6 7.g3 d5 8.Bg2 Be6 9.O-O O-O 10.Qa4
オープニングの第一段階が終わり、タラシュ(Tarrasch)派
の教義によれば黒がセンターをしっかり掌握している局面
が出現しました。これに反して初期の「超現代派」の解釈
では弱いポーンのために黒が負けることになります。
今日ならば黒がセンターのポーンの形を決め過ぎたと言っ
た方が良いでしょう。というのはセンターの構造が維持でき
るならば攻撃を仕掛ける要となっていると言えますが、現
実は既に圧力を受けているからです。
10...Bd7
この手は一時しのぎに過ぎません。10...Qe8 とすべきで、
以下 11.Rd1 (11.Bg5 なら 11...Bd4 12.Rad1 Bxc3
13.bxc3 Ne4!) Bb6 12.cxd5 (12.Bg5 なら 12...Ng4!) cxd5
13.Qxe8 Raxe8
14.Nxd5 Nxd5 15.Bxd5 Bxd5 16.Rxd5 Rxe2
で黒は受け切れます。
11.Bg5 Be7
11...Be8 の方が良かったかもしれません。
12.Rfd1 h6 13.Bxf6 Bxf6 14.Qa6 Rb8
黒の受けの構想が見えてきました。黒は白の b2
に圧力
をかけることによって反撃の機会を得ることを期待していま
す。しかし白は黒のクィーンの位置の悪さにつけこんで d
筋のより効果的な狙いにより黒の希望を粉砕します。
15.cxd5 cxd5
15...Rxb2 なら 16.dxc6 です。
16.Nxd5 Bxb2
16...Rxb2 なら 17.Nxf6+ gxf6 18.Bh3 Bc8 19.Bxc8 Qxc8
20.Qxf6 で白良しです。
17.Rab1 c6
すぐに 17...Be5 とビショップを引くと 18.Rxb8 Qxb8 19.Ne7+
で d7 のビショップを取られます。
18.Qxa7
異色ビショップになりますが、実際は最も早い勝ち方です。
黒の f7 に大きな圧力をかけています。
18...cxd5 19.Rxd5 Qe8 20.Rxd7 Qxe2 21.Rxf7 Be5
22.Rxb8 Rxb8 23.Rxg7+
Bxg7 24.Qxb8+ Kh7
25.Qb1+ Kh8 26.Be4
26...Be5
26...Bd4 なら 27.Qb8+ Kg7 28.Qc7+ Kg8 (28...Kf6 なら
29.Qd6+) 29.Qd8+
でビショップが取られます。
27.Qb7 1-0
この試合から分かることは、現代(1950年頃)の定跡に対
するレティの偉大な貢献は、センターの「支配」とはポーン
による占拠ましてや役駒による支配を意味するのではな
いということをまざまざと示してくれたことです。この「遠隔
支配」の概念は輝かしく深遠な「レティ・オープニング」の
根底の考え方を成し、彼はそのオープニングで当時数々
の大会で成功を収めました。
相手にセンターを一時的に占拠させてそのポーン構造の
弱点を突くというレティの手法は、強いセンターと弱いセン
ターの概念の知識を飛躍的に増大させました。
投稿者 yamagishi : 13:20 | コメント (0)
2005年01月28日
イングリッシュ・オープニングの創生(7)
第2章 20世紀のイングリッシュ・オープニング(2)
フロールの指し方
ニムゾヴィッチを除けばフロールはイングリッシュ・オープニ
ングの理解に他のどのマスターよりも貢献しました。
センターへの進攻の支援に駒をより効果的に使用するため
に、彼はそれまで防御が非常に難しいと考えられていた
局面に導いてしばしば成功を収めました。
本局は彼がこのオープニングで勝った数多くの有名な勝局
の好例です。
【第2局】 フロール(S.Flohr) − ランダウ(S.Landau)
ケメリ(Kemeri)、1937年
1.c4 Nf6 2.Nc3 e5 3.Nf3 Nc6 4.e3 d5 5.cxd5 Nxd5
6.Qc2
この手の代わりに 6.Bb5 Nxc3 7.bxc3 Bd6 (7...e4 8.Ne5!)
8.d4 Bd7 9.e4 exd4 10.cxd4
Bb4+ 11.Bd2 Bxd2+ 12.Qxd2 O-O
(ニムゾヴィッチ −
シュピールマン、ベルリン、1928年)
と指すのもあり白良しとされています。フロールの手はでき
るだけ駒の交換を避けようという手です。
6...Be7 7.a3 Nxc3
戦略的な疑問手です。
8.bxc3 O-O 9.d4 Bd6 10.Be2 Qe7 11.O-O
11....Bg4
すぐに 11...e4 12.Nd2 f5 13.Nc4 と指すのはアンデルセン
対モーフィーの試合に似た局面になります。本譜の手は
12...e4 の反撃が狙いです。
12.h3!
うまい催促です。12...Bh5 と引けば13.Nxe5 Bxe2 14.Nxc6
でポーンを得します。従って黒はピンを維持できません。
12...Bd7 13.c4 b6 14.Bb2
14...Rae8
黒はセンターの緊張を維持する方を選びましたが、14...exd4
15.exd4 Bf5 16.Qd1 (16.Qxf5 Qxe2)
で単純化する方が優
りました。
15.c5!
白はポーンを犠牲にして黒のポーンの形をくずします。
15...bxc5 16.dxe5 Nxe5 17.Nxe5 Bxe5 18.Bxe5 Qxe5
19.Rfc1!
自信を持って指したこの手にフロールの棋風の特徴が現れ
ています。ビショップを f1
に置いてキング側を守るために
ルークを移動させました。
19...Qg5 20.Qxc5 Re5 21.Qxa7 Bxh3
22.Bf1!
19手目から始まる白の正確な守りの主眼をなす手です。
22...Qg6 23.Rc5!
23.Qxc7 Rg5 よりも簡明です。
23...Rxc5 24.Qxc5 Rc8 25.a4 h5 26.a5 h4
27.Qd5!
27...Bxg2 28.Bxg2 h3 29.Qd5 Qxg2+ 30.Qxg2 hxg2 の狙い
に備えました。
27...Bf5 28.a6 Be4 29.Qd7 Bf5 30.Qe7 h3 31.a7
31...Be4
31...hxg2 と来れば 32.Bxg2 Bh3 33.a8=Q Rxa8
34.Rxa8+ Kh7 35.Qh4+ で白の勝ちです。
32.Qd7! Ra8 33.Qxh3
黒の攻撃をはね返したフロールの指し回しは見事です。
33.c5 34.Qd7 Qc6 35.Qxc6 Bxc6 36.Ra5
36...Be4
黒はビショップをこの斜筋に置かなければなりません。
37...Bd7 は 38.Be2 で 39.Bf3 を狙って白の勝ちです。
37.f3 Bb7 38.Rxc5 Rxa7 39.Rc7 f6 40.Kh2 Kh8
41.Bb5 Ra3 1-0
目的の明快さと単刀直入な戦略の本局はチェスの技法の
名局です。アンデルセン対モーフィー戦と比較すると、19
世紀だったなら決定的と考えられる黒のキング側攻撃を
フロールがいかに冷徹に守りきったかということに気付か
されます。
今でも受けの名手はあまりいませんが、本局のフロールの
指し方はそれまでの50年ほどの間に受けの技術が格段に
進歩したということが良く分かります。
投稿者 yamagishi : 15:41 | コメント (0)
2005年01月25日
イングリッシュ・オープニングの創生(6)
第2章 20世紀のイングリッシュ・オープニング(1)
19世紀の後半においてはイングリッシュ・オープニングは
めったに指されませんでした。シュタイニッツ(Steinitz)は
復活させようと少し試みました。ツーケルトルト(Zukertort)、
さらにはその後もメーソン(Mason)が同様のことを行いまし
た。しかし後の二人はクィーンズ・ギャンビットの有利な型
に転移させる手段として用いていました。
20世紀の初頭には復活に向けての更なる試みが行われ
ました。特にブレーメンではしばしば用いられました。実際
ドイツでは「ブレーメン試合」として知られるようになりました。
後にルビーンシュタイン(Rubinstein)も時折指しましたが、
彼は一定の戦型を持っていませんでした。
第一次大戦後ニムゾヴィッチとレティ(Reti)が幾つかの新
戦法を編み出した時、イングリッシュ・オープニングの真の
復活が起こったのでした。
「ニムゾヴィッチの貢献」
「超現代派」の他の仲間と共にニムゾヴィッチはイングリッ
シュ・オープニングの再生に助力しました。彼は本当にアン
デルセンが残していった所から続行しました。即ち白番で
シシリアン・ディフェンスを指すということです。彼のオープ
ニングは成功を収めました。その理由は主に相手が気付
かずに無理な指し方をしていたことにあります(アンデル
センと対戦したモーフィーと同様です)。20世紀最高の
ギャンビット選手といわれるシュピールマンと彼との対戦
は興味を惹かれます。そして本局は白番でのシシリアン・
オープニングは一手早いゆえに明らかに有利であるという
スタントンの説を実証することになりました。
【第1局】ニムゾヴィッチ(A.Nimzovitch) −
シュピールマン(R.Spielmann)
カルルスバート(Carlsbad)、1929年
1.e3 e5 2.c4 Nf6 3.Nf3
3...e4
ニムゾヴィッチは「黒は一手遅れていることを認識して、お
となしく 3...d6 4.d4 Nbd7
としてキング側ビショップをフィアン
ケットすべきである。」と評しています。
4.Nd4 Nc6 5.Nb5
5...d5
この手が後の苦戦の遠因でした。黒は局面を閉鎖状態に
しておくべきでした。 5...a6 6.N5c3 が正しい指し方です。
6.cxd5 Nxd5 7.N1c3 Nf6 8.Qa4 Bf5 9.Nd4 Bd7
10.Nxc6 Bxc6 11.Bb5 Qd7
12.Bxc6 Qxc6
13.Qxc6+ bxc6 14.b3 O-O-O 15.Bb2 Bb4
16.a3 Bxc3 17.Bxc3
Rd3 18.O-O
18...Rhd8
「機械的な展開」とニムゾヴィッチは形容し、代わりに
18...Rg8! 19.f3 Nd5 20.fxe4 Nxc3 21.dxc3 Rf8
という手順
を推奨しています。彼は「このような控えめなルークのエネ
ルギーの用い方(18...Rg8!)はギャンビットではありえない。
しかし優勝を狙うならば必要不可欠である。」と皮肉っぽく
評しています。
19.f3 Nd5 20.Bxg7!
いまや白はナイトに対するビショップの優位性を示すことが
できます。やはりルークは g8 にあったほうが良いことが分
かります。
20...Rxd2 21.Bd4 f5 22.fxe4 fxe4 23.Bxa7 Rd3
24.b4 Nxe3 25.Bxe3 Rxe3
26.Rfe1 Rb3 27.Rxe4 Rd2
28.Re7 h5 29.Rf7
黒の狙いは 29...h4 30.h3 Rg3 でした。本譜の手は 30.Rf2
で単純化する狙いで、黒の次の手をうながしています。
29...Rbb2 30.Rg7 Kb7 31.h3 Rdc2 32.Rg5 Kb6
33.Rf1 c5
シュピールマンはオープニングの誤った構想からできた
c筋の弱いポーンをようやく解消する希望が出てきました。
しかしそれは期待はずれに終わります。
34.Rf4 c4 35.h4 Ra2 36.Rf6+! Kb7 37.Rb5+
ニムゾヴィッチのルーク使いは絶妙です。この手の目的は
攻守両用です。6段目のルークでg2のポーンを守りもう一
方のルークで黒のh5とc7のポーンを攻撃することができ
ます。
37...Kc8 38.Rg6 Rd2 39.Rc5 Rac2 40.Rg7 Kb8
41.Rcxc7 Rxg2+ 42.Rxg2
Rc1+ 43.Kf2 Kxc7
44.Rg5 c3 45.Rxh5
45...Rh1
45...c2 ならば 46.Rc5+ Kb6 47.Ke2 で大丈夫です。
46.Rc5+ Kb6 47.Kg3 Rc1 48.Kf2 Rh1
49.Ke3!
この手は 49.Rxc3 Rxh4 50.Ke3 Kb5 よりも優ります。
49...Rh3+
49...Rxh4 ならば 50.Kd3 Rh3+ 51.Kc2 の後 Rxc3 で白の
容易な勝ちです。
50.Kd4 c2 51.Rxc2 Rxh4+ 52.Kc3 Kb5 53.Kb3
以下省略。70手目で白勝ち。
この試合では二つの根本的に異なる定跡理論の対決を
まのあたりにすることができました。ニムゾヴィッチはシュ
ピールマンの展開の仕方は、常時ギャンビット主義とその
指し方を変えることができない結果であるとも皮肉ってい
ます。
投稿者 yamagishi : 16:23 | コメント (1)
2005年01月22日
イングリッシュ・オープニングの創生(5)
第1章 19世紀のイングリッシュ・オープニング(5)
「アンデルセンの指し方」
アンデルセンがイングリッシュ・オープニングを指すのは
非常にまれでしたが、現代(1950年頃)の定跡との関連
からは彼の指し方は非常に重要です。本局では白番な
がらシシリアン・ディフェンスのような指し方をしています。
通常のオープニングではモーフィーに圧倒されてしまうた
めとレーベンタールは指摘しています。
アンデルセンはキング側ビショップをフィアンケットしないで
クラシカル・シシリアンのように指し進めました。このため
スタントンらの英国派の指し方とは非常に異なっています。
【第5局】アンデルセン(A.Anderssen) − モーフィー(P.Morphy)
11番勝負第6局、1858年
1.a3 e5 2.c4
手順前後でイングリッシュ・オープニングに戻りました。
2...Nf6 3.Nc3 d5 3.cxd5 Nxd5 4.e3 Be6 5.Nf3 Bd6
6.Be2 O-O 8.d4
8...Nxc3
この交換は現在でもよく指されますが正確ではありません。
黒はセンターの形を決めるためにまず 8...exd4 と指すべき
です。9.exd4
と取り返してくれば 9...Nf4 で孤立ポーンにな
るので明らかに白の悪い形です。9.Nxd4 ならば 9...Nxc3!
10.bxc3
(10.Nxe6 Qf6! 11.bxc3 fxe6) Bd5! で黒好調でしょう。
9.bxc3 e4 10.Nd2 f5 11.f4 g5
モーフィーらしい鋭い手です。彼はこの手に満足せず第8
局では 11...Qh4+ 12.g3 Qh3 13.Bf1 Qh6
と指しましたが、
本局ほどは良くなりませんでした。
12.Bc4 Bxc4 13.Nxc4 gxf4 14.exf4
14...Qe8
センターの白優勢を黒は 14...c5 15.Nxd6 Qxd6 16.a4 Qg6
で破壊すべきでした。この手順中 15.a4 (15.d5
b5) ならば
15...cxd4 16.Nxd6 Qxd6 17.Ba3 Qxf4 18.Bxf8 Qe3+ 19.Qe2
(19.Kf1
Qf4+) Qxc3+ 20.Kf2 e3+ 21.Kg3 Qc7+ 22.Kh3 Kxf8
で黒良しです。
15.O-O Qc6 16.Qb3 Qd5 17.Rb1 b6 18.Qa2 c6
この手は 19.Rb5 の防ぎです。
19.Qe2 Nd7 20.Ne3 Qe6 21.c4 Nf6 22.Rb3
22...Kf7
白は 23.d5 でd筋を開けることを狙っています。以下 23...cxd5
24.cxd5 Nxd5 25.Nxd5 Qxd5 26.Rg3+
となって白勝勢です。
キングの移動は一時的にこの白の狙いをかわしますが、
この位置は不安定です。22...Rf7 と守っても 23.Bb2 Bf8
24.Rd1 Rd8 25.d5 cxd5 26.Bxf6 Rxf6 27.Nxd5 で白はセン
ターを破壊したでしょう。
23.Bb2 Rac8 24.Kh1 Rg8 25.d5 cxd5 26.cxd5 Qd7
26...Nxd5? なら 27.Qh5+ です。
27.Nc4!
27...Ke7
27...Nxd5 ならば 28.Rh3 が決め手となります。
28.Bxf6+
この手でも十分ですが、強力なビショップを切らずとももっと
直接的な決め手がありそうです。ラスカーの解説に耳を傾
けることによって、現代の巨匠たちの考え方と技法を知る
手がかりが得られます。彼によれば先ほどの変化での決
め手であった
28.Rh3 は 28...Qb5! で防がれます。正しい
手順は 28.Be5 Bxe5 29.fxe5 Nxd5 30.Nd6 Rcf8
31.Rh3 Rg7 32.Rh5 です。
28...Kxf6 29.Qb2+ Kf7
30.Rh3
勝負を決めるチャンスを逃がしました。30.Qd4! Rc5
(31.Ne5+ Bxe5 32.fxe5 の防ぎ) 31.Rh3 Rg7
32.Rh6 Bc7
33.d6 Kg8 34.Rd1 Bd8 35.Ne5 Qb5 36.Re6 h6 37.d7 Qe2
38.Qg1
Rc2 39.Re8+ Kh7 40.Rxd8 Rxg2 41.Rh8+ Kxh8
42.d8=Q+
でメイトになるところでした。マローツィのこのすば
らしい読みは、攻撃とはどのように行うべきかを示唆してく
れます。
30...Rg7 31.Qd4 Kg8!
白の手順前後のため黒は危機(Ne5+)を逃れました。
32.Rh6 Bf8 33.d6
33...Rf7
このあたりはモーフィーの巧妙な受けが効を奏しています。
34.Ne5 なら 34...Qb5 です。
34.Rh3 Qa4! 35.Rc1 Rc5
白のクィーンが d5 から e6 へ入ってくる手を防いでいます。
35...b5 は誤りで 36.d7 Rd8 37.Rg3+ Bg7
38.Rxg7+ Rxg7
39.Qd5+ Kh8 40.Ne5 とかわされます。
36.Rg3+ Bg7 37.h3 Kh8
38.Rxg7
このサクリファイスはドローにしかなりません。38.Qd2 なら
ばまだ白が優勢を維持したでしょう。アンデルセンは 38...Qc6
でピンされるのを恐れたのかもしれませんが、39.Rd1 で
大丈夫でした。
38...Rxg7 39.Rc3 e3!
アンデルセンはこの起死回生の手を見落としたに違いあり
ません。モーフィーによれば 39...Kg8 は防ぎにならず
40.Rg3! Qd7
(40...Rxg3? 41.d7!) 41.Ne5 Rxe5 42.Rxg7+
の後 fxe5 で白勝勢です。
40.Rxe3
この手が敗着となりました。40.Qf6 ならまだドローでした。
40...Rxc4 41.Qf6
まだしも 41.Qe5 でした。
41...Rc1+ 42.Kh2 Qxf4+ 0-1
この試合の最終盤を除いてどのようにモーフィーが圧倒さ
れたかを見るのは興味深いものがあります。同じオープニ
ングになった他の2局ではモーフィーはさらに不利に陥りま
した。
レーベンタールはモーフィーのオープニングの指し方を次の
ように誉めそやしています。「(モーフィーはどんなオープニ
ングを指しても)何の違いもないように思われるし、彼ほど
棋理に精通した者に違いを期待すべきではないだろう。」
実際は全く逆で、これらの試合の結果からすると偉大なチェ
スの天才でもあらかじめ研究しなければこのオープニングを
マスターすることはできなかったことを証明しているというの
が我々の見解です。
投稿者 yamagishi : 10:30 | コメント (0)
2005年01月19日
イングリッシュ・オープニングの創生(4)
第1章 19世紀のイングリッシュ・オープニング(4)
「ワイヴィルの手法(2)」
本局は黒の視点から見たイングリッシュ・オープニングの
進化の例です。黒は 1.c4 に対して堅実に 1...e6
と応じて
います。シュタイニッツは 1...e5 よりも形を決めないだけ
安全な指し方であると考えていました。
【第4局】ワイヴィル(M.Wyvill) − ケネディ船長(Capt.G.Kennedy)
ロンドン、1851年
1.c4 e6 2.e3 d5 3.g3 c5 4.Bg2
4...Nc6
この手についてスタントンは「ポーンを交換(4...dxc4)するの
はセンターを自らばらばらにするだけでなく、白からすぐに
クィーンのチェックでポーンを取り返されるので指し過ぎで
あろう」と述べています。現代(1950年頃)の定跡では
4...dxc4 5.Qa4+ Bd7 6.Qxc4 Bc6 7.Nf3 となってカタラン・
システムのような形になります。この場合白が e3
とポー
ンを突くのは甘い手とされています(キング側の白枡を弱め
るから)。
5.Ne2 Nf6 6.d3 Bd6 7.Nc3 Bc7 8.O-O h5
この攻撃は時期尚早とスタントンはみています。
9.Qb3 Na5
ちょっと気のつかない手です。9...d4 では 10.exd4 cxd4
11.Nb5 Bb6 12.Bf4
となって白にはずみがつきます。
10.Qb5+ Nc6 11.cxd5 exd5 12.e4!
(訳注 12.Qxc5 とポーンを取っても問題ないようです。)
センターへのこのポーン突きと、9.Qb3 によるそのための
準備は、g2
のビショップの強さを発揮させるためでした。
ここに優れた戦略家としてのワイヴィルの洞察力が現れて
います。今日でもこれはイングリッシュ・オープニングの
基盤となっています。
12...d4 13.Nd5 Nd7 14.Bg5 f6 15.Bf4
スタントンはこの辺では白がだいぶ優勢であると見ていま
した。
15...Be5 16.Bh3
黒は c5 のポーンを守れないように見えますが、ケネディは
非常に巧妙な手を用意していました。
16...Qa5 17.Qb3
17.Qxa5 と交換に応じると 17...Nxa5 18.Bxe5 Nxe5
19.Nc7+ Kd8 20.Nxa8 Bxh3 21.Rfd1
となって白のナイトは
逃げられずルークと小駒2枚の交換となり黒が有利です。
17...Nb6 18.Bxc8 Rxc8
19.Rfd1
ここまでのワイヴィルの戦略は見事でしたが、この手は
好機を逃しました。19.Rac1
ならば黒はクィーンをぶつけて
交換を迫ることができず(19...Qa4 20.Rxc5)指す手に
困ったことでしょう。
19...Qa4 20.Qxa4 Nxa4 21.Bc1 Nb6
ここでスタントンは「ケネディ船長は難解な局面を勇敢に
戦ってきたが、この時点では形勢に差はついていないよう
に見える。」と評しています。この評は実に面白いです。
というのは現代の局面評価に貴重な一石を投じているから
です。スタントンが黒の15手目から21手目までの間に形勢
を互角にできたと考えたに違いないのは明らかです。現代
の視点では白が19手目で大きな判断誤りによる手を指さ
なければ黒は形勢を挽回できなかったはずと躊躇なく断言
できます。
22.Nef4 g5?
これは悪手でした。22...Bxf4 と、このナイトを取らなければ
なりませんでした。
23.Nxb6 axb6 24.Nd5 g4
24...b5 としてこのポーンを助けると 25.f4 で f6 のポーンが
落ちます。
25.Nxb6 Rc7 26.Bf4 h4
27.Rac1
27.Nd5 の方が簡明でした。27...Rch7 ならば
28.Bxe5 fxe5 29.Nf6+ です。
27...hxg3 28.fxg3 Rch7 29.Rd2 Bxf4 30.gxf4 g3
31.Rxc5 gxh2+
黒に突然反撃のチャンスがめぐって来ました。
32.Kh1 Kd8 33.Nd5 Rh3 34.Rc1 f5 35.Rf1
35.e5 の方が勝りました。
35...fxe4 36.dxe4 d3 37.Rff2 Nd4 38.Nb4
38...Re3
スタントンは 38...Rg8 と指せば以下の手順で黒が勝って
いたといっています。
(a) 39.Rxh2 Rxh2+ 40.Rxh2
Nf3
(b) 39.Rg2 Rxg2 40.Rxg2 Re3 41.Nxd3 Nf3 42.Rg8+ Kc7
43.Nf2 Re1+
44.Kg2 Rg1+ 45.Kxf3 Rxg8
(訳注 Fritz8によると 43.Rg7+
でパーペチュアル・チェック
になります。黒キングがそれを避ければルークを d 筋に
廻します。)
(c) 39.Rd1 Nf3 40.Rg2
(40.Rxf3 Rg1+! 41.Rxg1 hxg1=Q+)
Rxg2 41.Kxg2 h1=Q+ 42.Rxh1 Rxh1 43.Kxh1
d2
(d) 39.Rf1 Ne2 40.Rxd3+ Rxd3 41.Nxd3 Ng3+ 42.Kxh2
Nxf1+
これらの変化を見ればスタントンの分析家としての能力の
高さを推し量ることができます。
39.Nxd3 Rxe4 40.Rxh2 Rxh2+ 41.Rxh2 Ne2
42.Rf2 Ke7 43.Kg2 Kf6
敗勢の局面でのポカ。
44.Kf3 Ra4 45.Rxe2 Rxa2 46.Re5 Ra6 47.Rb5 Rd6
48.Ne5 b6 49.Nc4 Rd3+
50.Ke4 Rd1 51.Rxb6+ Ke7
52.f5 Rc1 53.f6+ Kf7 54.Ne5+ Kg8 55.f7+ Kh7
56.Rh6+
なぜ黒が投了しないで指し続けたのか見当がつきます。
56.f8=Q
を誘ってルークで白のキングをチェックしてステー
ルメイトを狙ったのでした。(訳注 Fritz8によればステール
メイトにはならないようです。)
56...Kxh6 57.f8=Q+ 以下白勝ち。
この試合には大きな見どころが二つあります。一つは黒の
センターに対する土台攻撃(undermining)に見られるワイ
ヴィルの卓越した戦略、もうひとつはその後のケネディ船長
の見事なタクティクス能力です。
投稿者 yamagishi : 20:14 | コメント (0)
2005年01月16日
イングリッシュ・オープニングの創生(3)
第1章 19世紀のイングリッシュ・オープニング(3)
「ワイヴィルの手法(1)」
19世紀におけるイングリッシュ・オープニングのもう一人の
信奉者はワイヴィルです。彼は1851年のロンドン大会の
準優勝者です。スタントンは彼を「英国の最も優れたプレー
ヤーの一人」と呼んでいました。彼はこの戦型しか指しませ
んでした(黒ではシシリアン・ディフェンスを指していました)。
彼を特定のオープニングのスペシャリストの先駆者とみなし
てもよいでしょう。彼の実戦にはオープニングの精神を理解
していたことが見てとれます。それゆえイングリッシュ・オー
プニングの初期の戦略について結論を引き出す上で有用な
材料を提供してくれます。
【第3局】ワイヴィル(M.Wyvill) − ロウ(Lowe)
ロンドン、1851年
1.c4 e5 2.e3 c5 3.Nc3 Nc6 4.g3 Be7 5.Bg2 d6
6.d3 Nf6 7.a3 Be6
8.Nge2
少し手順の相違はありますが、局面は今日(1950年頃)指
されているものと変わりありません。黒は白のクィーン・ポー
ンのブロックを狙い、逆に白はわざと相手の策戦にのって
後で黒のセンターを
Pd3-d4 で破壊することを狙っています。
現在では白は 8.Nd5
と指すはずで、白にはセンターで色々
な作戦の可能性がありますが、黒には何もありません。
8...d5 9.cxd5 Nxd5 10.O-O O-O
11.Qc2
11.d4 では 11...cxd4 12.exd4 exd4 13.Nxd4 Nxd4
14.Qxd4 Bf6 で黒有利です。11.d4
と突けないようではブ
ロックを許し後で反撃するという白の戦略がおかしかった
ということです。
11...Nxc3
正着は 11...Rc8 として ...Nd4 を狙うべきでした。
12.bxc3 Bd5 13.e4 Be6 14.Be3!
要着です。14...c4 なら手順に 15.d4 と指せます。
14...Qd7
14...f5 なら 15.Rab1 で白の g2 のビショップの強さが際立っ
てきます。しかし 14...Qd7
でも白はセンターを効果的に破壊
できることを見せつけます。
15.f4! f5
15...Bh3 と来れば 16.Bxh3 Qxh3 17.fxe5 Nxe5 18.Nf4 で
白有利です。
16.fxe5 Nxe5
16...fxe4 には 17.d4 が強手です。
17.Nf4 Ng4 18.Bd2 c4 19.d4 Bf7 20.e5 Rab8
21.h3 Nh6 22.d5
スタントンは「白のセンター・ポーンは手がつけられない」と
評しています。
22...Bc5+ 23.Kh1 Qe7 24.Rae1 Qg5
黒のポカですがこの手がなくても黒の負けの形勢です。
25.Ne6 Qe7 26.Bg5 Qe8 27.Nxf8 以下41手目で白勝ち
この対局では白のポーン f4
突きの威力が目に付きます。
今日では常識ですが、当時は認識されず、その後も長い間
評価されませんでした。同様に重要なポイントは黒の弱点
b7
に対する白のフィアンケット・ビショップの睨みです。これは
今日でも非常に有効な策戦です。
投稿者 yamagishi : 13:48 | コメント (1)
2005年01月12日
イングリッシュ・オープニングの創生(2)
第1章 19世紀のイングリッシュ・オープニング(2)
「1851年ロンドン大会で指されたイングリッシュ・オープニング」
1851年の大会に参加した英国の選手たちによってイング
リッシュ・オープニングが指されたということは、一人の傑出
した選手によって「派」が創出されることもあり得るということ
を示しています。本局はオープニングの一歩前進と考えるこ
とができます。というのはスタントンが以前のシステムの本質
を維持しつつ全く別の新しい着想を導入したからです。
【第2局】スタントン(H.Staunton) − ホルヴィッツ(B.Horwitz)
ロンドン、1851年
1.c4 e6 2.Nc3 f5 3.g3 Nf6 4.Bg2 c6 5.d3 Na6 6.a3
ここまでの展開は現代(1950年頃)の定跡から見ると奇異に
写ります。しかし現代の視点で批評するのが目的ではあり
ません。我々の目的は当時の定跡理論に照らして局面を
分析することにあります。今日では多分
6.e4 と突くでしょう。
6...Be7 7.e3 O-O 8.Nge2 Nc7
ホルヴィッツはこの手を常用していました。「過剰防護
(overprotection)」はニムゾヴィッチ(Nimzovich)だけの発明
ではなかったのです。
9.O-O d5 10.b3 Qe8 11.Bb2
11...Qf7
本局に特徴的なセンターでの慎重な指し回しは現代でも
良く見られるものです。しかし白が自陣を強化する手がまだ
あるのに対し、黒にはこれ以上強化する手が見当たりませ
ん。従って黒はセンターで
11...e5 と戦端を開くべきでした。
もし 12.d4 または 12.f4 とくれば 12...e4
と突き越すことが
できました。白が他の手を指すならば黒は ...Qh5 で、ダッチ・
ディフェンスと同様の攻撃態勢をしきます。
12.Rc1 Bd7 13.e4!
スタントンは黒が 13...Rad8 と備える前にセンターで行動を
開始した方が良いと判断しました。
13...fxe4
13...e5 ならば 14.exd5 cxd5 15.cxd5 Ncxd5 16.Nxd5 Nxd5
17.Bxe5
でポーン得になります。(訳注 17...Bxa3 でポーン
を取り返せるようです。)
14.dxe4 Rad8 15.e5 Nfe8
15...Ng4 には 16.Nf4 Nxe5 17.cxd5 exd5 18.Nxd5 (18...cxd5
なら 19.Rxc7)
が一番簡明です。
16.f4
16...dxc4
この手はセンターを放棄するので指したくないが、16...Bc8
としても 17.cxd5 Nxd5 18.Nxd5 cxd5 19.Nd4
で白有利です。
17.bxc4 Bc5+ 18.Kh1 Be3 19.Rb1
19...g6
敗着です。f6 を弱めてしまいました。d6 の弱点とあいまって
致命的です。
20.Qb3 Bc8 21.Ne4 Bb6 22.Rbd1 Na6 23.Qc3 Rxd1
24.Rxd1 Nc5 25.Nd6
25...Qc7
この手では 25...Na4 26.Qc2 Nxd6 27.Qxa4 Nf5 と交換して
圧力を弱める方が優ります。
26.Qc2 Ng7 27.g4 Qe7 28.Bd4 Qc7 29.a4 Na6
30.c5 Ba5 31.Qb3 b6 32.Ne4
bxc5 33.Nf6+
スタントンの卓越した技量が良く現れています。優勢なキン
グ側で攻撃をかける前に、あらかじめ c5
のポーンを犠牲に
してクィーン側での黒の反撃を封じています。
33...Kh8 34.Qh3!
クィーンとナイトのコンビはまたたくまに攻撃態勢を整えて
しまいました。
34...Ne8 35.Ba1
クィーン側の黒のポーンはバラバラになっているので白の
攻撃をしのげる可能性はほとんどありません。
35...Nxf6 36.exf6 Kg8 37.Be5 Qb7 38.Be4 Qf7
39.Ng1 Bd8 40.g5 Bb7
41.Nf3 Re8 42.Bd6 Bxf6
43.gxf6 Qxf6 44.Ng5 Qg7 45.Be5 Qe7 46.Bxg6 1-0
理詰めで指された本局においてポジッショナル・プレイの
新要素、即ち両側フィアンケットが出現しました。これが単
なる思い付きで指されたのではないことは、白の両ビショッ
プ展開の後のポーンの形に注目すれば明らかです。
中盤戦におけるスタントンの技量も注目に値します。相手の
片側での反撃を封じてから反対側の攻撃に向かう彼の戦い
方を見ると、70年後にカパブランカによって典型的に示され
た戦略を連想します。
投稿者 yamagishi : 19:41 | コメント (0)
2005年01月10日
イングリッシュ・オープニングの創生
オープニング研究シリーズ第二段としてイングリッシュ・
オープニングを採り上げます。種本は次の本です。
「Chess from Morphy to Botwinnik」 Imre Konig 著、
Dover Publications 発行
副題として「A Century of Chess Evolution」が付けられて
います。Dover 版は絶版になっていますが、Hardinge
Simpole 社から2002年に復刻版が出ています(ISBN
1843820196)。この本は四つのオープニング -
「ルイ・ロペ
ス」「クィーンズ・ギャンビット」「イングリッシュ・オープニング」
「キングズ・ギャンビット」 -
について定跡の進歩・発展の
過程を解き明かしたものです。一貫して流れるテーマは
「センターの支配」です。白がセンターをどのように支配しよ
うとし黒がどのようにそれをはね除けようとしてきたかが
ポール・モーフィーからミハイル・ボトビニクまでのマスター達
の実戦棋譜を元に解説されています。
「イングリッシュ・オープニング」編は全部で15の棋譜から
成っています。戦型は4種類です。この本は1950頃に
出版されたので棋譜自体は古いです。しかし現在最善と
されているオープニングの手順をいろいろ覚えるよりも、
その根底を流れる考え方や着想を理解し身に付けるほうが
はるかに応用が効くと思います。
1.e4/1.d4 はセンターをポーンで占拠することによりセンター
の支配を目指しています。1.c4
は一見センターに無関心の
ようですが、決してそんなことはありません。1.c4 も 1.e4/
1.d4
と同様にセンターの支配を目指しています。実はセン
ターの支配とセンターの占拠は同じではありません。イング
リッシュ・オープニングは離れたところから役駒でセンターを
支配しようとし、もし黒がセンターにポーンを進めて支配しよ
うとすればそれらを攻撃目標とします。ここにイングリッシュ・
オープニングの本質があります。
一応「研究編」と銘打っていますが「実戦編」はやらないと
思います(私がイングリッシュ・オープニングを指さないので)。
一週間に2回ぐらいのペースを考えているので、終わるまで
2ヶ月くらいかかると思います。
【第1局】 24番勝負第12局、1843年
スタントン(H.Staunton) - サン・タマン(P.C.F.de Saint-Amant)
イングリッシュ・オープニングという戦法名は19世紀の中頃
に英国の選手たちによってしばしば用いられたところから
名づけられました。そもそも最初に戦法として採用したのは
スタントンで、イングリッシュ・オープニングの創始者と云わ
れています。しかしその後はパタッと指されなくなりました。
復活したのは1920頃の超現代派(hypermodern
school)
たちによってでした。彼らは自分たちの創案した新しい理論
(側面からセンターを掌握する)を実証するためにこぞって
イングリッシュ・オープニングを実戦に採用しました。
1.c4 c5 2.Nc3 f5 3.e4 d6 4.Bd3 e6 5.Nh3 Nf6
6.exf5 exf5 7.O-O Be7
8.b3 Nc6 9.Bb2 O-O
10.Nf4 Ng4
ここまでは初めてイングリッシュ・オープニングが指された
ことで有名な第6局とほぼそっくりです。第6局ではサン・
タマンが 7...g6
8.b3 Be7 9.Bb2 O-O 10.Nf4 Nc6 の手順を
取ったため(10...Ng4 の代わりに 10...g6
と指した勘定に
なっている)a1-h8 の斜筋が弱くなりました。そして
11.Ncd5 Nxd5 12.Nxd5 Be6 13.Nxe7+
Qxe7 14.Qe2 と
進み、b2 のビショップの威力で白が優勢になりました。
11.Nfd5
次に 12.f4 がある分 11.Ncd5 より優ります。
11...Bf6 12.Nxf6+ Nxf6 13.Ne2 Ng4 14.f4 b6
15.h3 Nh6 16.Rf3 Qh4
17.Rg3
17...g6
白はようやく黒のキングの周辺を弱めさせることができま
した。もし黒が 17...Rf7 と守れば 18.Rg5 で、Qf1 としてか
ら g3
として黒のクィーンを捕らえる狙いが生じます。
18.Qe1
スタントンの評によると 18.Qf1(Rg5 として g3 で黒のクィー
ンを捕獲する狙い)Qe7 19.Qf3 として Qh5
を狙ったほうが
紛れがなくて効果的だったそうです。しかし黒は 18...Nf7
で守ることができます。傑出したポジッショナル・プレーヤー
のスタントンにしては珍しくタクティクスに惑わされました。
ポジッショナルな手順は
18.Qc2! Bb7 (18...Nd4 19.Qc3)
19.Qc3 Nd4 20.Nxd4 Qxg3 21.Nc6
で白の勝ちとなるところ
でした。開いた斜筋(a1-h8)を支配する b2 のビショップが
いかに強力かが如実に分かります。
18...Qe7
19.Rxg6+ でクィーンを素抜かれる手を避けました。
19.Qf2 Nb4 20.Re1 Bb7
20...Nxa2 とポーンをかすめ取ると 21.Nc1 でクィーン・ナイト取りになります。
21.Bb1 Rae8 22.Re3 Qd8 23.Ng3 Kf7 24.Qe2 Rxe3
25.dxe3
25.Qxe3 と取ると 25...Re8 でドローっぽくなります。
25...Qh4
黒が 25...d5 なら 26.a3 としてナイトを追い払ってから Rd1
と回ります。
26.Nf1 Ng8 27.Rd1 Rd8 28.Nd2 Qg3
29.Nf1
この手は緩手でした。正着は 29.e4 で以下のように強い
攻撃が展開されるところでした。
(a) 29...Re8 30.Nf3! h6
(30...Qxf4? 31.Bc1!) 31.Rxd6
(Ne5+ が狙い)
(b) 29...fxe4 (29...Qxf4
30.exf5) 30.Nxe4 Bxe4 31.Qxe4
29...Qh4 30.Nh2 h6 31.Nf3 Qg3 32.Ne1
ポーン損を防ぐために 32.Nh2 と戻らなければなりません
でした。
32...Re8 33.Qf2
33.Rxd6 は 33...Rxe3 でたちまち黒の勝ちです。
33...Qxe3 34.a3 Nc6 35.Nf3
35...Qxf2+
35...Qxf4 と交換を避けるのは 36.Bc1 でクィーンが死にます。
36.Kxf2 Re6 37.g4 Nce7 38.Nh4 Be4 39.Bxe4 Rxe4
40.Rxd6 fxg4 41.hxg4
Rxf4+ 42.Kg3
42...g5?
この手が悪手である理由は、黒のキング側ポーンの数の
優位を無価値にしたことと、白のナイトをわざわざ良い位置
に追ったことにあります。この手の代わりに
42...Rf1
43.Nf3 Rb1 なら黒優勢を維持できました。
43.Nf3 Re4?
狙いにはまりました。43...Nf6 の方が良く、44.Bxf6 Rxf6
45.Ne5+ Kg7 46.Rd7 となるところでした。
44.Rxh6 Re3
44...Rxg4+ 45.Kxg4 Nxh6+ ならドローだったでしょう。
45.Rh7+ Ke8 46.Bc1 Rxb3 47.Bxg5 Rxa3 48.Kf4
48...a5
この手で形勢が逆転しました。48...Ra1 としてルークを守り
に活用すべきでした。そうすれば 49.Ne5 Rf1+ 50.Ke4 の
時
50...Nf6+ 51.Bxf6 Rxf6 52.g5 はこのポーンが強すぎて
黒は勝てないですが、50...Re1+
でドローに持ち込むことは
できました。
49.Ne5 Ra1
50.Bxe7 Nxd7 51.Rh8+ に対処するにはこの手しかありません。
50.Bxe7 Rf1+ 51.Ke4 Nxe7 52.Rh8+ Rf8
53.Rh6
スタントンによれば 53.Rxf8+ とルークを交換するのは
ドローにしかなりません。
53...Ng8
53...Nc8 は 54.g5 でパスポーンがが強くなります。
54.Rxb6 Nf6+ 55.Ke3 Nd7 56.Re6+ Kd8 57.Rd6 Ke7
58.Rxd7+ Ke6 59.Rd5
Rf1 60.Nd3 Rg1 61.Nxc5+ Kf6
62.g5+ Kg6 63.Ne4
以下89手目で白勝ち
イングリッシュ・オープニングの黎明期の本局には、二つの
重要なアイデアの萌芽が見られます。
まず一つ目は相手のセンター・ポーンを破壊するための、
スタントンの周到に練られた作戦です。サン・タマンの 2...f5
に対する 3.e4
についてスタントン自身は次のように述べて
います。
「黒の手に対する強硬な応手である。もし黒からポーンを
交換してくれば白のナイトがキング側の好位置に来る。黒
から交換して来なければ黒のセンター・ポーンがセンター
の外に行くだろう(6.exf5
exf5)。」
二つ目はクィーン側フィアンケットの採用という重要な手法
です。これについてもスタントンは次のように言っています。
「クィーン側ビショップに出口を与えるためのこのポーン突き
(8.b3)は本局以降広く用いられるようになった。旧システム
と比較して、本局の手法の利点は全くもって明らかである。」