2005年10月14日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第13回)

第2章 クィーンズ・ギャンビットのポーン交換戦法

この戦法はクィーンズ・ギャンビットの中でも最も重要な作戦の
一つです。それは白が黒を特定の戦型に誘導させることができ
るからです。またケンブリッジ・スプリングズ(Cambridge Springs)
などの防御につきものの手数の長く煩雑な接近戦を回避する
ことにもなります。

センターでポーンを交換(cxd5 exd5)することにより白はセンター
を固定し戦場を両側面に限定します。そのような作戦は活気を
奪って無味乾燥なチェスにさせてしまいそうですが幸いなことに
実際はそうではありません。駒数の減少にもかかわらず多くの
チェスの達人たちによりこの戦法に新構想が吹き込まれ独自の
改良が施されてきました。

本章では次の二つの戦型に分類します。

1.少数派攻撃(Minority Attack) - 白(場合によっては黒)が
相手の数で優勢のポーンを攻撃します。目的は相手のポーン
を孤立させ弱体化させることです。

2.逆キャッスリング(Heterogeneous Castling) - お互い逆方
向にキャッスリングして相手のキングを攻撃します。

ポーン交換戦法の少数派攻撃の黎明期

クィーンズ・ギャンビット拒否戦法の中でも現代的なこの戦法は
中盤戦における問題を提示しています。それは少数派ポーンで
白は黒の堅固そうに見えるクィーン側のポーンをうまく攻撃でき
るのかということです。シュタイニッツの死と第一次世界大戦との
間に「少数派ポーンは多数派ポーンに対して進攻すべきでない」
という考えが広く認知されてきました。少数派攻撃の試みはこの
ような教義に真っ向から挑戦するものでした。

従ってタラシュの教義が幅を利かせカパブランカが 1921 年に
復活させるまでこの戦法は実戦で見かけることはありませんで
した。実戦例を見つけるには 19 世紀まで遡らなければなりま
せん。

その時代の実戦例としてはピルズベリー対ショーウォルター戦
とシュタイニッツ対リー戦の2局があります。しかしピルズベリー
の指し方は今日の作戦とはほとんど共通点がないのでここでは
1899 年ロンドンでのシュタイニッツ対リー戦を取上げることにし
ます。

【第13局】シュタイニッツ(W.Steinitz) - リー(F.J.Lee)
ロンドン、1899年

  1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Nf6 4.Bg5 Be7 5.e3 O-O 6.Bxf6 Bxf6
  7.cxd5 exd5 8.Qb3

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シュタイニッツの最後の3手の駒繰りから、彼が最初からこの
局面を想定していたということが分かります。現代定跡の経験
からすれば 6.Bxf6 で形を決めず、また Qb3 で手損をしなくても
このような局面に到達できることが知られています。

  8...c6 9.Bd3 Re8 10.Ne2

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この手は通常の Nf3 よりもはるかに柔軟性のある手で、30 年
後にアリョーヒンとフロールも指していました。

  10...Nd7 11.Qc2 Nf8 12.O-O g6 13.b4 a6 14.a4 Be7

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重要な局面に到達しました。ある現代の解説者は面白いことに
次のように評しています。「4ポーンから成るクィーン側を2ポー
ンで攻めるのは成功する道理がない。黒は 14...b6 と指して 15.b5
に対し 15...c5 から ...c4 でパスポーン作りの狙いで阻止した方
が良かったかもしれない。」この評は一応はもっともです。だから
白は時期尚早の 6.Bxf6 を省いてまずは c 筋を確保しておくべき
だったのです。

  15.b5 axb5 16.axb5 Rxa1 17.Rxa1 f5 18.Ra8 Nd7

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他に良い手がありません。

  19.Na4 Nb6 20.Nxb6 Qxb6 21.Nc3 Bd7 22.Qa2 Rxa8 23.Qxa8+

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  23...Bd8

23...Kg7 24.Na4 Qc7 25.b6 Qc8 26.Qa7 Bd6 の後 ...Bb8 で白の
クィーンを追い出すのは 27.Nc5 Bxc5 28.dxc5 の後 29.Ba6 と
いう手があります。

  24.Na4 Qc7 25.b6 Qc8

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  26.Qa7

26.Qa5 の方が安全でした。以下 26...c5 なら 27.dxc5 Bf6 28.Qb4
です。黒が他の手ならまずキング側を安全にしてから Nc5 の後
Qa7 から Ba6 でクィーン側を侵攻します。

  26...f4

これしかありませんが、さすがです。

  27.Nc5

27.Ba6 の方が有望そうですが黒に単純な 27.fxe3 という応手が
あって 28.Bxb7 なら 28...e2 で黒の勝ちになります。

  27...fxe3 28.Nxb7

28.fxe3 には 28...Bg5 があります。

  28...exf2+ 29.Kf1 Bf5

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  30.Bxf5

30.Be2 なら 30...Bg4、また 30.Ba6 なら 30...Qe6 です。

  30...Qxf5 31.Nxd8 Qd3+ 32.Kxf2 Qd2+ 33.Kf3 Qd3+ 34.Kg4

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  34...Qf5+ 35.Kg3 Qd3+ 36.Kh4 Qxd4+ 37.g4 Qf6+ 38.Kg3 Qe5+ 1/2-1/2

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布局のちょっとした手順の差異を除けばこの試合はきわめて
現代的な内容になっています。

明快な戦略と一貫した指し手は 19 世紀のクィーンズ・ギャンビッ
ト拒否戦法に新しい生命をもたらす可能性がありました。しかし
当時の他の棋士たちはそのことに気付きませんでした。残念な
ことにこの戦法に対するシュタイニッツ本人の見解は知ることが
できません。本局は彼の最後の大会で指され、二、三ヶ月後に
彼は亡くなったからです。

投稿者 yamagishi

2005年10月17日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第14回)

第2章 クィーンズ・ギャンビットのポーン交換戦法

カパブランカによる少数派攻撃の復活

カパブランカは 1921 年ラスカーとの世界選手権戦第10局の
黒番で少数派攻撃を用い勝ちを収めました。彼は支援する役駒
が十分に動ける広い陣地が攻撃側にあるならば定説とは異なり
多数派のポーンへの攻撃に成功するということを彼の見事な
技量で証明してみせてくれました。後に 1927 年アリョーヒンとの
世界選手権戦ではカパブランカはわざわざ「交換戦法」の陣形を
作って「少数派攻撃」を敢行しました。

【第14局】カパブランカ(J.R.Capablanca) - アリョーヒン(A.Alekhine)
第25局、1927年

  1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Nf6 4.Bg5 Nbd7 5.e3 Be7

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  6.Nf3 O-O 7.Rc1 a6 8.cxd5 exd5 9.Bd3 c6

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  10.Qc2

第23局でカパブランカは正確さに欠ける 10.O-O を指したため、
黒は 10...Ne8 11.Bxe7 Qxe7 で密集形を捌きナイトを要衝の d6
に据えることができる態勢になりました。

  10...Re8 11.O-O Nf8 12.Rfe1

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この手は何でもない手のように見えますが実際はカパブランカの
典型的な着想の現われです。もし黒がキング側で攻勢に出て来
れば白はセンターから攻撃を仕掛ける可能性を保留しています。

  12...Be6

今日(1950 年頃)ではこのような局面では 12...Bg4 の方が好まれ
ます。その後は ...Bh5-g6 とビショップを転回させるのが狙いです。
本譜の手ではこれが非常に困難になってしまいます。もし 12...Bg4
の後白が 13.Ne5 と来れば 13...Bh5 14.Na4 Ng4! です。

  13.Na4 N6d7 14.Bxe7 Qxe7

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  15.Nc5 Nxc5 16.Qxc5 Qc7 17.b4

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  17...Nd7

典型的な少数派攻撃の局面です。白は Pa2-a4 から Pb4-b5 で
黒のクィーン側を破壊することを狙っています。これに引き換え
黒のキング側での攻撃はまだ緒についていません。しかしたとえ
そうでも本譜の手はアリョーヒン自身も指摘するように少し正確さ
に欠けています。彼は 17...Rad8 が良く 18.Nd2 なら 18...Bg4 と
指しその後 ...Bh5-g6 とするのが良いと言っていました。

  18.Qc2 h6 19.a4 Qd6 20.Rb1 Rec8

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  21.Rec1 Bg4 22.Nd2 Rc7 23.Nb3

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  23...Bh5

23...Qxb4 とポーンを掠め取ると 24.Nc5 があります。

  24.Nc5 Nxc5 25.Qxc5 Qf6

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もちろん黒はクィーンの交換に応じません。それは黒の受けの
可能性はキング側での反撃にかかっているからです。

  26.b5

この手は時期早々でした。白はまず 26.Ra1! Bg6 27.Bf1 と指し
てビショップを温存しておけば有利が保てました。このビショップ
は自分のキング側の守りと相手のクィーン側のポーンの攻撃の
ために役立ちます。

  26...axb5 27.axb5 Bg6 28.Bxg6 Qxg6

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  29.Ra1 Rac8 30.b6

他に適当な手がありません。黒に ...cxb5 でポーンの形を崩させ
るよう仕向けることは不可能です。

  30...Rd7 31.Ra7 Kh7 32.Rca1 f5

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  33.Qc2 Re7 34.g3 Rce8 35.Ra8 Re4 36.Rxe8 Rxe8

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  37.Ra7 Rb8 38.h4 h5 39.Kg2 Qe6 40.Qd3 Kg6 41.Kh2 1/2-1/2

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非常に見ごたえのある内容の試合で、カパブランカの見事な少数
派攻撃が見られました。特に彼の「予防技法」が印象的で、自分の
ポーンの形を弱めずにキング側での黒の反撃を封じました。つまり
黒が後に反撃の材料とするような攻撃の目標となるようなものを
作りませんでした。今日では白がそうできたのは黒がビショップを
Bg4-h5-g6 と転回させなかったからだということが知られています。

投稿者 yamagishi

2005年10月20日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第15回)

第2章 クィーンズ・ギャンビットのポーン交換戦法

アリョーヒンによる防御の改良形

【第15局】カパブランカ(J.R.Capablanca) - アリョーヒン(A.Alekhine)
第27局、1927年

  1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Nf6 4.Bg5 Nbd7 5.e3 Be7
  6.Nf3 O-O 7.Rc1 a6 8.cxd5 exd5 9.Bd3 c6 10.Qc2

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  10...h6 11.Bh4 Ne8 12.Bg3 Bd6 13.O-O Bxg3 14.hxg3 Nd6

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この地点へのナイトの駒繰りは第14局でカパブランカによって
指され今日(1950 年頃)でも最善と考えられています。

  15.Na4 Re8 16.Rfe1 Nf6

e5 の白のナイトを ...f6 で追い払えるように 16...Nf8 へ引く方が
優ります。

  17.Ne5 Nfe4 18.Qb3 Be6 19.Nc5

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  19...Nxc5

白の好位置のナイトを放置しておけないのでアリョーヒンは 21
手目の手をたよりに単純化を図ります。アリョーヒンによれば
19...Qf6 の方が良かったとのことですが、それならば白は
20.Bxe4 dxe4 (20...Nxe4 21.Nxe4 dxe4 22.Qxb7 Rab8 23.Qxc6!)
21.Qc2 Bd5 の後 f3 の突きを含みに白がセンターで優位に
立ちます。

  20.dxc5 Nb5 21.a4 Nc7

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  22.Bb1

22.Qxb7? とポーンを取るのは 22...Bc8 で e5 のナイトを取られ
ます。黒の受けはこの手に期待したものでした。

  22...Bc8 23.Nf3 Ne6 24.e4

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局面がはっきりしてきました。ビショップとナイトの手の込んだ
駒繰りにより黒は白の少数派攻撃を防ぐことに成功しました。
しかしそれでもセンターからの攻撃は防げませんでした。

  24...dxe4 25.Rxe4 Re7 26.Rce1

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  26...Bd7

26...Nxc5 と両取りに行くのは 27.Rxe7 Be6 (Re8+ の防ぎ)
28.Qc2 で 29.Qh7+ からの詰みとナイトへの当たりが残ります。

  27.Qc2 g6 28.Ba2 Qf8 29.Ne5

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  29...Qg7

29...Bc8 と当たりを避けるのは 30.Nxg6 fxg6 31.Bxe6+ Kg7
(31...Kh7? は 32.Bg8+ で e7 のルークを取られます。) 32.Bxc8 Rxe4
33.Qxe4 Rxc8 34.Qd4+ の後 Qd7(+) の狙いで白の勝ちです。

  30.Nxd7 Rxd7 31.Bxe6 fxe6 32.Rg4!

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  32...Kh7 33.Rxe6 Rg8 34.Qe4 Rf7 35.f4 Qf8

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  36.Rgxg6

36.Rexg6 の方が簡単な勝ち方でした。以下 36...Qxc5+
37.Kf1 Qc1+ 38.Kf2 Qd2+ 39.Kg1 Qd1+ 40.Kh2 となり
h5 からチェックがかからず白の勝ちです。

  36...Qxc5+ 37.Kf1 Qc1+ 38.Kf2

38.Ke2 ならまだ白に勝ちが残っていました。以下 38...Qxb2+
39.Kf3 Qb3+ (40.Kg4+ と逃げるのを 40.Qxe6+ で阻止するため)
40.Kf2 Qb2+ (40...Qb6+ には 41.Kf1) 41.Kg1 で黒からのチェック
には h2 に逃げ ...Qh5 からのチェックがかからないので白の勝ち
です。

  38...Qd2+! 1/2-1/2

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この試合から黒が白の少数派攻撃を妨害できることが分かります。
しかしそれでも黒は布局の他の問題(白のセンターからの進攻など)
を満足に解決できてはいません。

ここに我々の視点からの本局の重要性があります。少数派攻撃
をちらつかせるだけで白は黒の兵力をそちらに引き付けセンター
から開戦できました。アリョーヒン自身もカパブランカの優れた
指し回しを高く賞賛していました。


【参考棋譜】 アリョーヒン(A.Alekhine) - カパブランカ(J.R.Capablanca)
第14局、1927年
1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nf3 Nd7 4.Nc3 Ngf6 5.Bg5 Be7 6.e3 O-O
7.Rc1 c6 8.Qc2 a6 9.a3 h6 10.Bh4 Re8 11.cxd5 exd5
12.Bd3 Nh5 13.Bxe7 Rxe7 14.O-O Nhf6 15.h3 Ne8 16.Ne2 Nd6

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17.Ng3 Nf8 18.Ne5 f6 19.Ng6 Nxg6 20.Bxg6 Be6 21.Ne2 Qd7
22.Nf4 Bf5 23.Bxf5 Qxf5 24.Qxf5 Nxf5 25.Nd3 Nd6 1/2-1/2

投稿者 yamagishi

2005年10月23日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第16回)

第2章 クィーンズ・ギャンビットのポーン交換戦法

フロールの指し方

少数派攻撃のもう一人の使い手は偉大な技巧派のサロ・フロール
(Salo Flohr)でした。彼がこの作戦を用いた主たる理由は、相手が
ケンブリッジ・スプリングズ(Cambridge Springs)防御やマンハッタ
ン(Manhattan)防御で戦術上の乱戦に巻き込んで来るのを避ける
ためでした。

特に参考になるのは黒のキング側からの反撃を無力化する指し方
です。それによってクィーン側での彼の攻撃は邪魔されることなく
進行し最大の効果を収めることができました。

【第16局】フロール(S.Flohr) - エイベ(M.Euwe)
16番勝負第1局、1932年

  1.d4 d5 2.c4 c6 3.Nf3 Nf6 4.Nc3 e6 5.Bg5 Nbd7 6.cxd5 exd5 7.e3 Be7

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  8.Bd3

8.Qc2 が本筋で、本譜の手では黒に 8...Ne4 で捌く手を与えます。

  8...O-O 9.Qc2 Re8 10.O-O Nf8

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  11.Ne5 Ng4 12.Bxe7 Qxe7 13.Nxg4 Bxg4

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  14.Rfe1

ショーウォルター(Showalter)との番勝負第5局でピルズベリー
(Pillsbury)はクィーン側のルークで 14.Rae1 と指しました。以下
14...Qf6 15.a4 Re7 16.b4 Rae8 17.b5 Qg5 と進行し黒からの攻撃
に対処するために自陣を弱める 18.f4 という手を指しました。これ
以降彼の少数派攻撃の成就はおぼつかなくなりました。本譜の
手の意味は f1 の地点を小駒のために空けて防御に役立てようと
いうことです。

  14...Rad8 15.Ne2 Rd6

15...Bxe2 とナイトを取ってしまう方が黒にとって後の防御が楽でし
た。以下 16.Rxe2 g6 17.Rb1 Ne6 18.b4 a6 19.a4 Rc8 20.Qb3 Qg5
という進行が考えられ、ここで白が 21.b5 と突っかけてくれば
21...axb5 22.axb5 c5 で守れます。

  16.Ng3 Rh6

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  17.Bf5!

眼目の手です。1937 年ゼメリング(Semmering)-バーデン(Baden)
でのフロール対ケレス(Keres)戦に非常に良く似た局面(白のポー
ンが b2 でなく b4)が現われ、白は黒に ...Qh4 を許しその後
18.Nf1 Ne6 19.b5 と進みここで黒に 19.Bf3! という強手が出まし
た(20.gxf3 Ng5 21.Bf5 Nf3+ 22.Kg2 Qh5 と進みました)。

  17...Qg5 18.Bxg4 Qxg4 19.h3 Qd7 20.b4

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  20...Ne6 21.Rab1 Nc7 22.a4 a6 23.Nf1 Re7

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黒は恐らく白の次の手を 24.Nd2 と予想し 24...Ne8 25.Nb3 Nd6
で守れると考えたのでしょう。もし黒が白の深い戦略を理解して
いたら 23...Rc8 (次に 24...Ne8 と指す狙いで、黒のルークの利き
のため白は b5 と突けません) 24.Qb3 Rg6 25.Kh1 Qf5 26.Re2 Ne8
27.b5 axb5 28.axb5 Nd6 という進行が考えられ黒は十分に反撃が
できます。

  24.Nh2!

まったく予想できない手でした。普通はこのナイトは d2 を経由して
クィーン側に行きそこでの進攻を助けると誰でも考えます。しかし
本譜の手はまたキング側に戻りました。その意図は黒の 24...Ne8
に対して 25.Ng4 Rhe6 26.Ne5 と応じその後で b5 の突きを狙うと
いうものでした。

  24...Rhe6 25.Nf3 f6

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白は巧妙な手順でキング側を安全にしました。それというのも黒は
...f5 と指さないとルークをキング側に移動させることができないから
です。もし ...f5 と指すと白のナイトを絶好の位置の e5 に呼び込む
ことになります。

  26.Nd2 Re8 27.Nb3 R6e7 28.Nc5 Qc8 29.Rec1 Rd8 30.Nd3!

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  30...Qb8

この手は白からの 31.b5 突きに備えました。本譜の替わりに 30...Qf5
は 31.Qc5 Rf7 32.Rb3 の後 Qb6 と侵入する狙いがあります。

  31.Nf4 Ne6

所詮黒はナイトの交換を避けることができません。また白には
Qc5-Qb6 の狙いもありました。

  32.Nxe6 Rxe6 33.b5 axb5 34.axb5

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  34...cxb5

取りたくないポーンですが仕方ありません。35.bxc6 Rxc6 36.Qxc6!
を避けて 34...Qd6 と指すのは 35.Qa2! で a 筋と a2-g8 の斜筋に
睨みを利かせ黒の受けが非常に難しくなります。

  35.Rxb5 b6

35...Rc6? にはもちろん 36.Qxc6 です。

  36.Qb3

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  36...Qd6

36...Qb7 は 37.Rcc5 Red6 38.e4! で黒のつぶれ形です。

  37.Rb1 Rd7 38.Rxb6 Qxb6 39.Qxb6 Rxb6 40.Rxb6

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  40...Kf7 41.Kh2 Ke7 42.Kg3 Ra7 43.Kf4 g6 44.g4 Ra2
  45.Rb7+ Ke6 46.Kg3 1-0

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フロールの明快な指し回しによるこの試合は戦略上の名局と言える
でしょう。

彼の受けの手法には特に興味をひかれます。前局のカパブランカ
と異なり彼はキング側で弱点を生じるポーン突きを避けることが
できませんでした。しかしナイトの巧妙な駒繰りとクィーン側における
隠れた狙いを用いることによって黒の攻め駒を撥ね返すことができ、
相手の駒の連係が最も悪くなったちょうどその時にクィーン側で
敵陣を突破することができました。

この試合と、前局におけるカパブランカの少数派攻撃の指し回しは、
布局の問題がどのように深く中盤戦に影響しているかを示して
います。現代(1950 年頃)の定跡によって提起された問題がどの
ように関連し又入り組んでいるかを如実に表しています。

投稿者 yamagishi

2005年10月26日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第17回)

第2章 クィーンズ・ギャンビットのポーン交換戦法

少数派攻撃に対する防御法-カパブランカの防御法

これまでの試合は全部白の側から少数派攻撃を捉えてきたので
白が「楽勝」しているような感じを抱くかもしれません。しかしどん
な攻撃法に対しても適切な防御法が発見されるまでには相当な
時間がかかるのが常です。本局からは偉大な棋士達によって
防御法が確立されていく過程を見ることによって適切な防御法の
発見に伴う問題を調べることにします。まずはアリョーヒンとの世
界選手権戦におけるカパブランカの独創的な防御法を見てみる
ことにします。

【第17局】アリョーヒン(Alekhine) - カパブランカ(J.R.Capablanca)
世界選手権戦第14局、1927年

  1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nf3 Nf6 4.Nc3 Nbd7 5.Bg5 Be7
  6.e3 O-O 7.Rc1 c6 8.Qc2 a6 9.a3

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  9...h6

第2局でカパブランカはより正確な 9...Re8 と指し交換戦法に入る
のを拒否しました。それでも白が 10.cxd5 なら 10...Nxd5! と応じます。

  10.Bh4 Re8 11.cxd5 exd5

ここで 11...Nxd5 とナイトでポーンを取り返すのは白に 12.Bg3 と
応じられます。

  12.Bd3

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このような局面からの通常の指し方は 12...Nf8 13.Ne5 Ng4
14.Nxg4 Bxg4 で黒が十分に指せます。しかし白も当分の間局面
を思いのままに運ぶことができます。そうなると黒は受身の防御
を余儀なくされ、それはカパブランカの棋風と相容れません。そこ
で彼は駒の交換による単純化を選びました。

  12...Nh5 13.Bxe7 Rxe7

ルークで取ったのはナイトを e8 に引けるようにするためです。

  14.O-O Nhf6

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  15.h3

緩手です。15.b4 Ne8 16.a4 Nd6 17.b5 なら白が主導権を発揮
することができました。カパブランカのようにナイトを d6 に据える
には正確なタイミングが重要です。そして黒の展開が十分にでき
ていて白がポーンを b4 と突けるより先に黒がポーンを ...b5 と
突ける時にだけ効果があります。

  15...Ne8 16.Ne2

もしここで白が 16.b4 と指せば黒は 16...Nd6 17.a4 b5 18.Ne2 Nc4
と応じ c 筋を閉鎖することができます。そしてクィーン側ビショップ
を b7 に上げて遊び駒状態にする必要がなくなります。

  16...Nd6 17.Ng3 Nf8

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  18.Ne5 f6 19.Ng6 Nxg6 20.Bxg6 Be6 21.Ne2 Qd7

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  22.Nf4 Bf5 23.Bxf5 Qxf5 24.Qxf5 Nxf5 25.Nd3 Nd6 1/2-1/2

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本局の重要性はカパブランカがナイトを d6 の地点に捌く手法を
創案したことです。これ以降それは重要な防御の手段となりました。

投稿者 yamagishi

2005年10月29日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第18回)

第2章 クィーンズ・ギャンビットのポーン交換戦法

カパブランカの防御法の改良

前局を見て分かるようにカパブランカの防御法は理にかなって
いますが、ナイトの捌きに手数がかかっています。白はそれを
クィーン側とセンターでの攻撃態勢の構築に有効に生かすこと
ができます(例えば 1936 年ノッティンガム(Nottingham)での
アリョーヒン(Alekhine)対タイラー(Tylor)戦を参照)。

それ以降過度の準備なしに防御の駒繰りを行なおうという試み
が成されてきました。本局はこの問題に対処する現代(1950
年頃)の趨勢がよく現われている例です。

【第18局】ナイドルフ(M.Najdorf) - エリスカセス(E.Eliskases)
マール・デル・プラタ(Mar del Plata)、1947年

  1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 d5 4.Bg5 Nbd7 5.e3 Be7 6.Nf3 O-O 7.Rc1 a6

Y051029A.GIF

  8.cxd5 exd5 9.Bd3 c6 10.Qc2 Re8 11.O-O Nf8 12.h3

Y051029B.GIF

この手が黒からの ...Bg4-h5-g6 を防ぐために必要と考えられる
ならば、黒は g4 の地点に攻撃対象を労せずして得られたことに
なります。

  12...g6

この手の意味はナイトを ...Ne6-g7 に捌いてからビショップを ...Bf5
に対峙させる作戦です。これが改良カパブランカ防御法です。

  13.Ne5 N6d7 14.Bf4 Nxe5 15.Bxe5 Bd6 16.Bxd6 Qxd6

Y051029C.GIF

  17.Na4

17.a3 は 17...Ne6 18.b4 Ng7 19.Rb1 Bf5 20.a4 Bxd3 21.Qxd3 b5
となり、黒はナイトを ...Nf5-d6 という経路を経て橋頭堡の c4 に
据えることができます。

  17...Ne6 18.Nc5 Nxc5 19.Qxc5 Qf6 20.b4 Bf5 21.Bxf5 Qxf5 22.a4

Y051029D.GIF

  22...g5

この反撃策は時期尚早です。黒は 22...Qe6 23.Qb6 Re7 24.b5 axb5
25.axb5 Rc8 26.Rc5 (26.Ra1 g5!) Rec7 でクィーン側を問題なく
守ることができ連鎖ポーンも無傷で済むことができました。そして
それからポーンを ...h5、...g5-g4 と突き進めてキング側での反撃
を開始することができました。

  23.Qb6! Re7

23...Qd7 とクィーンを引いて守るのは 24.b5 axb5 25.axb5 Re6
26.Ra1 Rc8 27.Ra7 で白の攻勢が厳しくなります。

  24.b5 axb5 25.axb5

Y051029E.GIF

  25...cxb5

ポーンがばらばらになってしまいますが止むを得ません。25...Rc8
と守るのは 26.bxc6 Qe6 に 27.cxb7! という好手があってダメです。

  26.Rc5 Kg7 27.Qxb5 Rd8 28.Qa5 Red7 29.Rfc1 g4
  30.hxg4 Qxg4 31.Rb5 Kh8

Y051029F.GIF

  32.Qb6

32.Rxb7 には 32...Rg8 という切り返しがあります。

  32...Rd6 33.Qc7!

33.Qxb7 とポーンを取ると 33...Rg8 34.g3 Qh3 で ...Rxg3+ を
狙われます。

  33...Rg8 34.g3 Qe6

34...Rh6 は 35.Qe5+ f6 36.Qxd5! で攻撃が続きません。

  35.Re1

35...Rxg3+ に対する備えです。

  35...b6 36.e4!

Y051029G.GIF

黒が防御の態勢を築き上げたかに見えたその矢先に白はセン
ターで決定的な侵攻に打って出ます。

  36...dxe4

36...f5 は 37.Reb1 (37.e5? Rc6 38.Qa7 f4!) fxe4 38.Rxb6 Rxb6
(38...Rgd8? 39.Qxd8+!) 39.Rxb6 Qf5 40.Qe7! で大差の形勢です
(訳注 著者に何か錯誤があるようで、Fritz8 によれば 40...Rf8
で黒がやや有利です)。

  37.Rxe4 Qf6 38.d5 h5

38...Qa1+ 39.Kg2 Rh6 40.Qe5+ Qxe5 41.Rxe5 とクィーン交換
する方が黒に引き分けの可能性がありました。

  39.Kg2 Qg6 40.Rf4 Rg7 41.Rh4!

Y051029H.GIF

  41...Rh7

42.Rxh5+ があるのでルークが働きのない所に行かざるを得ませ
ん。後にこれが敗北につながりました。

  42.Rbb4! Qf6 43.Rhf4 Qd8 44.Qc3+ Kg8 45.Rbc4! Qf8
  46.Rc8 Rd8 47.Rfc4!

Y051029I.GIF

白の駒繰りの妙技です。相手のルークは蹴散らし、自分のルー
クは最も効果的な要所を占めています。戦略の極致と言えます。

  47...Rh6 48.Rxd8 Qxd8 49.Rc8 1-0

Y051029J.GIF

本局の最初の見所は黒の防御法です。それは自分のクィーン
側ビショップと白のキング側ビショップとの交換、ナイトを常にセ
ンターの近辺に保ったまま g7 から d6 への移動、それにより白
の作戦変更への迅速な対処です。

2番目の見所はナイドルフの素晴らしい中盤戦の指し方です。
当代随一の戦術家は大駒を駆使して黒のポーンの弱点を攻略
しました。


【参考棋譜】アリョーヒン(Alekhine) - タイラー(Tylor)
ノッティンガム、1936年
1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 d5 4.Bg5 Be7 5.e3 Nbd7 6.Rc1 O-O
7.cxd5 exd5 8.Bd3 c6 9.Qc2 Re8 10.Nf3 Nf8 11.O-O Nh5
12.Bxe7 Rxe7 13.b4 b5? 14.Ne5 +/- Bb7 15.Ne2 Re6 16.g4 Nf6
17.f4 N6d7 18.Bf5 Nxe5! 19.dxe5 Re8 20.Nd4 g6 21.Bd3 f6
22.Nxc6 Bxc6 23.Qxc6 fxe5 24.Bxb5 Re6 25.Qc5 exf4
26.Rxf4?! Rd6! 27.Qc7!? Qxc7 28.Rxc7 Ne6 29.Rc6 Rxc6
30.Bxc6 Rd8 31.Rf1 Kg7 32.Ba4! Rb8 33.a3 a5! 34.bxa5 Ra8
35.Bd7 Nf8 36.Bb5 Rxa5 37.a4 Ne6 38.Rc1 Kf6 39.h4! Ra7
40.Kf2 Ke5 41.Ke2 Nc7 42.Kd3 Rb7 43.Rb1 Kd6 44.e4! Ne6
45.exd5 Nc5+ 46.Kc2 Nxa4? 47.Kd3?? Kxd5? 48.Bc4+ Kd6
49.Rxb7 Nc5+ 50.Ke3 Nxb7 51.Kf4 Ke7 52.Kg5 Nd6 53.Bd5 Nf7+
54.Kf4 Nh6 55.g5 Nf7 56.Ke4 Nxg5+ 57.hxg5 Kf8 1/2-1/2

投稿者 yamagishi

2005年11月01日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第19回)

第2章 クィーンズ・ギャンビットのポーン交換戦法

[補講について]少数派攻撃(Minority Attack)はクィーンズ・
ギャンビットにおける非常に大きなテーマです。故ルデク・パッ
ハマン(Ludek Pachman)の名著に「Complete Chess Strategy」
全3巻(Batsford 社刊)があります。その第2巻に少数派攻撃を
採り上げた「The Minority Attack」という章があります。補講と
して14回に渡ってこの章を採り上げます。[yamagishi]

補講 - 少数派攻撃 第1回

味方の優勢な個所でなければ攻撃は成功しないというのはチェ
スの戦略の基本的な原則です。それは実際の戦闘で敵の防御
陣を打ち破るためには優勢な攻撃力を保持しなければならない
のと同様です。しかしナポレオンはこの優勢は単に数だけで判断
してはならないと言っています。質の重要な要素としては自軍の
集中力、機動性および連係力などが挙げられます。そしてこれら
は同様にチェスにも当てはまります。

前章では盤の片側における優勢が恒久的な場合もあれば一時
的な場合もあることを見てきました。それらは味方の駒の一時的
な集中、ポーンの数的優位あるいはポーンの可動性などに依存
します。20世紀までは戦略の根本を決めていたのは純粋に数的
な見地でした。この観点から見ると 1921 年にカパブランカとラス
カーとの間で戦われた世界選手権戦の本局は歴史的に重要な
価値があります。

【補講第1局】カパブランカ(Capablanca) - ラスカー(Lasker)
世界選手権戦第11局、1921年

  1.d4 d5 2.Nf3 e6 3.c4 Nf6 4.Bg5 Nbd7 5.e3 Be7 6.Nc3 O-O
  7.Rc1 Re8 8.Qc2 c6

Y051101A.GIF

  9.Bd3 dxc4 10.Bxc4 Nd5 11.Bxe7 Rxe7 12.O-O Nf8
  13.Rfd1 Bd7 14.e4 Nb6 15.Bf1 Rc8 16.b4!

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  16...Be8 17.Qb3 Rec7 18.a4 Ng6 19.a5 Nd7 20.e5 b6 21.Ne4 Rb8

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  22.Qc3 Nf4 23.Nd6 Nd5 24.Qa3 f6 25.Nxe8 Qxe8 26.exf6 gxf6 27.b5!

Y051101D.GIF

  27...Rbc8 28.bxc6 Rxc6 29.Rxc6 Rxc6 30.axb6 axb6

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白の一連の作戦が開始された 16 手目と完了した 27 手目に
好手の印が付けてあるのを見ていぶかる読者が多いでしょう。
クィーン側の多数派ポーンからパス・ポーンを作るという黒の戦
略目標の達成を白がわざわざ手助けしただけのように見えます。
ではカパブランカは何のためにこんなことをしたのでしょうか?
この局面を仔細に分析すると黒の b 筋にあるパス・ポーンは強み
でなく弱点とみなすべきことが分かってきます。白は大駒のため
に a 筋を開放し、またビショップの拠点として b5 の地点を確保
しました。他方黒のポーンは三つに分裂し格好の攻撃目標となっ
ています。つまりは黒にとって少なくとも難局になっています。

相手を利した以降のラスカーの悪手については特に解説を加え
ません。投了までの手順は以下のとおりです。

  31.Re1 Qc8 32.Nd2 Nf8(?) 33.Ne4 Qd8 34.h4 Rc7
  35.Qb3 Rg7 36.g3 Ra7

Y051101F.GIF

  37.Bc4 Ra5 38.Nc3 Nxc3 39.Qxc3 Kf7 40.Qe3 Qd6
  41.Qe4 Ra4? 42.Qb7+ Kg6

Y051101G.GIF

  43.Qc8 Qb4? 44.Rc1 Qe7 45.Bd3+ Kh6 46.Rc7 Ra1+
  47.Kg2 Qd6 48.Qxf8+ ! 1-0

Y051101H.GIF

投稿者 yamagishi

2005年11月04日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第20回)

第2章 クィーンズ・ギャンビットのポーン交換戦法

補講 - 少数派攻撃 第2回

前局で白はクィーン側の二つのポーンを用いて相手の三つの
ポーンを攻撃し、相手にパス・ポーンを作らせました。しかし黒
陣には弱点が形成されたので白は十分な代償を得ていました。
このような戦略はその形態から「少数派攻撃」と名付けられて
います。以下の二つの例図でこの攻撃の仕組みをもっと分かり
易く説明します。

Y051104A.GIF

この図のような局面の場合白は 1.a4! に引き続いて 2.a5 が狙
いとなります。そして 2...bxa5 でも 3.axb6 でも黒にパス・ポーン
ができますがそれは弱いポーンです。白はこのポーンに対する
攻撃をキング側でのポーンの進攻と組み合わせることができま
す。これは「少数派攻撃」の簡単な例です。しかし今日(1970 年
頃)ではこの言葉はクィーンズ・ギャンビットの種々の戦型で用い
られる戦略的攻撃に対して使われています。その骨格は次の
図で示されます。

Y051104B.GIF

白はキング側で多数派ポーンを形成し、逆に黒はクィーン側で
多数派ポーンを形成しています。しかし黒の多数派ポーンは白
の d4 のポーンのために効果が阻害されています。例えば黒が
...c5 と突いても白に dxc5 と取られて多数派ポーンでなくなって
しまい、おまけに d5 のポーンが弱体化します。他方 ...b6 や ...b5
と突くと c6 のポーンが弱体化します。白のキング側の多数派
ポーンについても同様のことが言えます。

このようなポーンの配置の場合白の正しい戦略構想はほとんど
の場合 b2 のポーンを b5 まで進めることです。そうなれば黒が
...cxb5 と取ると黒の d5 のポーンが弱体化します。あるいは白
が bxc6 と取って黒が ...bxc6 と取り返した場合は黒の c6 の
ポーンが出遅れポーンとなります。白と黒の a 筋のポーンは
1.b4 a6 2.a4 の後 3.b5 axb5 4.axb5 cxb5 で消えるのが普通で
す。その時黒の b 筋と d 筋のポーンは共に大きな弱点となりま
す。黒も ...f5-f4 とポーンを突いて自分の少数派攻撃を開始す
ることができます。しかしこれには後に例が出てきますが白の
場合と比べてより大きな危険を伴っています。ここではまず両
者がそれぞれ少数派攻撃に努めた場合の試合を見てみましょう。

【補講第2局】フォルティス(Foltys) - ポドゴルヌイ(Podgorny)
プラハ(Prague)、1943年

  1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 Bb4 4.Qc2 d5 5.cxd5 exd5
  6.Bg5 h6 7.Bxf6 Qxf6 8.a3 Bxc3+ 9.Qxc3 c6 10.e3

Y051104C.GIF

(この典型的な局面で黒はまず残りの小駒を交換し、特に「悪い」
ビショップを消去します。)

  10...O-O 11.Nf3 Bf5! 12.Ne5 (12.Be2 Nd7! 13.Rc1 Be4) Nd7
  13.Nxd7 Bxd7

Y051104D.GIF

  14.Be2 Qg6 15.O-O Bh3! 16.Bf3 Bg4 17.Bxg4 Qxg4

Y051104E.GIF

白はすぐに自分の「少数派攻撃」を開始することができます。そ
れに対して黒は反対側で同じことをすることにより互角の形勢を
達成することができます。

  18.b4! f5! 19.b5

Y051104F.GIF

ここで実際の試合では黒は誤った作戦を選択し以下の手順で
負けました。

  19...Rf6? (19...cxb5 20.Qb3 も同様に形勢不利です。)
  20.bxc6 Rg6 21.g3 Rxc6? 22.Qb3 Qf3

Y051104G.GIF

  23.Qxb7 Rac8 24.Qxa7 h5 25.Qe7 R8c7 26.Qg5 g6

Y051104H.GIF

  27.a4 Qe4 28.a5 Qe8 29.Rfb1 Ra7 30.Qf4 Kf7 31.Rb8 1-0

Y051104I.GIF

正しい指し方は次のとおりです。

  19...f4! 20.exf4 Qxf4

20...cxb5 21.Qb3 Qd7 でも形勢互角です。

  21.bxc6 Qc7

Y051104J.GIF

黒の c6 のポーンは出遅れポーンになって弱点ですが、白の d4
のポーンも孤立ポーンになっていてその分相殺されます。残りの
駒数が少ないので黒は引き分けにできるはずです。

本局はクィーン側の「少数派攻撃」への最も理にかなった黒の
反撃は f 筋のポーンを突き進めて行くことであることを示してい
ます。しかしこの武器が実際に用いられるところはなかなか見
られません。その理由を理解しておくことは大切です。以前に
述べたように「少数派攻撃」は通常は以下のようにクィーンズ・
ギャンビットの種々の戦型で出現します。

(a) 1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Nf6 4.Bg5 Nbd7 5.cxd5 exd5 6.e3 c6 ...

Y051104K.GIF

(b) 1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Nf6 4.cxd5 exd5 5.Bg5 c6 6.e3 Be7
  (6...Bf5? 7.Qf3!) 7.Qc2 ...

Y051104L.GIF

(c) 1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Nf6 4.Bg5 Be7 5.Nf3 O-O
  6.e3 Nbd7 7.Rc1 a6 8.cxd5 exd5 ...

Y051104M.GIF

これらの例全てで白は b 筋のポーンを突き進める準備にほとん
ど苦労が要らないことが明らかです。しかるに黒がポーンを ...f5
と進めるのを達成するのは容易なことではありません。おまけに
小駒の存在により、黒の e5 の地点に生じる弱点は対応する白
の c4 の地点の弱点より深刻であることが普通です。

投稿者 yamagishi

2005年11月07日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第21回)

第2章 クィーンズ・ギャンビットのポーン交換戦法

補講 - 少数派攻撃 第3回

次に「少数派攻撃」に対する黒の他の防御法について調べて
みます。第二次世界大戦前のほとんどの実戦では白のクィーン
側の進攻に反撃するためにキング側での接近戦を狙いとする
役駒中心の戦いを指向していました。例えば前回の3番目の
布局例では

  1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Nf6 4.Bg5 Be7 5.Nf3 O-O
  6.e3 Nbd7 7.Rc1 a6 8.cxd5 exd5

Y051107A.GIF

タルタコーワ(Tartakower)の研究手順は当初次のとおりでした。

  9.Qc2 c6 10.Bd3 Re8 11.O-O Nf8 12.Rb1 Nh5
  13.Bxe7 Qxe7 14.b4 g5?! 15.a4 g4 16.Nd2 Qg5

Y051107B.GIF

この想定手順は接近戦にだけ着目し、お互いの連鎖ポーンの
関連性についてはほとんど考慮していませんでした。数多くの
実戦からこのような反撃の不適切さが明白になりました。それ
こそが「少数派攻撃」が非常に恐れられる武器になった理由で
した。グランドマスター同士の試合からこの方法が用いられた
最近の一例を見てみましょう。

【補講第3局】スミスロフ(Smyslov) - ケレス(Keres)
世界選手権戦、1948年

  1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Nf6 4.Bg5 c6 5.e3 Nbd7 6.cxd5 exd5
  7.Bd3 Be7 8.Nf3 O-O 9.Qc2 Re8 10.O-O Nf8 11.Rab1 Ng6 12.b4 Bd6

Y051107C.GIF

黒の最後の2手は白のクィーン側のポーン進攻に対して何も手を
打たないので尋常ではありません。黒は ...h6 で双ビショップを
手に入れ、相手のキングへの役駒による攻撃を意図しています。

  13.b5 Bd7(?)

すぐに 13...h6 と指す方が黒の布局の精神に合っています。以下
14.Bxf6 Qxf6 15.e4 Nf4! 16.e5 Qe6 17.exd6 Qg4 となれば白は
何も仕出かしていません。

  14.bxc6 Bxc6?

この手は明らかな誤りです。このような局面の場合、役駒で c6 の
駒を取り返すのはほとんどの場合間違いです。それは弱い b7 の
ポーンに加えて弱い d5 のポーンを守るよりも弱い c6 のポーンだ
けを守る方がずっと楽だからです。実際 14...bxc6 15.Bf5 Qc8
16.Bxd7 Nxd7 となれば本譜の進行より受けが容易だったでしょう。

  15.Qb3!

白は直ぐに d5 の孤立ポーンに目を付け、黒に d6 のビショップを
好位置から退却させて2手損を余儀なくさせます。

  15...Be7

Y051107D.GIF

  16.Bxf6!

このビショップとナイトの交換はしばしば「少数派攻撃」における
白の構想の一環を成します。ここでのタイミングは絶好でした。
なぜなら(例えば白が 16.Bb5 と指したとすると)黒は 16...Nd7
17.Bxe7 Nxe7 でナイトによりクィーン側の弱点を守ることを狙っ
ていたからです。しかし本譜では黒の f6 のビショップは長期間
単なる傍観者の役割しか務めなくなります。

  16...Bxf6 17.Bb5 Qd6 18.Rfc1 h5 19.Ne2 h4 20.Bxc6

Y051107E.GIF

d5 のポーンに対する圧力は黒の受身の陣構えという形で既に
配当をもたらしました。そこで白は次に c6 のポーンに攻撃の
照準を合わせます。

  20...bxc6 21.Qa4 Ne7

戦略的に黒は負けです。理由は長期的に見てクィーン側の黒の
弱点は守り切れないからです。ここで白は 22.Qa6! と指すべき
でした。黒は次の 23.Rb7 に抵抗できず、22...h3 23.g3 は自身
の h3 のポーンを弱めるだけで何の攻撃続行手段もありません。

  22.Rb7? a5!

Y051107F.GIF

急に黒は受けに望みが出てきました。23.Rcb1 は 23...Reb8!
24.Rxb8+ Rxb8 25.Rxb8+ Qxb8 26.Qxa5 Qb1+ 27.Ne1 Nf5
28.Kf1 Nd6 で黒はポーンを失いますが役駒の働きが良くなり
ます。

  23.h3 Reb8 24.Rcb1 Rxb7 25.Rxb7

Y051107G.GIF

  25...c5!

25...Rb8 もありました。

  26.Rb5

26.dxc5 は 26...Qxc5 27.Nxh4? d4 で良くありません。

  26...cxd4 27.Nexd4

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  27...Rc8?

27...Qc7! が正着でした。それなら黒はほぼ受け切ることができ
たでしょう。

  28.Nb3 Bc3 29.Qxh4 Rc4 30.g4! a4 31.Nbd4 Bxd4 32.Nxd4

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  32...Qe5? (32...Nc6 と指すべきでした。) 33.Nf3 Qd6
  34.Ra5 Rc8 35.Rxa4 Ng6 36.Qh5 Qf6

Y051107J.GIF

  37.Qf5 Qc6 38.Ra7 Rf8 39.Rd7 d4 40.Rxd4 Ra8 41.a4 1-0

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(訳注 41...Rxa4 とポーンを取っても 42.Rd8+ Nf8 43.Qxf7+! Kxf7
44.Ne5+ Ke7 45.Nxc6+ でポーンの数が違い過ぎます。)

投稿者 yamagishi

2005年11月10日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第22回)

第2章 クィーンズ・ギャンビットのポーン交換戦法

補講 - 少数派攻撃 第4回

前局ではいくつかの戦術上の誤りがありましたが、それでも「少数
派攻撃」に対してキング側での役駒による反撃を行なう場合に黒が
直面しなければならない困難さをよく象徴していました。反撃を成功
させるためには黒は局面の戦略上の要件に合った作戦を選択しな
ければなりません。f 筋のポーンを進攻させるのは最も理にかなった
作戦ですが見てきたように戦術上の障害があります。これ以外に
黒は以下のようなもっと複雑な作戦を選択することができます。

(1) 白の弱体化した c4 (及び場合によっては e4) の地点に付け入る。

(2) b5 を ...b5 によって阻止し、ナイトを c4 の地点に据えて弱い c
  筋のポーンを覆い隠す。

(3) ナイトを e4 に据えて交換を余儀なくし d5 のポーンで取り返して
  ポーンの構造を変える。

以下順にこれらの作戦を見て行きましょう。

[1] 白の c4 の地点の支配をめぐる戦い(...b5 無し)

「少数派攻撃」における白の b 筋ポーンの進攻には自分の c4 の
地点を弱体化させるという欠点が伴っています。従って黒がこの
地点をナイトで占拠し白の大駒による正面からの攻撃から自分の
潜在的な弱点を保護するというのは明らかに良い戦略となります。
この作戦を実行するにあたっては白の白枡ビショップを交換により
なくすことが肝要です。もっとも多くの人はこの交換を白の c4 の
地点の占拠と無関係に目的としてだけ行っています。実戦例を
見てみましょう。

  1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 d5 4.Bg5 Be7 5.e3 O-O 6.Nf3 Nbd7
  7.Rc1 a6 8.cxd5 exd5 9.Qc2 c6 10.Bd3 Re8 11.O-O Nf8 12.Rb1 Bg4

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この手は黒の良く指す手ですがその意図は ...Bh5-g6 と転回して
白のビショップと交換しようということです。1944 年のコトナウアー
(Kottnauer)との試合で私(白番)は以下のように指し進めました。

  13.Nd2!

13.Ne5 は 13...Bh5 14.Rfc1 Ng4 で黒が局面を単純化できます。

  13...Bh5 14.b4 Bg6 15.Bxg6 Nxg6 16.Bxf6! Bxf6 17.a4

Y051110B.GIF

黒は既に難局に陥っています。g6 のナイトが主戦場から遠く離れ
ているために c4 あるいは e4 の占拠に間に合いません。また f6
のビショップは d6 の好点に行くのに2手かかります。

  17...Be7 18.Rfc1

18.b5? はまだその時機でなく 18...axb5 19.axb5 c5! で黒が指せ
ます。この黒の手は覚えておく価値があります。

  18...Rc8 19.Qb3!

直前の解説の黒の手の可能性を消しました。

  19...Bd6 20.b5 axb5 21.axb5

Y051110C.GIF

ここでこのような局面における黒の ...a6 の功罪について触れて
おきます。本局ではこの手はかなり早い時機に指されました。黒
はよくこの手で白の攻撃を遅らせるか、それとも元の位置に置い
たままにしておくべきかの難しい選択を強いられます。この手の
利点は白からの a4 と b5 の後さらに単純化が進むことです。しか
し不利益も抱えていて、白は解放された a 筋、および b6 の地点
を利用して黒の c6 のポーンを攻撃することができます。また、間
接的に黒の c5 の地点の弱点を助長しています(c5 に利かせる
ために ...b6 とポーンを突くと a 筋のポーンを弱めます)。

  21...Qg5! 22.Nf3 Qf6 23.Na4!

Y051110D.GIF

このような局面では黒の防御を簡単にさせないように白はポーン
の交換をあまり早く行なわないようにしなければなりません。狙い
は実行よりも強力であるという格言もあります。白はその狙いと
絡めて c5 のナイトあるいは a7 のルークからさらに圧力を強める
ことができます。

  23...Nf8 24.Rc3 g5 25.Qc2!

Y051110E.GIF

黒は 25...g4 26.Nd2 Bxh2+! 27.Kxh2 Qxf2 に続いて ...Re6 を
狙っていました。

  25...g4 26.Nd2 Re6 27.Nf1 Ng6 28.Rc1 Ne7 29.Qb3 Qh4

Y051110F.GIF

この手の狙いは言わずと知れた ...Bxh2+ から ...Rh6 です。

  30.g3 Qg5 31.Nb6! Rb8 32.Qa4 Qf5 33.Qc2 Qg5 34.Ra1! h5 35.Ra7 h4

Y051110G.GIF

  36.Nd7 Rd8 37.Rxb7 cxb5 38.Nc5 Rh6 39.Rxb5 Qf6
  40.Nb7 Rd7 41.Nxd6 Rxd6 42.Qe2

Y051110H.GIF

白の勝勢は明らかです。

白枡ビショップの交換は白の c4 の地点の占拠と関連付けない
限り黒の問題を解決しないと結論付けることができます。次の
試合は正しい戦略の好例です。

【補講第4局】トリフノビッチ(Trifunovic) - ピルツ(Pirc)
ザルツヨバーデン(Saltsjobaden)、1948年

  1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nc3 d5 4.Bg5 Be7 5.e3 O-O 6.Rc1 Nbd7
  7.Nf3 c6 8.Qc2 Re8 9.a3 a6 10.cxd5 exd5 11.Bd3 Nf8
  12.O-O g6! 13.Na4 Ne6 14.Bh4 Ng7

Y051110I.GIF

この戦型における典型的なナイトの捌きで、白枡ビショップの交換
と、f5 を経由して d6 にナイトを据えるセンター化とを可能にして
います。

  15.Nc5 Nd7!

もう一つのナイトは c4 の地点を支配するために b6 に向かいます。

  16.Bxe7 Rxe7 17.b4 Nb6! 18.a4 Bf5 19.Nd2 Bxd3 20.Qxd3 Nf5 1/2-1/2

Y051110J.GIF

黒の作戦は完全に成功を収めました。...Nd6 により白の c4 の地点
を完全に支配でき、他方白の b5 は実行が一層困難になっています。
ここで 21.b5 と突くのは穏やかに 21...axb5 22.axb5 Nd6 と応じること
もでき、強硬に 21...cxb5! 22.axb5 a5 と指す手もあります。黒の面白
い局勢です。

投稿者 yamagishi

2005年11月16日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第23回)

第2章 クィーンズ・ギャンビットのポーン交換戦法

補講 - 少数派攻撃 第5回

[1] 白の c4 の地点の支配をめぐる戦い(...b5 無し) - 続き

黒の課題は前局から我々が受ける印象よりも通常ははるかに
ずっと困難です。それは既に見たように白が適当な時にビショッ
プでキング側ナイトと交換することによりクィーン側攻撃を強化す
ることができるからです。本局は黒に新たな問題を突き付ける
この強力な作戦のもう一つの例です。

【補講第5局】コトフ(Kotov) - パッハマン(Pachman)
ベネチア(Venice)、1950年

  1.d4 e6 2.c4 Nf6 3.Nc3 d5 4.Bg5 Be7 5.e3 O-O 6.Nf3 Nbd7
  7.Rc1 a6 8.cxd5 exd5 9.Bd3 Re8 10.O-O c6 11.Qc2 Nf8 12.a3

Y051116A.GIF

この手はルークを c 筋から b 筋に回す必要なしに b 筋のポーン
を突く準備です。

  12...g6 13.b4 Ne6 14.Bxf6!

Y051116B.GIF

局面にかかわらず双ビショップは有利であるという独善に冷水を
浴びせる交換です。

  14...Bxf6 15.a4 Ng7 16.b5 axb5 17.axb5 Bf5 18.Bxf5 Nxf5

Y051116C.GIF

形勢は白良しです。理由は白の c4 の地点を支配すべき黒の
ナイトが一つしかないからです。それでもナイトを d6 の好点に
据えることができるので前局よりは黒に受けの可能性が豊富
です。白の次の手は前に指摘した理由により正確さを欠いて
います。正着は 19.Na4 でした。

  19.bxc6(?) bxc6 20.Na4 Rc8 21.Qc5 Nd6 22.Nd2

Y051116D.GIF

白は c4 の地点を守らなければなりません。しかしこのために
Ne5 の可能性は放棄しました。

  22...Re7 23.Rb1 Rb7 24.Rxb7 Nxb7 25.Qa7 Nd6 26.Qa6 Qc7
  27.Rc1 Bd8!

Y051116E.GIF

  28.Nc5 Qa5! 29.Qd3 Qb5 30.g3 Bb6 31.Rb1 Qxd3 32.Nxd3 Ba5!

Y051116F.GIF

  33.Nb3 Bd8 34.Nbc5 Be7 35.Nd7 Rc7 36.Nb8 Nc4

Y051116G.GIF

20 手かけて黒はついに最大の戦略目標を達成しました。

  37.Ra1 Rc8 38.Nd7 Rc7 39.Ra8+ Kg7 40.N7e5 Nxe5
  41.Nxe5 Bd6 42.Nd3

Y051116H.GIF

既に黒は引き分けの局面に達していました。黒はそれを ...f5
でもあるいは ...h5 でも実証することができました。しかし黒は
白の手を過小評価し以下のような面白い収局のすえに負けて
しまいました。

  42...Kf6 43.g4! Ke6? (43...Kg5 44.h3 Kh4 の後 45...h5 と
  指すのが良かった。) 44.Kg2 Rb7 45.Re8+ Re7 46.Rh8! f6 47.h4!

Y051116I.GIF

  47...Rb7 48.Kf3 Rf7 49.Re8+ Re7 50.Rd8 Ra7 51.Nc5+!

Y051116J.GIF

(周到に練られ精密に計算された手で、以降のルーク収局は
容易な勝ちです。)

  51...Ke7 52.Rc8 Bxc5 53.dxc5 Kd7 54.Rh8 Ke6 55.Rd8!

Y051116K.GIF

  55...Ke7 56.Rd6 Ra6 57.g5! fxg5 58.hxg5 Kf7 59.Kg3 Ke7
  60.f3 Ra3

Y051116L.GIF

  61.Kf4 Ra4+ 62.Ke5 Ra3 63.Rxc6 Rxe3+ 64.Kxd5 Rd3+(?)

Y051116M.GIF

  65.Ke4 Rc3 66.f4 Rc1 67.Rc7+ Kd8 68.Rxh7 Rxc5 69.Rf7 1-0

Y051116N.GIF

投稿者 yamagishi

2005年11月19日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第24回)

第2章 クィーンズ・ギャンビットのポーン交換戦法

補講 - 少数派攻撃 第6回

[1] 白の c4 の地点の支配をめぐる戦い(...b5 無し) - 続き

改良案として黒は白枡ビショップをもっと早い段階で交換すること
ができます。その例が本局です。

【補講第6局】パッハマン(Pachman) - ラゴージン(Ragozin)
ザルツヨバーデン(Saltsjobaden)、1948年

  1.d4 d5 2.Nf3 Nf6 3.c4 e6 4.Nc3 c6 5.cxd5 exd5 6.Qc2 g6 7.Bg5

Y051119A.GIF

  7...Bg7

すぐに 7...Bf5 と出ると 8.Qb3 があります。

  8.e3 Bf5 9.Bd3 Bxd3 10.Qxd3 Nbd7 11.O-O O-O

Y051119B.GIF

早期の ...g6 と ...Bf5 とにより黒の得た成果は明らかです。d7 の
ナイトは b6 に行けます。f6 のナイトは e5 (又は e8) から d6 に
行け、もし白が b4 とポーンを突けば c4 の地点を支配できます。
1948 年世界選手権戦のボトヴィニク(Botvinnik)対エイベ(Euwe)
戦では 12.Ne5 Qe8! 13.Nxd7 Qxd7 14.b4 Rfe8 と進みここで
合意の引き分けになりました。もし 15.b5 なら 15...Ne4、また
15.Bxf6 Bxf6 16.b5 なら 16...c5! です。

  12.Rab1 Qe7 13.Rfc1 Qe6!

...Ne4 を狙っています。

  14.Nd2 Rfe8

Y051119C.GIF

  15.Bxf6! Bxf6 16.b4 Rac8 17.b5? c5! 18.dxc5 Nxc5

Y051119D.GIF

形勢は急に黒に傾きました。19.Qxd5? は 19...Bxc3 20.Qxe6 Nxe6
で白の駒損になります。これは 17.b5? が時期尚早だったためで、
いずれ白がどうしたら効果的にこのポーンを突けるかを明らかに
します。本譜では白は辛うじて異例な防御手段で引き分けに持ち
込むことができました。

  19.Qf1! d4! 20.exd4 Bxd4 21.Re1! Qf5 22.Ne2!

Y051119E.GIF

この妙な形の白クィーン閉じ込めが唯一の凌ぎ筋です。

  22...Bf6 23.Nc4! Ne4

23...Nd3 は 24.Ng3 です。

  24.Ng3 Nxg3 25.Rxe8+ Rxe8 26.hxg3

Y051119F.GIF

  26...Bd4 27.Rd1

27.Nd6? には 27...Bxf2+ があります。

  27...Qc5 28.Na5 Rd8 29.Rd2 Qc7 30.Nb3 Bb6 31.Rxd8+ Qxd8 32.Qe2

Y051119G.GIF

以下60手目で引き分けになりました。

投稿者 yamagishi

2005年11月22日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第25回)

第2章 クィーンズ・ギャンビットのポーン交換戦法

補講 - 少数派攻撃 第7回

[1] 白の c4 の地点の支配をめぐる戦い(...b5 無し) - 続き

しかし白枡ビショップの加速的交換は一定の手順の後でのみ
可能です。他の戦型では黒は白の c4 の地点を支配するため
に他の方策を見つけなければなりません。本局はそのような
試みの一例です。

【補講第7局】フィリップ(Filip) - フィクトル(Fichtl)
番勝負、1951年

  1.c4 e6 2.d4 d5 3.Nc3 Nf6 4.Bg5 Be7 5.Nf3 O-O
  6.e3 Nbd7 7.Rc1 a6 8.cxd5 exd5 9.Bd3 Re8

Y051122A.GIF

黒は ...c6 に一手費やすことなく二つのナイトの再配置を開始
します。

  10.Qc2 g6 11.O-O Nb6

Y051122B.GIF

  12.Nd2

一見強力そうな 12.Ne2 c6 13.Ng3 という手順は 13...Ne4! と
反撃されます。以下 14.Bf4 Bd6! 15.Bxe4 dxe4 16.Nxe4 Bxf4
17.exf4 という進行になると白のポーン得は自身の弱い d4 と
f4 のポーンによって減殺されます。

  12...Nh5! 13.Bxe7 Rxe7 14.Nb3 Ng7 15.Nc5 c6

Y051122C.GIF

白は少数派攻撃に打って出る見通しが立ちません。それは黒
からの ...Bf5 と ...Nf5-d6 という捌きを阻止できないからです。

  16.Rce1

そのため白は作戦を変更します。しかし意図するセンターからの
進攻はこのような局面ではほとんど効果がありません。

  16...Bf5 17.Bxf5 Nxf5 18.Qd3 Qd6 19.e4? dxe4 20.N3xe4 Qc7

Y051122D.GIF

白の d4 のポーンは深刻な弱点と化しました。黒は以下のように
正確な指し手でこの有利をものにしました。

  21.Nf6+ Kg7 22.Rxe7 Qxe7 23.Nh5+ Kf8 24.Ng3 Nxg3 25.hxg3 Nd5

Y051122E.GIF

  26.Qb3 b6 27.Nd3 a5 28.Rc1 Rc8 29.Ne5 Qd6 30.a3 Kg7

Y051122F.GIF

  31.Qc4 Rc7 32.Qa6 c5 33.Nc4 Qe6 34.Rd1 Qe2 35.Rf1 cxd4

Y051122G.GIF

  36.b3 d3 37.Nxb6? Nxb6? (37...Qxf1+! で終わっていました。)
  38.Qxb6 Rd7 (訳注 ここでも 37...Qxf1+ があります。)
  39.Qc6 Qe7 40.Qc3+ f6

Y051122H.GIF

  41.Rd1 d2 42.Kf1 Qd6 43.g4 Qh2 44.Qh3 Qe5 45.Qe3

Y051122I.GIF

  45...Qxe3 46.fxe3 Rd3 47.b4 Rxe3 48.bxa5 Rxa3 49.Rxd2 Rxa5

Y051122J.GIF

以下 84 手目で黒が勝ちました。

投稿者 yamagishi

2005年11月25日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第26回)

第2章 クィーンズ・ギャンビットのポーン交換戦法

補講 - 少数派攻撃 第8回

[1] 白の c4 の地点の支配をめぐる戦い(...b5 無し) - 続き

前局でもまた白は適切な時期に自分の黒枡ビショップを黒の
キング側ナイトと交換するのを避けるという戦略上の間違いを
犯していました。黒の作業は本局ではもっと困難でした。

【補講第8局】パッハマン(Pachman) - ポドゴルヌイ(Podgorny)
プラハ(Prague)、1950年

  1.c4 e6 2.d4 d5 3.Nc3 Nf6 4.Bg5 Be7 5.Nf3 O-O 6.e3 Nbd7
  7.Rc1 a6 8.cxd5 exd5 9.Bd3 Re8 10.Qc2 g6 11.O-O Nb6

Y051125A.GIF

最初の11手は前局と同じです。

  12.Bxf6! Bxf6 13.Ne2 c6 14.Nd2 Bg4 15.Ng3 Nc8
  16.Nb3 Nd6 17.Nc5 Bh4!

Y051125B.GIF

この局面では双ビショップは価値がないことを正確に認識して
います。特にこの良ビショップの方は活動の余地がありません。

  18.Rfe1 Bxg3 19.hxg3 Qf6

20...Bf5 の狙いです。

  20.Qb3

Y051125C.GIF

白の最終手は 20...Bf5 を 21.Bxf5 Qxf5 22.Nxb7! Rab8? 23.Nxd6
で防いでいます。それでも白の少数派攻撃はもはや考慮の外
です。また白のクィーン側での圧力はほんのわずかに過ぎませ
ん。正着の 20...Rab8 を指せば黒は確実に局面を持ちこたえら
れたはずです。しかし黒はためになる誤りを犯します。

  20...b5?

次項でこのような手は白の側から b4 と指した時考慮した方が
良いことを学びます。白が b3 で c4 の地点を守れる限り ...b5
という手は c 筋のポーンの重大な弱体化を招くだけです。この
手以降は単なる技術の問題です。

  21.Qc2 Kg7 22.Qc3 Ne4 23.Bxe4 dxe4 24.Nb7!

Y051125D.GIF

  24...Bd7!

24...Rac8 は 25.d5 cxd5 26.Qxf6+ Kxf6 27.Nd6 で白勝ちです。

  25.Qb4 h5 26.Qd6 Qxd6 27.Nxd6 Re7 28.Nb7

Y051125E.GIF

  28...a5

28...Be6 なら 29.Na5 です。

  29.Nc5 Be6 30.Nxe6! Rxe6 31.Rc5 Ra6 32.Rec1 Rb6 33.Kf1 Kf6

Y051125F.GIF

  34.Ke2 Ke7 35.f3 exf3+ 36.gxf3 f5 37.Kd3 Kd7 38.R1c2 Rd6 39.b3

Y051125G.GIF

a4 からのポーン進攻を狙います。

  39...Rb8 40.e4 fxe4+ 41.fxe4

Y051125H.GIF

  41...Rf6?

41...Rf8 の方がましですがそれでも 42.e5 Re6 43. Ke4! で黒の
負けです。例えば 43...Rf5 なら 44.a4 bxa4 45.bxa4 Rg5
46.Rxa5 Rg4+ 47.Kd3 Rxg3+ 48.Kc4 で駒の働きが良い白の
勝ちです。また 43...Rf1 なら 44.Re2! の後 45.d5 です。

  42.e5 Re6 43.Ke4 g5 44.d5 cxd5+ 45.Rxd5+ Ke8 46.Kf5 Re7

Y051125I.GIF

  47.Rh2 Rf7+ 48.Kxg5 Ke7 49.Rxh5 Rg8+ 50.Kh4 Rf2
  51.Rg5 Rh8+ 52.Kg4

Y051125J.GIF

以下75手目で白の勝ちに終わりました。本局での白の勝利に
もかかわらず、黒の採った戦法は形勢互角に十分です。言い換
えれば白の c4 の地点の支配を争うのは少数派攻撃の戦法に
おける本筋の防御の構想です。

投稿者 yamagishi

2005年11月28日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第27回)

第2章 クィーンズ・ギャンビットのポーン交換戦法

補講 - 少数派攻撃 第9回

[2] ...b5 による反撃

黒が少数派攻撃に対抗し得る二つ目の方策は適当な時期に
ポーンを ...b5 と突くことです。しかし前局で見たように黒は少
なくとも白の方から先に b4 と突くまで待たなければなりませ
ん。その時のポーン構造は次の図のようになります。

Y051128A.GIF

黒の最大の目的はもちろん c4 の地点をナイトで占拠すること
です。最大の弱点である自分の c 筋のポーンは白から e5 の
ナイト又は c 筋のルークから攻撃を受ける形です。場合によっ
ては e4 突きの後 e4 又は f3 のビショップから攻撃されること
もあります。白ももちろん黒の c5 の地点の弱点を利用してそ
こにナイトを据えることができます。白はその後の戦略として
適当な時期に a4 によって(時には黒の ...b5 に先立って指さ
れることがあります) a 筋を開けることができます。その時の
ポーン構造は次の図のようになります。

Y051128B.GIF

a6 と突いたのは b5 の地点でポーンを取り返すためで、その時
a 筋が開きます。しかし白の b4 ポーン自身の弱点も重要な要
因になります。黒はこのポーンを ...Bd6, ...Qe7 および ...Rb8 と
いう手で簡単に攻撃できます。以上のことから明らかなように
白のいろいろな可能性を考えると黒は形を決める ...b5 のよう
な手を指す前に、生じる局面について十分慎重に検討しなけれ
ばなりません。

本局では黒は誤った時期にこの手を指してしまいました。

【補講第9局】  フィリップ(Filip) - イェーゼク(Jezek)
マリアンスケ=ラズネ(Marianske Lazne)、1951年

  1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Nf6 4.cxd5 exd5 5.Bg5 Be7
  6.e3 c6 7.Qc2 Nbd7 8.Bd3 Nf8

Y051128C.GIF

キャッスリングの前にこの手を指すこともありますがそれなりの
欠点もあります。

  9.Nf3 Ne6 10.Bxf6!

Y051128D.GIF

この交換はほとんどの局面で白の利益になりますが、驚くべき
はつい近頃まで Bh4 が決まりきった手として手拍子で指されて
いたことです。

  10...Bxf6 11.O-O g6 12.b4 O-O 13.Na4 a6 14.Nc5 Qe7
  15.Rab1 Ng7

Y051128E.GIF

...b6 のような手は黒にとって非常に指し難い手ですがこの局
面では恐らく最善手だったでしょう。本譜の型にはまった手は
展開が遅くて間に合いません。

  16.a4 b5?

Y051128F.GIF

黒はナイトで c4 の地点を占めるという正当な戦略を踏襲して
いますが、白にはそれを覆す戦術がありました。白の a 筋での
圧力を利用したクィーン側攻撃が白に勝利を呼び込みます。そ
の際 c5 のナイトが重要な役割を果たしています。

  17.Nd2 Nf5 18.Ndb3 Nd6 19.Ra1 Bd7 20.Ra2! Nc4

Y051128G.GIF

  21.Rfa1 Rab8 22.axb5 axb5 23.Ra7 Rfd8 24.R1a6

Y051128H.GIF

侵入したルークのために黒が完全に麻痺状態に陥っています。

  24...Qe8 25.Rc7 Be7 26.Raa7 Bxc5 27.Nxc5 Nb6
  28.Nxd7 Rxd7 29.Rxd7 Nxd7

Y051128I.GIF

  30.Qxc6 Nb6 31.Qxe8+ Rxe8 32.Rb7 Nc4 33.Rxb5 Ra8
  34.g3

Y051128J.GIF

以下53手目で白が勝ちました。

投稿者 yamagishi

2005年12月01日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第28回)

第2章 クィーンズ・ギャンビットのポーン交換戦法

補講 - 少数派攻撃 第10回

[2] ...b5 による反撃

それでは ...b5 が正しく用いられた試合を見てみましょう。

【補講第10局】パッハマン(Pachman) - アベルバッハ(Averbach)
ザルツヨバーデン(Saltsjobaden)、1952年

  1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.Bg5 Bb4+ 5.Nc3 h6
  6.Bxf6 Qxf6 7.cxd5 exd5

Y051201A.GIF

  8.Rc1

最善手は 8.Qa4+ かもしれません。

  8...O-O 9.a3 Bxc3+ 10.Rxc3 c6 11.e3 Re8 12.Be2 a5!

Y051201B.GIF

このような局面で良く見られる戦術上の要着です。ここで白が
13.b4 と突くと黒は a 筋を開けることができ、同時に白の b 筋
のポーンを孤立させることができ、...b5 突きのための好条件が
整います。

  13.O-O Bg4

もし 13...a4 とさらに突くとこの弱いポーンを守るために早晩 ...b5
が必要になります。そうなると黒のナイトが適時に c4 の地点に
たどり着けるか分かりません。

  14.b4 axb4 15.axb4 Nd7

Y051201C.GIF

  16.Qb3

すぐに 16.b5 と突くのは 16...c5 でうまくいきません。しかし
16.Qc2 の方がもっと有望だったでしょう。黒が 16...Bf5 とくれ
ばそこで 17.Qb3 とかわします。そうなればナイトの交換が避
けられて、このナイトは後で黒が ...b5 と来た時 e5 の地点に
跳んで活躍できます。

  16...b5!

この絶好のポーン突きで形勢は互角になりました。

  17.Rfc1 Re6

Y051201D.GIF

  18.Qb2

18.Ne5 は 18...Bxe2 19.Nxd7 Qe7 20.Ne5 Bc4! で、c4 の
地点にナイトでなくビショップが居座る異例の展開になります。
白が不利を避けるためには本譜の手のように a 筋で大駒の
交換を行なわなければなりません。

  18...Bxf3! 19.Bxf3 Nb6 20.Ra3 Ree8 21.Rxa8 Rxa8
  22.Ra1 Qd8 23.h3 1/2-1/2

Y051201E.GIF

少数派攻撃に対する ...b5 を成功させるための条件を要約する
と次のようになります。

(1) 弱い c 筋のポーンの積極的な防護(本局の 17 手目)

(2) c 筋の占拠、あるいはこの筋に対する白の圧力を少なくとも
 無力にできること

(3) 白の c4 の地点へのナイト(あるいは例外的に本局の 18
 手目の解説にあるようなビショップ)の迅速な移送

ここで補講第6局での宿題に戻りましょう。そこでは白は時期
尚早の 17.b5? という悪手を犯していました。

Y051201F.GIF

この手に代えて白が

  17.Qc2 Bg7 18.Qb3

と正しい手順を踏ん
だとしましょう。そこで黒は

  18...b5!

と指すのが良い手になります。

Y051201G.GIF

黒は申し分のない態勢です。ナイトは b6 から c4 の地点に行け
ます。ビショップは f8 の地点から白の b 筋のポーンを狙うことが
できます。そして f 筋のポーンはキング側攻撃の前哨として f4
の地点まで進むことができます。

要するに ...b5 という手は形をはっきり決めてしまう手ですが、
局面の状況によっては少数派攻撃に対する防御で黒の最も
有望な戦法になります。

投稿者 yamagishi

2005年12月13日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第29回)

第2章 クィーンズ・ギャンビットのポーン交換戦法

補講 - 少数派攻撃 第11回

[3] 黒の d ポーンの e4 への移動

少数派攻撃に対して最も良く用いられる対抗策の一つは
黒がナイトを e4 の地点に据えることです。この中央に進
出したナイトは非常に強力なので白は交換せざるをえま
せん。黒は d ポーンで取り返し次のようなポーン構造が
出現します。

Y051213A.GIF

d ポーンの e4 への移動により黒のキング側攻撃の可能
性が高まります。それは黒の陣地が広くなること、白のポ
ーンの動きを制約していること、そして d5 の地点に黒の
役駒が行けるようになることによります。しかし白の c4 の
地点の支配は失います。白の戦略方針は b ポーンを b4-
b5 と進めることで、黒が ...cxb5 と取れば d5 のポーンが
保護パスポーンになります。

本局はこの戦略方針に沿って黒が少数派攻撃を仕掛ける
簡単な例です。

【補講第11局】イフコフ(Ivkov) - フィッシャー(Fischer)
サンタモニカ(Santa Monica)、1966年

  1.d4 Nf6 2.Nf3 g6 3.g3 Bg7 4.Bg2 O-O 5.O-O d6

Y051213B.GIF

  6.Nc3 d5 7.Ne5 c6 8.e4 Be6 9.exd5 cxd5 10.Ne2 Nc6

Y051213C.GIF

  11.Nf4 Bf5 12.c3 Be4 13.Bh3 Qc7 14.Nfd3 Bxd3
  15.Nxd3 e6

Y051213D.GIF

  16.Bf4 Qd8 17.Re1 Re8 18.Bg2 Nd7 19.h4 h5

Y051213E.GIF

  20.Bf3?

20.a4 と指すべきでした。

  20...b5! 21.a3 a5 22.Qe2 Rc8

Y051213F.GIF

鋭敏な読者は白が 23.b4! によって少数派攻撃を封じる
ことができることに気付いているでしょう。それで形勢は
互角です。しかし実戦では白はポーン構造を変える策に
出ました。

  23.Bd6 Qb6 24.Be5 Ndxe5 25.Nxe5 Nxe5 26.dxe5

Y051213G.GIF

色違いビショップにもかかわらず形勢は圧倒的にフィッ
シャーに有利になります。

  26...b4! 27.axb4 axb4

Y051213H.GIF

  28.Qe3

28.cxb4 と取るのは 28...Qxb4 で b ポーンと e ポーンが
共に弱く白が良くありません。

  28...Qxe3 29.Rxe3 bxc3 30.bxc3 Rc5 31.Be2 Rec8
  32.Ra3 Bf8 33.Rb3 Be7 34.Kg2 Bd8!

Y051213I.GIF

このビショップは a5 の地点から c3 のポーンに狙いをつ
けます。白のポーンは助かりません。

  35.Ba6 Ra8 36.Rf3 Bc7!

36...Rxa6 には 37.Rb8 があります。

  37.Rb5 Rc4 38.Bb7 Ra3 39.Re3 Kg7 40.Bc8 Raxc3
  41.Re1 Rc2 42.Bd7 0-1

Y051213J.GIF

投稿者 yamagishi

2005年12月19日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第30回)

第2章 クィーンズ・ギャンビットのポーン交換戦法

補講 - 少数派攻撃 第12回

[3] 黒の d ポーンの e4 への移動

ポーン構造の変化により黒はセンターでの駒繰りの余地
が広がるので、白からのポーン進攻はもちろんいつでも
楽に行なえるというわけにはいきません。それを念頭に
次の試合を見てみましょう。

【補講第12局】ラゴージン(Ragozin) - コトフ(Kotov)
モスクワ(Moscow)、1947年

  1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Nf6 4.Bg5 Be7 5.e3 Nbd7
  6.Nf3 O-O 7.Rc1 a6 8.cxd5 exd5 9.Bd3 c6

Y051219A.GIF

  10.O-O(?)

戦術上の疑問手で、黒陣はすぐに制約から解放されます。
10.Qc2 Re8 11.O-O という手順ならば黒は 11...Ne4? と
指せません。そう指すと 12.Bxe4 で黒はポーン損になりま
す。

  10...Ne4! 11.Bf4

11.Bxe7 と交換するのは 11...Qxe7 12.Bxe4 dxe4 13.Nd2
Nf6 となり、やはり白が先着の効を失います。黒はクィーン
側ビショップを f5 に展開したり場合によっては ...b6 から
...Bb7 と組むこともできます。

  11...Ndf6 12.Ne5 Bd6 13.Nxe4 dxe4 14.Bb1 Be6!

Y051219B.GIF

黒は問題のビショップを d5 に据えることにより指し易くな
ります。それは白がクィーン側のポーンの進攻を行なう暇
がないからです。

  15.Bg3 Bd5 16.Bh4 Be7 17.Bg3 Ne8! 18.Qc2 Nd6

Y051219C.GIF

...f6 と突かれるとナイトの逃げ場がないので白は早急に
センターを攻撃しなければなりません。

  19.f3 f6 20.Ng4 Re8 21.Nf2 f5 22.fxe4 Nxe4
  23.Be5 Bg5!

Y051219D.GIF

黒の駒は良く働いているので白は駒の交換により安全を
図らなくてはなりません。

  24.Nxe4 fxe4 25.Qe2 Qd7 26.g3 Qe6 27.h4 Be7
  28.Rf4 Bd6 29.Bxd6 Qxd6 30.Rcf1 1/2-1/2

Y051219E.GIF

投稿者 yamagishi

2005年12月22日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第31回)

第2章 クィーンズ・ギャンビットのポーン交換戦法

補講 - 少数派攻撃 第13回

[3] 黒の d ポーンの e4 への移動

最後にこの種のポーン構造の例をもう一つ見てみます。

【補講第13局】ストールベルグ(Ståhlberg) - グリゴリッチ(Gligoric)
番勝負、1949年

  1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Nf6 4.Bg5 Be7 5.e3 Nbd7
  6.Nf3 O-O 7.Rc1 c6

Y051222A.GIF

  8.Bd3 dxc4 9.Bxc4 Nd5 10.Bxe7 Qxe7 11.O-O Nxc3
  12.Rxc3 e5 13.Qc2 e4 14.Nd2 Nf6

Y051222B.GIF

  15.Rc1

この手は軽率な手でした。すぐにクィーン側ポーンの進攻
を準備する 15.Rb1! が正確な手でした。

  15...Kh8!

この手の戦術的な意味は 16...Be6 と指した時 17.Nxe4
Bf5 18.Nxf6 がチェックにならないようにすることです。
15...Bf5 は 16.a3 Rad8 17.b4 a6 18.Bb3! Rfe8 19.Rc5
(ピルツ(Pirc)対ゲルメク(Germek)戦、1947年)で白良しで
す。

  16.a3?

こ b2-b4 突きの準備はゆっくりしているので黒に絶好の
反撃を許します。白はすぐに b ポーンを突くべきです。
16.b4 対して 16...Qxb4 と取るのは 17.Nxe4 Bf5 18.Bd3
Nxe4 19.Bxe4 Bxe4 20.Qxe4 となりクィーン側の開いた
縦筋とセンターの強固な態勢で白に小さいながらも永続
する主導権が約束されます。

  16...Be6 17.Bxe6 Qxe6

Y051222C.GIF

黒は自分の有利になるように局面を単純化させました。
黒は ...Nd5 に続いて ...f5 という狙いでキング側で指し手
が好調に続くので白はクィーン側での作戦の変更を迫られ
ます。

  18.Rb3 Rfb8!

最善の受けです。18...Rab8? は 19.Qc5! a6 20.Rxb7! で
白の勝ちです。また 18...Qe7 は 19.Qc5 で黒が面白くあ
りません。

  19.f3

白は黒のルークが ...a7-a5-a4 の後 ...Ra5 で働き出す前
に自分の駒の配置を良くしなければなりません。

  19...exf3 20.Nxf3

Y051222D.GIF

  20...Ne4 21.Qc4 Qxc4 22.Rxc4 Re8 23.Rc2

23.Rxb7? にはもちろん 23...Nd6 があります。

  23...Re7 24.Nd2

Y051222E.GIF

黒はナイトを交換すべきかどうかという微妙な戦略上の
決定に直面しています。

  24...Nxd2?

黒は間違った方を選択しました。白は唯一の弱点である
e ポーンをキングで守れるようになるので後顧の憂いなく
クィーン側で遅ればせながらの行動を起こすことができま
す。交換を避ける 24...Nd6! ならば白のクィーン側での攻
勢を阻止し、同時にキング側で色々な戦術上の狙い
(...Nf5)に関わることができたでしょう。本譜では黒は苦闘
の末ようやく引き分けに持ち込むことができました。

  25.Rxd2 Rd8 26.Kf2 g6 27.Rc3 Kg7 28.b4 f5
  29.g3 Kf6 30.a4 Rd5 31.Rb2 Ke6 32.b5 Kd6

Y051222F.GIF

ポーン交換の後黒の a ポーンは弱点になります。

  33.bxc6 bxc6 34.Rb8 Ra5 35.Rc4 Kd5 36.Rcb4 Kd6
  37.Rd8+ Kc7 38.Ra8 Kd6

Y051222G.GIF

  39.Rc8 Rc7 40.Rd8+ Ke7 41.Rh8 Kd6 42.Kf3 Ke6
  43.Re8+ Kd6 44.Rc4

Y051222H.GIF

  44...Rd5

44...c5? は 45.Rd8+ Ke6 45.d5+、また 45...Ke7 は 45.Rd5
です。

  45.Rd8+ Rd7 46.Rh8 c5 47.dxc5+ Rxc5 48.Rd4+ Rd5
  49.Rh4

Y051222I.GIF

  49...Ke5!

49...h5? は 50.Rg8 です。

  50.R4xh7 Rxh7 51.Rxh7 Ra5 52.Rh4 g5 53.Rc4 g4+
  54.Ke2 Ra6

Y051222J.GIF

  55.Rf4

55.Kd3 もあり 55...Rd6+ 56.Rd4 Rh6 57.Rd7 Ra6 と進む
でしょう。

  55...Rb6!

55...Rh6 56.e4 Rxh2+ 57.Ke3 よりも勝ります。

  56.Rc4 1/2-1/2

投稿者 yamagishi

2005年12月25日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第32回)

第2章 クィーンズ・ギャンビットのポーン交換戦法

補講 - 少数派攻撃 第14回

[3] 黒の d ポーンの e4 への移動

これまでの試合から以下のような結論を引き出すことが
できるでしょう。黒の d ポーンの e4 への移動は通常は
補講第12回の試合のように幾つかの役駒が残っていて
黒にキング側攻撃の機会がある時有利に働きます。これ
に対して白は Q+2R+N 対 Q+2R+B(白枡) 又は両者が
Q+2R+B(白枡)+N の時に有望です。両者に大駒とナイト
1個しかない時は大駒を消去することができても白のチャ
ンスは減少します。これに対して大駒だけが残っている時
は補講第13局で見たように黒の受けがより困難になりま
す。何度も言うようですが以上の一般原則はほとんどの
場合は有効ですが個々の局面の特性を無視して盲目的
に適用すべきではありません。チェスの戦略全般について
言えることですが個別の変化を具体的に分析することが
必要不可欠です。

本稿の締めくくりに当たって防御側が c ポーンを突かない
場合について考えてみましょう。攻撃側は開放 c 筋を利
用して強い圧力をかけることができるので通常はそのよう
なポーンは突いた場合よりも弱い存在になります。本局で
は通常の少数派攻撃を仕掛けるのは黒です。ただし白の
c ポーンは終局まで元の位置に留まったままでした。

【補講第14局】プラトノフ(Platonov) - ペトロシアン(Petrosian)
ソ連、1970年

  1.e4 g6 2.d4 Bg7 3.Nc3 d6 4.Bc4 c6 5.Nf3 Nf6
  6.O-O d5 7.exd5 cxd5 8.Be2 O-O

Y051225A.GIF

  9.Re1 Bf5 10.Ne5 Nbd7 11.Bf4 Rc8 12.Bd3 Bxd3
  13.Qxd3 e6 14.Rad1 Qb6 15.Nxd7 Nxd7 16.Bc1 Qc6!

Y051225B.GIF

この手は ...b5 の準備です。c 筋に圧力をかけているので
...a6 で準備する必要がありません。白は 17.Re2 a6 18.a4
でこのポーン突きを防ぐべきですが、実戦はキング側での
虚構の攻撃に向かって行きます。

  17.Qh3? b5 18.a3 a5 19.Rd2

Y051225C.GIF

ここでの 19.Re2 はナイトの退路をふさぐので ...b4 と突か
れると b1 にひかなければならないという著しい不利があ
ります。そこでプラトノフはビショップの利きをふさいでもナ
イトを d1 から e3 に行けるようにする方を選びました。

  19...b4 20.axb4 axb4 21.Nd1 Ra8!

Y051225D.GIF

白の陣形が瞬く間に崩壊するのが見られるのは珍しいこ
とです。注意すべきはナイトは e4 に必要なので ...Nb6 が
それほど効果的でないことです。

  22.Ne3 Nf6! 23.Rd3 Ne4

Y051225E.GIF

  24.Red1

代わりに 24.f3 と指すのはクィーンをクィーン側から遮断
してしまい 24...Nd6 から 25...Nb5 が強い応手となります。

  24...Ra1 25.Qh4

Y051225F.GIF

  25...Qb6

黒の狙いは 26...Bxd4! 27.Rxd4 Rxc1 で勝つことです。
もはや白には適当な受けがありません。26.c3 なら
26...Rc8、また 26.f3 なら 26...Bxd4! 27.fxe4 Rxc1 で黒
勝ちです。

  26.Ng4 h5 0-1

Y051225G.GIF

27.Ne5 と行っても 27...Bf6! で 28.Qf4 は 28...Bg5、
28.Qh3 は 28...Bxe5 で白の駒損になります。

(補講終わり)

投稿者 yamagishi

2005年12月28日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第33回)

第2章 クィーンズ・ギャンビットのポーン交換戦法

交換戦法の逆キャッスリング - レシェフスキーの指し方

交換戦法の他の主要な戦型では白は早期にセンターの
ポーンを交換し、クィーン側ルークを展開する代わりにクィ
ーン側キャッスリングによって急戦を策します。

15 年前はこの戦型は少数派攻撃の余地のない独立した
戦法とみなされていました。しかし本局では前局に見られ
るような防御法への効果的な対抗策として導入されてい
ることが分かります。

【第19局】レシェフスキー(S.Reshevsky) - ストールベルグ(G.Ståhlberg)
ケメリ(Kemeri)、1937年

  1.d4 Nf6 2.c4 e6 3.Nf3 d5 4.Nc3 Be7 5.Bg5 Nbd7
  6.cxd5

Y051228A.GIF

  6...exd5

ここは 6...Nxd5 とナイトで取る方が良く 7.Bxe7 Qxe7 (ア
ラトルツェフ(Alatortsev)対カパブランカ(Capablanca)、モス
クワ、1935 年) で、ビショップの交換により黒の態勢が楽
になりました。

  7.e3 c6 8.Qc2

Y051228B.GIF

この手で白はこれまで見てきた戦法よりも融通性のある
戦法を選択します。白は Rc1 の一手を省略するだけでな
く(通常このルークは b4 を支援するために b1 に戻らなけ
ればなりません)、クィーン側キャッスリングの可能性も保
留します。

  8...Nf8

しかしストールベルグもまた警戒して同様に形を決めない
手を選びます。この手は白の手に応じて通常の戦型に戻
ることもできれば本局のように改良防御法への序曲ともな
ります。

  9.Bd3 Ne6 10.Bh4 g6!

Y051228C.GIF

ここで黒の構想が明らかとなってきました。黒は通常の
...Ng7 と ...Bf5 という捌きによって相手のキング側ビショッ
プと交換したいのです。またキャッスリングした後ではナイ
トを引く余地を作るために ...Re8 が必要なのですがそれも
省いて一手得をしたいのです。

  11.O-O-O

レシェフスキーは 11.O-O の後少数派攻撃を敢行しても
11...Ng7 12.Rab1 a5 13.a3 Bf5 14.b4 axb4 15.axb4 Ra3
で黒が有利になるだけであると読んで作戦を変更します。

この逆キャッスリング戦法は新しい戦法で、クィーン側で
の黒の反撃がキング側での白の攻撃よりも実現がずっと
容易であることが分かってくるまで 1930 年代に流行しま
した。レシェフスキーはこのような戦型に付き物の危険を
全く恐れず実戦にもっと活力を吹き込むために何回もこの
戦法を採用しました。

  11...O-O 12.Kb1

白は 12.h3 の方が黒の予定の捌きを阻止することができ、
戦略ともよく調和します。それでも黒は 12.h3 c5 (12...Ng7
13.g4) 13.dxc5 Nxc5 14.g4 Be6 15.Kb1 Rc8 の後クィーン
側での反撃に期待が持てます。

  12...Ng7 13.h3 Bf5

Y051228D.GIF

  14.Bxf6

この手は 14.g4 Bxd3 15.Qxd3 Ne4 よりも優ります。

  14...Bxf6 15.g4 Bxd3 16.Qxd3 Ne6

Y051228E.GIF

レシェフスキーの戦略目標が明白になってきました。彼は
キング側のポーンを進めることができます。これに対して
黒の通常の応手である同様のクィーン側ポーンの進攻は
意味がありません。というのは白はクィーン側のポーンを
どれも動かしていないからで理想的な防御態勢になって
います。

  17.h4 c5!

ポーン捨て(黒の唯一の反撃)の結果については予測が
つきません。

  18.dxc5 Bxc3 19.Qxc3 Rc8 20.e4! Rxc5 21.Qa3

Y051228F.GIF

白の狙いはもちろん Qxa7 で、21...a5 には 22.Ng5 Qd6
23.exd5 で白のポーン得になります(23...Nxg5 には
24.hxg5 Rd8 25.Qh3 があります)。

  21...Qd6 22.exd5

22.Qxa7 には 22...Qf4 があります。

  22...Rd8!

黒の指し回しの根幹で、d ポーンを取り返しセンターの縦
筋を開けることができます。

  23.Qxa7 Rxd5 24.Rxd5 Qxd5 25.Qe3

Y051228G.GIF

白はポーン得を維持し陣容を固めました。しかし黒は意表
の手を用意していました。

  25...h5! 26.Re1!

絶対手です。26.gxh5? なら 26...Qf5+ 27.Ka1 Rd3 で、ま
た 26.Rg1? なら 26...hxg4 27.Rxg4 Qd1+ でやはりナイト
得になります。

  26...hxg4 27.Ne5 Ng7!

Y051228H.GIF

  28.Qe4!

28.Nxg4? ははまりで 28...Qf5+ 29.Qe4 Rd1+ 30.Kc2 Rxe1
で黒が勝ちます。

  28...Qxe4 29.Rxe4 f5 30.Rc4 Kh7 31.Kc2 Re8

Y051228I.GIF

  32.Nd3 Ne6 33.a4 Kh6 34.Rb4 Re7 35.Rb6!

Y051228J.GIF

好手です。35...Kh5? には 36.Rxe6 Rxe6 37.Nf4+、
35...Nd4+ には 36.Kc3 Nf3 37.Nf4 で間接的に h ポーン
を守っています。

  35...f4 36.Rb4! g5 37.hxg5+ Kxg5 38.Rb5+ Kh4
  39.Re5!

Y051228K.GIF

ナイト収局に移行させます。形勢はほぼ互角です。

  39...Nd4+ 40.Kc3 Rxe5 41.Nxe5 Ne6 42.Nd3 f3

Y051228L.GIF

  43.b4 g3 44.fxg3+ Kxg3 45.a5 Nf4 46.Nc5!

Y051228M.GIF

  46...Kg2

46...f2 は 47.Ne4+ Kg2 48.Nxf2 Kxf2 49.Kd4 となります。

  47.Ne4 Nd5+ 48.Kb3 Nc7 49.Kc4 Ne6! 50.b5 Ng5
  51.Nd2 f2

Y051228N.GIF

  52.a6 Ne4 53.axb7! Nxd2+ 54.Kc3 f1=Q
  55.b8=Q Qc1+ 56.Kd3 1/2-1/2

Y051228O.GIF

レシェフスキーの採用した戦法は単なる思い付きではなく、
1934 年シラキュース(Syracuse)での対モンティチェッリ
(Monticelli)戦で成功を収めた指し方の論理的発展でした。

この戦法および類似の戦法、ことにキング側ナイトを e7
に展開しできるだけ長くキングを中央に保つアリョーヒン
(Alekhine)の指法は、一見剛直な構造の交換戦法にも
創造力豊かな選手に多くの活動の余地を与えることを
証明しています。

(第2章終わり)

投稿者 yamagishi