2006年01月04日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第34回)

第3章 クィーンズ・ギャンビット受諾

クィーンズ・ギャンビット受諾(Queen's Gambit Accepted)
は昔の研究家たちの心を引けつけました。1500年のゲッ
ティンゲン写本(訳注 現存する最古のチェス本)や後に
(1536年)ルイ・ロペス(Ruy Lopez)によって研究された幾つ
かの面白い変化は彼らの功績によるものです。それによる
と 1.d4 d5 2.c4 dxc4 3.e4 b5 4.a4 c6 5.b3! (ルイ・ロペス
の指摘による重要な改良手で、最初にポーンを取る 5.axb5
cxb5 6.b3 には 6...Bb7! があります)の後白は犠牲にした
ポーンを取り返すことができます。はるかに重要なのは黒
は劣勢に立たされたままになるというダミアノ(Damiano)の
主張です。フィリドール(Philidor)はすぐれた研究によって
この論点を立証しようとしました。彼の主張によると 5...cxb3
6.axb5 cxb5 7.Bxb5+ Bd7 8.Qxb3 Bxb5 9.Qxb5+ Qd7
10.Qxd7+ という手順の後黒の孤立ポーンは弱く取られる
かもしれないというものです。非常に先進的な発言で今日
(1950年頃)の見解とも一致しています。

この変化はド・ラ・ブルドネ(de la Bourdonnais)対マクドネ
ル(McDonnell)戦の理論的基盤となっていて、我々の歴
史的研究はここから始まります。それゆえに何故マクドネ
ルが一度もポーンを維持しようとせずさっそくの 3...e5 に
よって自陣を解放しようとしたかが理解できます。しかし
この形でさえギャンビットの受諾は危険な指し方とみなさ
れていました。そしてマクドネルはこのことに気付いてい
たけれどもそれでも彼はギャンビットを拒否しようとしなか
ったと言われています。(現代の見解については次の第
21局の最終手の後の解説を参照して下さい。)

19世紀のクィーンズ・ギャンビット受諾

【第20局】ド・ラ・ブルドネ(L.C.M.de la Bourdonnais) - マクドネル(A.McDonnell)
85番勝負第50局、ロンドン、1834年

  1.d4 d5 2.c4 dxc4 3.e4

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  3...e5

この戦型はめったに指されないのでこの布局についての
評価を打ち立てることは難しいです。エイベ(Euwe)は 3...c5
4.d5 e6 を薦めています。

  4.d5

非常に硬直したポーン構造になりました。

  4...f5

1899年ロンドンでのシュタイニッツ(steinitz)対ブラックバー
ン(Blackburne)戦では 4...Nf6 5.Nc3 Bc5! 6.Bxc4 Ng4
7.Nh3 f5! と進みました。

  5.Nc3 Nf6 6.Bxc4 Bc5 7.Nf3 Qe7

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  8.Bg5

この手は失着で 8.O-O とキャッスリングするところでした。
そうすれば黒はキャッスリングをするために 8...f4 に続いて
...Bd6 と指さなければならないところでした。

  8...Bxf2+ 9.Kf1

ラスカー(Lasker)は現代の競技者なら 9.Kxf2 Qc5+ 10.Ke1
Qxc4 11.Nxe5 で危険なビショップを消しポーンを取り返す
方を選択するだろうと指摘しています。

  9...Bb6

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10...Qc5 を狙っています。この手は非常に強い手に見え
ます。実際黒はこの後非常に鮮やかな手筋を見せてくれ
ます。しかし理詰めの現代派は 9...Bc5 の後 10...Bd6 と
指して、eポーンを守るとともに白からの d6 を避けたでしょ
う。そしてキャッスリングの後ポーン得とf筋からの攻撃で
黒が大いに有望だったでしょう。

  10.Qe2 f4 11.Rd1 Bg4 12.d6 cxd6 13.Nd5

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13...Qd8 なら 14.Nxf4 exf4 15.e5、また 13...Qf8 なら
14.Bb5+ で黒キングの位置が不安定なので白がセンター
で反撃の機会を得たかに見えます。しかしマクドネルは
クィーンを捨てて小駒2個および攻撃の手番を得るという
見事な解決策を見つけました。

  13...Nxd5!! 14.Bxe7 Ne3+ 15.Ke1 Kxe7

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  16.Qd3

白は黒ナイトの威力が絶大であることを理解して自分の
ルークと交換させようとします。しかし黒はそれに従いま
せん。良い受けは 16.Bd5 Nc6 17.Bxc6 bxc6 18.Rd3 の
後 Rxe3 でした。しかしそれでも黒は捨てたクィーンに対
してルーク、ビショップおよびポーン2個を得ているので
優勢でした。

  16...Rd8 17.Rd2 Nc6 18.b3 Ba5 19.a3 Rac8

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  20.Rg1

20.b4 と防いでも 20...Nxb4 21.axb4 Bxb4 22.Bb3 Rc1+ で
黒の勝ちです。黒の方が駒の価値が劣っていることを考え
合わせると印象的な変化手順です。

  20...b5 21.Bxb5 Bxf3

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  22.gxf3

22.Bxc6 でも以下 22...Rxc6 23.b4 (23.gxf3 Rc1+ 24.Kf2
Bxd2 25.Qxd2 Rc2) Bb6 24.gxf3 Rc1+ 25.Kf2 Nd5+ で黒
はやはり防ぎきれません。

  22...Nd4 23.Bc4 Nxf3+ 24.Kf2 Nxd2 25.Rxg7+ Kf6
  26.Rf7+ Kg6 27.Rb7 Ndxc4

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以下黒勝ち

この名局を並べてみれば古き良き時代のチェスを愛好す
る人たちが本局のような試合やその時代を誉めそやす理
由も理解できます。実戦に現われた斬新な構想の豊富さ
やそれに関わる大胆な指し方に対する彼らの賞賛につい
ては共感できますが、それでも他方でこれらの連続手筋
が生まれてくるはずではなかったという事実に目をつむる
ことはできません。

両対局者が局面の要件に答えることなくひたすらそれぞ
れの目標を追い求める布局において、急変する状況が産
み出されマクドネルのクィーン捨ての妙技というクライマッ
クスに行き着きます。見事に指されている局面はあるけれ
ども、今日では純粋な技術で勝敗が決まる状況であまり
にも多くが偶然の産物に任されているというのが我々の
見解です。また局面の各段階がバラバラでまとまりのあ
る全体になっていません。

投稿者 yamagishi

2006年01月07日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第35回)

第3章 クィーンズ・ギャンビット受諾

白がキング側攻撃を目指す

前局は現代のクィーンズ・ギャンビット受諾の戦型とはほ
とんど類似性がありませんでしたが本局は確実に飛躍し
た跡が見られ馴染みの特徴のいくつかが見て取れます。
白には孤立クィーン・ポーンが残されますが重要なセンタ
ーの地点を支配しキング側攻撃の遂行に成功します。

【第21局】ド・ラ・ブルドネ(L.C.M.de la Bourdonnais) - マクドネル(A.McDonnell)
85番勝負第17局、ロンドン、1834年

  1.d4 d5 2.c4 dxc4 3.e3 e5 4.Bxc4 exd4 5.exd4 Nf6

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この手は番勝負の間一貫して指されました。しかし両対
局者とも白の最強手である 6.Qb3 Qe7+ 7.Kf1 には想到
しませんでした。この場合黒は多くの不快な狙いに対処し
なければなりません。

  6.Nc3 Be7 7.Nf3 O-O 8.Be3

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  8...c6

より強い手は 8...Bg4 9.O-O (9.Qb3 Bxf3 10.gxf3 Nc6!)
Nc6 で黒の面白い局面です。

  9.h3 Nbd7 10.Bb3 Nb6 11.O-O Nfd5

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ここまでの局面は現代のクィーンズ・ギャンビット受諾の
陣形と似ています。重要な相違点は黒のクィーン側ビショ
ップが閉じ込められていないことで、黒はこの駒の展開に
心をくだく必要がありません。

  12.a4

この手は不必要であるばかりでなく、黒に無条件で b4 の
地点の支配を与えてしまいます。

  12...a5 13.Ne5 Be6 14.Bc2

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  14...f5

この手は相手の e5 のナイトに全局を支配する地位を与え
てしまうのでやり過ぎでした。14...Nb4 に続いて ...N6d5
ならば黒の陣形は強固で、白は孤立クィーンポーンに見
合う攻撃の機会がほとんどなかったでしょう。

  15.Qe2 f4 16.Bd2 Qe8

放置すれば白から Nxc6 があります。

  17.Rae1

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  17...Bf7

この手には罠が仕掛けてあります。17...Bf5 18.Bxf5 Rxf5
19.Qd3 ならば白が有利ながら黒もまだ戦えました。

  18.Qe4 g6 19.Bxf4 Nxf4 20.Qxf4 Bc4

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この手が黒の読み筋でした。しかしド・ラ・ブルドネの読み
はそれを上回っていました。

  21.Qh6 Bxf1 22.Bxg6!

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見つけるのはさほど難しくない華麗なビショップ切りです
が、白のこれまでの戦略の論理的な結果であることは特
筆すべきです。

  22...hxg6 23.Nxg6

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  23...Nc8

黒には受けがありません。23...Bg5 は 24.Qh8+ Kf7
25.Qh7+ Kf6 26.Rxe8 Rfxe8 27.Ne5 また 23...Bd6 は
24.Qh8+ Kf7 25.Qh7+ Kf6 26.Ne4+ でいずれも白の勝ち
です。

  24.Qh8+

白はすべての駒がセンターめがけて集中し好きなように
動けるので、読まなくても攻撃が決まるのは明らかです。
しかしこの試合が行なわれた当時はそのような局面評価
は存在せず選手たちはただ直感によって指し進めていま
した。ド・ラ・ブルドネはよく「私に必要なのは小局面だ」と
言ったことで有名でした。

  24...Kf7 25.Qh7+ Kf6 26.Nf4

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次に 27.Ne4# で詰みの狙いです。

  26...Bd3 27.Re6+ Kg5 28.Qh6+ Kf5 29.Re5# 1-0

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面白いことにその当時の批評家たちは黒の苦戦の原因
はギャンビットを受諾したことだと言っていました。しかし
実際は本局の黒の陣形は現代のクィーンズ・ギャンビット
受諾の戦型よりも良いことが知られています。ポーンの
...f5-f4 という指し回しこそ黒の苦戦の元でした。マクドネ
ルはこの戦略を強い手だと考えていて、それは彼がこれ
を繰り返し採用したことからも証明されます。これと似て
いなくもないド・ラ・ブルドネの 12.a4 という悪手も、弱い
枡というものが重大な不利益であると認識されていなかっ
たことを裏付けています。

投稿者 yamagishi

2006年01月10日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第36回)

第3章 クィーンズ・ギャンビット受諾

スタントンの指し方

これまでの試合ではギャンビット・ポーンの受諾から生じ
易い戦いの特徴が見られます。そこからどうして先駆者た
ちがギャンビットの受諾を危険が多いと考えていたかが
推測できます。

本局ではスタントンの採用した新しい防御法が見られま
す。この試合が行なわれた当時は先手が白を持つという
ことがまだ一般化していなくて実際はサン・タマンが黒を
持って指しました。しかし煩わしさを避けるため色を逆に
して棋譜を掲載します。

【第22局】サン・タマン(de Saint-Amant) - スタントン(H.Staunton)
番勝負第19局、1843年

  1.d4 d5 2.c4 dxc4 3.e3 e5 4.Bxc4 exd4 5.exd4

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  5...Bd6

この手よりは 5...Bb4+ の方がよく以下 6.Nc3 Nf6 7.Nf3
O-O 8.O-O Bg4 (ストールベルグ(Ståhlberg)対グリゴリッ
チ(Gligorich)戦、番勝負、1949 年) という実戦例がありま
す。最善手はゴロンベク(Golombek)の推奨する 5...Nc6!
で 6.Nf3 (6.Qb3 Qe7+) Nf6 7.Qb3 Bb4+ の後 ...O-O が
続きます。

  6.Nf3 Nf6 7.h3 O-O 8.O-O

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  8...Nc6

スタントンはこの手では 8...h6 と指すべきだったと評して
います。彼はこの布局では双方にとって必須の備えだと
考えていました。

  9.Bg5 Be7

最初に 9...h6 10.Bh4 としてから 10...Be7 と指すのが良
い手順でした。

  10.Nc3 Bf5 11.a3 Ne4 12.Be3

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白は単純化を避けることができます。黒が 9...h6 を入れ
ていたら白はビショップの交換に応じなければならなかっ
たでしょう。

  12...Bf6 13.Re1 Nd6 14.Ba2

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  14...h6

スタントンは当時支配的であった「待機」戦術にのっとっ
た結果、チャンスを逃がしました。この局面で黒は白の
孤立ポーンに乗じて 14...Bg6 と指し白の手に応じて
...Bh5 又は ...Nf5 と指すことができました。

  15.Qa4

スタントンはこのクィーン出撃の意図するところは全く不明
であると評しています。

  15...Ne7 16.Rad1 Ng6 17.Bc1

サン・タマンが Ne5 と指せるようにするためと言っている
ように白の 15.Qa4 は全然無目的という訳ではありませ
んでした。

  17...c6 18.Ne5

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  18...Qc7

スタントンは「18...Kh7 の方が力強い指し方だった」と評し
ています。彼はこの後の苦戦はこの手を見逃したからだと
考えたようです。しかし 18...Kh7 には 19.g4! という強手が
あります。19...Bc8 に引くと 20.Bxf7 Nxf7 21.Nxg6 Kxg6
22.Qc2+! があり、19...Bd7 に引くと 20.Bxf7 Nxe5 21.dxe5
Nxf7 22.exf6 があります。a2 の強力なビショップ、e5 の
ナイト、それに白の全ての駒がセンターめがけて集結して
いることを考えれば白にはその優位性を示す何らかの手
順があるはずというのが我々の常識というものです。

  19.g4! b5

駒損を避けるにはこの手しかありません。

  20.Qb4 Bc2 21.Rd2 a5 22.Qc5 Bxe5 23.dxe5 Nb7

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ここまで黒はうまく指してきました。

  24.Nxb5!

最善の応手です。24.Qe3 と逃げると 24...b4 でビショップ
を助けられます。

  24...Nxc5 25.Nxc7 Nd3 26.Rxd3 Bxd3 27.Nxa8 Rxa8

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スタントンの紛れを求める指し方は見事ですし、それを迎
え撃つサン・タマンの巧みな指し回しも同様です。19 世紀
の観戦者たちにとっては形勢は均衡を保っているように見
えるでしょうが、知識の累積のある我々から見ると白が最
終的には優位に立つと断言できます。それは白がこのよ
うな局面で望ましい全ての有利な点を保持したままねじり
合いに突入したからです。

  28.f4

この手は緩着でした。28.e6 fxe6 29.Rxe6 ならさらにポー
ンを得し双ビショップの威力で早く決まったでしょう。

  28...Re8 29.Rd1 Be4 30.Rd4 Bd5 31.Bxd5 cxd5

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  32.Kf2

32.Rxd5 Rc8 33.Be3 の方が良く黒には反撃の手段があ
りませんでした。

  32...Rc8 33.Be3 Ne7 34.Ke2 Rb8 35.Bc1 Kf8 36.b4

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  36...Rb5

スタントンはこの手を黒の最善手と評しました。多分彼は
36...axb4 37.Rxb4 Rxb4 38.axb4 Nc6 39.Be3! で b5 突き
を狙われるのを念頭に置いて言ったのでしょう。

  37.bxa5 Nc6 38.Ra4 Nxa5 39.Bd2 Nc6 40.Bb4+ Ke8

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  41.h4 g5! 42.fxg5 hxg5 43.Ra8+ Kd7 44.h5 Nxb4 45.h6

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白が勝ちにいくならこの手です。

  45...Nc6 46.h7 Rb2+ 47.Kd3

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  47...Rb3+

スタントンによると 47...Nxe5+ 48.Kc3 Rh2 49.h8=Q Rxh8
50.Rxh8 Nxg4 でも本譜と同じ局面になるとのことです。

  48.Kc2 Rh3 49.h8=Q Rxh8 50.Rxh8 Nxe5 51.Kc3

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ここまでは本当の「ロマンティック」な指法でした。しかし
スタントンは自分の可能性を賞賛に値するほど生かして
きましたが、サン・タマンの指し方は優位を確立するのに
簡明な手や確実な手を何度も逃がしており批判の余地が
あります。

  51...Nxg4 52.Kd4 Nf6 53.Ke5 Ke7 54.a4 Nd7+

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  55.Kf5

55.Kxd5? は 55...Nb6+ でポーンを取られます。(訳注 
56.Kd4 Nxa4? 57.Rb8 でナイトが捕獲されます。)

  55...d4 56.a5 Nc5 57.Kxg5 d3 58.Kf4 d2 59.Rh1 Kd7
  60.Ke3 Kc6 61.Rb1

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黒のキングを遮断するとともに 62.Kxd2 を見ています。

  61...d1=Q 62.Rxd1 Kb5 63.Rd5

この手でようやく白は勝ちが見えました。

  63...Kc6 64.Kd4 Ne6+ 65.Kc4 Kb7 66.Rd7+ Ka6
  67.Rxf7!

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勝ちを読み切った手です。67...Kxa5 なら 68.Rf5+ Ka4
69.Rf6 Nc7 70.Rc6 でナイトが落ちます。

  67...Nd8 68.Rf5 Nc6 69.Rf6 Kb7 70.Kb5 Na7+
  71.Kc5 Nc8 72.Rh6 Na7 73.a6+ Kb8

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  74.Rh7 Nc8 75.Rb7+ Ka8 76.Kc6 Na7+ 77.Kc7 Nc6
  78.Kb6 Nb4 79.Rd7 1-0

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攻撃精神に満ちあふれた面白い試合でした。しかし振り
返って考えてみるとスタントンの困難は a2-g8 の斜筋を
にらむビショップの威力を彼が認識できなかったことと、ナ
イトを d5 に置いて(前局でマクドネルがそうしたように)ビ
ショップの睨みを無効にする手立てを講じなかったことに
あることが分かります。ナイトを d5 に置くのは新しい手法
で後に一般化し現在でも最善と考えられています。

白もまたどこに自分の優位があるのかを認識できずに
せっかくの有利を利用できていませんでした。このため
試合は不必要に長引きました。これは彼の技術が劣って
いることの証しです。

投稿者 yamagishi

2006年01月16日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第37回)

第3章 クィーンズ・ギャンビット受諾

モーフィーがクィーンズ・ギャンビットの防御側を持つ

モーフィーは「開放」局の申し子ですが、その彼が(手順
の入れ替えで)クィーンズ・ギャンビット受諾の防御側にま
わって指すのが見られる数少ない本局はことのほか興味
があります。モーフィー自身を手本にすれば彼が「開放」
局面と「閉鎖」局面の根本的な違いについて熟知してい
たことは周知のとおりです。彼は「閉鎖」局面を好みませ
んでした。閉鎖」局面の原理は彼の時代にはまだシュタ
イニッツ(Steinitz)によって理論付けされていませんでした。

モーフィーは防御の限界を認識しそれゆえ危うい手筋を
強行しないという点で彼の布局の指し方は賞賛に値しま
した。その反面彼は相手からのありもしない攻撃に惑わ
されて主導権をつかみ損ねることもありました(本局の黒
の 12 手目を参照)。

【第23局】ハルヴィッツ(D.Harrwitz) - モーフィー(P.Morphy)
番勝負第1局、1858年

  1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Nf6 4.Bf4

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レーベンタール(Löwenthal)の評「モーフィー氏はこの局
面で本譜の手が数ある手の中で最も強力であるという点
で我々と見解が一致しました。実際彼の話ではその手は
非常に強力に思えたのでハルヴィッツ氏との以降の試合
ではその攻撃にさらされるよりも 1.d4 に対して 1...f5 と指
す方を好んだということでした。」現代(1950 年頃)の見解
では 4.Bf4 は黒が楽に形勢互角にできると考えられてい
ます。

  4...a6

この手は 5.Nb5 を防ぐために必要であると考えられてい
ました。しかし今日では 4...c5 5.Nb5 cxd4 6.Nc7+ Qxc7
7.Bxc7 Bb4+ で黒が良いのでこの手は不要であるとされ
ています。

  5.e3 c5 6.Nf3 Nc6 7.a3 cxd4 8.exd4 dxc4 9.Bxc4 b5
  10.Bd3

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この局面にはクィーンズ・ギャンビット受諾の馴染みの特
徴が現われています。本譜の手はキャッスリングした黒
キングの弱点である h7 の地点をにらんでいるのでその
当時は良い手であると考えられていました。今日ではビ
ショップを a2-g8 の斜筋に置いてポーンを d5 と突く可能
性と Ne5 で黒の f7 に圧力をかけるのを狙う方が良いと
考えられています。

  10...Bb7 11.O-O Be7 12.Be5

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この手は d ポーンを守りながらこの戦型での通常の陣立
ての Qe2 と Rad1 を予定した理にかなった手のようです
がここでは異筋でした。正着は 12.Be3 あるいは 12.Bc2
の後 Qd3 から Rad1 でした。

  12...O-O

ここでモーフィーは好機を逸しました。彼の読みは 12...Nxe5
13.dxe5 (13.Nxe5 は 13...Qd6 の後 14...Rd8) の後 e5 の
ポーンが大きな圧力をかけて、白がキング側攻撃の橋頭
堡としてそれを利用することができるというものでした。し
かし 13...Nd5 と跳ねれば白は 14...Nf4 に備えて 14.Be4
と指さなければならず以下 14...Nxc3 15.Qxd8+ Kxd8
16.Bxb7 Ra7 で黒が有利でした。

  13.Qe2 Nd5 14.Bg3 Kh8

モーフィーによればこの手が敗着で 14...Bf6 が良く形勢
互角とのことでした。

  15.Rfe1

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  15...Bf6

レーベンタールの解説ではモーフィーの 14...Kh8 の意図
は 15...f5 と指すことだったがそれは 16.Qxe6 Nxc3
17.bxc3 f4 18.Qe4 g6 19.Bxf4 でうまくいかないとのこと
です。

  16.Qe4 g6 17.Nxd5 Qxd5 18.Qxd5 exd5 19.Ne5!

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この手は Nd7 の狙いだけでなく f8 のルークを f7 のポー
ンの守りに縛り付けていて非常に強力です。

  19...Rad8 20.Nxc6 Bxc6 21.Rac1 Rc8 22.Bd6

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  22...Rg8

22...Rfd8 は 23.Be7 Bxe7 24.Rxe7 Rd7? 25.Rxc6! で良く
ありません。

  23.Be5 Kg7

当時の解説者は 23...Bxe5 で引き分けであると指摘して
いました。しかし黒の黒枡の弱さを考慮すればこれは疑
問に思えます。

  24.f4

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この局面で白は c5 と e5 の地点を支配しているので今
日の感覚からは白が勝勢に近いと言えます。しかし今
(1950 年頃)から 90 年ほど前にハルヴィッツがそれを認
識していたことは賞賛に値します。

  24...Bd7 25.Kf2 h6 26.Ke3 Rxc1 27.Rxc1 Rc8 28.Rc5!

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今日ではこのような「拠点」作りは単なる技術に過ぎませ
んが、それでもハルヴィッツが局面を良く理解していたこ
との現われです。

  28...Bxe5 29.fxe5

これで形勢は決定的で後はルークを交換すれば白の勝
ちです。例えば 29...Rxc5 30.dxc5 Bc6(31.c6 の防ぎに
必要)31.Kd4 f5 32.e6 Kf6 33.e7 Kxe7 34.Ke5 d4 35.g3
の後 Kxd4 とポーンを取りビショップを d5 に回します。

  29...Be6 30.a4 bxa4 31.Bxa6 Rb8 32.Rb5

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  32...Rd8

これは手損です。すぐに 32...Ra8 と指すべきでした。

  33.Rb6! Ra8

これは仕方ありません。さもないと 34.Bb7 によって黒の
駒が縛り付けられ白キングが d2-c3-b4 と進出してきて
片が付きます。(訳注 34.Bb7 は 35...Rb8 で却って白の
駒が動けなくなります。)

  34.Kd2 Bc8 35.Bxc8 Rxc8 36.Rb5

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  36...Ra8

36...Rd8 と守ると 37.Kc3 Rc8+ 38.Rc5 Rd8 39.Kb4 Rb8+
40.Ka3 で白のポーン得になります。

  37.Rxd5 a3 38.bxa3 Rxa3 39.Rc5 Kf8 40.Ke2 Ke7
  41.d5 Kd7

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  42.Rc6 h5 43.Rf6 Ke7 44.d6+ Ke8 45.e6 fxe6
  46.Rxe6+ Kf7 47.d7 Ra8 48.Rd6

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  48...Ke7

48...Rd8 は 49.Ke3 で後は白キングが侵入して決まりです。

  49.Rxg6 Kxd7 50.Rg5 Rh8 51.Kf3 Ke6 52.Kg3 h4+
  53.Kg4 h3 54.g3 Kf6 55.Rh5 1-0

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ハルヴィッツの完勝でした。彼は偉大な強敵に接近戦の
能力を発揮させませんでした。この試合の意義は「開放」
局と「閉鎖」局との違いの認識が形成されてきたことにあ
ります。レーベンタールはハルヴィッツについて「ハルヴィ
ッツ氏は白番の時ほとんど決まってこのような戦法を指し
ます。それは彼が隅々まで熟知している戦法であり、そ
れを利用することにおいては比類ないものがあります。」
と言っています。この批評は先人たちが布局について我
々とは非常に異なった考え方をしていたことを示唆してい
ます。今日では一つの布局の変化でさえ完全には究明
されておらず、従って誰かがある布局の変化をすべて知
っているなどとはとても言えるものではありません。

投稿者 yamagishi

2006年01月19日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第38回)

第3章 クィーンズ・ギャンビット受諾

シュタイニッツ戦法-シュタイニッツが自分のシステムを確立する

(1950 年頃から)1世紀前には攻撃の技法が受けの技
法をしのいでいたことをこれまで見てきました。これはもっ
と注目されてよいことです。というのはクィーンズ・ギャン
ビット受諾において黒は今日よりも課題が楽だったから
です。つまり黒は解放手の 3...e5 を指すことができ、...e6
によってクィーン側ビショップを閉じ込める必要がなかった
からです。強制的に閉鎖陣形に移行させたのはブラック
バーン(Blackburn)の新手(1.d4 d5 2.c4 dxc4 3.Nf3!) でし
た。防御側が解決のはるかに難しい課題を抱えるように
なったことはすぐに明らかになりました。

マクドネル(McDonnell)がド・ラ・ブルドネ(de la Bourdonnais)
に対して既に試行していたシステム(第21局を参照)を
考案する役目はシュタイニッツに委ねられました。彼の構
想はナイトを d5 の地点に据えて白の孤立 d ポーンを阻
止することにありました。このように障壁を立てることによ
りその背後で白の攻撃に対処するための駒の展開を安
全に行なうことができます。シュタイニッツがどのくらい時
代に先駆けていたかは今日においてのみ評価することが
できます。かれのシステムは(直接攻撃で取ってしまう
場合を除いて)孤立ポーンに対する最良の指し方と考え
られています。

【第24局】ツカートルト(J.H.Zukertort) - シュタイニッツ(W.Steinitz)
番勝負第9局、1886年

  1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Nf6 4.Nf3 dxc4 5.e3 c5
  6.Bxc4 cxd4

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この早期のポーン交換(今日指されているような ...Nc6
により争点を維持し続ける代わりに)は「シュタイニッツ戦
法」と呼ばれています。

  7.exd4 Be7 8.O-O O-O

8...Nc6! と指す方が良いです(次局を参照)。

  9.Qe2!

この手は今日でも最も強力であると考えられています。
しかしこの手が指せるのは黒が無頓着に 8...O-O のよう
な指し方をした場合だけです。

  9...Nbd7 10.Bb3 Nb6

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  11.Bf4

この当然に見える展開の手はここでは的外れです。最善
手は 11.Rd1 Nbd5 12.Bg5 Qa5 13.Rac1 Rd8 14.Ne5 で
黒はシュタイニッツの陣形をとることができません。即ち
14...Bd7 15.Nxd5 Nxd5 (15...exd5 16.Bxf6 Bxf6 17.Rc5!)
16.Bxe7 Nxe7 17.Qf3 で白のポーン得になります。これは
非常に重要な変化で、不正確な 8...O-O の後黒が直面
しなければならない困難さを表しています。

  11...Nbd5 12.Bg3 Qa5 13.Rac1 Bd7 14.Ne5 Rfd8
  15.Qf3 Be8 16.Rfe1 Rac8 17.Bh4

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白はようやく攻撃態勢を整えました。しかし黒枡ビショップ
の動きで手損をしています。ここでの白の狙いは 18.Bxd5
exd5 (18...Nxd5 19.Bxe7 Nxe7 20.Qxb7) 19.Ng4! です。

  17...Nxc3

白の孤立 d ポーンを目標とする考えを放棄したように見
えますが、実際はこれもシュタイニッツの作戦のうちです。
それはセンターの「宙ぶらりんポーン」のせいで白の態勢
がまだ不安定だからです。

  18.bxc3 Qc7 19.Qd3

白は 19.Bg3 Bd6 20.c4 (ラスカー(Lasker)の推薦)という
ような積極的な考えをとることなくただ当てもなくクィーン
を動かして時間を損しています。もしこう指していたらセン
ターのポーンは強い存在になっていたでしょう。

  19...Nd5 20.Bxe7 Qxe7 21.Bxd5

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c4 でいつでも追い払われる弱いナイトをこのビショップで
切って捨てるのは今日の常識では理解しがたいものがあ
ります。おまけにこのビショップは黒が f6 と突くと黒の
a2-g8 の斜筋を弱めるので e5 のナイトを援護している
意味があります。

  21...Rxd5 22.c4

このようにポーンを突くと白は小駒でポーンの前進を助け
ることができないのでさらにポーンを弱くしているだけです。

  22...Rdd8 23.Re3

この手は白が 21.Bxd5 と指した時このルークをキング側
攻撃に用いることを既に想定していたことを示しています。
しかし e5 のナイトは ...f6 によっていつでも追い払われる
ので(白が b3-g8 の斜筋に絡めて反撃を得ることができ
る恐れはありません)我々には疑問の構想のように思え
ます。

  23...Qd6 24.Rd1 f6 25.Rh3

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  25...h6

25...fxe5 とナイトを取るのは 26.Qxh7+ Kf8 27.Rf3+ Bf7
28.Qh5 Qd7 29.Qh8+ Ke7 30.Qh4+ で引き分けに終わり
ます。

  26.Ng4 Qf4 27.Ne3

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  27...Ba4!

ルークを1段目から上がらせます。すぐに 28.Rd2 と上が
ると 28...b5 29.Rf3 Qb8 30.cxb5 Rc1+ 31.Nd1 e5 となり
ます(シュタイニッツ)。

  28.Rf3 Qd6 29.Rd2 Bc6 30.Rg3 f5 31.Rg6 Be4 32.Qb3

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一見白に攻撃のチャンスがあるように見えます。

  32...Kh7 33.c5 Rxc5 34.Rxe6 Rc1+ 35.Nd1 Qf4
  36.Qb2 Rb1 37.Qc3 Rc8 38.Rxe4 Qxe4 0-1

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本局はクィーンズ・ギャンビット受諾の指法における大き
な進歩でした。シュタイニッツは「黒が c ポーンを取ること
は以前は不利な防御法だったと記憶されるだろう」と主
張しました。本局においては不完全なシステムであって
もツカートルトのような指し手ごとの単なる思い付きよりは
望ましいということが見て取れます。

次に本人の後の改良によるシュタイニッツ・システムの
進展を見てみることにします。

投稿者 yamagishi

2006年01月22日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第39回)

第3章 クィーンズ・ギャンビット受諾

シュタイニッツが自分のシステムを改良する

シュタイニッツの防御システムは8年後に当時最も攻撃
的な選手として恐れられていたピルズベリー(Pillsbury)と
対戦した時にはるかに過酷な試練に耐えなければなりま
せんでした。本局でシュタイニッツは以前に本来の戦型
(前局を参照)より劣ると考えていた変化を指しています。
しかし後に彼はその見解を修正した方が良かったかもし
れません。

【第25局】ピルズベリー(H.N.Pillsbury) - シュタイニッツ(W.Steinitz)
サンクト・ペテルブルク(St. Petersburg)、1896年

  1.d4 d5 2.c4 e6 3.Nc3 Nf6 4.Nf3 dxc4 5.e3 c5
  6.Bxc4 Nc6!

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白の d ポーンに圧力をかけることによって黒は白が Qe2、
Rfd1 という格好の態勢を築くのを阻止します。

  7.O-O cxd4

現代(1950 年頃)の指し方は 7...a6 です。

  8.exd4 Be7

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  9.Bf4

ピルズベリーが良く指していた気のない手で、成功を収
めませんでした。その当時は Qe2 を可能にする 9.Be3
の方が良いということがまだ認識されていませんでした。
本譜の手は主導権を失います。

  9...O-O 10.Rc1 Qb6

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  11.Qd2

以前の試合でピルズベリーは 11.Nb5 を試しましたが
11...Ne8 12.Rfe1 Na5 13.Bd3 Bd7 14.Nc7 Rc8 15.Nd5
exd5 16.Rxe7 Nf6 で黒の方が良くなりました。

  11...Rd8 12.Rfd1 Bd7 13.Qe2

黒のシステムの強みは白が最も有利な態勢を取るため
にクィーンの動きで手損をしなければならないということに
あります。

  13...Be8 14.Bd3

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  14...Rac8!

巧みな駒繰りで、後のピルズベリー対タラシュ(Tarrasch)
戦(ニュルンベルク(Nuremburg)、1896 年)と比較すること
により最も良く評価できます。その試合では黒は 14...Nb4
15.Bb1 Nbd5 16.Be5 Rac8 17.Ng5 h6 18.Nge4 Nxc3
19.Rxc3 Rxc3 20.Nxf6+ Bxf6 21.Bxf6 gxf6 22.bxc3 と指
し、白が黒のキング側を乱すことができました。

  15.h3 Nb4 16.Bb1 Nbd5 17.Be5 Bc6!

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14 手目までに黒はこのビショップをこの斜筋に展開する
時間を得ました。この捌きは後に見られるようにこの変化
に特有のものです。

  18.Ng5 h6 19.Nge4 Nxc3 20.bxc3 Nxe4 21.Bxe4 Bxe4
  22.Qxe4 Qc6

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黒は白の攻撃を押し返し、弱い浮きポーンを残させました。

  23.Qg4 Bf8 24.c4

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弱くなりますがこの手は必要です。さもないと黒は ...Qd5
と ...Rc4 でこれらのポーンをせき止めることができます。

  24...f5 25.Qg6 Qe8 26.Qg3 b6 27.Qb3 Qc6 28.a4 a5

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このポーンを突くと b ポーンが出遅れポーンになるし、ビ
ショップの交換後は弱体化するかもしれないので黒は決
断を要したに違いありません。

  29.Rc3 Bd6 30.d5 Qc7 31.Bxd6 Qxd6

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  32.Re3

...e5 を防ぐために 32.Rf3 と指すと 32...Rc5 と指されます。

  32...e5 33.Rb1 e4

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  34.Rc3

34.Qxb6 とポーンを取ると 34...Qxb6 35.Rxb6 Rxc4
36.Ra3 Rc5 で逆に黒がポーン得になります。

  34...Qe5

次に 34...Rxd5 があります。

  35.Rc2 Rd6

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  36.Rbc1

36.Re1 Qd4 という進行の方が優りました。

  36...f4 37.c5 bxc5 38.Rxc5 Rxc5 39.Rxc5 f3 40.Qd1

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  40...Rg6 41.g4 e3 42.Qe1 e2 43.Rc1 Qxd5
  44.Qc3 Rc6! 0-1

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この試合はシュタイニッツの晩年に指されました。本局の
クィーンズ・ギャンビット受諾の戦型でそんな彼にピルズベ
リーが歯が立たなかったということはシュタイニッツのシス
テムの強さへのはなむけとなっています。ピルズベリーが
攻撃を開始する端緒を見つけられなかったということは彼
が自分の以前の失敗を十分に理解していなかったという
ことの証です。

投稿者 yamagishi

2006年01月25日

「激闘争覇のクィーンズ・ギャンビット」(第40回)

第3章 クィーンズ・ギャンビット受諾

白が攻撃態勢を構築する-シュレヒターの指法

前局で白の攻撃態勢がシュタイニッツの防御システムを
打ち破るほど十分強力ではなかったことが見て取れました。

ピルズベリー(Pillsbury)やツカートルト(Zukertort)のような
攻撃の名手たちが別の試合の中盤戦前半で得意の戦術
を駆使しても成功を収めることができませんでした。本局
ではシュレヒターの改良した白の布局戦略が見られます。

【第26局】シュレヒター(K.Schlechter) - チゴーリン(M.I.Tchigorin)
ロンドン、1899年

  1.d4 d5 2.c4 dxc4 3.Nf3 c5 4.e3 Nf6 5.Bxc4 e6

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  6.O-O Nbd7 7.Nc3 Be7 8.Qe2 O-O 9.Rd1 a6 10.a4

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本局は現代(1950 年頃)の戦法と似た手順をたどってい
ます。...cxd4 でポーンを交換するのを遅らせることによっ
てチゴーリンは同時代の者よりも局面の要件にずっと優
れた洞察力を発揮しています。それでもクィーン側ナイト
を早く d7 に跳ねその後でポーンを ...a6 と突くような不正
確な手順のため難しい局面に陥っています。もしナイトを
...c6 に跳ねていたら 10...Qc7 11.h3 Rd8 12.d5 exd5
13.Bxd5 Nb4 14.e4 Nfxd5 15.exd5 Bf5 16.Bf4 Qxf4
17.Qxe7(レシェフスキー(Reshevsky)対ファイン(Fine)、
ゼメリング・バーデン(Semmering-Baden)、1937年)とい
う展開になり互角の形勢だったでしょう。

  10...cxd4 11.exd4 Nb6 12.Bd3 Nbd5 13.Ne5

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  13...Nxc3

気の進まない手ですが、13...Qa5 は 14.Bd2 と受けられ
て Nc4 を見せられると黒クィーンの動きが非常に窮屈に
なります。

  14.bxd3 Qc7 15.c4 Nd7 16.Ng4

単純化を避けた好手です。

  16...Rd8 17.Bc2!

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この一見なにげない待機の手は型にはまった黒枡ビショッ
プの展開よりはるかに良い手です。c1 のビショップはまだ
どこに行くべきか決められません。

  17...Nf8 18.Rb1 Bd7 19.Ne5

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強硬な手です。狙いは 20.Qe4 からの Qxb7 と 20.Bf4 です。

  19...Bd6 20.Nxd7 Rxd7 21.g3 b6

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白からの c5 に備えたこの手は悪手ですがそれに対する
白の応手は予見し難いものがありました。

  22.a5!

パスポーンを作り出すためのうまい捨て駒です。

  22...bxa5 23.Ba4 Rdd8 24.c5 Be7 25.Bf4!

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白の黒枡ビショップの初めての動きです。しかしその効果
は絶大です。本局の白の戦略を前局のピルズベリーのそ
れと比較すると、シュレヒターの無駄のない目的を持った
展開に感嘆させられます。それにより c ポーンはせき止め
を許すことなく無事に進攻することができました。

  25...Qc8 26.Qe4 g5

この手は危なく見えますが他に指しようがありません。
26...Ng6 と守るのは 27.Bd2 Bf6 28.Bxa5 Rf8 29.Bc6 に
続いて Bb7 から c6 があります。

  27.Be3 f5 28.Qb7 Ng6 29.Bb3!

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白は黒の弱体化したキング側に狙いをつけます。

  29...Kf7 30.Qf3 Kg7 31.Bc4 f4 32.Bd2

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  32...e5

32...Rxd4? には 33.Bc3 があります。

  33.Bc3 Rf8 34.Qe4 Ra7 35.Rb6 fxg3 36.hxg3

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  36...Qh3 37.Bf1 Qh5 38.Be2 Qh6 39.Kg2

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  39...g4

クィーンを救出するにはこの手しかありません。39...Kh8
は 40.Rh1 Qg7 41.Rxg6 があります。

  40.Qxg4 Bd8

次のヤケクソのルーク切りの準備です。

  41.Bd2 Rxf2+ 42.Kxf2 Qh2+ 43.Ke3 Bxb6 44.cxb6 Re7

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  45.d5 Rf7 46.Rf1 Rxf1 47.Bxf1 Qg1+ 48.Ke2 Qxb6
  49.Qd7+ Kg8

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  50.Bh3 Nf8 51.Be6+ Nxe6 52.dxe6 Qb5+
  53.Qxb5 axb5 54.Bxa5 Kg7 55.Bb4 1-0

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本局は現代におけるクィーンズ・ギャンビット受諾の白の
戦略の好例です。この試合は前局のわずか3年後に指さ
れましたが技術に大きな進歩が見られます。黒は ...cxd4
を保留して白の黒枡ビショップを閉じ込めた状態にしまし
た。この布局の問題に対するシュレヒターの解決策はそ
のビショップを事実上展開しないまま潜在力として保持し
局面の状況に応じてどちらの斜筋にも用いることができる
ようにするという、真の名人芸でした。この手法はそれ以
来チェスの達人たちにとって習得すべき新しい重要な技
法となりました。実際アリョーヒン(Alekhine)はしばしばそ
れを採用しました(1926 年ゼメリングでの対デビッドソン
(Davidson)戦を参照)。

(第3章終わり)

投稿者 yamagishi