第3章 ベルリン防御
これまでの二つの章ではモーフィーのセンターの早期開戦
もアンデルセンの閉鎖型センターの維持も白に永続的な
主導権をもたらさないことが示されました。
1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 Nf6 の後白はキャッスリングして
も大丈夫なことが分かってきました。これは e4
のポーンが
一見ただ取りされそうに見えるだけのことだからです。マッ
クス・ランゲの推奨したこの指し方は白に新たな展望を与え
ました。黒はポーンの擬似サクリファイスを受け入れるか
拒否するか決断しなければなりません。受け入れればベル
リン防御になり、4...d6
と拒否すればシュタイニッツ防御に
なります。
黒がベルリン防御を指す時、e5 のポーンを保持できるとは
期待していません(白は望むならば 5.Re1
ですぐにポーン
を取り返すことができます)。黒が目指すのはセンターの
ポーンをお互い取り合うことにより、展開における制約を
少なくすることで、この点でシュタイニッツ防御と異なります。
草創期
【第6局】ヴィナヴァー(S.Winawer) - ラスカー(Em.Lasker)
ニュルンベルク(Nuremberg)、1896年
1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 Nf6 4.O-O Nxe4 5.d4!
以前は 5.Re1
が良く指されましたが現在(1950年頃)では
この手が最強であると考えられています。そのことはマッ
クス・ランゲの優れた、しかしほとんど忘れ去られた研究に
示されています。黒はナイトをいつまでも
e4 において置く
ことはできません(後の解説を参照してください)。
5...Be7 6.Qe2
6...Nd6
6...d5 なら 7.Nxe5 Bd7 8.Bxc6 bxc6 9.Re1 Nf6 10.Bg5 Ng8
11.Nxd7 となります。
7.Bxc6 bxc6 8.dxe5 Nb7 9.Nd4 O-O 10.Nc3 Bc5 11.Nf5
この旧式の攻撃は本筋ではありません。正着は次局を
参照してください。
11...d5 12.Qg4 Bxf5 13.Qxf5 Re8 14.Bf4 Bd4 15.Rfe1
...g6 と突かれると e5 のポーンが落ちるのを防いでいます。
15...Nc5
16.Rad1
16.Bd2 と引くと 16...Rb8 で ...g6 と ...Rb4 を狙われます。
16...Bxc3 17.bxc3 Qc8 18.Qh5 Qa6 19.Re3 Qxa2
20.Rc1 Qc4
21.Rf3
21.Rh3 は 21...Qxf4 で黒のキングは逃げ延びることができ
ます。
21...Ne6 22.Bd2 Re7 23.Rh3 Qe4
24.f3
24.f4 は 24...Nf8 と守られ、e5 のポーンが弱いので f5 と
突けません。
24...Qg6 25.Qh4 Rd7 26.f4 Qe4 27.g4 Nf8
白の f5 に備えました。
28.Qf2 a5 29.Re3 Qc4 30.f5
30...a4
30...Qxg4+ とポーンを取ると g 筋が開くので 31.Rg3 で
白の攻撃が強まります。
31.Rf1 a3 32.Ree1
32.e6 は 32...fxe6 33.fxe6 Nxe6 34.Rxe6? Qxg4+ で良く
ありません。
32...a2 33.h3 c5
34.Kh2
ここでも 34.e6 は 34...fxe6 35.fxe6 Nxe6 36.Rxe6 a1=Q
でダメです。
34...d4 35.Qf3 c6!
ラスカーらしい受けです。このポーンは取れません。もし取
れば 36.Qxc6 a1=Q! 37.Rxa1 Rxa1 38.Rxa1 dxc3
です。
本譜の手の後黒は 36...Rda7 として a2 のポーンを昇格さ
せることを狙っています。
36.e6 fxe6 37.fxe6 Nxe6 38.Qxc6 Rda7
この手と次の手は受けながら攻めるラスカーの比類ない力
を見せ付けています。もし白が 39.Rxe6 と来れば 39...Qxf1
40.Re8+ Rxe8 41.Qxe8+ Qf8 で大丈夫です。
39.Ra1 Rf8 40.Rfe1 Nd8 41.Qb6 Raf7 42.Bg5 Rf2+
43.Kg3
44.Kg1 なら 44...Qd5 です。
43...Qxc3+ 0-1
44.Kh4 と逃げても 44...Qxh3+ 45.Kxh3 R8f3+ 46.Kh4 Rh2#
で即詰みです。
現代の観点から眺めてみると黒は 11 手目までにオープニ
ングの問題を解決して白から何の邪魔も受けずに ...d5
と
突けるようになったことに気付きます。白が攻撃を開始でき
たのは黒がポーンを取って手数をかけたことによるものでし
た。中盤戦は非常に活気があり見応えがありました。白に
チャンスを与えて切り返すラスカーのタクティクスの才能には
感嘆せざるをえません。この試合から、どうして
1890 年から
1910
年にかけてベルリン防御が流行したかが良く理解でき
ます。ベルリン防御では白の攻撃がキング側で行われセン
ターでは黒の反撃が行われるという局面が良く現われます。
そしてタクティクス派の選手の好む活気に溢れた試合になり
ます。センターポーンを控えてこの防御を破ろうとする試みも
ありましたがやがて廃れました。
投稿者 yamagishi
第3章 ベルリン防御
現代の指し方 - シュレヒターの戦法
前局は黒がしっかりセンターにポーンを確保できればオー
プニングの問題は解決されることを証明しました。19世紀
にはピルズベリー(Pillsbury)やタラシュ(Tarrasch)などの
選手はこれが黒の目的であることを認識してそれを阻止し
ようとしました。しかし彼らは部分的にしか成功しませんで
した。そして1908年のタラシュ対ラスカー(Em.Lasker)の試
合では黒はいわゆる「リオデジャネイロ」戦法で対抗できる
ことを示しました。
しかし本局ではシュレヒターはどのようにすれば白が圧力
を維持できるかを示してます。
【第7局】シュレヒター(K.Schlechter) - レティ(R.Réti)
ウィーン(Vienna)、1914年
1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 Nf6 4.O-O Nxe4 5.d4 Be7
6.Qe2 Nd6 7.Bxc6 bxc6 8.dxe5 Nb7 9.Nc3 O-O
10.Nd4
「リオデジャネイロ」戦法とは 10.Re1 Nc5 11.Nd4 Ne6
12.Be3 Nxd4 13.Bxd4 c5 14.Be3 d5
15.exd6e.p. Bxd6
16.Rad1 Qh4
という変化で、1908年のタラシュ対ラスカー
戦の第14局に現われたように黒が指せます。
10...Bc5 11.Rd1 Bxd4 12.Rxd4 d5 13.exd6e.p. cxd6 14.b4!
14...d5 を 15.b5 の狙いで防いでいます。
14...Qf6 15.Be3 Bf5 16.Rad1 a6 17.g4!
キングの周囲を弱めているように見えますがこの好手は
黒のビショップを好位置から追い払います。
17...Qg6 18.Kh1 Bd7
18...Bxc2? は 19.Rc1 でビショップの逃げ場がありません。
(訳注 Fritz8 によると 19...c5
で助かり形勢も黒優勢です。)
19.h3
19...f5
19...d5 は 20.Na4! が受けにくいので指している暇がありま
せん。それで黒は危険でも反撃を狙います。
20.Qd3 Qf7 21.Rf4 Qe6 22.g5 Rfe8 23.a3 Re7
24.Kh2
Qg6 25.h4
25...Be6
25...d5 は黒枡を弱めます。それだけではなく白は 26.Na4
から Nb6 を狙ってきます。黒が d ポーンを突く前に白が
Na4
とするのは ...c5 で意味がありません。
26.Ne2 c5 27.c4 cxb4 28.axb4 Rc7 29.Nc3 Qf7 30.Nd5
相手のポーンの弱点をさらけ出し自分のポーンの弱点を
隠す白の指し回しは見事です。
30...Bxd5
黒はポーンを犠牲にしてようやく反撃の機会を得ます。
31.Rxf5! Qe6
31...Bxc4? は交換損になります。
32.Rxd5
32...Rf8
もし 32...Qg4 なら 33.Rd4 です。本譜では黒は 33...Rf3 を
狙っていて、白が 33.Qe2 と防げば 33...Rcf7
34.f4 Rxf4
で勝ちます。
33.Kg3!
読み切りの手です。今度は 33...Rcf7 には 34.f4 でキング
が大切な g4 の地点を守っています。
33...h5 34.gxh6e.p.
白は危険そうに見えても取らないといけません。さもないと
g4 の地点が弱くなります。
34...gxh6 35.Kh2 Rg7 36.Rg1!
36...Rff7
36...Rxg1 37.Kxg1 Qg4+ 38.Kf1 Qh3+ は何にもなりません。
37.Rxg7+ Rxg7 38.Qf5!
この手で白は黒の反撃を封じます。
38...Qxf5 39.Rxf5 Rg4 40.Rf4 Rxf4 41.Bxf4 a5
42.bxa5?
42.b5 なら白が勝っていたでしょう。黒のパスポーンは恐く
ありません。
42...Nxa5 43.Bxh6 Nxc4 44.Kg3 Kh7 45.Bf4 d5
46.Kf3 Kg6 47.Ke2 Na5! 1/2-1/2
この調和の取れた試合で、シュレヒターは黒のセンター・
ポーンを押さえつけるという白の戦略目標を達成することが
できました。大局的な有利を得るために彼はわざとキング
を相手の攻撃にさらし、黒の捨て身の反撃を見事な防御で
かわした指し方は本当に賞賛に値します。この試合の後
ベルリン防御がほとんど実戦から姿を消したのもうなずけま
す。この試合でシュレヒターは定跡の知識に貢献すると共
に中盤戦の技術の進歩ももたらしました。
投稿者 yamagishi
第3章 ベルリン防御
2000年のカスパロフ対クラムニクの世界選手権戦ではカス
パロフがクラムニクのベルリン防御を崩せずクラムニクのタ
イトル獲得の原動力になりました。その時の手順は
1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 Nf6 4.O-O Nxe4 5.d4 Nd6
6.Bxc6 dxc6 7.dxe5
Nf5 8.Qxd8+ Kxd8
でした。まだ戦いらしい戦いも始まらないうちにクィーンが
交換されてしまいます。私のような将棋派はこんなに早く
クィーンがいなくなってしまっては心理的にやる気がなく
なってしまいます。
これから紹介する試合はクィーンを残す戦法です。ECO
(Encyclopaedia of Chess Openings)
によれば13手目まで
示されていて互角と評価されています。よく誤解があるの
ですが、形勢互角とドローとは必ずしも同じではありません。
お互いキングしか残っていない局面ならば明らかに互角=
ドローです。しかし我々のレベルでの中盤戦での互角は
必ずしもドローにならないことは良く経験するところです。
問題は将棋派にとって、クィーンなしでわずかに形勢良し
の局面と、クィーンありで形勢互角の局面とで、どちらが
勝率が高いのかということです。ミハイル・タリは良くこの
ような岐路で後者を選んでいました。
以下の棋譜は英国のチェス雑誌「CHESS」の2004年12月
号の「Andrew Martin's ABC of the RUY
LOPEZ」(アンド
ルー・マーチンのルイ・ロペスのいろは)に載っていたもの
です。解説者のマーチンは英国のIMです。
【参考局】E.Gullaksen(2376) - O.Dannevig(2372)
Trondheim、2004年
1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 Nf6 4.O-O Nxe4 5.Re1 Nd6
6.Nxe5 Be7
この手は最も正確な応手とされています。しかしそれでも
白は攻勢に立つことができます。
7.Bd3! Nxe5 8.Rxe5 O-O 9.Nc3
9...Bf6
黒が不用意な指し手を続けると以下のようにすぐつぶれて
しまいます。
9...Re8 10.b3 Bf6 11.Re1 b6 12.Ba3 c5 13.Qh5 g6
14.Qd5 Nb7 15.Rxe8+ Qxe8
16.Kf1 Qe5 17.Re1! Qxd5
18.Nxd5 1-0 Smirin - Diamond, Kissimmee 1997
黒は壊滅状態です。
9...c6 は穏当な手とされていますが以下 10.Qe2! Bf6
11.Re3 g6 12.b3 Ne8 13.Bb2 で Re1
を狙って白良しです
(Shamkovich - Cobo, 1967)。
10.Re3
10...g6
10...Re8?! 黒の最善の構想は本譜のように ...g6 形をめざ
すことですが、それでも楽ではありません。11.Nd5 Bg5
白はナイトをビショップと交換できれば少なくともわずかに
優勢になります。(11...Bd4 は 12.Rxe8+ Nxe8 13.Qg4 Bb6
14.Qe4 g6 15.b4 の後白の攻撃がきつくなります。)
12.f4 Bh6 13.Rh3
自然な手ですが恐らく厳しくない手で
す。(13.Qh5! c6 14.Nc3 Qf6 15.Ne2+/-) 13...c6 14.Ne3 Ne4
ビショップの筋を閉鎖します。15.Bxe4 Rxe4 16.Nf5 Qb6+
(16...Bxf4 17.d3 Qb6+ 18.Kh1 Re5
19.Nxg7! Bxc1 20.Qxc1 d6
21.Rg3 Kh8 22.Qf4 で攻撃が続きます。) 17.d4 (17.Kh1 Qf2!)
17...Bxf4?? 即負けです。18.Qh5!+- h6 19.Bxf4 Rxf4 20.Re1!
1-0 McShane -
Nielsen, Hastings 2003 20...Qd8 としても
21.Nxh6+ +- です。
11.b3 Re8 12.Ba3 Rxe3 13.fxe3 Ne8 14.Nd5!!
これも狙い筋の一つです。白は黒が展開を完了しないうち
に黒枡を攻めます。
14...Bg5
14...Bxa1 なら 15.Be7! です。
15.Qf3 d6 16.Rf1 Be6 17.Nf4 Bxf4
18.Qxf4 a5 19.Bb2 Qe7 20.h4 a4
21.h5 axb3 22.Qd4 f6 23.hxg6 hxg6
24.Bxg6
私なら簡明な 24.axb3 Qf7 25.Rf3 を選んだでしょう。白の
攻撃は非常に強力です。
24...bxc2 25.Bxe8 Rxe8 26.Rxf6 Qh7 27.Rf4 Re7
28.Rh4 Qg7 29.Qb4 Qg3 30.Rh8+ Kf7 31.Qc3 Qg6
32.d3 Bxa2 33.Qxc2 c5 34.e4 c4
35.Qf2+ Ke6 36.Bc1 Bb3 37.Rh6 1-0
ベルリン防御に対してこの攻撃的な指し方を試してみては
どうでしょうか?黒は良く研究していれば互角にできるで
しょう。私としてはクィーンなしの中盤戦よりももっと面白い
戦いになることは保障します。
投稿者 yamagishi