2005年06月07日

「ルイ・ロペスの進化」(19)

第5章 遅延シュタイニッツ防御

この最も現代的な定跡は19世紀に端を発しています。例え
ば1871年にルイス・パウルセン(Louis Paulsen)によって指さ
れました。しかし彼の指し方は今日(1950年頃)の指し方とは
非常に異なっているため、ここでの研究は1877年のブラック
バーンの試合から取上げることにします。その試合では現代
の戦略的な構想が明確な形で現われ始めています。

後にシュタイニッツ自身もこの防御法を復活させました(先行
シュタイニッツ防御(Stinitz Defence Preceded)として知られ
るようになりました)。しかし彼のライバル達は彼の昔の防御
に幻滅したからであると言っていました。シュタイニッツはそ
の説を懸命に否定し、「批評家の中には私が常用してきた
3...d6 に対する信頼を失ったからだと言う者もいるが、同じ構
想は 3...a6 の後からでも実行でき、定跡や一流選手の実戦
によれば白が試みることのできる最も厳しい攻撃に対しても
少なくともドローにすることができる。」と言っていました。(第
16局のイェーツ対ボゴリュボフ戦の解説で白が強制的にドロ
ーにすることができないことが分かります。)シュタイニッツは
1895年のヘースティングズ(Hastings)での大会でこの戦法を
連採しました。そして最終的に狭小な陣形と引き換えにセン
ターを維持する彼の目的を達成したように見えました。

遅延シュタイニッツ防御に対する最終的な審判はまだ下され
ていません。しかし黒はセンターを維持することができるとい
うのが定説になっています。そしてセンターを放棄せざるを得
ない場合でも、駒を自由に展開できることを念頭に安心して
放棄することができます。

ブラックバーンの指し方

興味深い本局で、個性ある棋風で知られるブラックバーンは
この防御法を初めて採用し、この戦法の本質に対する彼の
正しい認識を明らかにします。

【第12局】マッケンジー(G.H.Mackenzie) - ブラックバーン(Blackburne)
ブラッドフォード(Bradford)大会後行われた3番勝負から、1887年

  1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 d6 5.c3 Bd7 6.O-O g6
  7.d4 Bg7

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黒はこの戦法における理想的な局面に到達しました。こうな
ったのは計画的ではなかったにせよ、それでもブラックバー
ンが現代的な感覚で指し手を進めていくのには感心させられ
ます。

  8.Be3 Nge7 9.Qd2

今日指されている普通の手はビショップを c5 に置く狙いの
9.dxe5 です。

  9...O-O 10.Bh6

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  10...Bg4

黒は罠に引っかかりません。もし 10...Nxd4 11.cxd4 Bxa4
なら 12.Bxg7 Kxg7 13.dxe5 dxe5 14.Nxe5 とポーンを取り
返して白が有利です。また 10...Nxd4 11.cxd4 Bxh6 なら
12.Qxh6 Bxa4 13.Ng5 で白の勝ちです。

  11.Na3

現代の批評家は 11.Bxg7 Kxg7 12.Ne1 を推薦し白に攻撃
の機会があると言っています。しかしこれは彼らが局面の判
断を誤っていることを示しています。何故ならビショップの交
換によって黒のキングの周囲が特に弱体化したとは言えず、
おまけにキング側を攻撃できる小駒がいなくなっています。

  11...Bxf3 12.gxf3 d5!

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ブラックバーンはセンターでの駒の扱い方を良く心得てい
ます。

  13.Rad1 exd4 14.Bxg7 Kxg7 15.cxd4 f5! 16.e5 f4
  17.Kh1 Qc8 18.Bxc6 bxc6

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  19.Kg2

19.Rg1 は 19...Qh3 20.Qe2 Rf5 21.Rg2 Rh5 の後 Ne7-f5-h4
の狙いがあります。

  19...Nf5!

なかなか思いつかないうまいポーンの犠牲です。

  20.Qxf4 Qd8 21.Kh1 Nh4 22.Qg4 h5! 23.Qg1 Nxf3
  24.Qg3 Qd7

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重要な g4 の地点に利かせます。

  25.Nc2 h4 26.Qg2

黒がどのようにして重要な地点を全部押さえ白のクィーンの
動きを制限するのに成功したかは興味があります。

  26...Rf4 27.Ne3 h3 28.Qg3 Raf8 29.Rd3

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  29...c5!

キング側で白を受け一方に追いやった後、黒はセンターの
破壊に向かいます。もしこの手の代わりに 29...Rxd4 だと
30.Rxd4 Nxd4 31.Ng4! で白は Qxh3 又は Qh4! という手が
残ります。また 29...Nxd4 なら 30.Rg1 です。

  30.Rc1

30.dxc5 は 30...d4 で黒に ...Qd5 や Rg4 を狙われます。

  30...cxd4 31.e6 Qxe6 32.Rxc7+

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「最後のお願い」です。もし 32...R8f7 なら 33.Qxf4 で逆転
です。

  32...R4f7 33.Nf1 Qe2 O-1

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この試合が格別の関心を呼び起こさなかったのはブラック
バーンの名局集にも載っていないことから明らかです。しか
し今日の知識からみてブラックバーンが実戦の要点をいか
に完璧に把握していたかということに感嘆しないわけには
いきません。そのことは戦略上の機微がまだ十分に理解
されていなかった1887年に本局が指されていることを考え
てみれば良く分かるでしょう。白がオープニングを無頓着に
指したために黒が理想的な陣形を組むことができたのは確
かです。それでも一旦黒がセンターに確固たる地歩を築い
た後は、黒はセンターとキング側で連携した攻撃を行なうこ
とができることを実証しました。攻撃の本質を鑑みることなく
本局を単に攻撃がうまくいっただけとして片付けられている
のはちょっと残念です。

投稿者 yamagishi

2005年06月10日

「ルイ・ロペスの進化」(20)

第5章 遅延シュタイニッツ防御

黒がセンターに橋頭堡を確立する-シュレヒターの指し方

「シュタイニッツ防御」と「遅延シュタイニッツ防御」の基本的な
違いが明らかになるや否や、次のような疑問が起こりました。
「黒が『遅延』を指そうとしている時、白は『シュタイニッツ』に
持ち込めるであろうか?」もし可能ならば『遅延』は無意味に
なります。20世紀の初頭の10年からチェスは科学的な手法
も取り入れられるようになり、達人の試合では白の言いなりに
なる防御法はとうに見捨てられていました。本局はこの疑問に
対する適切な解答になります。

【第13局】タイヒマン(R.Teichmann) - シュレヒター(K.Schlechter)
モンテ・カルロ、1902年

  1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 d6 5.Bxc6+ bxc6 6.d4

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白の意図は黒に 6...exd4 と取らせて普通の「シュタイニッツ防御」
の戦型にすることです。

  6...f6

しかし1892年のニュルンベルクでのタラシュ(Tarrasch)対アラ
ピン(Alapin)戦で指されたこの手は白の目論見を粉砕します。

  7.Nc3

現在主流の 7.Be3 は次回の第14局に現われます。

  7...g6 8.Be3 Nh6 9.h3 Nf7 10.Qd2 Bg7

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黒のキング側の駒の展開手順は今日でも最善と考えられます。
理想形ですがそれはとりもなおさず白が無頓着に指し手を進め
た時にだけ得られる結果です。

  11.Rd1 Qe7 12.O-O O-O 13.Rfe1 h6 14.Ne2 Kh7
  15.Ng3 a5 16.a4 Nd8 17.Nh2 Ne6!

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このタイミングの良いナイトの転進で黒は 18.f4 を 18...exd4
19.Bxd4 Nxd4 で防ぎます。また 18.d5 には 18...cxd5 19.Qxd5 Bd7
でセンターの緊張を解消しその後 20...f5 が強い手になります。

  18.c3 c5 19.Ne2

もし 19.dxc5 と取ってくれば 19...Nxc5 20.Bxc5 dxc5 で黒良し
です。黒には 21...Be6 として ...Bb3 や Rfd8 の狙いがあります。

  19...Bb7

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見事な指し回しで黒は最終的に白にセンターを閉鎖させること
ができます。閉鎖しないと 20...f5 で黒の双ビショップの働きが
強まります。

  20.d5 Ng5 21.f3 f5! 22.Qc2 f4 23.Bc1 Bc8 24.Ng4 Bd7

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  25.b3

すぐに 25.c4 と突くのがより正確でした。というのは本譜の手
では黒に 25...c4 26.bxc4 Qe8 という手があったからでした。

  25...h5 26.Nf2 Nf7 27.c4 g5

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ここまでの指し手は完ぺきです。クィーン側とセンターは閉鎖
状態なので黒は意のままにキング側での攻撃を準備すること
ができます。

  28.Kf1 Nh6 29.Nc3 g4 30.hxg4 hxg4 31.Ke2 Bf6 32.Rh1

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  32...Bh4 33.Rdg1 Rg8 34.Kd1 Rg6 35.Qe2 Rag8 36.Rf1 gxf3

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この取りは時期尚早でした。後から分かるように h7 の黒の
キングが露出しているので ...R8g7、...Kg8 としておくべきでした。

  37.gxf3 Rg2 38.Kc2 Qg5 39.Bd2 Qg3 40.Ncd1 Bh3 41.Kd3

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ルークおよびナイトと引き換えにクィーンを失いますが白にとっ
ては最良の取引きです。

  41...Bg4 42.Nxg4 Rxe2 43.Kxe2 Qg2+ 44.Kd3 Nxg4 45.Rxh4+

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黒のキングの位置が悪いので白はこの手を指す余裕があります。

  45...Nh6 46.Rf2 Qg1 47.Ke2 Rg3 48.Rfh2

白は 48.Bxa5 Rg2 49.Be1 が良かったかもしれません。

  48...Kg7

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  49.Be1

49.Rxh6? には 49...Rg2+ があります。

  49...Ng4 50.Bxg3 Nxh2 51.Bxh2 Qd4 52.Rg4+ Kf7
  53.Rg2 Qa1 54.Ke1 Qb1 55.Rf2 Qxb3 56.Nb2!

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52手目からの駒の組み換えの結果白はすべての弱い地点を
守ることができるようになりました。

  56...Ke8 57.Kf1 Kd7 58.Kg2 Kc8 59.Re2 Kb7
  60.Bg1 Ka6 61.Bf2 Ka7 62.Be1 Ka6

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  63.Bh4 Ka7 64.Bd8 Qb8 65.Bh4 Qb3 66.Be1 Ka6
  67.Kf2 Kb6 68.Bd2 Ka6 1/2-1/2

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本局における黒の戦略はほぼ完ぺきです。兵力をセンターから
側面に移動させる指し方は特に印象的です。センターと側面で
必要な兵力しか用いない経済的な駒の使用法についてもそう
です。もしセンターに関するシュタイニッツの理論に証明が必要
ならばこの試合がそのために使えるでしょう。そしてそのような
局面の指し方もモデルとしては今日でも凌駕されないでしょう。

投稿者 yamagishi

2005年06月13日

「ルイ・ロペスの進化」(21)

第5章 遅延シュタイニッツ防御

白が黒のキング側の展開を制限しようと試みる-カパブランカの防御法

黒がナイトを f7 に置くことができるや否や、黒は橋頭堡を確保
したのみならずナイトの自然な展開先を奪う 6...f6 により発生し
た問題を解決したことになります。

本局では白の戦略は黒のキング側での順調な展開を妨げるこ
とに向けられました。これにより黒に難しい問題が発生すること
は解説の中で言及する試合に見て取れます。それらの試合で
は黒はしばしば危険なキング側攻撃に見舞われています。

【第14局】ロマノフスキー(P.Romanovsky) - カパブランカ(J.R.Capablanca)
モスクワ、1935年

  1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 d6 5.Bxc6+ bxc6
  6.d4 f6 7.Be3!

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  7...g6

7...Ne7 8.Nc3 Ng6 9.Qd2 Be7 10.h4 h5 11.O-O-O Bg4
12.Qd3 exd4 13.Bxd4 Nf4 14.Qc4 Qd7 (ボゴリュボフ対
アリョーヒン、バーデンバーデンでの模範試合、1934年)
という展開もあります。

  8.Qd2 Bg7 9.Nc3

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  9...Bd7!

何の変哲もない手に見えますが、実は白がどちらにキャッスリ
ングするかを見極めるための重要な手待ちです。他の手として
は 9...Ne7 10.Bh6 O-O 11.O-O-O Be6 12.h3 Qb8 13.g4 Qb4
14.Bxg7 Kxg7 15.a3 Qb6 (ボゴリュボフ対トマス卿、ヘースティ
ングズ、1922年)があり、白黒どちらも指せます。

  10.O-O

もし白がクィーン側にキャッスリングすれば黒は前手の解説中
の試合と同様の攻撃を行なうことができます。そしてこの場合
キングがまだキャッスリングしていない方がより安全です。白が
中央から突破を図ってくればクィーン側にキャッスリングする
権利も残っています。

  10...Ne7 11.h3

Rad1 の時に ...Bg4 とかかられるのを防いでいます。

  11...O-O 12.Rad1 Qb8 13.b3 Qb7

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  14.Bh6

15.Bxg7 Kxg7 16.dxe5 fxe5 17.Nxe5 の狙いがあります。

  14...Rad8 15.Bxg7 Kxg7 16.Nh2

白の望みはセンターから戦端を開くことです。しかし 15.Qc1
からクィーンを b2 に置く方が有力な構想でした。

  16...Qb4!

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カパブランカの典型的な「予防」手です。白の攻撃が危険になる
前にその可能性を摘み取ります。白が 17.f4 とくれば 17...Qxd4+
18.Qxd4 exd4 で白は収局でセンターが弱くなります。

  17.Qe3 Rde8!

この手も 18.f4 を防いでいます。具体的には 18...exd4
19.Rxd4 Qb6 で 20...Nf5 を狙います。

  18.Nce2 exd4 19.Rxd4 Qb6 20.Qd2 c5 21.Rd3 Qb4!

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  22.c4

白はクィーンの交換を避けることができません。22.Qf4 には
22...Nc6! という強手があります。

  22...Qxd2 23.Rxd2 Bc6 24.Nc3 f5 25.Nd5

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  25...Nxd5 26.exd5 Bd7 27.f4 Re4 28.Rf3 h6 29.Nf1 1/2-1/2

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29...g5 なら 30.Ng3 です。

この試合は表面的には「グランドマスター・ドロー」に見えます。
しかし解説中で引用した二つの試合で黒が直面しなければな
らなかった困難を見た後では、カパブランカの平明な戦略によ
る指し方は現在のところはともかくもこの戦型の決定版と認め
られます。20手の間センターを維持した後で彼がそれを放棄し
シュタイニッツ防御式の有利な分かれに持ち込む手法は本当
に戦略の傑作といえます。

投稿者 yamagishi

2005年06月16日

「ルイ・ロペスの進化」(22)

第5章 遅延シュタイニッツ防御

黒が白の単純化の目論見をくじく-アリョーヒンの指し方

前局から白が強制的に「遅延シュタイニッツ防御」から「シュタ
イニッツ防御」に移行させることができないことが分かりました
が、同じくらい重大なもう一つの疑問も解決する必要がありま
す。それは白が単純化により黒の攻勢をかわせるかどうかと
いうことです。そうできれば攻撃的な武器としてのこの戦法を
無害にできます。

【第15局】ストルツ(G.Stoltz) - アリョーヒン(A.Alekhine)
ブレッド(Bled)、1931年

  1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 d6 5.d4 b5 6.Bb3 Nxd4
  7.Nxd4 exd4 8.Bd5 Rb8 9.Bc6+

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アリョーヒンはもし白が単純化によって簡単にドローにできると
考えているのならとんだ考え違いを犯していることになると評し
ています。

  9...Bd7 10.Bxd7+ Qxd7 11.Qxd4 Nf6 12.Nc3 Be7
  13.O-O O-O

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  14.Bd2

14.Bg5 は 14...b4 15.Nd1 (15.Nd5 は 15...Nxd5 16.Qxd5 Rb5
で駒損) Qg4 で良くありません。

  14...Rfe8 15.Qd3 b4

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  16.Ne2

16.Nd5 Nxd5 17.Qxd5 (あるいは 17.exd5 Qg4) ならば単純化
の方針と調和して白がドローにできる可能性が高かったはず
でした。

  16...Qc6 17.f3

17.Ng3 には 17...Ng4 の後 18...Ne5 が強い手です。

  17...d5 18.exd5 Nxd5 19.Rae1 Bf6 20.c4

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  20...Qc5+ 21.Rf2 Ne3 22.b3 Rbd8 23.Bxe3 Rxe3 24.Qc2 Bh4

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白のセンターを解体した後黒はポーンを得することができます。
しかし白にも反撃の可能性がないわけではありません。

  25.g3 Rxf3 26.Ref1 Bg5 27.Kg2 Rxf2+ 28.Rxf2 Qc6+
  29.Kh3 Be3 30.Rf1 Rd5!

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アリョーヒンらしい手です。たとえ勝ちの局面でも彼の指し手は
正確を極めます。30...Rd6 は 31.Qf5 で反撃の可能性を与えま
す。

  31.Nf4 Qd7+ 32.g4 Rd4 33.Qg2!

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受けの好手です。Qa8 による詰みの狙いで g4 のポーンを守
るための手を稼ぎます。

  33...c6 34.Nh5 Bg5 35.Qe2 g6 36.Ng3 h5 37.Ne4 Qxg4+

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一見白に駒交換による単純化を許すみたいですが、実際は
決め手になっています。

  38.Qxg4 hxg4+ 39.Kxg4 Rxe4+ 40.Kxg5 41.Kg7! 0-1

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41...f6+ 42.Rxf6 Re5+ の後ルークが取られますが、白には
防ぎがないので投了しました。

この試合は定跡の観点からだけではなく、強いセンターと弱い
センターの違いを示したという意味で中盤戦の戦略の貢献に
とっても重要です。白の展開の遅れにつけこんで、アリョーヒン
は強引に開戦を行なうことができました。そして開放された筋
を利用して駒の組み換えを行い、これをポーン得に結び付けま
した。これが達成されるや否やアリョーヒンは直接攻撃により
勝ちをもぎ取りました。

投稿者 yamagishi

2005年06月19日

「ルイ・ロペスの進化」(23)

第5章 遅延シュタイニッツ防御

ボゴリュボフの貢献

前局でアリョーヒンは黒が白の単純化の試みを妨げることが
できることを示しました。しかしながら定説に反して白がポー
ンの犠牲でドローに持ち込むことができないことを実証するこ
とはボゴリュボフの手に委ねられました。シュタイニッツでさえ
このことに気付いていませんでした。というのは彼は白の強制
ドローが遅延防御のきずになるかもしれないと述べていたから
でした。

【第16局】イェーツ(F.D.Yates) - ボゴリュボフ(E.D.Bogolyubov)
サンレモ(San Remo)、1930年

  1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 d6 5.d4 b5 6.Bb3 Nxd4
  7.Nxd4 exd4 8.c3

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ここまではハイムズ(Hymes)対シュタイニッツ戦(1894年、ニュ
ーヨーク)と同じです。その試合は 8...dxc3 9.Qd5 Be6
10.Qc6+ Bd7 の後同形三復でドローになりました。面白いの
はシュタイニッツがドローを避ける順を見つけようとして 10...Ke7
を研究し、結局黒にとって危険すぎるという結論に達し、ボゴ
リュボフの簡単な応手(訳注 8...Bb7)に想到できなかったこと
です。

  8...Bb7! 9.cxd4 Nf6

9...Bxe4 とポーンを取るのは 10.O-O Bb7 11.Re1+ Be7 12.Bg5
で白の攻撃に弾みがつきます。

  10.f3 Be7 11.O-O O-O 12.Nc3 c5

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この手でボゴリュボフは白の一見強力そうなセンターが幻想
に過ぎないことを示します。実際白はセンターの強さを生かす
術がありません。次の白の手では 13.Be3 が優りました。

  13.d5 Re8 14.Ne2 Bf8 15.Ng3 g6 16.Bc2 Bg7 17.a4 Rc8

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  18.Bd2 b4 19.a5 Nd7 20.Ra2 Ne5 21.b3 h5 22.Ne2 Rc7 23.f4

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このポーン突きは白のセンターをさらに弱めているように見え
ますが、他に適当な手が見つかりません。というのは黒から
...Bc8、...Qd7、...Qg4 という手順で陣形をさらに強化する手を
見られているので、何か反撃を行なわなければならないから
です。

  23...Ng4 24.Bd3 Rce7 25.f5

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  25...Rxe4

交換損により白のセンターを破壊するボゴリュボフの直接攻
撃は非常にみごとです。白は Nf4、fxg6、Ne6 を狙っていまし
た。

  26.fxg6 fxg6 27.Bxe4 Rxe4 28.Bf4

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  28...g5

28...Ne3 29.Bxe3 Rxe3 も考えられました。

  29.Bc1 Re5 30.Qd3

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  30...Qe8

30...Bxd5 には 31.Bb2 がきつ過ぎます。また 30...Rxd5 には
31.Qg6 が強い攻めになります。

  31.Ng3 Rxd5 32.Re2!

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形勢不明を狙った苦心の切り返しです。もし黒が 32...Be5 とく
れば 33.Qf5 Bd4+ 34.Kh1 Rxf5 35.Rxe8+ Kf7 36.Rxf5+ Kxe8
37.h3 で白の勝ちになります(訳注 Fritz8 によれば 37...Nf2+
で黒の勝勢になり、正着は 36.Nxf5 です。)。

  32...Re5 33.Bxg5 Rxe2 34.Nxe2 Qe4 35.Qxe4 Bxe4
  36.h3 Ne5 37.Be7

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  37...Nf7

37...Bd3! なら黒は貴重な手得を得たでしょう。つまり 38.Rf2 Nf7
となれば白は 39.Ng3 と指すことができません(39...Bd4 がある
から)。

  38.Ng3 Bd4+ 39.Kh1 Bc2 40.Nf5! Be5

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  41.Nxd6

唯一のチャンスです。白は黒のポーンの陣形を崩さなければ
なりません。41.Rf3 には 41...c4 があります(42.bxc4 b3)。

  41...Nxd6

41...Bxd6 とビショップの方で取るのはだめで 42.Rxf7 で異色
ビショップが残ってしまいます。

  42.Rc1 Bxb3 43.Rxc5

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  43...Bf4

43...Nc4 なら 44.Rc8+ Kf7 45.Bxb4 です。

  44.Rc6

44.Rxh5 とポーンを取ると 44...Bc2 です。

  44...Nf5 45.Bxb4 Bd5 46.Rxa6 Nh4

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  47.Be1 Bxg2+ 48.Kg1 Bb7 49.Rf6 Bg5 50.Bxh4 Bxf6 1/2-1/2

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投稿者 yamagishi

2005年06月22日

「ルイ・ロペスの進化」(24)

第5章 遅延シュタイニッツ防御,

シュタイニッツの防御システム

本局は遅延シュタイニッツ防御を用いてシュタイニッツがどの
ようにセンター維持の問題を解決しようとしたかが見られるの
で特に興味深いものがあります。彼の試みは成功しましたが
形勢は良くありませんでした。その当時彼のオープニングの
指し方は彼の多くの試行の一つとみなされていました。しかし
本局を次回のアリョーヒンの試合と比較すると、どこでそして
なぜシュタイニッツがしくじったのかが容易に分かります。

【第17局】マルコ(G.Marco) - シュタイニッツ(W.Steinitz)
ヘースティングズ(Hastings)、1895年

  1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 d6 5.O-O Nge7 6.c3

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  6...g6 7.d4 Bd7 8.Be3 Bg7 9.dxe5 dxe5 10.Nbd2 O-O 11.Re1

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  11...Nc8

キング側ナイトの展開が黒のオープニングの問題となるのは
この戦型につきものです。シュタイニッツは早めにナイトを e7
に展開しました。代わりに e7 の地点をクィーンのために空け
ておき、後でナイトを f6 の地点に置く選択を保留する指し方
もありました。そうすればナイトを e8 から d6 に移動させるこ
ともでき、この戦型における黒の目的にも合致します。なお
11...b6 では以降の白の攻勢を防ぐことができません。それは
12.Nf1 Nc8 13.Bg5! Qe8 (13...f6? 14.Qd5+) 14.Ne3 の後
15.Nd5 が受け難いからです。

  12.Bc5! Re8 13.Nf1 b6 14.Ba3 N8a7

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黒は必然的にこのぎこちない配置転換を強いられました。

  15.Qd3 Bc8 16.Qe2 Bb7 17.Ne3 b5 18.Bc2 b4

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黒は 18...a5 としてから 19...b4 とする余裕はありません。それ
は白に 19.Rad1 から 20.Nd5 と指されると圧力が強すぎるから
です。しかし本譜のポーンの犠牲も正着とは言えません。

  19.Bxb4 Nxb4 20.cxb4 Nb5

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  21.Qc4?

これは悪手でした。正着は 21.Nc4 で 22.Na5 を狙います。黒が
21...Qe7 とくれば 22.a3 Bc8 23.Ne3! で ...Bg4 を防ぎ、黒には
犠牲にしたポーンの十分な代償がありません。

  21...Nd6 22.Qb3 Nxe4 23.Rad1 Nd6

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  24.Nd5

すぐに 24.Nd2 とナイトを引く方が優りました。

  24...e4 25.Nd2 Bxd5 26.Qxd5

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  26...e3!

26...Bxb2 27.Nc4 よりこの手の方が優ります。

  27.Rxe3 Rxe3 28.fxe3 Rb8

28...Bxb2 には 29.Nc4 があります。

  29.Nc4 Rxb4

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  30.Bb3

この手の込んだビショップ上がりで形勢がおかしくなりました。
30.Nxd6 cxd6 31.Qxd6 ならドローだったでしょう。

  30...Rb5 31.Qc6 Bf8! 32.Qxa6 Qg5 33.Rf1 Nxc4
  34.Bxc4 Qxe3+ 35.Kh1 Rf5

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  36.Ra1

36.Rxf5 なら 36...gxf5 37.h3 Bc5 38.Kh2 Kg7 (白からの Qc8+、
Qg4 に煩わせられずに f4 とポーンを進められるようにするため)
で黒の攻撃が非常にきつくなります。

  36...Bd6 37.Bf1

37.h3 なら 37...Qg3 です。

  37...Bxh2 0-1

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次に 38...Rh5 と来られると受けがありません。

本局はシュタイニッツの名局というほどのものではありません。
しかし遅延シュタイニッツ防御の生成過程は見て取れます。それ
ゆえに非常に意義深い一局であると言えます。次局から分かる
ようにシュタイニッツは局面の戦略的な要件は良く認識していま
した。間違っていたのはタイミングだけでした。しかし最初の機会
に完璧な正確さを求めるのは酷というものです。

投稿者 yamagishi

2005年06月25日

「ルイ・ロペスの進化」(25)

第5章 遅延シュタイニッツ防御

アリョーヒンの戦法

42年後アリョーヒンはシュタイニッツが解決できなかったのと
同じ問題に直面しました。そして彼の戦法はシュタイニッツを
無駄な努力と酷評した批評家たちに対する良き解答となって
います。

【第18局】サージャント(E.G.Sergeant) - アリョーヒン(A.Alekhine)
マーゲート(Margate)、1938年

  1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 d6

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  5.O-O

より正確な手順は 5.c3 です。本譜の手では黒に ...b5、...Na5
でビショップとの交換を許す手があるからです。

  5...Bd7 6.c3 g6 7.d4 Bg7

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  8.dxe5

8.Bg5 は黒に対するお手伝いになってしまいます。つまり 8...f6
9.Be3 Nh6 の後 ...Nf7 でナイトがちょうどこの戦型における理想
の位置に収まります(ボゴリュボフ対アリョーヒン、第22局、1929年)。

  8.dxe5!

8...Nxe5 は 9.Nxe5 dxe5 10.f4 Bxa4 11.Qxa4+ Qd7 12.Qxd7+ Kxd7
13.fxe5 Ke6 14.Bf4 Rf8 15.Nd2 Bxe5 16.Nb3 Bxf4 17.Rxf4 b6
18.a4 (ファイン(Fine)対アリョーヒン、アヴロ(Avro)、1938年) で
白のより面白い形勢です。

  9.Be3 Nf6!

これはこの戦型における最も重要な手です。ナイトが前局のよう
に e7 に跳ねるのではなく f6 に跳ねました。

  10.Nbd2 Qe7 11.b4

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この手は凝り過ぎと評されましたが、白の代わりの構想を見つ
けるのは困難です。

  11...b6 12.h3 O-O 13.Bb3 a5

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  14.b5

白は 14.a3 としてクィーン側の緊張を維持すべきでした。それ
でも白はその後陣形を良くする機会がほとんどありません。こ
れに反して黒は 14...Nh5 として優勢を確立することができます。

  14...Nd8 15.a4 Nb7 16.Bg5 Nc5 17.Bd5

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  17...Rad8 18.Nc4 h6 19.Bxf6 Bxf6

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  20.Qc1

この手には罠が秘められています。20.Qc2 ならばまだ先は
長く 20...Bg7 21.Ne3 Be6 22.Bxe6 fxe6! という進行が予想
されます。
[訳注 このようなダブルポーンは弱点でなく逆に好形です。
e4に白のポーンがあるので正面からルークやクィーンで攻め
られることがありません。センターとその近辺のd4、d5、f4、f5
を押さえているのが強みになります。]

  20...Kg7

20...Nb3 は白の思うつぼで、21.Qxh6 Nxa1 22.Qxg6+ でドロー
になってしまいます。

  21.Qe3 Nxa4!

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アリョーヒンらしい鮮やかな決め手です。一見まだ大丈夫そう
な陣形が見る見るうちに崩れて行きます。

  22.Rxa4 Bxb5 23.Raa1 Rxd5 24.exd5 Bxc4 25.Rfd1

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  25...Rd8 26.Qe4 Bb3 27.Rd2 Qc5 28.Nxe5?

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この手は見損じです。しかしいずれにしても形勢は白の敗勢
です。

  28...Qxc3! 0-1

白は三つの駒が同時に当たりになっていて防ぎようがありま
せん。

アリョーヒンの指し手には説得力があります。彼は不可能を試
みたわけではなく、オープニングにおける可能性を最大限に引
き出しただけです。

投稿者 yamagishi

2005年06月28日

「ルイ・ロペスの進化」(26)

第5章 遅延シュタイニッツ防御

シエスタ(Siesta)戦法

この戦法は試行の性格を帯びているように見えますが、遅延
シュタイニッツ防御の発展において重要な役割を果たしていま
す。それは前局に見られるように白が攻撃を延期すれば黒は
センターでの反撃を行なうことができるかという重要な問題に
光明を投じています。

短手数の激戦は昔のギャンビットを想起させる 5.c3 f5 から
発生しました。シエスタ戦法かつては悪いと断定されましたが
ケレス(Keres)の対エイベ(Euwe)戦(モスクワ、1948年)での短
手数勝利で復活しました。

この例のようにたった一局で戦法が不人気になったり復活した
りすることがあります。これは取りも直さず科学的分析におい
て昔のマスターと比較して我々はあまり進歩していないという
証明になります。他方正確さにおいてはかつてアリョーヒンが
喝破したように現代の分析を19世紀のチゴーリン(Tchigorin)の
分析と比較すると我々は退歩しているのかもしれません。

シュタイニッツが自分の「現代チェス教師」(Modern Chess
Instructor)で発表した研究で黒が安全にこの「ギャンビット」
戦法を指すことができると述べ、本局に見られるようにカパブラ
ンカの結論も同じであることは面白い事実です。

本局はカパブランカの本領が発揮された試合です。

【第19局】レティ(R.Réti) - カパブランカ(J.R.Capablanca)
ベルリン、1928年

  1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 d6 5.c3 f5 6.d4

この手より優る 6.exf5 は次局に現われます。

  6...fxe4

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  7.Ng5

7.Nxe5 ならば以下 7...dxe5 8.Qh5+ Ke7 9.Bg5+ Nf6 10.Bxc6 bxc6
11.dxe5 Qd5! 12.Bh4 Kd7 と進みここまではシュタイニッツとカ
パブランカの研究は同じです。カパブランカはこの後 13.Qg5 h6
14.Qf5+ Ke8 15.Qg6+ Qf7 16.Qxf7+ Kxf7 17.exf6 gxf6 で互
角になるとしています。

  7...exd4 8.Nxe4 Nf6 9.Bg5 Be7

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  10.Qxd4

この手は裏目に出ます。代わりに 10.Bxf6 Bxf6 11.Qh5+ g6
12.Qd5 Bd7 (クモッホ(Kmoch)対シュタイナー(Steiner)、ブダ
ペスト、1928年)なら駒損になることもなく形勢も黒有利という
ほどのこともありませんでした。

  10...b5 11.Nxf6+ gxf6 12.Qd5 bxa4

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  13.Bh6

この手で 13.Qxc6+ としても 13...Bd7 14.Qf3 fxg5 15.Qh5+ Kf8
16.Qh6+ Kg8 で白はドローにできません。白は本譜の手で
14.Qh5+、15.Qf5+ によるドローと 14.Bg7 を狙っています。

  13...Qd7!

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この手で黒の二つの狙いを同時に受けています。

  14.O-O

14.Bg7 なら 14...Qe6+ 15.Qxe6 Bxe6 16.Bxh8 Kf7 で二枚
替えの駒割りとなります。

  14...Bb7 15.Bg7 O-O-O 16.Bxh8 Ne5 17.Qd1

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  17...Bf3!

最短の勝ち方です。

  18.gxf3

18...Qh3 に対する防ぎがありません。

  18...Qh3 0-1

投稿者 yamagishi

2005年07月01日

「ルイ・ロペスの進化」(27)

第5章 遅延シュタイニッツ防御

シエスタ(Siesta)戦法

本局ではシエスタ戦法の最新型が見られます。特に面白いの
は当代のオープニングの大家の一人であるエイベが予期せぬ
変化手順(9...e3)にはめられたことです。

【第20局】エイベ(M.Euwe) - ケレス(P.Keres)
モスクワ、1948年

  1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 d6 5.c3 f5 6.exf5 Bxf5
  7.d4 e4 8.Ng5 d5 9.f3

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  9...e3

9...exf3 は 10.O-O で白の攻撃を調子付かせます。

  10.f4 Bd6

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  11.Qf3

この手は色々な批評を呼び起こしました。例えば「凝り過ぎ」と
評した人は単純な 11.Bxe3 を推奨しました。しかし 11...Qe7
12.Qe2 の後はそれほど簡単ではありません。確かに 12...Bd3?
13.Qxd3 Bxf4 は 14.Nf7! の好手があってだめですが、12...O-O-O
13.Bxc6 bxc6 14.Qxa6+ Kd7 15.Kf2 Re8 16.Re1 Bxf4 は黒
勝ちです。

ある解説者たちは 11.O-O が白の最も簡明な手であるとしま
した。以降の手順は 11...h6 (11...Bxf4 は 12.Rxf4 Qxg5 13.Bxe3 )
12.Nf3 Bxf4 13.g3 Bd6 (13...Bg5 は 14.Nxg5 Qxg5 15.Qf3)
14.Ne5 (クモッホ(Kmoch)の研究手順)です。

見えすいた 11.Qh5+ の方が本譜の手より有望でした。11...g6
ならば 12.Qf3 で黒の g8 のナイトが g6 に行けません。また
11...Bg6 ならこのビショップが e6 の地点に利かなくなります。
この重要性は本譜の13手目によって明らかになります。

  11...Qf6

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  12.Qxe3+

12.Bxe3 は 12...Nge7 で、白の陣形はバラバラで連携に欠け
ます。

  12...Nge7 13.Bxc6+

13.O-O は 13...O-O 14.Nf3 Bxb1 15.Rxb1 Qg6 の後 16...Bxf4
があります。しかし11手目に Qh5+ Bg6 をさしはさんでいれば
この変化手順中で Qe6+ で強制的にクィーンの交換を行なうこ
とができました。

  13...bxc6

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  14.O-O

ここでも 14.Nf3 と引く余裕はありません。もし引けば 14...Bxb1
15.Rxb1 Qg6 です。この変化から g6 が黒にとって非常に重要な
地点であることが分かります。

  14...O-O 15.Nd2 Ng6 16.g3 Rae8

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  17.Qf2

17.Qf3 は 17...h6 と突かれナイトの逃げ場がありません。

  17...Bd3 18.Re1 Rxe1+ 19.Qxe1 Bxf4!

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  20.gxf4

もはや助かる手はありません。20.Qe6+ は 20...Qxe6 21.Nxe6 Be3+
22.Kh1 Rf1+ 23.Kg2 Rf2+ で黒の駒得になります。

  20...Nxf4 21.Ndf3 Ne2+ 22.Kg2 h6 23.Qd2 Qf5 24.Qe3 hxg5

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  25.Bd2

25.Nxg5 は 25...Qf1# の一手詰みです。

  25...Be4 O-1

エイベはこの試合の結果に対して色々酷評されました。解説者
たちは色々な受けの改良手を示唆しました。しかし彼らは無限
の時間がありながら厳しい時間制限の元で指したエイベよりも
多くの見落としをしていました。批判がもっともだと考えられる
唯一の点は徹底的に研究された変化に準備をせずに飛び込ん
でいったことです。もし非常に堅固な戦型を避けて力戦型の試
合をしたいならば、研究が行き届いた現代では多くの労力を注
がなければならないということを示しています。

投稿者 yamagishi

2005年07月04日

「ルイ・ロペスの進化」(28)

第5章 遅延シュタイニッツ防御

デュラス(Duras)戦法

この最新型はチェコスロバキアの名手にちなんで名づけられま
した。もっとも彼はシュタイニッツ戦法の一種として指していま
した。その手順はまず 5.d3、その後 6.c4、最後に d4 でした。
従って最新型と比較して一手損していました。

今日(1950年頃)この戦法は主に、まずクィーン側における黒の
可能性を制限し次にセンターでの戦闘を再開する構想で用い
られています。それはシエスタ戦法を排除する利点を持ってい
ます。シエスタ戦法は今回の短手数局に見られるようにデュラ
ス戦法に通用しません。

【第21局】ベク(E.E.Böök) - アンデルセン(E.Andersen)
国際チーム大会、ワルシャワ、1935年

  1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 d6 5.c4 f5

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黒は白の指した 5.c4 の相違点(5.c3 でない)に気が付いてい
ません。

  6.d4! fxe4 7.Nxe5!

このサクリファイスは正当です。

  7...dxe5 8.Qh5+ Ke7 9.Bxc6

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ようやく黒は 9...bxc6 10.Bg5+ Nf6 11.dxe5 の後シュタイニッツ
の受けの好手 11...Qd5 が白の c4 のポーンのために指せない
ことに気が付きました。

最善の受けは 9...Nf6 10.Qxe5+ Kf7 11.Bd5+ Nxd5 12.Qxd5+ Qxd5
13.cxd5 Bf5 14.Bf4 Rc8 で黒はまだ戦えます。

  9...Qxd4 10.Qe8+ Kd6 11.Be3 Qxc4 12.Nc3 Bg4 13.Rd1+! 1-0

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13...Bxd1 は 14.Qd7 で、13...Qd3 と 13...Qd4 は 14.Nxe4 で
詰みです。

この試合は美しさと簡潔さで多くの人を魅了しますが、本当の
重要性は定跡における価値にあります。つまり白が 5.c4 と
指した時は黒は 5...f5 による反撃ができないということになり
ます。

投稿者 yamagishi

2005年07月07日

「ルイ・ロペスの進化」(29)

第5章 遅延シュタイニッツ防御

黒がセンターを支える-アリョーヒンの防御法

本項では黒が重要な手 ...b5 が指せない時センターを支える
ことができるのかという重要な問題に取り組みます。面白い
試合を見せてくれるアリョーヒンはその先駆者でした。シュタ
イニッツと同様に彼の試合は開拓者精神に富んでいますが、
彼の構想は健全です。

【第22局】ケレス(P.Keres) - アリョーヒン(A.Alekhine)
マーゲート(Margate)、1937年

  1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 d6 5.c4 Bd7 6.Nc3 g6
  7.d4 Bg7

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アリョーヒンの目的はなんとしてもセンターを支えることです。
7...exd4 は次局で採り上げます。

  8.Be3 Nf6

この手は厳しく批判され代わりに 8...exd4 又は 8...Nge7 が
推奨されました。しかし 8...Nge7 9.dxe5 Nxe5 (9...dxe5 10.Bc5)
10.Nxe5 dxe5 11.Bxd7+ Qxd7 12.Qxd7+ Kxd7 13.O-O-O+ Ke8
の後 14.Bc5! が非常に厳しい手になります。

  9.dxe5 dxe5

この手は悪手でした。正着は 9...Ncxe5 10.Nxe5 dxe5 で、
11.Bc5 には 11...Bxa4 12.Qxa4+ Qd7 と指すことができました。
クィーン側キャッスリングの権利を残し、黒も戦えます。

  10.Bc5!

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オープニングでしばしば見られるこの手で白は優位に立ちます。

  10...Nh5

...Nf4、...Ne6 を経てナイトを d4 に据え付ける狙いです。

  11.Nd5 Nf4 12.Nxf4 exf4

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  13.e5

白の優勢は明らかです。後の分析で分かったように 13.O-O Ne7
(13...Bxb2 Rab1) 14.Bxd7+ Qxd7 15.Qb3 ならもっと優勢だった
でしょう。

  13...g5

この混沌とした局面でアリョーヒンは好機を逃がしました。ケレ
スとアリョーヒンの研究によると 13...Nxe5 という手がありまし
た。以下 14.Qe2 f6 15.O-O-O c6 16.Bd6 Qa5 17.Nxe5 fxe5
18.Bxe5! Qxe5 19.Qxe5+ Bxe5 20.Rhe1 O-O-O で黒に受け
の手が豊富にあります。

  14.Qd5!

黒の狙いの手 14...g4 には 15.e6! Bxe6 (15...fxe6 16.Qh5#)
16.Bxc6+ bxc6 17.Qxc6+ Bd7 18.Qe4+ の後 19.Rd1 があり
ます。

  14...Bf8 15.Bxf8 Rxf8 16.O-O-O

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  16...Qe7

16...Rg8 は 17.h4 の後 g5 のポーンを守る適切な手がありま
せん。

  17.Bxc6!

黒の誘いの隙にはまりません。もし 17.Nxg5 なら 17...O-O-O
で 18...Bg4 と 18...Qxg5 の二つの狙いがあります。

  17...Bxc6 18.Qd3 Bd7

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黒はポーンを犠牲にしてキャッスリングします。さもないと白か
ら Nd4 があります。

  19.Nxg5 O-O-O 20.Nf3 f6 21.exf6 Rxf6 22.Rhe1

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  22...Qb4?

この手は見落としです。しかし 22...Re6 でも 23.Qd4 で 24.Qa7
と 24.Qxf4 の両方の狙いがあり敗勢です。

  23.Qxd7+ 1-0

2手詰みです。

複雑な戦いでした。特にオープニングは以前に試みられたこと
のない展開でいわば暗中模索状態でした。この試合は達人が
新しいシステムを採用している最中に負けるというよくあるパタ
ーンで防御に不信感を与えました。この定跡はなかなか見られ
ないので最終的な結論はまだ下せません。黒の反撃の機会は
極めて限定的で、このため現代の実戦では人気がなく、もっと
柔軟性のある定跡が好まれています。

投稿者 yamagishi

2005年07月10日

「ルイ・ロペスの進化」(30)

第5章 遅延シュタイニッツ防御

黒がセンターの緊張を緩和する-カパブランカの防御法

本局は前局とは好対照の面白い試合です。前局でアリョーヒ
ンは難しい状況でセンターを支える問題の解決に努めました。
本局でカパブランカは緊張を緩和するためにセンターを放棄す
る道(7...exd4)を選択しました。

【第23局】ケレス(P.Keres) - カパブランカ(J.R.Capablanca)
ブエノスアイレス、1939年

  1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 d6 5.c4 Bd7 6.Nc3 g6
  7.d4 exd4 8.Nxd4 Bg7

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  9.Be3

この手に替わる重要な変化は1945年のラジオによるソ連対
米国でのボレスラフスキー(Boleslavsky)対ファイン(Fine)戦に
現われました。その対局でこの防御は信頼性を失ないました。
実戦の手順は 9.Nxc6 bxc6? 10.O-O Ne7 11.c5! で圧力が
強くなりました。そしてもし 11...d5? と応じれば 12.exd5 cxd5
13.Nxd5 Nxd5 14.Qxd5 Bxa4 15.Qe4+ の後 Qxa4 でビショッ
プを取り返すことができます。しかし実際は 9...Bxc6 とビショ
ップで取れば 10.Bxc6 bxc6 11.Be3 に対し黒は 11...c5 で白
の 12.Bd4 の狙いを防ぐことができます。

  9...Nge7 10.O-O O-O 11.h3 Nxd4! 12.Bxd7 Ne2+!

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カパブランカの得意な単純化で、白の圧力を減少させます。

  13.Nxe2

13.Qxe2 とクィーンで取れば 13...Qxd7 の後白の 14.Bd4 の
狙いがなくなり、14.Nd5 には 14...f5 があります。

  13...Qxd7 14.Bd4

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  14...Bxd4

14...f5 は 15.Bxg7 Kxg7 16.Qd4+ Kg8 17.e5 Nc6 18.Qd5+ で
ダメです。

  15.Qxd4 Nc6 16.Qd5 Rae8 17.Nc3

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12手目の 12...Ne2+ で黒は貴重な一手を稼ぐことができました。

  17...Qe6 18.Rad1 f5!

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ようやく黒は白のセンターのポーンを取り除くことができます。
しかし簡単に見えるこの手には正確な読みの裏付けが必要
でした。

  19.exf5 Rxf5 20.Rde1 Rxd5 21.Rxe6

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  21...Re5!

受けの要着です。この局面になれば見つけるのは難しくありま
せん。しかし黒は一連の受けを以前からこの手に賭けていたの
でした。勿論 21...Rxe6 は 22.cxd5 で駒損になり論外です。

  22.Rxe8+ Rxe8 23.Rd1

23.Nd5 なら 23...Re2 です。

  23...Kf7 24.Kf1 Ne5 25.b3 Nd7 26.Nd5 c6 27.Nf4 Re4

Y050710G.GIF

  28.g3 Ke7 29.Ne2 Nc5 30.f3 Re3 31.Kf2 Rd3 32.Rxd3 Nxd3+
  33.Ke3 Nb4 1/2-1/2

Y050710H.GIF

カパブランカの危なげのない試合でした。白が Bd4 と Nd5 とに
よって黒の f6 の隙を利用しようとするのをカパブランカがどのよ
うに打ち砕いたかが本局の見所でした。

投稿者 yamagishi

2005年07月13日

「ルイ・ロペスの進化」(31)

第5章 遅延シュタイニッツ防御

黒がセンターを支える-現代の定跡

前の2局から黒には対ケレス戦でのアリョーヒンのようにセン
ターを支える指し方とカパブランカの試合のように交換によっ
てセンターを放棄し単純化を図る指し方の二通りの選択があ
ることが分かりました。しかしどちらも純粋に防御的な戦型で、
黒には反撃の機会がありませんでした。

従って後にもっと攻撃的な戦型が導入されたのも当然です。
本局はその好例です。

【第24局】ケレス(P.Keres) - レシェフスキー(S.Reshevsky)
モスクワ、1948年

  1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 d6 5.c4 Bg4

Y050713A.GIF

この手が現在の主流で、特に白が d4 の地点を弱めたので理
にかなっています。

  6.Nc3

白は黒にセンターを放棄させることもできます。その手順は
6.d4 exd4 7.Bxc6+ bxc6 8.Qxd4 Bxf3 9.gxf3 です。しかし続
いて黒は 9...c5 の後 ...Ne7、...Nc6 で白の弱い d4 の地点を
利用することができます。

  6...Nge7 7.h3 Bxf3 8.Qxf3 Ng6 9.Nd5 Rb8 10.Nb4

Y050713B.GIF

  10...Nge7

10...Qd7 は手堅過ぎますが、ある手です。11.Bxc6 bxc6
12.Nxa6? には 12...Rb6 です。

  11.Nc2 Qd7 12.d3

12.d4 は 12...exd4 (12...b5 は 13.cxb5 Nxd4 14.Nxd4 exd4
15.Bb3) 13.Nxd4 b5 14.Nxc6 Nxc6 15.Bd1 Nd4 で白のビショ
ップの働きが悪く白に良い展望がありません。

  12...Nc8

Y050713C.GIF

  13.Bd2

この手は 13...Nb6 14.Bb3 Na5 でビショップを交換されるのを
防いだものですが、13.b4 の方が積極的な手でした。

  13...Be7 14.Qg3 Bf6 15.Rc1 Nb6 16.Bb3

Y050713D.GIF

  16...Qd8 17.O-O Nd7 18.a3 Nc5 19.Ba2 O-O

Y050713E.GIF

このような閉鎖的な局面ではナイトの方がビショップより働き
に優るのは明らかです。

  20.b4 Ne6 21.Be3 Nf4!

Y050713F.GIF

  22.Qf3

22.Bxf4 と目障りなナイトを取るのは 22...exf4 23.Qf3 (23.Qxf4?
Bg5) Ne5 24.Qd1 c5 で黒のナイトに強力な足場を与えてしま
います。

  22...Nxd3 23.Rb1 Nf4

白は 24.g3 で黒のナイトを生け捕りにする手を狙っていました。

  24.b5 1/2-1/2

Y050713G.GIF

24...Ne7 25.Bxf4 exf4 26.Qxf4 で異色ビショップの戦いにな
るのでドローとなるでしょう。

試合の展開はぎこちなく、短手数でのドローは両対局者が戦
いを避けたように見えますが、実際はその逆です。防御の構
想は慎重さと忍耐を必要とし、それゆえに難しい局面で最善
手を探し求めた両対局者が時間切迫に追い込まれたのももっ
ともです。そもそも本局はこの戦型が実戦に現われた初期の
試合の一つでした。

これで「シュタイニッツ防御」と「遅延シュタイニッツ防御」を終
わります。「シュタイニッツ防御」は戦型が明確で大きな変化
は起こりそうにありませんが、「遅延シュタイニッツ防御」は定
跡の発展のほんの一過程に到達しただけです。これまで見て
きたのは代表的な戦型だけで、センターをめぐる戦いが明確
に現われていました。

これらの2章ではラスカー、カパブランカおよびアリョーヒンの
ような偉大な選手たちがどのようにシュタイニッツの構想を実
戦で用いてきたかを明らかにしてきました。カパブランカのよう
な選手がどのように容易にシュタイニッツの基本的な構想を
実行に移すかを見るのは興味深いものです。黒番での3局で
カパブランカは絶妙のタイミングで展開の完了時にセンターを
放棄しました。それにより強制的な駒の交換で緊張を緩和す
ることができました。今日ではこれらの原理は当たり前として
受け入れられ、我々がチェスの技術の面から語るゆえんにな
っています。

[第5章終わり]

投稿者 yamagishi