2005年07月16日

「ルイ・ロペスの進化」(32)

第6章 チゴーリン防御

ルイ・ロペス定跡におけるもう一人の開拓者はチゴーリンです。
彼はシュタイニッツと同じように当時流行していたベルリン防御
や「開放(Open)」防御に疑念をもっていました。

ルイ・ロペスにおける堅実な防御法の追究に努めながら彼は一
時期心理的な葛藤に陥っていたようです。そして彼の探究にお
ける二つの明瞭な段階がくっきりと見て取れます。

タラシュ(Tarrasch)によれば1893年の時点で防御についてのチ
ゴーリンの考えはまだシュタイニッツの影響を受けていました。
実際その年のタラシュとの番勝負と1895年のヘースティングズ
(Hastings)での大会でチゴーリンはg8のナイトをe7からg6へでな
くf6からd7へ展開させるシュタイニッツ流の受身の防御を採用し
ていました。

後に彼はより大胆な構想を考案しました。それはクィーン側のポ
ーンを突き進めて白のキング側ビショップを押し返し、連鎖ポー
ンの内側での駒の配置転換のための空間を得ようというもので
した。

草創期

本局は彼が実戦で自分の新戦法を用いた最初の試合です。

【第25局】ラスカー(Em.Lasker) - チゴーリン(M.I.Tchigorin)
ロンドン、1899年

  1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6

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  5.O-O

1893年のタラシュ対チゴーリンの番勝負の第15局は 5.Nc3 d6
6.d4 Nd7?! 7.Ne2 Be7 8.c3 O-O 9.Ng3 Bf6 10.h3 Ne7 11.O-O
Ng6 12.Bb3 Re8 13.Qd3 Ndf8 14.Ne2 Qe7 15.Bd2 と進みました。
この試合もチゴーリンの独創的な戦型でした。そして注目すべき
はこの戦型でタラシュに好成績を収めたにもかかわらず彼は本
譜に見られる、より攻撃的な防御に転じたことです。ロシアの達
人ケレス(Keres)とスミスロフ(Smyslov)によるこれらの二つの戦型
の融合の成功は後に紹介します。

  5...Be7 6.Nc3

この手は「小駒をまず展開せよ」という当時の格言に沿ったもの
です。今日(1950年頃)ではより精力的な 6.Re1 が好まれていま
す。それは Pc3 と Pd4 で連鎖ポーンを形成することができるか
らです。

  6...b5 7.Bb3 O-O 8.d3 d6

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  9.Be3

ラスカーは 9.a4 (8.d3 の替わりに指すべきだった手) は 9...Bg4
10.axb5 Nd4 で簡単にかわされることに気付いて予定を変更した
に違いありません。

  9...Na5 10.Ne2 c5 11.c3 Nxb3 12.axb3 Qc7 13.Ng3 d5!

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局面は明らかに黒優勢です。黒は双ビショップを保持し、センター
で攻勢に立ち、クィーン側で優位に立っています。

世界選手権者が白の最強のオープニングでわずか13手で劣勢
の局面に立たされたという事実にほとんど誰も興味を示さなかっ
たことに一言言及しておきます。

  14.Qc2 Bb7 15.Rfe1 h6 16.Rad1 Rfe8 17.Bc1 Bf8 18.Kh1

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  18...Qc6

チゴーリンは白にセンターを放棄させようとしています。しかしこの
手は予期した成果を得ることができませんでした。黒が 18...Rad8
19.Ng1 Rd7 でd筋にルークを重ね ...dxe4 又は ...d4 を狙っていた
ら白の防御は非常に難しかったでしょう。

  19.Ng1 a5 20.f3!

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この手はラスカーらしい受けの好手です。白はまずセンターを補
強し次にナイトの活動を意図しています。このような局面での彼の
指し回しは常に賞賛に値します。

  20...b4

20...c4 21.bxc4 bxc4 22.d4 Rad8 の方が優りました。黒は b7 の
ビショップのために斜筋を開けるようにしないといけません。

  21.Nf5 Qe6 22.Nh3 Bc6 23.c4!

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ここで白が優位に立ちました。23...d4 は 24.f4 と応じられ白がキ
ング側で押しまくることができます。さらにこのような閉鎖的な局
面ではナイトの方がビショップより働きが強くなります。

  23...dxe4 24.dxe4 a4 25.bxa4 b3 26.Qc3 Rxa4 27.Ne3!

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ラスカーの冴えたナイト使いです。c4 のポーンの防護だけでなく
d5 の地点も確保しています。

  27...Rb8 28.Nf2 Ne8 29.Nd3 f6 30.Bd2

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  30...Qc8

34 手目で明らかになるようにここでは 30...Qd7 と指すべきでした。

  31.Ra1 Nc7 32.Rxa4 Bxa4 33.f4 exf4 34.Nxf4

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  34...Qe8

黒は 34...Re8 と指すことができません。黒の30手目の間違いが
たたっています。

  35.Nf5 Rd8 36.Qe3 Bd7

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この手がサクリファイスか見落としか分かりませんがいずれにせ
よ黒の困難な局面であることだけは確かです。白は Ba5 と Qg3
の狙いでキング側での攻撃を目論んでいます。

  37.Qxb3 Bxf5 38.exf5 Qd7 39.Ba5 Re8 40.Rd1 Qc8
  41.Qd3 Re5 42.Ng6

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  42...Re8

42...Rxf5 は 43.Bxc7 でダメです。

  43.h3 Na6 44.Qd5+ Kh7 45.Qf7 Nb4 46.Rd7 Re1+
  47.Kh2 Bd6+ 48.Rxd6 Qxf5 49.Rd8 1-0

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49...Qxg6 とナイトを取れば 50.Qg8# で詰みです。

2、3年後にこの試合は関心が高まり、1899年ロンドン大会の最
優秀試合として黒のオープニングの指し方が高く賞賛されました
が、ルイ・ロペスにおける黒の新機軸をチェス界が評価するに至る
までには長い時間を要しました。今日ではチゴーリン防御はルイ・
ロペス定跡でもっとも多用される防御になっています。

投稿者 yamagishi

2005年07月19日

「ルイ・ロペスの進化」(33)

第6章 チゴーリン防御

チゴーリン防御の最近の戦型

前局はチゴーリン防御の初期の戦型の例でした。チゴーリンの
構想の革新的な特色はすぐには実戦に現われませんでした。
実際ピルズベリー(Pillsbury)とタラシュ(Tarrasch)も白でラスカー
(Lasker)と同様の無頓着な指し方をしていました。

本局は現在の指し方に近い展開をたどっています。

【第26局】デュラス(O.Duras) - チゴーリン(M.I.Tchigorin)
ニュルンベルク(Nuremberg)、1906年

  1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Be7
  6.Re1 b5 7.Bb3 d6 8.c3 O-O 9.h3 Na5 10.Bc2 c5
  11.d4 Qc7 12.Nbd2 Kh8

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この手はキング側の安全を確保することを意図しています。
今日(1950年頃)ではこれは他の手段で、しかももう少し後の
段階で行なわれています。しかし基本原則は同じです。

  13.Nf1 Ng8 14.Ne3 Be6 15.Nf5

15.dxc5 dxc5 16.Nd5 の方が優りました。

  15...Bf6 16.d5

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黒からの 16...cxd4 17.cxd4 Bxf5 18.exf5 exd4 (19.Nxd4 Bxd4
20.Qxd4 Qxc2) でポーンを得する狙いを防ぐため白はセンター
を閉鎖しました。

  16...Bd7 17.g4 g6 18.Ng3 Bg7 19.Kh2 Nc4

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  20.Nd2

20.b3 は 20...Nb6 から ...a5 と ...c4! で黒が攻勢をかけることが
できます。

  20...Nb6 21.h4 Qd8

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  22.Kg2

22.g5 とポーンを守るのは 22...f6 23.Nf3 fxg5 24.hxg5 Bg4 で
黒良しです。白の21手目がサクリファイスか見損じかは何とも
言えません。

  22...Qxh4 23.f3 Bh6 24.Rh1

hファイルが開いているので白の攻撃は迫力があります。それに
対するチゴーリンの受けが見ものです。

  24...Qf6

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  25.Rh3!

25.Rxh6 Nxh6 26.g5 で一見白の勝ちのようですが 26...Qxg5
27.Nc4 Qh4 28.Nxb6 Qh3+ 29.Kf2 Qh2+ 30.Ke3 Qxg3
31.Nxd7 Rfd8 32.Nf6 Qf4+ 33.Ke2 Qxf6 34.Bxh6 g5 の後
35...Rg8 から 36...Rg6 でビショップを捕獲されて黒の交換得に
なるという罠がありドュラスはそれにはまりませんでした。(訳注 
Fritz8 によれば 35.Qh1 Rg8 36.Qh5 Rg6 37.Rh1 で h6 のビ
ショップは取られません。)チゴーリンの解説によるこの変化手
順から19世紀の名手たちが深く正確に読んでいたことが分か
ります。

  25...Qg7 26.Kf2 Bf4 27.Ndf1 Rae8

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  28.Ne3

28.Bxf4 とビショップを交換するのは 28...exf4 29.Ne2 f5 で白
の陣形が崩されます。

  28...Re7 29.Qh1 f6 30.Ng2 Bg5 31.b3 Ref7 32.Be3 Ne7

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  33.Nh4 Bxe3+ 34.Kxe3 f5! 35.gxf5 gxf5 36.exf5 Qg5+
  37.Ke2 Nbxd5

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今まで遊んでいた b6 のナイトが働き出し、チゴーリンが敵陣
突破を準備していることも明らかになってきました。

  38.Ke1 Qe3+ 39.Ne2 Nf4 40.Rh2 Nxe2 41.Rxe2 Qxc3+ 42.Kf2

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  42...Qd4+ 43.Kg2 Rg7+ 44.Ng6+ Nxg6 45.fxg6 Bc6 46.Rf2 Rxf3

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  47.Rxf3 Bxf3+ 48.Kxf3 Qc3+ 49.Ke4 Qxc2+ 50.Kd5 Qd3+
  51.Kc6 Qxg6

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  52.Kb6 d5+ 53.Kxc5 Rc7+ 54.Kxd5 Rd7+ 55.Kxe5 Qe8+

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キングが盤中を逃げ回るのは古き良き時代のロマンチックな
作法です。今日ではほとんど見られません。

  56.Kf4 Rf7+ 57.Kg3 Qe3+ 0-1

チゴーリンがこの試合を指したのは56歳の時で既に棋力は下り
坂にさしかかっていました。1903年のウィーンでのギャンビット
大会を除き彼の成績は振るいませんでした。本局は大会の
優勝者のデュラスの喫した唯一の敗北で、チゴーリンは自分の
創始した戦法による勝利に満足を覚えたことでしょう。

投稿者 yamagishi

2005年07月22日

「ルイ・ロペスの進化」(34)

第6章 チゴーリン防御

白がセンターを開放したままにする-ラスカーの指し方

前局は現代の戦型に対する創始者の防御法の興味深い一戦
でした。しかし最初の真の試練は1908年のラスカー対タラシュ
戦に訪れました。

ラスカーは決して定跡を科学的に研究することはありませんで
した(彼は研究によって有利を得ようとは望んでいないと言われ
ていました)。しかし彼の方法は深遠で理性的でした。彼はチェ
スの一般原則を適用することによって序盤を指し進めていまし
た。従って研究による有利を得ることを自ら放棄していても、彼
は実戦で序盤の問題に対する偏見のない取り組みにより、そ
れ以上のものを得ていました。

本局はラスカーと科学派タラシュとの熱戦です。

【第27局】ラスカー(Em.Lasker) - タラシュ(S.Tarrasch)
第5局、1908年

  1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Be7
  6.Re1 b5 7.Bb3 d6 8.c3

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  8...Na5 9.Bc2 c5 10.d4 Qc7 11.Nbd2 Nc6 12.h3 O-O

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  13.Nf1

この手では堅実な 13.d5 もありますが勝つ可能性は低くなりま
す。従ってラスカーはポーンを犠牲にしても形を固定しないよう
にしました。これは初めての試みでしたが、単に一時の思いつ
きや試行ではなく、ラスカーのチェス観の一端と考えられます。
30年経っても彼は衆評とは裏腹に自著の「チェス入門(Manual
of Chess)」でこの手を推奨していました。

  13...cxd4 14.cxd4 Ncxd4 15.Nxd4 exd4

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  16.Bg5

第3局でラスカーは 16.Ng3 Nd7 17.Bb3 Qb6 18.Nf5 Bf6 19.Bf4 Ne5
20.Bd5 Ra7 と指し進めましたがポーンの十分な代償が得られ
ず負けました。エイベ(Euwe)は 16.Ng3 Nd7 17.Nf5 Bf6 18.Re2 Qb6
19.Rd2 でポーンを取り返すことができると主張しました。しかし
パッハマン(Pachman)は 19...Ne5! 20.Nxd4 (20.Rxd4? Bxf5
[訳注 Fritz8 によると 20...Nc4 で黒やや良し。] 21.exf5 [訳注 
Fritz8 によると 21.Rxd6 で白が悪くない。] Nf3+) Nc4 21.Rd3 Bb7!
で黒が優勢であることを示しました。

  16...h6?

タラシュは「16...Nd5 は 17.Bxe7 Nxe7 18.Ng3 Be6 19.Ne2 Nc6
20.Rc1 Qb6 21.Qd2 となり、白は最終的に d4 のポーンを取り
返し黒には d6 に孤立ポーンが残される。」と評しています。し
かし黒は 21...d5 22.exd5 Bxd5 23.Rcd1 Rad8 で有利になりま
す。これはつまり 16.Bg5 が最強手ではなかったということを示
しています。従って白はアラピン(Alapin)の薦める 16.b3 から
Bb2 とフィアンケットした方が良かったでしょう。

  17.Bh4 Qb6 18.Qd3

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  18...g5?

18...Re8 が良い受けでした。もし 19.e5 と来れば 19...dxe5
20.Bxf6 Bxf6 で黒のキングは e7 に逃げ場があります。

  19.Bg3 Be6 20.Rad1 Rfc8 21.Bb1 Nd7 22.e5 Nf8 23.Qf3

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当然ラスカーはポーンを取り返すことには満足せず、黒のキン
グの不安定さを利用しようとしています。

  23...d5 24.Qh5 Kg7 25.f4!

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さらに黒の陣形を弱体化させます。

  25...f5

タラシュは 25...Ng6 26.f5 d3+ 27.Bf2 Bc5 28.Ne3 Nf4 を薦め
ましたが、白は 28.f6+ をさしはさむことにより以下 28...Kh7
29.Ne3 Nf4 30.Bxd3+ Nxd3 31.Rxd3 となり白がより一層有利
になります。

  26.exf6e.p.+ Bxf6 27.fxg5 hxg5 28.Be5!

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これで白は黒のキングを守る残りのポーンを取り除くことができ
ます。そうなれば白の攻撃は防ぎようがなくなります。

  28...d3+ 29.Kh1 Ng6 30.Qxg5 Bf7 31.Ng3

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黒からの 31...Bxe5 32.Rxe5 Qf6? を防ぎました(33.Nh5+)。

  31...Bxe5 32.Rxe5 Rh8 33.Bxd3

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  33...Ra7

33...Qf6? には 34.Nf5+ があります。

  34.Rde1 Kf8 35.Bxg6 Qxg6 36.Qe3 Rc7 37.Nf5 Qc6 38.Qg5 1-0

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この試合の重要性は初めてセンターをめぐる戦いが見られたこ
とにあります。黒は白にセンターを(d 筋のポーンを突き進める
ことにより)固定するか、あるいは(本譜のように)黒がセンターを
破壊し反撃を開始する(白の16手目の解説中の第3局を参照し
て下さい)ことを許すかを白に強要しました。

タラシュの自滅と、防御に関する彼の批評はどのように説明し
たら良いでしょうか?彼は受身の抵抗を非常に嫌っていました。
センターにおける黒の圧力が白のキング側の優位に対して不
十分な代償であると考えた彼は独善的に防御が不適当である
と考えたのでした。

投稿者 yamagishi

2005年07月25日

「ルイ・ロペスの進化」(35)

第6章 チゴーリン防御

ルビーンシュタインによる防御の改良

前局におけるタラシュの敗北はチゴーリン防御の信頼性に不信
を抱かせました。彼がこの防御を採用しなくなったことと、彼の
解説者としての大きな影響力は他の人にこの防御が劣等であ
ると確信させました。それは特に1910年のラスカー対シュレヒ
ターの番勝負で復活した「開放」防御の優秀性を彼が示すこと
ができたことによるものでした。

しかし全盛期だったルビーンシュタインは本局に見られるように
この防御を改良することができました。

【第28局】レオンハルト(P.S.Leonhardt) - ルビーンシュタイン(A.Rubinstein)
サン・セバスティアン、1911年

  1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Be7
  6.Re1 b5 7.Bb3 d6 8.c3 O-O 9.h3 Na5 10.Bc2 c5
  11.d4 Qc7 12.Nbd2 Nc6 13.Nf1 cxd4 14.cxd4 exd4!

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前局でタラシュは 14...Nxd4 と指しました。似た形ですが本局と
の違いは1組のナイトが交換されるという点です。交換で役駒
が減るほど防御が楽になるという彼の判断は間違っていました。

  15.Bg5 h6 16.Bh4 Re8 17.Rc1 Qb6 18.Qd2 Be6 19.Bb1 Ne5!

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ここで前局との違いが明らかになります。白が次に Rcd1 で d4
の黒ポーンを取ろうとする丁度その矢先にナイトが絶好の位置
を占め戦いに加わります。もし白が 20.Nxd4 ならば 20...Bxh3
21.f4 (21.gxf3? Qxd4! 22.Qxd4 Nf3+) Bd7 22.Bf2 Neg4! です。

  20.N1h2 Nc4 21.Qxd4

もし 21.Qe2 ならば 21...Nh5 で 22...Nf4 を狙われます。

  21...Qxd4 22.Nxd4 Nxb2 23.Nc6 g5!

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  24.Nxe7+ Rxe7 25.Bg3 Nc4 26.Nf3 Rae8

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  27.Rcd1

27.Bxd6 とポーンを取っても 27...Nxd6 28.e5 Nde4 でうまく行き
ません。

  27...d5 28.e5 Nh5 29.Bh2 Ng7 30.g4 Bc8!

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ルビーンシュタインは中盤の手どころを難なく指し進めて行きます。

  31.Rxd5 Bb7 32.Rd3 Bxf3 33.Rxf3 Nxe5

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  34.Bxe5

これは取るしかありません。もし 34.Rfe3? なら 34...Nf3+ でたち
まち負けです。

  34...Rxe5 35.Rxe5 Rxe5 36.Kf1 Ne6 37.Ra3

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  37...Nf4

これは最短の勝ち方ではありませんでした。37...Nc5 の方が良
く 38.Rc3 Kf8 39.Rc1 Ke7 40.Rd1 b4 の後白のルークが押さえ
込まれクィーン側で速やかに勝敗の決着がついたでしょう。

  38.Rxa6! Rc5 39.Ra8+ Kg7 40.Re8 Nxh3 41.Kg2 Nf4+ 42.Kf3 Ne6

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  43.Rb8 Rc3+ 44.Kg2 Rc4 45.Bf5 Nf4+ 46.Kh2 b4 47.Rb7 Ne2

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  48.Kg2

48.Be6 は 48...Rf4 49.Kg2 Nd4 です。

  48...Rf4 49.f3 h5! 50.Kf2 Nc3 51.Ra7 hxg4! 52.Bxg4 Kf6

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  53.a3?

この手は悪手でした。正着は 53.Kg3 で、黒の応手が非常に
難しいところでした。

  53...b3 54.Rb7 b2! O-1

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この試合は多くの人の自信を回復させたかもしれませんが、
チゴーリン防御の人気は回復しませんでした。たとえば有名な
1914 年のサンクトペテルブルクでの大会でこの防御が全然指さ
れませんでした。

投稿者 yamagishi

2005年07月28日

「ルイ・ロペスの進化」(36)

第6章 チゴーリン防御

白のキング側攻撃に対するルビーンシュタインの防御法

これまでの試合では戦いは主にセンターの支配をめぐって行な
われていました。これは実際は前哨戦に当たり、白はキング側
攻撃を敢行し黒はクィーン側での反撃を開始することになります。

かなり疑問の余地のあるポーンのただ捨てなしにはセンターで
の緊張を維持することができないことが分かってきました。これ
は棋理に合わない不当な変化を指させるもとになったラスカー
の冷徹な棋風に合っていたのかもしれません。

それを避けるためには白はセンターを閉鎖することになります。
これは同時にクィーン側も閉鎖することができキング側では一
方的な支配を得ることができたので正当な手続きのように思わ
れました。

本局はこの構想の典型的な実例です。

【第29局】ボゴリュボフ(E.D.bogolyubov) - ルビーンシュタイン(A.Rubinstein)
バーデンバーデン(Baden-Baden)、1925年

  1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Be7
  6.Re1 b5 7.Bb3 d6 8.c3 O-O 9.h3 Na5 10.Bc2 c5
  11.d4 Qc7 12.Nbd2

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8...O-O 9.h3 が入ると白からの a4 は脅威とはなりません。と
いうのは 12...Bd7 でルークが連結するからです。黒は ...b5 を
控えて適当な時期にクィーン側での反撃を行なうこともできます。

  12...Nc6 13.d5

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この手は序盤における問題の簡単な解決のように見えます。し
かし解決しなければならない同等に重要な問題も抱えていま
す。白はセンターだけでなくクィーン側も閉鎖しなければなりま
せん。さもないとキング側を攻撃した際に黒から反対側の側面
で危険な反撃を許す危険があります。

  13...Nd8

13...Na5 という手もあり 1937-8 年のヘースティングズ(Hastings)
でのアレグザンダー(Aexander)対ケレス(Keres)戦では以下
14.b3 Bd7 15.Nf1 Nb7 16.c4 Rfe8 17.Ne3 bxc4 18.Nxc4 Bf8
19.a4 Na5 20.Nfd2 と進みました。黒はクィーン側の閉鎖を妨げ
ることに成功しましたが、白の態勢のほうが優勢でした。

  14.a4 Rb8

14...b4 は白が 15.c4 で本譜の手順に戻れるので良くありませ
ん。白には 15.Nc4 もあり 1927 年のニューヨークでのカパブラ
ンカ(Capablanca)対ヴィドマール(Vidmar)戦では以下 15...a5?
16.Nfxe5 Ba6 (16...dxe5 17.d6) 17.Bb3 dxe5 18.d6 Bxd6
19.Qxd6 Qxd6 20.Nxd6 Nb7 で白の有利な収局になりました。

  15.c4 b4

15...Bd7 としてクィーン側を閉鎖しないと 16.Nf1 bxc4 17.Ne3! Rb4
18.Nd2 で重要な c4 の地点をナイトで再び占拠することができ
ます。

  16.b3

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白の最初の任務が完了しました。センターとクィーン側は完全
に閉鎖され白はこれから後顧の憂いなくキング側に目を向ける
ことができます。

  16...Ne8 17.g4 g6 18.Kh1 Ng7 19.Rg1

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  19...h5!

この手は一見攻撃を志向し、相手が優勢で攻撃を意図している
方面ではポーンをいじるなという原則に背いているように見えま
す。しかしこの手の真価は h 筋のポーンを交換することによっ
て白の攻勢を二つの筋に限定させることにあります。h 筋が開
いても黒にとって危険ではありません。

  20.Nf1

h3 のポーンが無防備なので 20.g5 はありません。しかし白が
キングを h1 でなく h2 に動かしていたとしても 20.g5 は 20...f6
21.gxf6 Rxf6 で f 筋への圧力が増します。

  20...hxg4 21.hxg4 f6!

Y050728E.GIF

  22.Ne3

ここでの 22.g5 は 22...f5 とかわされます。

  22...Nf7 23.Nh4 Nh8

黒の防御はピッタリ間に合っています。

  24.f4 exf4 25.Nef5

Y050728F.GIF

白は前の手の時にこのナイトの犠牲を予定していました。

  25...Nxf5!

このナイト捨てを 25...gxf5 とポーンで取ると 26.gxf5 Bd8
(26...Rf7 27.Qh5!) 27.Qh5 Rf7 28.Bxf4 で黒のキングは逃走で
きず(h8 のナイトをただで取られるので)黒の破滅に終わります。
白はさらに Rg2、Rag1、Rh2、Qh6 の後 Nf3 あるいは Ng6 で
攻撃態勢を強化することができます。

  26.gxf5 g5 27.Bxf4 Rf7 28.Bh2 Rh7 29.Ng2 Nf7 30.Ne3 Bd7

Y050728G.GIF

  31.Kg2 Kg7 32.Rh1 Rbh8 33.Qe2 Qc8 34.Bg3 Qg8 35.Ng4

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  Rxh1 36.Rxh1 Rxh1 37.Kxh1 Qh7+ 38.Kg2 Qh5 39.Bd1 Nh6

Y050728I.GIF

ルークの総交換の後ではこれでもはやドローは不可避です。

  40.Qe1 Nxg4 41.Bf3

ナイトは逃げられません。

  41...a5 42.Qe2 Be8 43.Bxg4 Qh6 44.Kg1 Bf7 1/2-1/2

Y050728J.GIF

本局と、両者の他の2局はチゴーリン防御の攻撃と防御に光明
を投じました。しかし白の攻撃が自然の流れで実行し易いのに
比し、黒の防御は熟練を要しました。この点においてルビーン
シュタインは予断のない予防手(19...h5)で確実に斬新な構想を
この試合で披瀝し、防御の手筋に貢献しました。

投稿者 yamagishi

2005年07月31日

「ルイ・ロペスの進化」(37)

第6章 チゴーリン防御

白がセンターの緊張を維持する-ケレスの貢献

現代(1950年頃)の達人たちの中でルイ・ロペス定跡の発展に
最も大きな貢献をしたのはケレスです。彼の局地戦闘に長けた
棋風は自然と攻撃の可能性に満ちた局面を作り出しました。
問題は不審な変化を用いることなく、いかに活気ある試合に
持って行くかでした。そのため彼は序盤を徹底的に研究しその
結果手筋による攻撃の可能性を見つけ出しました。そして彼は
それらを一つの一貫したシステムに統合し新機軸を開きました。

本局は彼のシステムの典型例です。

【第30局】ケレス(P.Keres) - レシェフスキー(S.Reshevsky)
ストックホルム、1937年

  1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Be7
  6.Re1 b5 7.Bb3 d6 8.c3

Y050731A.GIF

  8...Na5

ケレスによればこの手は 8...O-O ほど正確な手順ではありません。

  9.Bc2 c5 10.d4 Qc7 11.a4!

Y050731B.GIF

この手は黒の防御態勢を乱します。黒が 11...Rb8 と応じれば
12.axb5 axb5 13.h3! (すぐに 13.dxe5 と取るのは 13...dxe5
14.Nxe5? Qxe5 15.Rxa5 Ng4! 16.f4 Qc7 17.Ra1 c4! で g1-a7
の弱体化した斜筋につけこんで黒の交換得になります。) Nc6
(...Ng4 がないので今度こそポーン交換から Nxe5 の筋が成立
します。) 14.Be3! で、黒からの ...Na5-c4 が恐くないので白は
センターの緊張を維持することができます。

  11...b4 12.cxb4 cxb4 13.h3 O-O

Y050731C.GIF

  14.Nbd2

1916 年のタラシュ(Tarrasch)対ラスカー(Lasker)の番勝負第1
局で白は 14.Bg5 Re8 15.Nbd2 Nd7 16.Bxe7 Rxe7 17.Rac1 Qb6
18.Nf1 Bb7 19.Ng3 g6 20.dxe5! と指し、ラスカーによればここで
黒は実戦の 20...dxe5 でなく 20...Nxe5 で互角の形勢にできま
した。

  14...Be6

黒はセンターを安定させたいので白に 15.d5 と指すよう誘って
います。黒のこの手は同時に c 筋からの反撃も準備しています。

  15.Nf1 Rfc8 16.Ne3!

Y050731D.GIF

ピッタリの駒繰りでビショップに紐をつけると同時にナイトをセン
ターに集結させることができました。この位置からまもなく重要
な攻撃の可能性が生まれます。

  16...g6

別案の 16...Nc4 は 17.Nxc4 Bxc4 18.Bg5 の後 19.Rac1 となり
黒が良いかどうか疑問です。

  17.b3 Nh5 18.Bb2 Bf6 19.Rac1

Y050731E.GIF

  19...exd4

これまで維持してきたセンターを放棄するのは確かに簡単に
できる決断ではありません。しかし 19...Qb8 は 20.Ng4 Bxg4
21.hxg4 Nf4 (21...Ng7 は 22.g5 の後白のポーン得になるので
絶対手です。) 22.d5 g5 (白の狙いは 23.Qd2 から 24.g3 でナ
イトを取ることです。) 23.g3 Ng6 24.Kg2 の後 Rh1-h5 で白が
明らかに有利になります。

  20.Nxd4

20.Bxd4? は 20...Nxb3 で黒がポーンを得します。

  20...Qd7 21.Rb1 Rc5 22.Ndf5!

Y050731F.GIF

黒のビショップを強制的に交換させることにより黒枡を弱体化
させます。

  22...Bxf5 23.exf5 Bxb2 24.Rxb2 Re8

Y050731G.GIF

  25.Bd3

もっと直接的に 25.Qg4 で 26.fxg6 と 26.Qxb4 を両にらみとする
手もありました。

  25...Qc6 26.Qg4 Qb6 27.Rbe2 Rce5 28.fxg6 fxg6
  29.Bxg6 hxg6 30.Qxg6+

Y050731H.GIF

  30...Kh8

30...Ng7 と受けるのは 31.Nf5 Qc7 32.Nxg7 Qxg7 33.Qxe8+
です。黒は 30...Kf8 31.Nd5 Qc5 32.Rxe5 Rxe5 33.Rxe5 dxe5
34.Qf5+ Kg8 35.Qxe5 Qc1+ 36.Kh2 Qd1 37.Qb8+ の後 a5 の
ナイトを取らせる展開の方が良かったかもしれません。

  31.Nf5 R8e6 32.Qxh5+ Kg8 33.Qg5+ Kf8 34.Qg7+ Ke8
  35.Nxd6+ 1-0

Y050731I.GIF

この試合により黒の指し手が正確さを欠けば (8...O-O でなく
8...Na5) 白はセンターの緊張を維持できることが分かりました。
この作戦は以前にタラシュにより対ラスカー戦で試みられてい
て(14 手目の解説を参照)、もう少しで白の有利さを示すことが
できるところでした。しかしクィーン側の防御とセンターでの攻撃
を組み合わせるケレスの作戦の方が説得力があります。ところ
がこれも最終結論にはなりません。というのはケレスが黒の
改良した防御法を見つけているからです。

投稿者 yamagishi

2005年08月03日

「ルイ・ロペスの進化」(38)

第6章 チゴーリン防御

チゴーリンが採用した黒の積極防御法

チゴーリンが棋歴の晩年にさらに積極的な防御法を編み出した
ことはあまり知られていないようです。それは ...cxd4 によって
c 筋を開けてクィーン側で白に忙しくさせキング側の攻撃を邪魔
するというものでした。この防御法によってチゴーリンは多くの
論議を呼んだ戦型を登場させました。そしてそれは彼の死後も
定常的に用いられ最近になってようやく最終結論が得られそう
です。ただしどんな布局にも最終結論があると言えるならばの
話ですが。

【第31局】シュレヒター(K.Schlechter) - チゴーリン(M.I.Tchigorin)
オーステンデ(Ostend)、1907年

  1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Be7
  6.Re1 b5 7.Bb3 d6 8.c3 O-O 9.h3

Y050803A.GIF

  9...Na5

単純化を図る 9...Be6 がボトヴィニク(Botwinnik)によって近年
復活しました。1947年モスクワでのチゴーリン記念大会でボレ
スラフスキー(Boleslavsky)を相手に彼は 9...Be6 10.Bxe6 fxe6
11.d4 Qd7 12.dxe5 dxe5 13.Qxd7 Nxd7 14.Be3 Nc5 15.Bxc5 Bxc5
16.Nbd2 Bb6 と指し試合はここでドローになりました。面白いこ
とにこの戦型は既に 1904 年ケンブリッジ・スプリングズ(Cambridge
Springs)でのシュレヒター対チゴーリン戦に現われ、その試合
では 9...Be6 10.d4 exd4 11.cxd4 Bxb3 12.Qxb3 Na5 13.Qa3 c5
と進行しました。

  10.Bc2 c5 11.d4 Qc7 12.Nbd2 cxd4

Y050803B.GIF

この手がチゴーリンの新型です。この戦型の利点は次の第32
局でも見られます。

  13.cxd4 Bd7 14.Nf1

Y050803C.GIF

  14...Nc6

14...Rac8 でも 15.Bd3 Nc6 16.Be3 (クリストッフェル(Christoffel)
対ベルンシュタイン(Bernstein)、フローニンゲン(Groningen)、
1946年) で完全に互角の形勢にはなりません。センターを争う
のが一手遅過ぎます。

  15.Be3 Nb4 16.Bb1 Rfc8 17.Qd2!

Y050803D.GIF

冷静な好手です。17...Nc2 で白の厄介なロペス・ビショップと
交換させようという黒の狙いをつぶしています。

  17...d5

センターから開戦するしかありません。しかしセンターの開放は
展開に優る白にとって好都合です。もし 17...Nc2 なら 18.Rc1
でクィーンとルーク2個との交換となり黒のナイトが a1 に取り残
されます。

  18.Ng3 exd4

18...dxe4 は 19.Nxe5 で黒の e4 のポーンが非常に弱くなります。

  19.Bxd4 dxe4 20.Bxf6!

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気づき難い好手です。白が攻勢を続けるためには必要な手です。

  20...Bxf6 21.Nxe4 Be7 22.Neg5

Y050803F.GIF

  22...Nc6

22...Bxg5 23.Nxg5 でも b4 のナイトが当たりなので黒はポーン
損を避けられません。

  23.Bxh7+ Kf8 24.Rad1 Rd8 25.Nxf7!

Y050803G.GIF

  25...Bf5

他に良い手はありません。25...Kxf7 26.Qd5+ Kf6 27.Ng5 は
黒が受け無しになります。

  26.Nxd8 Rxd8 27.Qxd8+

Y050803H.GIF

このクィーン切りを見つけるのは難しくないでしょう。感嘆すべき
は白のみごとな戦略の論理的な流れの中で指されたということ
です。

  27...Nxd8 28.Bxf5 Qb6 29.Ne5 Kg8 30.Nd7 Qh6 31.Rxe7 Qg5
  32.Nf6+ 1-0

Y050803I.GIF

最後は鮮やかな決め手で締めくくりました。

この試合はチゴーリンの敗局に終わりましたが白がクィーン側
を閉鎖するのを防ぎキング側の攻撃を未然に抑止する彼の着
想は彼の戦法を継続的に用いた後の選手たちにその後 40 年
にわたり刺激を与えました。第 29 局のボゴリュボフ(Bogolyubov)
対ルビーンシュタイン(Rubinstein)戦に見られる受身の防御法
よりも黒にとって楽であることが立証されました。それは c 筋で
白が黒の主導権に反発できることが分かった現代(1950 年頃)
の定跡においても同じです。

投稿者 yamagishi

2005年08月06日

「ルイ・ロペスの進化」(39)

第6章 チゴーリン防御

チゴーリンが採用した黒の積極防御法

前局から黒の敗因は間違ったタイミングに起因することが分か
ります(本局を参照)。そして強敵の一瞬の隙につけいったシュレ
ヒター(Schlechter)の技も見事でした。

【第32局】ルーキス(M.Luckis) - ナイドルフ(M.Najdorf)
マール・デル・プラタ(Mar del Plata)、1945年

  1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Be7 6.Re1 b5
  7.Bb3 d6 8.c3 Na5 9.Bc2 c5 10.h3 O-O 11.d4 Qc7 12.Nbd2 cxd4

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c 筋を開けるこの手によって局面の性格ががらりと変わります。
白はキング側での攻勢を放棄してクィーン側に注意を向けなけ
ればなりません。クィーン側では黒が一時的ですが展開で優位
に立っています。

  13.cxd4 Nc6 14.Nb3 a5 15.Be3 a4 16.Nbd2

Y050805B.GIF

  16...Ba6

窮屈な局面でこの手は最も堅実な手ですが他にも以下のような
手があります。

(a) 16...Nb4 による反撃は 1947 年レニングラードでのボレスラ
フスキー(Boleslavsky)対ラゴージン(Ragosin)戦に現われ以下
17.Bb1 a3 18.Qb3 Qa5 19.dxe5 dxe5 20.Nxe5 Be6 21.Qxa3 Qxa3
22.bxa3 Rxa3 23.Ndf3! で白がポーン得になりました(23...Bxa2?
は 24.Bxa2 Rxa2 25.Nc6! Re8 26.Nxe7+ Rxe7 27.Bc5! Rxa1
28.Rxa1 Nc2 29.Ra2! で白の駒得)。

(b) 1938 年のボレスラフスキー(Boleslavsky)対グリゴリエンコ
(Grigorienko)戦では 16...a3 17.bxa3 Rxa3 18.Rc1 Qb8 19.Bb3 Na5
20.dxe5 dxe5 21.Bc5 Bxc5 22.Rxc5 Nxb3 23.axb3 Re8 と進み
ほぼ互角の形勢でした。

(c) 1948 年ハーグ(The Hague)でのスミスロフ(Smyslov)対レシェ
フスキー(Reshevsky)戦では 16...Bd7 17.Rac1 Rfc8 18.Bb1 Qb8
19.Nf1 Na5 20.Rxc8+ Bxc8 21.Bg5 で白良しでした。

  17.Rac1 Qb7 18.Nf1 Bd8 19.Bb1 Re8 20.Ng3 g6 21.Bg5 Na5

Y050805C.GIF

  22.d5

白はようやく黒の注文に応じてセンターを閉鎖することにしまし
た。黒がクィーン側で ...Nc4 から攻撃を開始するそぶりを見せ
ているので仕方がないようです。

  22...Qd7

すぐに 22...Nc4 と行くのは 23.b3 Na3 (23...axb3 24.Qxb3!)
24.bxa4 bxa4 25.Rc6! (25.Qxa4? Bd3) で良くありません。

  23.Bd3 Kg7 24.Qd2 Nc4 25.Bh6+ Kg8 26.Bxc4 bxc4 27.Nh4 Kh8

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  28.Bg5 Ng8 29.Bxd8 Qxd8 30.Nf3 Rb8 31.Rc3 Rb7
  32.Ra3 Bb5 33.b4! 1/2-1/2

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33...axb3e.p. 34.axb3 cxb3 でクィーン側のポーンが消滅し他の
手ではクィーン側で進攻する手段がないので引き分けが妥当です。

投稿者 yamagishi

2005年08月09日

「ルイ・ロペスの進化」(40)

第6章 チゴーリン防御

チゴーリン防御のその後の動向-ボゴリュボフ(Bogoljubov)戦法

ボゴリュボフ戦法は白が通常のチゴーリン防御に戻すことがで
きるので長い間傍筋に過ぎないとみなされていました。その後
ようやくケレスが一つの防御法にまとめあげその重要性を証明
しました。

【第33局】エイベ(M.Euwe) - ケレス(P.Keres)
14番勝負第7局、1940年

  1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Be7
  6.Re1 b5 7.Bb3 d6 8.c3 O-O

Y050809A.GIF

  9.d4

この手の代わりに白は 9.h3 と指すことができ通常のチゴーリン
防御に移行することができるように見えます。それがボゴリュボ
フ戦法が重要とみなされていなかった理由でした。しかし 9...Na5
10.Bc2 c5 11.d4 Qc7 の後 12.a4? は 12...Bd7 で応えられます。
ルークが連結したので黒は都合の良い時にクィーン側で戦闘を
始めることができます。1938 年の AVRO 主催の大会のファイン
(Fine)対レシェフスキー(Reshevsky)戦では 13.Nbd2? cxd4
14.cxd4 Rfc8 15.Bd3 bxa4 16.Qe2 Nh5 で黒有利でした。

  9...Bg4 10.d5

アリョーヒン(Alekhine)の好みは 10.Be3 でしたが黒は 10...exd4
11.cxd4 Na5 12.Bc2 Nc4 13.Bc1 c5 14.b3 Nb6 で白のセンター
のポーンを ...Nd7 と ...Bf6 で阻止することができます(イェーツ
(Yates)対ラスカー(Ed.Lasker)、ニューヨーク、1924年)。

  10...Na5 11.Bc2 c6 12.dxc6

Y050809B.GIF

  12...Nxc6

黒のこの手と次の手は ...d5 の実現に役立つようには見えませ
ん。...d5 ができなければ d6 の黒ポーンは将来弱点として残る
かもしれません。1945 年のハリウッドでのカシュダン(Kashdan)
対レシェフスキー戦では 12...Qc7 13.h3 Be6 14.Ng5 Bc8
15.Nb2 Qxc6 16.Nf1 h6 17.Nf3 Be6 18.Ng3 Nh7 19.Nf5 Rfe8
20.Nxe7+ で白有利でした。しかしケレスの構想はこの後で明ら
かとなります。

  13.Nbd2 b4 14.Ba4 Rc8 15.Bxc6 bxc3! 16.Bb7

Y050809C.GIF

  16...cxd2!

16...Rb8 と逃げるのは 17.Bxa6 cxb2 18.Bxb2 Rxb2 19.Nc4 Rb8
20.Ne3 で ...d5 を防がれてしまいます。

  17.Bxd2 Rb8 18.Bxa6

Y050809D.GIF

  18...d5!

18...Rxb2 とポーンに目がくらむのは 19.Bc3 で白に a 筋のポー
ンの進撃を許してしまいます。本譜の手で黒は戦略的な構想を
推進するだけでなくキング側への攻撃も開始します。

  19.Be2

(a) 19.exd5 とポーンを取るのは 19...e4 20.h3 Bh5 21.g4 exf3
22.gxh5 Qxd5 23.Rxe7 Rfd8 で黒の攻撃が調子よく続きます。

(b) 19.Bd3 と守るのは 19...dxe4 20.Bxe4 Nxe4 21.Rxe4 Bxf3
22.gxf3 Rxb2 23.Bc3 Qxd1+ 24.Rxd1 Rxa2 で引き分けに終わ
るでしょう。

  19...Bxf3

Y050809E.GIF

  20.gxf3

勝つためには唯一の取り方です。20.Bxf3 と取るのは 20...dxe4
21.Bxe4 Nxe4 22.Rxe4 Rxb2 23.Bc3 Rxa2 で互角の形勢でしょう。

  20...Bc5!

紛れを狙っています。20...dxe4 では 21.Bc3 とされます。

  21.Rb1 dxe4

21...Qb6 の方が簡明でした。

  22.Be3

22.fxe4 は 22...Bxf2+ 23.Kxf2 Nxe4+ で罠にはまります。

Y050809F.GIF

  22...Bd4?

ケレスは 22...Bxe3 23.fxe3 (23.Qxd8 は Rfxd8 24.fxe3 Rd2
で黒有利) Qb6! と指すべきだったと言っていました。

  23.Bxd4 exd4 24.Bf1 Qd5 25.fxe4 Nxe4 26.Qf3 f5 27.b3

Y050809G.GIF

  27...Qa8

27...Kh8 として白の 28.Bc4 の狙いをはずすのが簡明でした。

  28.a4 Rb6 29.Rbd1 Qa5??

時間切迫による大ポカでした。29...Rg6+ 30.Bg2 (30.Kh1? Nxf2#)
としてから 30...Qa5! とすればまだ面白い攻防が続いていたはず
でした。

  30.Bc4+ 0-1

Y050809H.GIF

30...Kh8 は 31.Rxe4 でナイトをただで取られます。

局地戦に強いケレスの棋風が良く現われた試合でした。彼の
解説がなければただ単に乱戦を求めて戦っていたと考えてしま
いそうです。深い思考によってのみ本局の戦略的目的が理解
できるでしょう。それはつまり達人の技で遂行されたセンターで
の強硬突破です。本局は最終宣告とは考えられません。つまり
白には黒のクィーン側のポーンを抑える改良手がありそうです。
しかしチゴーリン防御の別の独立した戦型に持ち込むことがで
きるので黒の防御法にとっては重要です。それは次局で示され
ます。

投稿者 yamagishi

2005年08月12日

「ルイ・ロペスの進化」(41)

第6章 チゴーリン防御

チゴーリン防御の現代定跡

チゴーリン防御の2種類の戦型がどのように一つの立派な防御
法に統合されたかが本局で示されます。

【第34局】アレグザンダー(C.H.O'D.Alexander) - ケレス(P.Keres)
英国対ソ連対抗戦、1947年

  1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Be7
  6.Re1 b5 7.Bb3 O-O 8.c3 d6 9.h3 Nd7

Y050812A.GIF

この手が白の 9.h3 に対する(9...Na5 の替わりの)別手段です。
特筆すべきはチゴーリン(Tchigorin)がこの手を 1893 年のタラ
シュ(Tarrasch)との番勝負で用いていたことです。もっともその
時には ...a6 と ...b5 とを手順に含めていませんでした。

  10.d4 Bf6 11.d5

この手は通常のチゴーリン防御に戻そうとするものですが形を
決めるのが早過ぎました。しかし単純化を許さずにセンターで
の争点を維持しようとする白の試みが容易でないことは 1946
年フローニンゲン(Groningen)でのボレスラフスキー(Boleslavsky)
対フロール(Flohr)戦からも分かります。その試合は 11.Be3 Nb6
12.Nbd2 Na5 13.Bc2 Nac4 14.Nxc4 Nxc4 15.Bc1 Re8 16.b3 Nb6
17.dxe5 dxe5 18.Qxd8 Rxd8 と進み互角の形勢でした。11.dxe5
とポーンを交換するのは 11...Ncxe5 12.Nd4 Nb6 で黒にとって
不満がありません。

  11...Na5 12.Bc2 c5! 13.Nbd2 Nb6

Y050812B.GIF

表面上は通常のチゴーリン防御の局面のように見えます。しか
し良く観察すると幾つかの重大な相違があることが分かります。
黒は(...Nc6 による)手損をこうむることなく白に d5 とポーンを突
かせることができました。通常のチゴーリン防御ではそうはいき
ません。それから b6 のナイトは白にクィーン側を閉鎖させない
重要な役割を果たしています。

  14.Nf1 g6 15.g4 Bg7 16.Ng3

この手は通常はキング側での攻撃態勢を取る目的で指される
のですが、ここでは 16...f5 に備えた守りのための手になってい
ます。布局におけるわずかな手数の違いがもたらす格差が良く
現われています。

  16...Bd7 17.b3

Y050812C.GIF

...Nc4 に脅かされずに c1 のビショップを展開できるようにする
ためにこの手も止むを得ません。しかしこの手により黒は a 筋
をこじ開けることができます。

  17...Nb7 18.Kh2 a5 19.Be3 a4 20.Qd2 f6 21.Ng1 Qc7
  22.N1e2 Nd8 23.f3 Nf7

Y050812D.GIF

守りのためにクィーン側のナイトを f7 に配置し攻撃のためにキ
ング側のナイトを b6 に配置するこの典型的なナイトの繰り替え
はラスカー(Lasker)によって 1916 年の対タラシュ(Tarrasch)戦
第5局で初めて登場しました。そして今でも最善と考えられてい
ます。

  24.h4

この手は指し過ぎです。白は攻撃する立場にありません。しかも
クィーン側が忙しくなっています。

  24...Ra7 25.Rg1 axb3 26.axb3 Rfa8 27.Rxa7 Rxa7

Y050812E.GIF

  28.g5

この手は軽率でした。28.Rb1 Ra2 29.Qd1 とクィーン側の守りに
備えなければならないところでした。

  28...fxg5 29.Bxg5

29.hxg5 とポーンで取り返すと 29...Bc8 の後 ...Qd7 で黒の両面
攻撃が可能になります。

  29...h6 30.Be3 Qd8! 31.h5 Qh4+ 32.Kg2 Ng5
  33.Rh1 Bh3+ 34.Kf2 Nxf3

Y050812F.GIF

  35.Qd3

他の手ではすぐに負けてしまいます。例えば 35...Kxf3 とナイト
を取ると 35...Rf7+ 36.Nf4 exf4 37.Bxf4 g5 38.Nf5 Qg4+ で黒
勝ちです。

  35...Rf7 36.hxg6 Rf8 37.Rxh3

Y050812G.GIF

37...Nd4+ 38.Ke1 Nxe2 で駒得する狙いに対処する唯一の手
です。このルーク切りで g3 のナイトで f 筋をふさぐつもりです。

  37...Ng5+

37...Qxh3 と単にルークを取る方が良く以下 38.Nf5 Nh2 39.Ng1 Ng4+
40.Ke1 Qg2 で ...Nxe3 と ...Ra8 の狙いが残ります。

  38.Ke1 Qxh3 39.Bxg5 hxg5 40.Qxb5 Nc8

Y050812H.GIF

  41.b4

アレグザンダーはここで 41.Nf5 Qh5 42.Neg3 Qxg6 43.Bd1 と
守る方が良かったと言っていました。

  41...cxb4 42.cxb4 Ne7 43.Qb7 Nxg6 44.Nf5 Rf7 45.Qc8+

Y050812I.GIF

  45...Kh7

45...Rf8? は 46.Ne7+ でクィーンを素抜かれます。

  46.Qe6 Rc7 47.Nxg7 Qxe6 48.Nxe6 Rxc2 49.Nxg5+ Kg8
  50.Kd1 Rb2 51.Nc3 Rxb4 52.Kc2 Nf8 53.Nf3 Nd7
  54.Nh4 Nc5 55.Nf5

Y050812J.GIF

  55...Rb6

55...Nxe4 56.Nxe4 Rxe4 57.Nxd6 Rd4 58.Nf5 Rf4 でも勝ちで
すが、わざわざ危険な指し方をする必要はありません。

  56.Ne3 Kf7 57.Nc4 Ra6 58.Kd2 Ke7 59.Ke3 Ra1
  60.Ke2 Rc1 61.Kd2 Rh1 62.Ke3 Rh2

Y050812K.GIF

興味深い収局の第1段階が終わりました。黒の構想は白の二
つのナイトを離れ離れにさせることです。それはツーク・ツワンク
によって可能になります。

  63.Nd2

63.Kf3? は 63...Rh3+ でナイトを取られ 63.Nb5? は 63...Rh3
でポーンを取られます。

  63...Rh3+ 64.Nf3 Kd7 65.Ke2 Nb3 66.Nb5

66...Nd4+ を狙われているのでこちらのナイトも動かさなければ
なりません。

  66...Rg3 67.Kf2

Y050812L.GIF

絶対手です。...Nd4+ があるのでどちらのナイトも動かしている
暇がありません。しかしキングが強制的にキング側に動かされ
たために反対側が手薄になりました。

  67...Rg8 68.Ke3 Rc8 69.Kd3

69...Rc5 70.Na3 Rc3+ 71.Ke2 Nc1+ の狙いに備えました。

  69...Nc5+ 70.Ke3 Rb8 71.Nc3 Rb3 72.Kd2 Nxe4+ O-1

Y050812M.GIF

チゴーリン防御の現代の戦型では白がセンターの緊張を維持し
ようと解消しようと黒は十分に戦えることがはっきりと示されて
います。

投稿者 yamagishi

2005年08月21日

「ルイ・ロペスの進化」(42)

第6章 チゴーリン防御

現代の定跡(白の立場から)-ラウザー戦法

第29局のボゴリュボフ(Bogolyubov)対ルビーンシュタイン(Rubinstein)
戦はセンターを閉鎖したままキング側で雌雄を決しようとする白の
作戦の好例でした。しかしこの作戦は活発な戦闘に欠けるきらい
があります。従って白はもっとセンターを活用しなくてはなりません。

本局はその構想に沿った好例です。

【第35局】ラウザー(V.Rauser) - ルーミン(N.Rumin)
レニングラード、1936年

  1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Be7 6.Re1 b5
  7.Bb3 d6 8.c3 Na5 9.Bc2 c5 10.d4 Qc7 11.Nbd2

Y050821A.GIF

  11...Nc6

11...O-O は d4 の地点に何も利かせられないために直接的な
狙いがなく、12.Nf1 で応えられるかもしれません。1938年 AVRO
大会でのアリョーヒン(Alekhine)対フロール(Flohr)戦では以下
12...Bg4 13.dxe5! dxe5 14.Ne3 Be6 15.Qe2 Rfe8 16.Ng5 c4
17.b4! cxb3e.p. 18.Nxe6 fxe6 19.axb3 b4 20.cxb4 Bxb4 21.Bd2 Bxd2
22.Qxd2 Nc6 という展開になりました。黒はセンターポーンの重複
を甘受して重要な d5 と f5 の地点を支配することができましたが
重複ポーンの弱点は致命傷になりました。

  12.a4 Rb8

12...b4 は 13.cxb4 cxb4 14.Nc4 の後 15.Ne3 と好位置にナイトを
引かれます。

  13.axb5 axb5 14.dxc5 dxc5 15.Nf1

Y050821B.GIF

  15...Be6

15...O-O なら 16.Ne3 Rd8 17.Nd5 Nxd5 18.exd5 Be6 19.Ng5 で
強い攻撃が続きます。

  16.Ne3 O-O 17.Ng5 Rfd8 18.Qf3 Rd6

18...h6 は 19.Nxe6 fxe6 20.Ng4 Rf8 21.Nxf6+ Rxf6 22.Qg4 で
白有利です。

  19.Nf5!

Y050821C.GIF

これがラウザー戦法の眼目の手です。白はナイトで d5 の地点を
占拠することを妨げられた時には同等に重要な f5 の地点を占拠
することができます。ちなみに白が f5 の地点を占拠できない時
どのように d5 の地点を占拠できるかは 1948 年のハーグ(The Hague)
でのエイベ(Euwe)対スミスロフ(Smyslov)戦の途中図を参考にして
ください。この局面は白が 26.Nd5 と指したところです。

Y050821D.GIF

  19...Bxf5 20.exf5 h6 21.Ne4 Nxe4 22.Bxe4 Bf6 23.Be3

Y050821E.GIF

黒のキング側は当面は安全ですが白は今度は再びクィーン側に
目をつけます。

  23...Ne7 24.b4 c4 25.g3 Rd7 26.Ra7 Qd8 27.Rxd7 Qxd7 28.h4 Kh8 29.g4

Y050821F.GIF

そして白は今度は戦場をキング側に移すことができます。センターが
閉鎖されていないとどんなに活発に駒が働くかが良く分かります。

  29...Ng8

29...Bxh4 とポーンをタダ取りすると 30.Qh3 Bf6 31.g5 で白の勝ち
です。

  30.g5 Be7 31.Rd1 Qc7 32.f6 Bxf6 33.gxf6 Nxf6

Y050821G.GIF

  34.Bc2 Rd8 35.Bxh6 Rxd1+ 36.Bxd1 e4 37.Bf4 Qd8 38.Qe2 1-0

Y050821H.GIF

ラウザーが創始したこの戦法は非常に革新的なものでした。つまり
センターが開放状態の間は白はキング側で攻撃できないという古く
から確立した金言を打ち破ったからです。アリョーヒンのような権威
者がそれを推奨しましたが広く認められるまでには長い時間がかか
りました。というのは白は局地戦闘で急所(d5 又は f5)を占拠しなけ
ればならないので、センターの単純化にもかかわらず白の活力が
増大することを証明しなければならなかったからでした。

投稿者 yamagishi

2005年08月24日

「ルイ・ロペスの進化」(43)

第6章 チゴーリン防御

白がセンターをめぐる戦いを再開する-ワーオール攻撃

これまでは主にチゴーリン防御の古典的な戦型を見てきました。
そして新しい構想が導入されてもそれまでの戦型に組み込まれ
て行きました。

「古典的」と言ったのは第29局のボゴリュボフ(Bogolyubov)対ル
ビーンシュタイン(Rubinstein)戦のように白のキング側攻撃が中心
となっていたからです。そこに含まれていた唯一の新しい構想は
まずクィーン側とセンターを閉鎖することによってこの攻撃を準備
することと関係がありました。この構想の弱点はセンターが完全に
閉鎖されてしまうことと活気ある戦闘ができなくなってしまうことで
した。従ってアリョーヒン(Alekhine)やケレス(Keres)のような攻撃
的な強豪がセンターの活力を取り戻す新しい手法を探求したのは
当然のことでした。

ワーオール(Worrall)攻撃(およびラウザー戦法)はそのような構想
に適合しているようです。この攻撃の根底をなしているのは(Re1
の代わりに) Qe2 と指してその後 Rfd1 とさらに強化してセンター
でのポーン突き d4 を支援しようということです。白がまず 6.Nc3
の代わりに 6.Re1 とし次にまた 6.Qe2 に代えて戦闘を活気付け
ようとしたのは面白い変遷です。

【第36局】ラスカー(Em.Lasker) - タイヒマン(R.Teichmann)
サンクトペテルブルク(St.Petersburg)、1909年

  1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Be7 6.Qe2

Y050824A.GIF

ラスカーはこの手が指されたのは本局が最初かも知れないと評
しています。

  6...b5 7.Bb3 d6 8.c3 O-O 9.d4

Y050824B.GIF

  9...exd4

9...Bg4 に対して白は 10.Rd1 で本譜と同じような展開に進む指
し方と 10.d5 Na5 11.Bc2 c6 12.dxc6 Nxc6 13.h3 Bh5 14.Be3
(1928年、ベルリン、シュピールマン(Spielmann)対ルビーンシュ
タイン(Rubinstein))戦のように指す場合があります。

  10.cxd4 Bg4 11.Rd1 d5 12.e5 Ne4 13.Nc3 Nxc3 14.bxc3

Y050824C.GIF

  14...f6

この手は悪手でした。ここから後は挽回のチャンスはないようです。
ラスカーは 14...Na5 を薦めています。1928年ストックホルムでの
レティ(Réti)対シュトルツ(Stoltz)では h3 Bh5 の手が入っていて
15...Qd7 と進みほぼ互角の形勢でした。

  15.h3 Bh5

ビショップの適切な引き場所がありません。15...Bf5 ならば本譜と
同じく 16.g4! ですし 15...Be6 ならば 16.exf6 Rxf6 17.Bg5 Rg6
18.Bc2 です。

  16.g4 Bf7 17.e6! Bg6 18.Nh4 Na5 19.Nxg6 hxg6

Y050824D.GIF

  20.Bc2 f5 21.Kh1 Bd6 22.gxf5 Qh4 23.Qf3 gxf5 24.Rg1

Y050824E.GIF

白の狙いは 25.Bxf5 Qf6 26.Qg2 でポーン得することです。

  24...f4 25.Rg4 Qh6 26.e7! 0-1

Y050824F.GIF

勝ちを決める軽妙手です。26...Rf7 と受けると 27.Bg6 Rxe7
28.Qxd5+ で a8 のルークが取られます。

この試合はワーオール攻撃が指されたごく初期の試合の一つで
す。白のセンターでのポーン突きの威力が良く現われています。
今日(1950 年頃)でも黒の防御態勢は有力であると考えられてい
ますが、チゴーリン防御の堅固さには及びません。そしてラスカー
が如実に示したようにほんの少しの疑問手でも黒の態勢は崩壊
してしまう可能性があります。

しかし白は黒がチゴーリン防御の態勢を取らせないようにできる
のでしょうか?これから取上げる2局でこの問題を明らかにします。

投稿者 yamagishi

2005年08月27日

「ルイ・ロペスの進化」(43)

第6章 チゴーリン防御

ケレスの戦法

【第37局】ファイン(R.Fine) - ケレス(P.Keres)
AVRO大会、1938年

  1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Be7
  6.Qe2 b5 7.Bb3 d6 8.a4

Y050827A.GIF

この時点におけるこの手は 6.Re1 の時よりもはるかに重要な
意味を持っています。それは黒の b5 のポーンが攻撃目標に
なり、自然な応手の 8...b4? が 9.Qc4! のために成立しないか
らです。

  8...Bg4

黒が適切な反撃の機会を得るためにはこの手しかありません。
古い 8...Rb8 は 1927 年のケチケメート(Kecskemet)でのアリョ
ーヒン(Alekhine)対アスタロス(Asztalos)における 9.axb5 axb5
10.c3 Bg4 11.Rd1 O-O 12.d4 exd4 (手抜きすれば 13.d5 があ
るので黒はセンターを放棄せざるを得ません。) 13.cxd4 d5
14.e5 Ne4 15.Nc3 Nxc3 16.bxc3 Qd7 17.h3 Bh5 18.Ra6 Nd8
19.g4 という試合やその他の試合のように黒にとって満足のい
くものではありませんでした。

  9.c3 O-O

ポーンを犠牲にするこの手は簡単そうに見えますが深い読みの
裏付けが必要でした。

  10.axb5 axb5 11.Rxa8 Qxa8

Y050827B.GIF

  12.Qxb5

この手が悪手であることが黒によって示されます。正着は
12.h3 Bh5 13.Rd1 でした。

  12...Na7!

この自然な手が長い間気付かれずにいたことは驚くべきこと
かもしれません。一見強手の 12...Na5 は 13.Bc2 Nxe4
14.Nxe5! Rb8 (14...dxe5 15.Qxe5 は白勝ち) 15.Bxe4 Rxb5
16.Bxa8 (ベク(BööK)対アレグザンダー(C.H.O'D.Alexander)、
マーゲート(Margate)、1938年) で白のポーン得になります。

  13.Qe2

この撤退には困難な決定が伴っていました。それは白が望み
得る最良の結果は苦難の末の引き分けであることが明らかだ
からです。別案の 13.Qa5 は 13...Qxe4! (13...Nxe4 14.Bd5!)
14.Qxa7 Bxf3 15.gxf3 Qxb1 16.Qxc7 (16.Qe3 Nh5!) Qg6+
17.Kh1 Qd3 18.Kg2 Nh5! で黒の攻撃がきまります。ケレスが
これらの変化を事前に研究していたのかそれとも直感で指した
のかは何とも分かりません。しかし難しい防御を行なうよりもた
だ単に局面の戦略的必要性から長く複雑な変化をいとわない
彼の積極性が如実に現われています。

  13...Qxe4 14.Qxe4 Nxe4

Y050827C.GIF

  15.d4

ダブル・ポーンを避けるのは困難です。15.Bd1 と受けると 15...Nc5
16.Be2 e4 で白は d3 の地点に重大な弱点が残ります。

  15...Bxf3 16.gxf3 Ng5 17.Kg2

単純に 17.Bxg5 Bxg5 18.dxe5 dxe5 19.Re1 Bf4 20.Rd1! で
詰みの狙いで 20...Rb8 を先手にさせない方が優りました。

  17...Rb8 18.Bc4 exd4 19.cxd4 Ne6

Y050827D.GIF

  20.d5

つらいが仕方ありません。20.Re1 は 20...Bf6 21.Bxe6 fxe6
22.Rxe6 Kf7 で黒有利です。

  20...Nc5 21.Nc3 Nc8 22.Re1 Kf8 23.Re2

Y050827E.GIF

  23...f5

23...Rb4 の方が正確でした。それならば c4 のビショップはど
ちらかの斜筋を譲らなければならず 24.Ba2 ならば 24...Nd3、
24.Bb5 ならば 24...Na7 となるところでした。

  24.Nb5 Nb6 25.b3 Nxd5!

読みの入った手でそのことは次の手から分かります。

  26.Nd4

この手は強手に見えます。f5 のポーンを狙っているだけでなく
黒の応手によっては Rxe7 から Nc6+ の両取りも狙っています。

  26...Nb4!

絶対手です。

  27.Bd2?

Y050827F.GIF

白は当初の狙いにこだわり過ぎました。ケレスの好手筋に気
付いていたら 27.Nxf5 と指していたでしょう。

  27...d5! 28.Bxb4 Rxb4 29.Nc6

29.Rxe7 は 29...Kxe7 30.Nc6+ Kf6 31.Nxb4 dxc4 32.bxc4 で
白は c4 のポーンが弱いので収局で負けます。

  29...dxc4 30.Nxb4 cxb3 31.Nd5

Y050827G.GIF

31...Bf6 から 32...b2 とされる手を防いでいます。

  31...Nd3!

正確な応手です。32.Nxe7 なら 32...Nf4+、32.Rxe7 なら
32...b2! で黒の勝ちになります。

  32.Rd2 b2 33.Rd1

33.Nc3 は 33...Bb4 34.Rxd3 Bxc3 35.Rd8+ Ke7 36.Rb8 c5 で
黒が勝ちます。

  33...c5

この手は正確でありませんでした。33...Nc1 (ルークを締め出す)
34.Nc3 Bb4 35.Nb1 c5 の後 36...c4 とすればもっと早く勝てました。

  34.Rb1 c4 35.Kf1 Bc5

Y050827H.GIF

  36.Ke2

36.Ne3? は 36...Bxe3 37.fxe3 c3 で黒の勝ちです。

  36...Bxf2 37.Ne3!

黒の目的を妨害する好手です。37...Bxe3 と取ってくれれば
38.Kxe3 で黒のクィーン側のポーンが全部落ちてしまいます。

  37...c3!

妙手です。38.Kxd3 と取れば 38...Bxe3 39.Kxc3 Bc1 で白の
ルークが閉じ込められてしまいます。

  38.Nc2 Ne1! 39.Na3

39.Nxe1 と取ると 39...Bxe1 40.Kd3 Bd2 で黒の勝ちです。

  39...Bc5

これでも十分ですが 39...Bh4 40.Kd1 Nxf3 の方がもっと早く
決まりました。

  40.Kxe1 Bxa3 41.Kd1 Bd6 42.Kc2

Y050827I.GIF

白はポーンを助けている暇はありません。さもないと ...Bf4 から
...Bc1 で終わってしまいます。

  42...Bxh2 43.Rh1

43.Kxc3 は 43...Be5+ で黒の容易な勝ちです。

  43...Be5

47 手目で分かるように 43...Bf4 44.Rxh7 Bd2 の方が正確でした。

  44.Rxh7 Kf7 45.Rh1 g5 46.Re1 Kf6 47.Rg1 Kg6
  48.Re1 Bf6 49.Rg1 g4!

Y050827J.GIF

黒のキングは侵入できないので膠着状態を脱するためにはこ
れしかありません。黒のビショップを e5 に引いた手の不利が
ここに現われています。

  50.fxg4 f4 51.g5!

他の手では 51...Kg5 から 52...f3 でおしまいです。

  51...Bd4

51...Bxg5 は引き分けにしかなりません。

  52.Rd1 Be3! 53.Kxc3 Bc1 54.Rd6+ Kxg5 55.Rb6 f3
  56.Kd3 Kf4 57.Rb8 Kg3 0-1

Y050827K.GIF

58.Rg8+ とキングを追っても 58...Kf2 59.Kc2 Ke2 60.Re8+ Kf1
61.Re7 f2 62.Re8 Kg2 63.Rg8+ Kf3 64.Rf8+ Bf4 までです。

最強と目される大会の同点優勝者同士のこの試合は一見昔
風の様相になりました。とりわけ布局において白は展開をそっ
ちのけにして古来のポーン狩りにいそしみました。そう見られる
理由は白の 13 手目の解説中のものすごい変化にあるようです。
黒のクィーンが a8 から e4 へ一足飛びに跳び白の b1 のナイト
を脅かしさらに ...Qg6+ で詰みも狙っていました。現代(1950 年
頃)のチェスの傾向は戦略的な構想を背景に局地戦が行なわれ、
最も重要なことは遂行よりも狙いで脅すことに良く現われていま
す。我々が学んでいる定跡の観点からのこの試合の重要性は、
黒が b 筋のポーンを守るために手をかける必要がなく展開を継
続することができることを示すことにあります。中盤戦と終盤戦
はここでは分かちがたいものがあります。それは駒数が減少し
たにもかかわらず収局は接近戦が多いからです。単に局地戦
の機会を残すためにクィーンを保持する 19 世紀の指し方とは
対照的です。

投稿者 yamagishi

2005年08月30日

「ルイ・ロペスの進化」(44)

第6章 チゴーリン防御

アリョーヒンの指し方

アリョーヒンはよくルイ・ロペスでワーオール攻撃を用いました。
理由はそれほど研究が行き届いていない戦型だったので彼の
接近戦の能力に非常に向いていたことと、彼の華麗な棋風に
特徴的な相手の予期しない手を指すことができたためでした。

本局では現代を代表する二人の偉大な攻撃的選手が両者の
得意な戦型で相まみえました。早い段階でアリョーヒンは手順
を変えることにより思いがけない展開に持ち込みます。もっとも
本当の驚きは(d5 でセンターを閉鎖する代わりにセンターのポー
ンを交換する)ラウザー(Rauser)戦法を彼が用いたことでした。
これはワーオール攻撃に新しい息吹を吹き込むものでした。

【第38局】アリョーヒン(A.Alekhine) - ケレス(P.Keres)
ザルツブルク(Salzburg)、1942年

  1.e4 e5 2.Nf3 Nc6 3.Bb5 a6 4.Ba4 Nf6 5.O-O Be7 6.Qe2 b5 7.Bb3

Y050830A.GIF

  7...d6

7...O-O 8.c3 d5 という指し方もあり黒はポーンを犠牲にして厳
しい反撃を目指します。この変化は大いに研究されましたが
変化が多過ぎて最終的な結論が得られるまでにはまだ非常に
時間がかかりそうです。白の最も簡単な対策は 1948 年ハーグ
(The Hague)でのケレス(Keres)対エイベ(Euwe)戦で 9.d3 d4
10.cxd4 Nxd4 11.Nxd4 Qxd4 12.Be3 Qd6 と進みここで(実戦で
の 13.Nc3 の替わりに) 13.Rc1! ならば白が優勢だったでしょう。

  8.c3 O-O

チゴーリン(Tchigorin)防御にならってすぐに 8...Na5 ならば 1944
年のアリョーヒン対レイ・アルディド(Rey Ardid)戦第2局のように
9.d4! Nxb3 10.axb3 Nd7 11.Rd1 Bf6 12.dxe5 dxe5 13.Na3 で
白が少し良かったでしょう。アリョーヒンの布局での自由闊達で
注意深い指し方がこの変化に良く現われています。

  9.Rd1

Y050830B.GIF

すぐに 9.d4 と指すのは黒からの ...Bg4 を招くかもしれません。
本譜の手は黒の次の手を見てから自分の手を決めようとして
います。

  9...Na5

ここで 9...Bg4 なら 10.h3 Bh5 11.g4 Bg6 12.d3! で 1937 年
バート・ナウハイム(Bad Nauheim)でのアリョーヒン対ゼーミッシュ
(Sämisch)戦のようにビショップが遊び駒になってしまいます。
手順変更の劇的な効果の実例です。

  10.Bc2 c5 11.d4 Qc7

Y050830C.GIF

表向きは黒が通常のチゴーリン防御の態勢に持ち込んだように
見えます。実際ワーオール攻撃に対して黒の最も安全な防御法
としてしばしば推奨されてきました。というのはここで白は 12.Nbd2
と指すことができないからです。そう指すと 12...cxd4 で黒が
ポーンを得します(c2 のビショップが浮いているので)。

  12.Bg5

どう見ても普通の展開または様子見の手のようですがアリョー
ヒンには別の狙いがありました。

  12...Bg4 13.dxe5! dxe5 14.Nbd2

Y050830D.GIF

アリョーヒンの構想が明らかになりました。白は好条件でラウザー
の陣形を作ることができました。その好条件とは手得で f1 の
ルークを e1 を経由せずに直接 d1 に配置し、さらに h3 の手も
省略しています。この陣形では h3 はほとんどあるいは全く価値
がありません。2手得でアリョーヒンはさらに活発な指し方ができ
ます。

  14...Rfd8

単純化を図る 14...Nh5 は 15.h3 Bxf3 16.Nxf3 Bxg5 17.Nxg5 Nf4
18.Qg4 で f4 のナイトが g3 で追われた後 d5 の弱点の解消に
役立っていません。

  15.Nf1 Nh5 16.h3 Be6

16...Bxf3 17.Qxf3 Bxg5 18.Qxh5 の方が白のナイトが e3 に
来るのを防げたので優ります。それでも黒の d5 の地点の弱点
はそのまま残ります。

  17.Ne3 f6

Y050830E.GIF

黒が ...Nf4 と指せるようになったかに見えます。しかし黒は
アリョーヒンの応手に気付いていませんでした。

  18.Nh2!

軽妙手です。戦術によって戦略上の目的(ここでは d5 の地点を
占拠し利用すること)を推進する現代の手法の素晴らしい例の
序曲です。もちろん 18.Bh4 は 18...Nf4 で黒の注文どおりです。

  18...g6

18...Bf7 に対して白には二通りの指し方があります。
(a) ナイトですぐに d5 の地点を占拠する。19.Nd5 の後 19...Rxd5
20.exd5 fxg5 21.d6 Bxd6 22.Qd3 Rd8 (22...Bg6 23.Qd5+) 23.Qxh7+
で形勢不明です。
(b) 強硬な手順は 19.g4 fxg5 20.gxh5 で白は d5 と f5 の地点を
支配しています。

  19.Bh6 Bf8 20.Bxf8

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  20...Kxf8

20...Nf4 は 21.Qf3 Rxf8 22.h4! Nc4 23.Bb3 Nxe3 24.fxe3 Bxb3
25.axb3 Ne6 26.Rd5 が予想されます。

  21.g3 Rxd1+

21...Bxh3 ととびつくのは 22.Nd5! Qf7 23.g4 Nf4 24.Nxf4 exf4
25.Qf3 でビショップを取られます。

  22.Bxd1!

白は d 筋と引き換えにルークのために a 筋を開ける意図を明白
にします。d 筋は白の駒が利いているので黒にとって使い道が
ありません。

  22...Rd8 23.a4! Nc4 24.axb5 axb5

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  25.Nd5!

黒が d5 の地点を過剰に守ることができたと考えたちょうどその
時にアリョーヒンはラウザー戦法の狙い筋の Nd5 を決行します。
ポーンの犠牲を黒は受けるわけにはいきません。25...Bxd5 と
取ると 26.exd5 Rxd5 27.Qe4 Qd7 (27...Rd8? は 28.Bxh5 gxh5
29.Qf3 Qf7 30.Qc6、また 27...Nb6 ならば 28.Bxh5 gxh5 29.Qe2!)
28.Bf3 Rd6 29.Qa8+ Qd8 30.Qb7 でポーンを取り返し形勢も
勝勢です。これらの変化の複雑さはその遂行ほど重要ではあり
ません。それは駒の働きに優るので白にはそのような可能性が
存在するのです。黒はポーンの提供を受けることができないので
白はようやく d5 の地点の完全掌握というラウザー戦法の大局上
の目的を達成しました。これから後の指し手はこの有利をどの
ように勝利につなげるかということです。

  25...Qb7 26.b3 Nd6 27.c4 bxc4 28.bxc4 Bxd5 29.exd5 Ng7 30.Ng4

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  30...Qe7

30...Nge8 は 31.Qe3 Nxc4 32.Qxc5+ Ncd6 33.Ra7 Qb1 34.Nh6 Qxd1+
35.Kh2 Ng7 36.Qc7 で詰みが不可避となります。

  31.Bc2 Nge8 32.h4 e4

この手の問題は f4 の地点を白に明け渡すことです。

  33.Ne3

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Ng2-f4-e6 を狙っています。

  33...Qe5

この手では 33...Rb8 34.Ng2 f5 35.Nf4 Ng7 と受けた方が良く、
ルークの b2 への侵入や b4 に進めての攻撃の狙いがありました。

  34.Ra7! Kg8 35.Ng4 Qd4 36.Bxe4!

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この手が決め手になりました。36...Nxe4 とナイトで取れば 37.Nh6+ Kh8
(37...Kf8? 38.Rf7#) 38.Nf7+ で交換得になります。また 36...Qxe4
とクィーンで取ると 37.Nh6+ Kh8 38.Qxe4 Nxe4 39.Nf7+ でやはり
交換得になります。事前に読むのはそれほど難しくない手筋です
が白駒の見事な連係は印象的です。

  36...f5 37.Nh6+ Kh8 38.Bc2 Qf6

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白の Qe7 に備えました。

  39.Qe6 Qxe6 40.dxe6 Rc8 41.Nf7+ Nxf7 42.exf7 Nd6 43.Bd3

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  43...Kg7

43...Rf8 には 44.Rc7 があります。

  44.f8=Q+ Kxf8 45.Rxh7 Kg8 46.Rd7 Ne8 47.h5!

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  47...gxh5

47...Nf6 には 48.Rd6! があります。

  48.Bxf5 Ra8 49.Be6+ Kh8 50.Rd5 Nf6 51.Rxc5 Kg7 52.Kg2

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  52...Ra2 53.Bf5 Ra3 54.Rc7+ Kh6 55.Rf7 Ra6 56.f4 h4 57.g4 1-0

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必然的にルイ・ロペスの研究を現代(1950 年頃)の攻撃の手法の
例で締めくくることになりました。第1局のモーフィー(Morphy)の
古典的な攻撃とは好対照です。そしてアリョーヒンよりも偉大な
主唱者がいるのでしょうか。彼は現代の技術の要件は厳しいけ
れどもロマンチック手法の先人と同じくらい多くの構想をこの
「堅実な」布局に注ぎ込むことが可能であることを確実に示して
います。それにしても現代のチェスは何と複雑になったことでしょ
う。モーフィーにとっては優位を得るためにセンターで開戦すれば
済んだのに、アリョーヒンは現代の定跡理論の全ての粋を駆使
して、手順の変更から戦闘の舞台の移行、それは最初はセンター、
次はクィーン側、そしてまたセンターに戻り、形勢を決定付けなけ
ればなりませんでした。ただ時間だけが新しい構想を共通の財産
にすることができるということに証明が必要ならば、それはここに
おいて見出されるでしょう。この試合の質の高さは広く認識され
ていますが、ルイ・ロペスの現代の二つの戦型、即ちワーオール
攻撃とラウザー戦法が組み合わされているという事実は見過ご
されているようです。


まとめ

ルイ・ロペスにおけるセンターの闘争を見てきて主要な概念が
3点明らかになってきました。それらは3人の偉大な棋士によっ
て樹立された指針に従って分類されます。彼らの構想はルイ・
ロペスの基礎を支配しています。

一人目のモーフィーはセンターを早期に制圧することを試みまし
たが白の永続的な主導権の維持にはほとんど成功しませんでした。

彼の最大の功績は黒の 3...a6 に彼の名をとって付けられた防御
法です。この手はセンターにおける緊張を解消し、現代のルイ・
ロペスの全ての防御の基礎となっています。

二人目のシュタイニッツ(Steinitz)はセンターの支配の重要性を
強調しました。後年のシュタイニッツは三つの時期に分類できま
す。最初の時期に彼は不自然な 4...Nge7 によってセンターを保持
しようとしましたが結果は不満足なものでした。第2の時期に彼は
今では「遅延シュタイニッツ防御」として知られる「先行シュタイ
ニッツ」をよみがえらせようとしました。しかし惜しくも時期の間違
いのために失敗しました。

最後の時期にシュタイニッツは現代の戦型(g8 のナイトを f6 に
展開)における彼自身の防御を採用しました。この戦法を彼は19
世紀末のロンドンとウィーンの大会で指しました。彼の不成績は
接近戦の不首尾によるもので、戦法の固有の欠陥によるもので
はありませんでした。その正当性を立証するのはラスカー(Laster)
に委ねられました。

3人目のチゴーリン(Tchigorin)は幸運でした。彼は 1893 年の
強敵タラシュ(Tarrasch)との試合でオリジナルな自分の戦法を
登場させ、好成績を収めました。しかし彼はその戦法に満足せ
ず、今日用いられているさらに攻撃的な戦型を開発しました。

ルイ・ロペスの最近の傾向はこれらの二つの戦法の融合で彼を
記念する最高の栄誉となっています。

(「ルイ・ロペスの進化」は今回で終わりです。)

投稿者 yamagishi