第1章 キングズ・ギャンビット受諾
モーフィーの攻撃強化策
【第3局】モーフィー(P.Morphy) - メドレー(G.W.Medley)
ロンドン、1858年
1.e4 e5 2.f4 exf4 3.Nf3 g5 4.h4 g4 5.Ne5 Nf6
6.Bc4 d5 7.exd5 Bd6 8.d4 Nh5 9.Nc3!
1850 年から 1860 年にかけて 9.Bb5+ が一貫して用い
られ研究されてきました。モーフィーのこのシンプルに展
開する手は非常に穏やかな手で新手に当たるとはとても
信じられません。しかし権威あるビルガー(Bilguer)の
「Handbuch des Schachspiels」(チェスのハンドブック)に
新手であると記述されています。見かけは単純な手です
が秘めた攻撃力が隠されています。例えばレーベンター
ル(Lowenthal)の推奨する 9...Ng3 には 10.Bxf4 Nxh1
11.g3 Qe7 12.Qd2 f6 13.O-O-O fxe5 14.dxe5 Bb4
15.d6 という応手があります。
9...Bf5
この手は弱手です。ラスカー(Lasker)の研究によると黒に
は指せる手が2種類ありました。
(a) 9...Qe7 (10.O-O? Bxe5 11.dxe5 Qxc5+ により白の
キャッスリングを妨げています) 10.Bb5+ c6 11.dxc6 bxc6
12.Nd5 Qe6 13.Nc7+ Bxc7 14.Bc4 Qf5 15.Bxf7+ Qxf7!
(15...Kf8 は 16.Bxh5 Bxe5 17.dxe5 Qxe5+ 18.Qe2 Qxh5
19.Bxf4 Bf5 20.O-O で白良しです) 16.Nxf7 Kxf7 でクィー
ン対小駒3個の駒割りで黒良しです。
(b) 9...O-O (アンデルセン(Anderssen)の研究) 10.Ne2
Re8 11.N2xf4!(ブラックバーン(Blackburne)の推奨) Bxe5
(11...Nxf4 12.Bxf4 Nd7! の方が勝ります。) 12.Nxh5 Bg3+
13.Kf1 Re1+ 14.Qxe1 Bxe1 15.Bg5 Qd6 16.Rxe1 Bd7
17.Re5 h6 18.Be7 Qb6 19.Nf6+ Kg7 (19...Kh8 20.Rg5)
20.Bd3 Qxd4 21.Rg5+ hxg5 22.hxg5 Qf4+ 23.Ke2 Qe5+
24.Kd1 Qxe7 25.Rh7+ で詰みになります。
面白いけれどちょっとトリッキーな変化です。モーフィーの
9.Nc3 が後により論理的で落ち着いた 9.O-O Qxh4
10.Qxe1 Qxe1 11.Rxe1 O-O 12.Bd3! (互角の形勢です)
に取って代わられたのも驚くには当たりません。
10.Ne2 Qf6 11.N2xf4 Ng3 12.Nh5!
天才の閃きの攻撃手です。この手を発見するのは難しく
ないかもしれませんが、9.Nc3, 10.Ne2, 11.N2xf4 という
モーフィーの素晴らしい駒捌きの骨子になっていることは、
後にキングズ・ギャンビットの同様の局面で一様に採用
されたことと相まって特筆すべきことです。
12...Nxh5 13.Bg5
13...Bb4+
正着は 13...Qg7 14.O-O Ng3 15.Rxf5 Nxf5 16.Qxg4 で
マローツィ(Maroczy)によれば攻撃は本譜のように簡単に
はいかなかっただろうとのことでした。
14.c3 Qd6 15.O-O Ng7 16.Rxf5 Nxf5 17.Qxg4 Ne7
18.Re1 h5
この手は緩手です。
19.Qf3 Rh7 20.Bb5+ c6 21.dxc6 bxc6 22.Nxc6 Nbxc6
23.Bxc6+ Kf8 24.Bxe7+ Qxe7 25.Rxe7 Bxe7 26.Bxa8
1-0
本局では 9.Bb5+ が絶頂期だった時に布局に対するモー
フィーの先入観のない指法の好例が見られました。モー
フィーが現代定跡を研究していたのは確かですが(しかも
最善手を採用していました)独自の客観性も持ち合わせて
いました。それはラスカーやカパブランカ(Capablanca)の
ような偉大な選手たちに見られる特質でもあります。