第3章 キングズ・ギャンビット拒否
シュピールマンの貢献
チェスの原則の知識が飛躍的に進歩したことは広く受け
入れられています。それでも昔のロマンチックなマスター
達の方が我々よりも攻撃に優れていたことは否めません。
シュタイニッツ(Steinitz)にも劣らない権威者もそう断言し
ています。それゆえに19世紀の最も攻撃的な選手が前
局でモーフィー(Morphy)が指したのと同じ布局でどのよう
な攻撃を見せてくれるのかは興味深いものがあります。
黒のキング・ビショップをポーンで撃退する白の戦略はそ
のポーンが弱体化する可能性があるので指し過ぎの気
味があることを注意しておきます。現代のマスターが危
険性は少ないけれど同じくらい効果的な手法でどのよう
に同じ問題に取り組むのかを見て行きましょう。
【第16局】シュピールマン(R.Spielmann) - タラシュ(S.Tarrasch)
カールスバート(Carlsbad)、1923年
1.e4 e5 2.f4 Bc5 3.Nf3 d6 4.c3
4...Bg4
面白い変化は 4...Bb6 5.d4 (5.Bd3 から 6.Bc2 の方が堅
実です) Nf6 6.fxe5 dxe5 7.Nxe5 c5 8.Bb5+ Nbd7 9.Bg5
h6 (先に 9...cxd5 の方が良い手です) で黒は犠牲にした
ポーンの代償があります(シュピールマン対カルリン
(Karlin)、ルント(Lundt)、1939年)。
5.fxe5 dxe5
6.Qa4!
マーシャル(F.Marshall)対コーン(E.Cohn)戦(カールスバー
ト、1907年)で指されたこのクィーン出は白のナイトの釘付
に基づいた黒の作戦を咎めます。
6...Bd7
6...Nc6 (6...Qd7 7.Bb5 c6 8.Nxe5!) は 7.Nxe5 Qh4+ 8.g3
Bf2+ 9.Kxf2 Qf6+ 10.Kg1 Qxe5 11.Bg2 で白良しです。
7.Qc2 Nc6
7...Qe7 は 8.d4 exd4 9.cxd4 Bb4+ 10.Nc3 Bc6 11.Bd3
で白良しです(エイベ(Euwe)対マローツィ(Maroczy)、番勝
負第4局、バート・アウスゼー(Bad Aussee)、1921年)。
8.b4
8...Bd6
8...Bb6 と引くのは 9.b5 から 10.Nxe5 でポーンを取られ
ます。従って黒は戦略上の斜筋からビショップを退却させ
ることを余儀なくされました。
9.Bc4 Nf6 10.d3
これで白は自分の戦略目標を達成しました。開放 f 列を
支配しセンターも好形です。
10...Ne7
11.O-O
黒の反撃を封じるために 11.a4 と突くと 11...a6 12.Bb3
c5 となります。
11...Ng6 12.Be3 b5 13.Bb3 a5 14.a3 axb4 15.cxb4
15...O-O
15...Bxb4? とポーンを取ると 16.Ng5 O-O 17.Nxf7 Rxf7
18.Bxf7+ Kxf7 19.Qb3+ から 20.Qxb4 で白の交換得にな
ります。
16.Nc3 c6 17.h3 Qe7 18.Ne2
18...Bb8
白の黒枡ビショップと交換しようという狙いですがあまり
感心しない捌きです。正着は 18...Rac8 で次に 19...Be6
と出られるし 19...c5 と突く狙いも出て来ます。
19.Kh2 Ba7 20.Bg5 h6 21.Bxf6 Qxf6 22.Nfd4!
22...Qd6 23.Nf5 Bxf5 24.Rxf5 Nf4
f2 の地点への圧力が気にかかるようになってきました。
黒は f 列を閉鎖してあわよくばルークを生け捕りにしよう
としています。
25.Raf1 g6
25...Qxd3? とポーンを取ると 26.Qxd3 Nxd3 27.Rxf7 Rxf7
28.Rxf7 でかえってひどいことにななります。
26.R1xf4
26...exf4
26...gxf5 とこちらのルークを取るのは 27.Rxf5 の後 Ng3
で白の攻撃にはずみがつきます。交換損の犠牲は考え
出すのは難しくないかもしれませんが感心するのはそれ
が白の元々の戦略からの論理的な帰結となっている点
です。
27.e5 Qe7 28.Rf6 Kg7
28...Kh8 29.Qc3 Kh7 30.d4 Rad8 31.Qc2 の方が ...Bxd4
から ...Qxe5 の狙いがある分わずかに勝りました。
29.d4 Bxd4
30.Bxf7!
30.Nxd4 は 30...Qxe5 で良くありません。
30...Bxe5?
これは即詰みになります。しかし 30...Rxf7 でも 31.Qxg6+
Kf8 32.Nxd4 Rxf6 33.exf6 Qf7 34.Qxh6+ Ke8 35.Nxc6
で Ne5 の狙いがあり決まっています。
31.Qxg6+ Kh8 32.Qxh6# 1-0
やはり決め手は開放 f 列での白の圧力でした。それで
は今日では攻撃の手法がどのように異なっていると言え
るのでしょうか?実際にどのような進歩があったのでしょ
うか?この試合にその答えがあります。違いは攻撃の態
勢でなく準備にあります。シュピールマンはセンターの形
を決めませんでした。その代わりに彼はクィーン側を安定
させて相手の反撃を弱め、キング側で自由に作戦が行な
えるようにしたのでした。
シュピールマンは僅かな差の主導権を生かして勝利をも
のにすることができました。これはモーフィーの時代から
受けがかなりの程度進歩したことの証拠です。