第3章 キングズ・ギャンビット拒否
レティの指法
本局はキングズ・ギャンビット拒否の最新の戦型です。黒
は白にセンターを占拠させて ...f5 によって破壊することに
期待をかけます。本局は複雑性のゆえにあまり解明され
ていないこの戦型の最適の実戦例の一局です。
【第17局】シュトルツ(Stoltz) - シュピールマン(R.Spielmann)
番勝負第4局、1932年
1.e4 e5 2.f4 Bc5 3.Nf3 d6 4.c3
4...f5
コーデル(Cordel)が推奨したこの手は白に意図を明らか
にさせる利点があります。局面は非常に複雑化し、もし
白が積極的に指すつもりならば駒を犠牲にしなければな
りません。
5.fxe5 dxe5 6.d4!
白が主導権を得ようとするならばこう指すしかありません。
6.exf5 は 6...Bxf5 7.d4 exd4 8.cxd4 Bb6! で黒良しです。
6...exd4 7.Bc4!
レティ(Reti)の推薦した手です。白は黒の斜筋の弱点(こ
の戦型の主眼点です)を戦術的に利用しようとします。
7...fxe4
スベノニウス(Svenonius)によって研究されたこの手は非
常に複雑なルークの犠牲を基調にしています。レティが
「Larobok i Schack」で発表した代替手は複雑さが少な
いわけではありませんが 7...Nc6 8.b4 Bb6 9.Qb3 Nh6
(9...Nf6 10.b5 Ne7 11.Ne5) 10.O-O fxe4 11.Nxd4! Qe7
12.Bxh6 gxh6 13.Bf7+ Kd8 14.Kh1 で白が攻勢です。こ
の変化は非常に複雑ですが 7...Nf6 のような堅実な応手
は 8.e5 Ne4 9.cxd4 Bb6 (9...Bb4+ 10.Ke2) 10.Nc3 Nc6
11.Be3 Ne7 12.Qb3 c6 13.Bf7+ Kf8 14.Nxe4 fxe4
15.O-O exf3 Rxf3 で白が有利です(レティ対ロマン
(Loman)、スヘーフェニンゲン(Scheveningen)、1919年)。
8.Ne5 Nf6 9.Nf7 Qe7 10.Nxh8
10...d3
明らかにシュピールマンはオランド(Olland)推奨のこの手
に大きな期待をかけていました。スベノニウスの研究手
順は 10...Nc6 でしたが 11.Bg5! Ne5 12.Bxf6 gxf6
13.Qh5+ Kd7 14.cxd4 で白が優勢を保持しているようで
す(タルタコーワ(Tartakower))。恐らくシュピールマンは本
譜の手が改良手になると考えたのでしょう。
11.Bg5 Bf2+ 12.Kxf2 Qc5+ 13.Be3!
白は当然ながら黒のセンター・ポーンをせき止めるビショッ
プを残す方を望みます。
13...Qxc4 14.h3 Be6 15.Nd2 Qd5
模擬戦(そのほとんどは研究手順でした)の煙が晴れて
局面が一段落しました。駒の損得はほぼ互角です。h8
のナイトは逃げられないので黒は交換損に対してポーン
を2個得た勘定です。次の手でシュトルツは自分のキング
の前のポーンに関する昔からの原則にとらわれていない
ことを示します。
16.g4! Nc6 17.c4
クイーンを追い払います。
17...Qd7 18.g5 Bg4
19.Qf1!
受けの好手です。ビショップがクイーンに当てながら逃げ
ることができるので一見おかしな手に見えます。しかし
19.Qg1 は 19...Qf5+ 20.Ke1 Nb4 21.hxg4 Nc2+ 22.Kd1
Nxg4 で黒が有利です。
19...Be2 20.Qg2 Qf5+ 21.Kg1
21...Nd7
21...Bf3 には 22.Rf1! があります。
22.Qxe4+ Qxe4 23.Nxe4 Ke7 24.Ng3 Rxh8
黒はようやくナイトを取りましたがその間にセンター・ポー
ンを一つ失いました。試合は白の駒数の優位によって決
着します。
25.Nxe2 dxe2 26.Rh2! Kf7 27.Rxe2 Re8 28.Rd1 Nde5
29.Bf4 Re6 30.Kf1 Kg6 31.Rd5 Kf5 32.Bg3 Re7
33.b4 1-0
定跡で重要な地歩を占める戦いでした。前半はルークの
犠牲と以降の戦力の不均衡とによる古めかしい趣があり
ました。しかしこれはみな「研究手順」で、現代定跡が想
定している乱戦です。この種の布局は特定の棋風の人に
だけ向いています。シュトルツは 16 手目(g4)によって分
かるようにその棋風を持っていました。
(第3章終わり)