第4章 続・キングズ・ギャンビット拒否
ファルクビア逆ギャンビット(Falkbeer counter gambit)
白がより安全な戦型を採用する
ほとんど知られていない本局はファルクビア逆ギャンビッ
トに対する最も重要な戦型の一つを扱っています。この
戦型はチゴーリン(Tchigorin)が晩年に指していました。
彼はファルクビアを退治しようとして数多くの不成功に終
わった試行の末にこれにたどり着きました。マルコ(Marco)
や当代の定跡家たちは白の最良の策と断言しています。
【第19局】シュルテン(J.W.Schulten) - モーフィー(P.Morphy)
ニューヨーク、1857年
1.e4 e5 2.f4 d5 3.exd5 e4 4.Nc3 Nf6 5.Bc4
シュルテンは前局の経験から、チゴーリン、マルコ、タル
タコーワ(Tartakower)達のような専門家によって白の最
善型と考えられている戦型を採用しました。
5...c6!
しかしモーフィーも警戒を怠りません。この手は 5...Bc5
よりも確実に良い手で、その手は以下 6.Nge2 O-O
7.d4 exd3e.p. 8.Qxd3 Re8 9.h3 Nh5 10.Qf3 Qh4+
11.Kd1 (チゴーリン対マーシャル(Marshall)、カールスバー
ト(Carlsbad)、1907年) となり白が無事にポーンを保持で
きます。
6.d3
この手が 6.d6 Bxd6 7.d3 でほぼ互角の局面より勝るか
は疑問です。6.dxc6 Nxc6 7.Nge2 Bc5 8.Ng3 Qd4 9.Qe2
Bg4 10.Qf1 Nb4 (ハイヤースマンス(Heyersmans)対ブラッ
クバーン(Blackburne)) は黒が有利です。
6...Bb4
モーフィーは好戦的に指し手を進めます。しかし単純化を
図る 6...cxd5 7.Bb5+ Bd7 8.dxe4 dxe4 9.Be3 の方が勝り
ました。
7.dxe4 Nxe4
モーフィーはここで白の手を 8.Nge2 と読んでいたのかも
しれません。それならば 8...Bg4 で黒の攻勢が続きます。
しかし思いがけない手が待っていました。
8.Bd2!
気付き難い好手です。これに対して 8...Qh4+ ならば 9.g3
Nxg3 10.hxg3! Qxh1 11.Qe2+ でその後クイーン側にキャッ
スリングして白が圧倒的な攻勢に立ちます。
8...Bxc3 9.Bxc3 O-O 10.Qh5 Re8 11.O-O-O!!
シュルテンは堂々と指し手を進めます。
11...Nxc3
11...Nf2 は 12.Nh3! Bg4 (12...Nxd1 13.Ng5!) 13.Qxf7+
Kxf7 14.dxc6+ Kg6 15.Rxd8 Rxd8 16.cxb7 Nc6 (16...Nxh1
17.Bd3+) 17.bxa8=Q Rxa8 18.Nxf2 で白の勝ちです。この
面白い変化はマローツィ(Maroczy)の指摘によるものです。
12.bxc3 Qa5 13.Kb2 g6 14.Qh6 Bg4 15.Nf3
15...Bxf3
16.Ng5 の防ぎです。
16.gxf3 b5 17.f5 bxc4?
モーフィーには珍しい大ポカです。所詮黒がどう指しても
白が優勢でしたが 17...Nd7 18.Bd3! b4 19.fxg6 Qa3+
20.Kb1 fxg6 21.Bxg6 Re7 22.Rhg1 ならまだ抵抗の余地
があったでしょう。実際記録によると両対局者とも自分の
方が良いと述べていたそうです。モーフィーは盤上で自
分の有利を実証してみせたそうですが、これは局面がそ
うであったというよりも彼の示す指し手の方がうまかった
ためでしょう。
18.f6 1-0
シュルテンは偉大なる相手と対等に渡りあえることを証明
しました。試合の内容そのものも定跡の知識に大きな貢
献を果たしました。