第4章 続・キングズ・ギャンビット拒否
ファルクビア逆ギャンビット(Falkbeer counter gambit)
タラシュの貢献
ファルクビア逆ギャンビットへのタラシュ(Tarrasch)の貢献
は非常に重要です。研究がこの指法を不当としていた時
に彼は頑固にこの戦法に信頼をおいていました。理論家
達の困惑をよそに本局のシュピールマン戦で彼は自分の
立場を証明する満足を得ました。
【第20局】シュピールマン(R.Spielmann) - タラシュ(S.Tarrasch)
オストラバ(Marisch Ostrau)、1923年
1.e4 e5 2.f4 d5 3.exd5 e4 4.d3 Nf6
5.dxe4
この局面での専門家達の見解は異なっています。レティ
(Reti)は 5.Qe2 を推奨していました。しかしケレス(Keres)
は 5...Bg4 で黒の攻勢に拍車がかかると考えていました。
5...Nxe4 6.Nf3
アラピン(Alapin)の指した手です。その構想は黒の狙いの
...Qh4+ を防ぐことと e4 のナイトを Qe2 とNfd2 で攻める
ことです。
6...Bc5 7.Qe2
7...Bf5!
タラシュの新機軸です。それまで不利と考えられていた
戦型に新しい息吹を吹き込みました。7...Bf2+ は 8.Kd1
Qxd5+ 9.Nfd2! f5 10.Nc3 Qd4 11.Ncxe4 fxe4 12.c3 Qe3
13.Qh5+! Kf8 14.Bc4! Qxf4 15.Qd5! Bg4+ 16.Kc2 Ke8
17.Nxe4 Qf5 18.Rf1 c6 19.Qd3 で黒投了という実戦例
があります(レティ対ブレーヤー(Breyer)、ブダペスト、
1917年)。
8.g4?
この手はビルガー(Bilguer)のような権威者の「Handbuch
des Schachspiels」(チェスのハンドブック)で推奨されてい
ますがそれでも悪手です。それはこれから証明されます。
正着は 8.Nc3 で以下 8...Qe7 9.Be3! Bxe3 (9...Nxc3
10.Bxc5! Nxe2 11.Bxe7 Nxf4 12.Ba3) 10.Qxe3 Nxc3
11.Qxe7+ Kxe7 12.bxc3 Bxc2 13.Kd2 Ba4! (13...Bg6?
14.Re1+ Kd8 15.Nd4 c5 16.Nb5 Nd7 17.g4 f6 18.Bg2 で
白有利、ホイートクロフト(Wheatcroft)対ケレス、マーゲー
ト(Margate)、1938年) 14.Rb1! b6 15.Nd4 の後 16.Bb5 で
白優勢です。
8...O-O!
思いがけない手です。シュピールマンの本への盲信が直
ぐに咎めを受けることになります。
9.gxf5 Re8
10.Bg2
局後には 10.Qg2 ならば十分引き分けの可能性があった
のではと考えられていました。しかし 10...Qxd5 11.Be2
Nc6 で黒の猛攻が続いたでしょう。
10...Nf2 11.Ne5 Nxh1 12.Bxh1
12...Nd7!
読みの入った手です。12...f6 では 13.d6 fxe5 (13...cxd6
14.Bd5+ Kf8 15.Qh5) 14.Qc4+ から ビショップを取られま
す。
13.Nc3 f6 14.Ne4
14.Bd2 には 14...fxe5 が強手です。
14...fxe5 15.Nxc5 Nxc5 16.fxe5 Qh4+
17.Kf1
17.Kd1 には 17...Qd4+ です。
17...Rf8
白が盛り返したかのように見えます。しかし白はキングが
不安定なので防御が困難です。シュピールマンの研究で
は 18.Qf3 は 18...Qc4+ 19.Kg1 Qxc2 で ...Rxf5 の狙いが
あり、18.f6 は 18...Rae8 19.e6 Rxf6+ 20.Kg1 Qd4+
21.Be3 Rg6+ となるので、前進したポーンの一つを失うの
はやむを得ないというものでした。
18.Kg1 Qd4+ 19.Be3 Qxe5 20.Rae1
20...Nd7
20...Rae8 は 21.Qc4 でうまく行きません。
21.Qc4 Kh8 22.Be4 Rae8 23.Bd4 Qf4 24.Re2
24...Nf6
24...Rxe4? は 25.Rxe4 Qxe4 26.Bxg7+ でクイーンを素抜かれます。
25.Bxf6 gxf6 26.h3 Rg8+ 0-1
27.Bg2 はクイーンを取られます。
このチェス史に残る試合はシュピールマンに「キングズ・
ギャンビットの病床から」という有名な論考を書かせるきっ
かけになりました。タルタコーワ(Tartakower)は内容と結
論から判断すると題名がひどい見当違いであると言って
いました。