第4章 続・キングズ・ギャンビット拒否
ファルクビア逆ギャンビット(Falkbeer counter gambit)
ケレスの指法
ファルクビアへのケレス(Keres)の貢献は白の観点から重
要です。若いエストニアの選手は Nc3 でなく Nd2 によっ
てモーフィーの指法(c3 のナイトを ...Bb4 によって釘付け
にする)を白が避けることができる構想に基づいたシステ
ムを発展させました。(前局で採用された)アラピン(Alapin)
の戦型は白が Nf3 から Nfd2 と捌きましたが黒が形勢を
ひっくり返す可能性もあります。ケレスの戦型はそれより
もさらに具体的です。
ケレスの構想の好例は本局で見られます。しかし白の戦
略にも改良の余地はあります。この戦型は以前の戦型
よりも優れているかどうかは時によってのみ明らかとなる
でしょう。
【第21局】カスタルディ(V.Castaldi) - トリフノビッチ(P.Trihunovic)
ヒルフェルスム(Hilversum)、1947年
1.e4 e5 2.f4 d5 3.exd5
3.Nf3 は 3...dxe4 4.Nxe5 Nd7 5.d4! exd3e.p. 6.Nxd3 Ngf6
で白は展開に支障をきたします。
3...e4 4.d3 Nf6 5.Nd2
これがケレスの手で ...Bb4 によって邪魔されることなく直
ちに e4 の地点に利かせます。
5...exd3
自然な 5...Qxd5 は 6.dxe4 Nxe4 7.Bc4 Qc5 8.Qe2 f5
9.Nxe4 で白が優勢になります。
6.Bxd3 Nxd5 7.Ne4
この手は白を危険にさらします。7.Qe2+ の方が良いです
が 7...Be7 8.Ne4 O-O の後白の有利は僅かだったでしょう。
7...Nb4 8.Bb5+
8...c6!
この意外な手はカスタルディにとって期待はずれだった
でしょう。彼は定跡上の本手の 8...Bd7 9.Bxd7+ Nxd7 が
読み筋だったかもしれません。これならまだ形勢互角だっ
たでしょう。
9.Qxd8+ Kxd8 10.Ba4
10.Bd3 とこちらに引くのは 10...Nxd3+ で双ビショップの
黒がはっきり優勢でしょう。
10...Bf5 11.Ng5 Ke8
12.Kd1
他に良い守り方がありません。12.c3 は 12...Bc2! 13.b3
Nd5 14.c3 Nc7 で厳しい ...b5 があります。
12...f6 13.N5f3 N8a6! 14.a3
黒の狙いの ...Nc5 に備えた手です。
14...Rd8+ 15.Bd2 Nd5 16.Ke2 Nc5 17.Bb3 Nxb3
18.cxb3 Bd6 19.g3
19...Kf7 20.Rc1 Bc7 21.Kf2 Bb6+ 22.Kg2 Rhe8
23.h3 Ne3+!
24.Kh2
24.Bxe3 と取るのは 24...Rxe3 25.b4 Be4 で ...Rd2+ が
決め手となります。
24...Rd3 25.b4 Red8 26.Bc3 Nd1 27.g4 Be4
28.Ne1 Rd2+ 0-1
29.Bxd2 Rxd2+ 30.Kg3 Bf2+ 31.Kh2 Bxe1+ で終わりで
す。
まとめ
19 世紀のキングズ・ギャンビットと「現代」(1950 年頃)の
キングズ・ギャンビットを採り上げた本稿の試合から、古
い世代の選手たちがこのロマンチックな布局をどのように
指していたか、そして今日ではどのように扱われているか
が良く分かります。
戦術を主とするムツィオ(Muzio)・ギャンビット、サルビオ
(Salvio)・ギャンビットなどの戦型は研究の対象としません
でした。それらは現代の実戦には現われません。それは
その戦型を強制させることができないので研究の俎上に
載せる実戦的な必要性があるとは考えられないからです。
それらは白と黒の両方の選手が共に指すことに異存がな
かった過去の時代の産物です。
キングズ・ギャンビットは過去の布局でしょうか、それとも
未来の布局でしょうか?これは焦眉の問題です。しかし
今日指されている少数の試合は恐らく未来の布局である
ことを暗示しているようです。それは遭遇する問題は主に
黒の側の問題であるからです。その事実はケレスやブロ
ンシュテイン(Bronstein)のような若手に影響を与え、キン
グズ・ギャンビットは白に主導権を保持させることができる
から正当な戦法であるというタルタコーワ(Tartakower)の
論拠を支持させるもととなっています。
(第4章終わり)
(「キングズ・ギャンビットの不思議」終わり)