第2章 ポーン・エンディング
ポーン・エンディングから始めるのは奇異に感じる人がいるかもしれないが、これにはそれなりの理由がある。まず、ポーン・エンディングは駒数が少なくて形が比較的単純であり(内容は必ずしもそうとは限らないが)、エンディングの概観と対処の仕方を学ぶのに最も適している。次にポーン・エンディングは通常は他のエンディングから移って来て、エンディングの理論全般の基礎となっているからである。
これまで見てきた初歩のポーン・エンディングは全てのポーン・エンディングの基礎となるものであった。もし読者がポーン・エンディングは最も易しいという印象をもたれたら残念ながらそれは当たっていない。いずれ分かるが一部のポーン・エンディングは非常に複雑で、慣れていない人にはどう指したらよいか難しい。
2.1 キング+ポーン対キング
初歩のエンディングで見て来たこのエンディングをまた採り上げる。図10は以前紹介した原則をそのまま適用できない例である。この機会に「遠方見合い」についてもっと詳しく説明する。
図10
もし黒の手番ならばキングが何の妨げもなくf4の地点に到達でき、これまで見てきたように引き分けになる。白の手番だと状況はもっと複雑である。この局面をもう少し詳しく調べなければ結果については答えられない。これまでの例で見てきたように、白キングがf6の地点に到達した時に黒の手番になっていれば白の勝ちである。白の初手は当然 1.Ke2 (1.Kg2 でも同様) で、黒は最善の受けが要求される。明らかに 1...Kf5? は 1.Kf3! で白の目的を達成させるし、1...Ke5 2.Ke3 Kf5 3.Kf3 も同様である。唯一の正しい受けは 1...Ke6 である。 2.Ke3 には 2...Ke5、 2.Kf3 には 2...Kf5 で見合いを取って引き分けにできる。1...Ke6! により黒は遠方見合いを取り、両方のキングが近づくにつれて近接見合いになった。この例は遠方見合いの基本的な構図である。後に遠方見合いの応用のもっと複雑な例を紹介する。
見合いの理論は重要だが適度に簡明である。しかし「対応枡」の理論を理解していれば見合いを用いなくても済む。この理論は時には見合いの応用よりも幅広く理解し易い。そこで図10をもう一度見てみよう。
「対応枡」とは何だろうか。白キングがf3にいて黒キングがf5にいる局面を考える。これはすでに知っているように黒の手番ならば白が勝つ。この2枡のことを「対応枡」と呼ぶことができる。つまり黒キングがf5にいる時、白キングは勝つためにはf3にいる必要がある。逆に黒が引き分けるためには白キングがf3に来た時に自分のキングを対応枡のf5に置かなければならない。
受け手の立場からもっと他の対応枡の組を見つけてみよう。白キングがf4に到達するとどう変化しても白の勝ちになるので黒はそれを許してはいけないことが分かっている。だから白キングがe3にいて次にf4に行こうとしている場合、黒キングはe5,f5又はg5に行ける状態でなければならない。しかしg5は白キングがe3からe4に行くとf4の地点を確保されてしまうので良くない。f5も白キングがe3からf3に行った場合このf5の地点を占めなければならないのでだめである。そうすると残るはe5だけである。これがe3に対する対応枡となる。それでは白のe2の枡に対応する黒の枡はどこだろうか。白はe2からe3とf3の両方に行けるので、黒の対応枡はe5とf5とに行ける枡、即ちe6又はf6ということになる。
このように考えていくと黒の正しい受けを再び見つけることができる。1.Ke2 の後 1...Ke6 だけが引き分けにできる。これまでの考察から他の手ではすべて黒が負けることが分かる。
以上はもちろん対応枡の簡単な例である。後にこの考え方の非常に役に立つ例を紹介する。
(この節終わり)