« チェス500名局(17) | メイン | 一手一手の定跡習得(51) »

実戦に役立つエンディング(58)

第2章 ポーン・エンディング

2.7 実戦例(続き)

 次の例は世界最高峰のグランドマスター同士の試合からでやはり絶妙の手順が現れる。

YKeres058.JPG 図58 黒の手番
フロール対カパブランカ、1935年

 二重ポーンのせいで黒のポーンの形がひどく悪いので、白が陣形的に非常に優位に立っていることはすぐに分かる。もし白キングがf4の地点に行ければ黒はいずれポーンを失いそれと共に負けになってしまう。f4の地点を占めるためには白キングは先ずf3の地点を占めなければならない。そうなればhポーンに遊び手があるので白キングが必ずf4に到達できる。黒はこの筋書きに対してどのような対応策があるだろうか。

 もし黒が手をこまぬいていれば白は上の手順を実行して楽に勝ってしまう。黒の唯一の対策は機を見てポーンを ...h4 と突くことである。そして gxh4 に対して ...f4 と突ければ盤上から白のeポーンを排除できる。しかしこれは白キングがe2、黒キングがe5にいる時には成功しない。それは白がhポーンを取り黒が ...f4 と突いた時に 2.h5 Kf5 3.exf4 で全てのポーンが保持され白の必勝形になるからである。黒が引き分けるためには白のeポーンをチェックで取ることができなければならない。即ち白キングはd2又はf2の枡にいなければならない。言い換えると白キングがe2、黒キングがe4にいる時白の手番ならばキングをd2又はf2に動かさなければならず、...h4! で引き分けになる。逆に同じ局面で黒の手番ならば白の勝ちとなる。なぜなら ...h4 が成立しないので白キングが必勝のf3の地点を占めるからである。

 黒は明らかに受けに細心の注意を要求されている。カパブランカがこの問題の局面でどのように対処したかおおいに興味をそそられる。

(1)

1...Ke5!

YKeres058A.JPG

 局面の機微を完全に理解していることがうかがえる。1...Kd5? と明白に見合いを取るのは以下のような巧妙な手順で負ける。2.Kd2 Ke5 2...Ke4 は 3.Ke2 で黒が手詰まりに陥る。2...h4 は 3.gxh4 f4 4.exf4 Ke4 5.h5 で白の勝ちである。これが黒キングがe5にいなければならない理由である。3.Ke1! Kd5 4.Kf2 Ke4 白キングがf3に行くのを阻止するために絶対である。5.Ke2 Kd5 5...h4 は 6.gxh4 f4 7.h5 Kf5 8.exf4 で白の勝ちである。6.Kf3 Ke5 7.h3 Kd5 8.Kf4 Ke6 9.h4 これで黒の先頭のポーンが落ちて白が勝つ。

YKeres058B.JPG

 意外なことに黒には別の受けの手段がある。それはキングをg5に持って行き同様にf4の地点を守りながら ...h4 を狙うものである。この手については(2)で分析する。

2.Ke2

 先に触れたように 2.Kd2 は 2...h4! 3.gxh4 f4! 4.h5 fxe3+ 5.Kxe3 Kf5 で引き分けとなる。

2...Ke4!

YKeres058C.JPG

 黒は目標を達成し白は手詰まりに陥っている。白キングが動けば ...h4 が可能になるので、白はhポーンを動かして貴重な遊び手を使わなければならない。

3.h3 Kd5

 3...Ke5? は間違いで 4.Kf3 で白が勝つ。

4.Kf3 Ke5

YKeres058D.JPG

 ここで両対局者は引き分けに合意した。5.h4 Kd5 6.Kf4 Ke6 の後白には重要なhポーンの遊び手がない。

(2)

1...Kf7!

YKeres058E.JPG

 この手でも引き分けになるが(1)と比べるとかなり際どい。黒キングはちょうどg5の地点に間に合う。

2.Ke2

 キングが他の枡に動いても良くならない。例えば 2.Kd4 は 2...Ke6 3.Kc3 Kf7 4.Kd3 Kg6!(4...Ke6 はだめで 5.Ke2 から 6.Kf3 とされる)5.Kd4 Kg5 6.Kd5 Kg4 7.Ke6 Kh3 で引き分けになる。

2...Kg6 3.Kf2

YKeres058F.JPG

3...Kh6!

 黒キングは白キングがf3の地点に来るまではg5の地点に来てはならない。例えば 3...Kg5? 4.Kf3 h4 5.gxh4+ Kxh4 6.Kf4 Kh3 で白の勝ちとなる。

4.Kf3 Kg5

YKeres058G.JPG

5.h3

 5.h4+ は 5...Kh6 6.Kf4 kg6 7.e4 fxe4 8.Kxe4 Kf7 9.Kf5 Kg7 10.Ke6 Kg6 11.Ke7 Kg7 で引き分けになる。本譜の手は 5...Kh6 ならば 6.Kf4 kg6 7.h4! で白が勝つので黒が危うそうに見える。しかし黒には好手がある。

5...h4!

YKeres058H.JPG

6.Kg2

 6.gxh4+ なら 6...Kxh4 7.Kf4 Kxh3(ここが要点)8.Kxf5 Kg3 9.Kxf6 Kf3 で引き分けになる。

6...Kh5

 ここは 6...hxg3 7.Kxg3 f4+ 8.exf4+ Kh5 でも引き分けになる。

7.Kf2 hxg3+ 8.Kxg3 Kg5 9.h4+ Kh5 10.Kh3 f4 11.exf4 f5

YKeres058I.JPG

 局面は明らかに引き分けである。

(この節続く)

コメントを投稿

(いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)

About

2008年01月22日 10:13に投稿されたエントリーのページです。

ひとつ前の投稿は「チェス500名局(17)」です。

次の投稿は「一手一手の定跡習得(51)」です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。