第2章 ポーン・エンディング
2.7 実戦例(続き)
これまで見合いとその重要性、特に遠方見合いと対応枡については何回も採り上げてきた。しかしそれらの概念は実戦とはかけ離れたスタディの分野に属するものと思い込んでいる読者がいるかもしれない。1937年ケメリ国際大会での次の非常に面白い例はそのような思い込みを一掃するのに役立つだろう。
図60 黒の手番
ベルグ対ペトロフ、1937年
ここでもやはり見かけだけでは分からない。駒割りは互角でお互いのキングが相手のポーンの進攻を抑えているが勝つ可能性があるのは黒である。これは黒がすぐに保護パスポーンを作れるのに対し白はそうできないことによる。
保護パスポーンの有利性は敵キングの動きを厳しく制限し味方のキングは自由に動き回れることにある。本局の場合白キングは常に黒のbポーンを監視していなくてはならない。これに反し黒キングは自由に白ポーンを攻撃できる。
しかし勝ちの手順は決して黒にとって易しいものではない。これは白キングはbポーンを監視しながらe4まで行けること、そしてh4とg4の白ポーンは障壁となって ...g5 と突かれても h5 で白にも保護パスポーンができるので崩される恐れがないことによる。試合はここで差し掛けになり両対局者は十分に研究する時間があったので試合を再開せずに白が投了した。これからその理由を探ってみよう。
1...a5!
明らかに絶対の一手である。白に 2.a5 とされるとbポーンが孤立するのでその前に守らなければならない。この関係から先に 1...g5 と指す余裕はない。そう指せば 2.h5 と応じられ 3.a5 があるため 2...g4 と指す余裕がなく、白にも 3.g4 と保護パスポーンを作られてしまう。
2.g4
黒の狙いは 2...g5 3.hxg5 Kg7、又はこの手順中 3.h5 g4 で、そうなれば図24で見たように簡単な勝ちになる。
2...Kg8 3.Kc2 Kf7 4.Kd3 Ke6
容易に分かるように見合いが重要な役割を果たす。例えば白キングがd4、黒キングがd6にいて白の手番だとしたら黒キングはすぐにc5又はe5から侵入できる。後に示すように白のキング翼でのゆとり手は役に立たない。
黒は直接見合いを取っても無駄である。それは黒キングがe6、d6、c6に行けば白キングはそれぞれe4、d4、c4に行けるからである。だから黒キングは遠方見合いを取らなければならない。黒キングがe7又はd7にいる時白キングの対応枡はそれぞれe3又はd3である。しかし黒キングがc7にいる時は白キングはc3に行けないので見合いを取れない。
これで残るは白に不意の逆襲を許さずに構想を実行する手順を見つけることである。最も効率的な手順は 4...Ke7 5.Ke3 Kd7 6.Kd3 Kc7! であるが、この局面について色々な勘所を示すためにもっと長い手順を採用した。
(この項続く)