第3章 クイーン・エンディング
3.5 実戦例(続き)
クイーン・エンディングではパスポーンはきわめて重要である。クイーンによって支えられたパスポーンは無視できない兵力であることは明らかである。そのようなポーンは不利な駒割を埋め合わせることも非常に多い。だから時にはポーンを犠牲にして一つのパスポーンを作り通常なら負けの局面を救うこともできる。図107ではそのような機略に富んだ防御が見られる。
図107 黒の手番
ルビーンシュタイン対カパブランカ、1914年
白は1ポーン得でクイーンの働きも勝っている。これに対して黒のクイーンはクイーン翼のポーンの守りに縛られている。もし黒が消極的に守れば白は数に勝るポーンを突き進めて勝ちの体勢を得るだろう。
黒ができることは何だろうか。黒のcポーンは当たりになっていて 1...c4 なら 2.a3 で黒クイーンは永久にaポーンの守りに縛り付けられるだろう。1...Qc8 も黒クイーンが守勢一方の態勢になってしまうので状況はあまり変わらない。それなら 1...Qe4 と反撃に行くのはどうかというと、2.Qxa6 とポーンを取られた後たいした手がなく、白は2ポーン得でキングも安全である。カパブランカは別な手段で卓抜な反撃の機会を作り出した。
1...b4!
この手の目的は一刻も早くパスポーンを作ることである。
2.Qxc5?
この手はお手伝いだった。2.cxb4 も 2...Qxb4 で良くない。しかし 2.c4! なら黒も一筋縄ではいかなかっただろう。即ち 2...Qc8 には 3.Qb6、2...Qa7 には 3.Qd8+ でどちらもその後 Qa5 とされると黒が良くない。黒のクイーン翼のポーンが固定されると白はすぐに自分のポーンを進めて行くことができる。
しかし黒には一つだけ面白い手段がある。即ち 2...Qe4! による反撃が可能である。3.Qxc5 は 3...Qb1+ 4.Kh2 Qxa2 5.Qxb4 Qxf2 で白の勝つ見込みはなくなる。白の最善手は 3.Qxa6 だが黒は冷静に 3...Kh7! と指して白に難しい問題を突き付ける。白クイーンはaポーンとcポーンを守っていなければならない。もしどちらかのポーンが取られると黒に強力なパスポーンができてしまう。もし白がhポーンを 4.g3 と守れば黒は 4...Qb1+ 5.Kg2 Qe4+ 6.Kh2 Qc2 と指し手を繰り返す。2ポーン得の優勢にもかかわらず白には勝ちがないのかもしれない。しかし白は少なくともこの手順を追求してみるべきだった。
2...bxc3 3.Qxc3 Qb1+ 4.Kh2 Qxa2
ここでクイーン翼における黒の最初の成果を見ることができる。黒はa列にパスポーンを得て、昇格枡まで一路邁進することを狙っている。加えて白はfポーンの守りに一手かけなければならない。白はその後でキング翼で行動を開始しなければならない。白の勝つ可能性は消えている。
5.Qc8+ Kh7 6.Qf5+
6...g6
もちろん 6...Kg8 でも良かった。しかし本譜の手はキングの周りを少し弱める見返りに貴重な先手を取った。
7.Qf6 a5 8.g4 a4 9.h5
9...gxh5!
黒は慎重に受けなければならない。9...a3? を急ぐと 10.h6! Kxh6 11.Qh8+ Kg5 12.Kg3! で詰みが受からなくなってしまう[訳注 正着は 10...Qb2 で引き分けです]。同様に 9...Qe6 も 10.hxg6+ で負けになってしまう。
10.Qf5+
ルビーンシュタインは危険を冒さないことにした。実際 10.gxh5 は 10...Qe6! で黒の方に勝つ可能性が出てくる。
10...Kg7 11.Qg5+
11...Kh7
11...Kf8 なら 12.Qd8+ である。
12.Qxh5+ Kg7 13.Qg5+ Kh7 1/2 - 1/2
黒は永久チェックから逃れることができず白も引き分け以外の選択はない。クイーン・エンディングでは前に言ったようにパスポーンは兵力云々よりも重要なのである。
(この節続く)