第3章 クイーン・エンディング
3.5 実戦例(続き)
読者は純粋に理論的なエンディングは実戦にはほとんど当てはまらないと考えているかもしれない。しかしクイーン・エンディングの場合はそのようなことはほとんどない。クイーン・エンディングの多くは両者がポーンをクイーンに昇格させてから発生する。図108はそのような例であり、実戦ではありがちな正確さに欠ける指し手が見られる。
図108 白の手番
アリョーヒン対シュトルツ、1942年
一般にこのような局面は白の勝つ可能性が高く、理論的に勝ちの場合もある。しかしここでは黒に有利な状況が一つある。それは黒のキングがポーンに近く、白クイーンが中央で八方に睨みを利かすのを防いでいるということである。白クイーンが中央にいれば自分のキングをチェックから守ることができる。実戦の手順を見てみよう。
1.Qf7+ Kd6 2.Qd7+ Kc5
2...Ke5 は 3.Qg7+ でクイーンを素抜かれる。3...Qf6+ で永久チェックになるので白は 3.e7 と指す暇がない。
3.Kg6
3...Qg1+
熟慮を欠いた無益なチェックはしばしば破滅を招くことを何度も指摘してきた。本譜の手は黒クイーンの位置の向上に何も寄与しない。逆に手順に白キングを行きたい地点に行かせてしまった。このようなチェックは絶対しないようにしなければならない。既に知っているようにこのようなエンディングではクイーンを中央で活発に働かせることが必要である。白が自分のクイーンを中央に置くことができなかったので黒がこの機会をとらえて 3...Qe5! と指すべきだった。
対局後にアリョーヒンが自ら認めたように黒がこの手を指せば引き分けだった。4.Qc8+ 又は 4.Qa7+ は 4...Kd6 で何にもならない。4.Kf7 は 4...Qh5+ 5.Ke7 Qh4+ 6.Ke8 Qh8+ で永久チェックになる。4.e7 も 4...Qg3+ 5.Kf7 Qf4+ 6.Ke8 Qb8+ 7.Qd8 Qb5+ 8.Kf7 Qf1+ で同様である。
4.Kf7
4...Qh1
黒はもう白ポーンの前進を防ぐことも永久チェックをかけることもできなくなった。例えば 4...Qf2+ は 5.Ke8 Qg3 6.Qe7+ Kc6 7.Qf6 Qg8+ 8.Ke7 Qh7+ 9.Kf8 で黒が投了してもおかしくない。また 4...Qf1+ は 5.Ke8 Qa1(白の Qe7+ から Qf6 を防ぐため)6.Qc7+ Kb5 7.e7 で白キングはまもなくチェックから逃れる。
黒の最も頑強な受けは 4...Qf2+ 5.Ke8 Qh2 であるが 6.Qe7+ から 7.Qf6 で白はポーンを前進させることができる。黒はほとんど成すすべがない。
5.Qc7+
5...Kb5
シュトルツの逃げ方のまずさのために白の手順がかなり楽になった。しかし 5...Kb4 でも結局は助からない。6.Qf4+ Ka3 7.e7 Qh7+(7...Qd5+ は 8.Kg7 Qd7 9.Kf8 で白の勝ち)8.Ke6 Qh3+ 9.Kd6 Qd3+ 10.Kc7 Qc3+ 11.Kb7 Qb2+ 12.Ka7 Qg7 13.Qd6+ の後 14.Ka6 で白が勝つ。
6.Qe5+
6...Ka4
もし黒キングが自陣の3段目に行けば 7.e7 Qh7+ 8.Qg7 でたちまち白の必勝形になる。6...Kb4 も本譜の手に勝るとは言えない。
(この節続く)