第3章 エマーヌエル・ラスカー(続き)
しかしラスカーは圧倒的に実戦に主眼をおいて、名高い戦術能力を必要なだけ用いて眼前の問題を解決した。とにかくチェスにおいては知る必要がないことは知りたいと思わなかったのである。これについてはウィリアム・ウィンターが次のように証言している。
『チェスに対する彼の姿勢は私が1936年のノッティンガム国際大会で彼と対戦した試合に如実に表れている。30分以上考えて私はポーンで取られる地点にナイトを置いた。ラスカーは即座に穏やかな受けの手で応じた。「妙手」によって私の得たものは貴重な持ち時間の浪費がすべてだったということにすぐ気づかされた。
試合が終わった後ある観戦者が彼にナイトを取っていたらどうなっていたかと聞いた。彼は「知らない」と答えた。「私の相手は強いマスターで、もしその彼が30分も考えてナイトを取られる地点に置いたのだとしたらそのナイトを取るのはよくないだろうと考えてそのままにした。」[ウィリアム・ウィンター著「チェスの王者たち」]』
(この章続く)