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実戦に役立つエンディング アーカイブ

2007年11月26日

実戦に役立つエンディング(1)

実戦に役立つエンディング (Practical Chess Endings)
   パウル・ケレス (Paul Keres)

YKeres000.JPG

 序文

 チェスのオープニング定跡、中盤戦、大会そして実戦集については無数ともいえる数の本が世界中で出版されてきた。しかしエンディングについては試合の最も重要な部分の一つにもかかわらず比較的少ない数の本しか書かれてこなかった。

 実際のところ終盤戦の良い指し方や勉強にかけた時間の報酬の重要性は強調してもし過ぎることはない。本書の目的は読者に終盤戦における実戦的な知識を伝えることにある。

 多くのチェス愛好家は終盤戦が退屈だと考えているために勉強することを毛嫌いしている。ある程度はそれも正しい。というのはエンディングの定石は内容が比較的無味乾燥で、正確な読みを必要とし個人の想像力を発揮する余地がほとんどないからである。それでもこの分野には面白さが多くあり、全てのチェス愛好家は必要な技術をマスターすることにより自らの技量を向上させるように努めるべきである。

 本書では基本原則に的を絞るために例題の数を減らし通常よりも説明を詳しくするようにした。これにより終盤の理論がいくらかでも楽しく感じられることを期待した。必然的に多くの理論的に片寄った分析を排し、実戦に最も役立つような教材に制限することになった。

 本書を上梓するにあたりエンディングに対する興味を喚起すると共に、一般的なチェス選手の終盤の平均的な技術レベルの向上につながれば幸いである。

パウル・ケレス(Pau Keres)
1972年7月 タリン(Tallinn)にて

 はじめに

 チェスの試合は普通はオープニング、中盤およびエンディングの三つの段階からなっている。オープニングでは対局者は最も効果的に自分の駒を展開し有利な中盤戦の可能性が得られるように努める。中盤は最も内容豊かで明らかに最も難しい部分である。そこでは対局者は決定的な有利あるいは少なくとも優勢な終盤を目指す。そして最後のエンディングはオープニング又は中盤で得た有利を勝ちにつなげなければならない段階である。

 結果的にエンディングは試合の最も重要な段階の一つであることは明らかである。オープニングや中盤では不正確な手あるいははっきりした悪手を指しても必ずしも敗勢の局面に陥らない冗長さがある。これはこの二つの段階では複雑さのために相手の誤りに気付き咎めることが実戦では困難なことがあるという事実により説明できる。これに反して終盤では悪手は決定的な局面になり易く、またチャンスが巡ってくることはまれである。

 終盤技術を完璧にする必要性は証明するまでもなく明らかである。世界の一流のチェス選手達はこの分野に格段の注意を払い、現代の見事な終盤の試合を数多く見ることができる。

 確かに純粋に技術的な観点からは終盤の勉強は例えばオープニングの定跡や中盤の戦略よりもはるかに面白さに欠けると認めざるを得ない。しかしこの勉強は必須であり、少なくともほとんどのエンディングは勝ちや引き分けの可能性の正確な分析に役立つという有利な面がある。

 以降の本文では実戦的な種々のエンディングの正確な手順のための最も重要な原則を読者に説明するように努めた。現在の終盤理論は全体では分厚い何冊もの本になるということは誰にも分かる。それは少し覗き見しただけでもしり込みしてしまうような分量である。それゆえに本書の目的は膨大な資料から最も実戦に役立つエンディングを厳選することにより幾分なりとも読者の負担を軽くすることにある。例えばチェス用語の必須のイロハを用いながらすべての基本的な終盤の局面を分析する。そのようなやり方を軽んじてはいけない。偉大な選手の中には終盤に弱点があった選手も知られている。

第1章 初歩のエンディング

 本章ではすべての選手にとって基本中の基本に属しことさら詳しい説明を必要としない局面について考察する。ここでわざわざ採り上げるのは完璧を期すためである。まず、単独のキングを詰めるのに必要な駒の組み合わせを調べる。

1.1 キング+クイーン対キング

 これは常に勝ちである。唯一の危険性はステールメイトの可能性である。

YKeres001.JPG 図1

 この局面からの勝ち方の一例は次のとおりである。

1.Qc3 Ke4 2.Kb7 Kd5

 明らかに黒キングはできるだけ長く中央にとどまろうとする。

3.Kc7 Ke4 4.Kd6 Kf4 5.Qd3 Kg5 6.Ke5 Kg4 7.Qe3 Kh5 8.Kf5 Kh4 9.Qd3 Kh5 10.Qh3#

 この手順は多分最短の勝ち方ではなく 1.Kb7 の方がもっと早く詰むだろう。しかし上にあげた手順はこのような駒配置で黒キングがいかに簡単に詰まされるかを示したものである。


2007年11月27日

実戦に役立つエンディング(2)

第1章 初歩のエンディング

1.2 キング+ルーク対キング

 これも常に勝ちがある。1.1と同様に詰みの前に盤端に敵キングを追い込まなければならない。ただしその手順は少し手間がかかるようになる。クイーンの場合は自分のキングの助けを借りずに敵キングを盤端に追い込むことができるが、ルークの場合は自分のキングと協力してこれを達成しなければならない。

YKeres002.JPG 図2

 図2で白の手順は特に難しくはない。黒キングを盤端に追い込むにはまずルークを 1.Ra4 又は 1.Re1 で横または縦に利かして黒キングを遮断するのが一番簡単である。しかしその後白キングの助けなしには何も進展しないので最も簡明な策は

1.Kb7 Ke4 2.Kc6 Kd4 3.Re1

 で敵キングをa筋に移動させることである。

3...Kc4 4.Re4+ Kd3 5.Kd5

 これで黒キングはe筋にも4段目にも行けなくなった。

5...Kc3 6.Rd4 Kc2 7.Kc4 Kb2 8.Rd2+ Kc1

 既に黒キングは一番下の段に追い詰められた。

9.Kc3 Kb1 10.Kb3 Kc1 11.Rd3 Kb1 12.Rd1#

 特に注意を要する点はルークが待機するところである。

2007年11月28日

実戦に役立つエンディング(3)

第1章 初歩のエンディング

1.3 キング+2ビショップ対キング

 キングと1ビショップでは単独のキングを詰められないことは明らかである。しかし2ビショプになると図3で示すように簡単に詰ますことができる。

YKeres003.JPG 図3

 詰みに至る手順はこれまでの例と同様である。2ビショップが協力して逃げ道をふさいでいくことにより黒キングはしだいに盤端に追い詰められていく。以下の手順は容易に理解できるであろう。

1.Kb2 Ke4 2.Kc3 Kd5 3.Bf3+ Ke5 4.Bg3+ Ke6 5.Kd4

 黒キングは2ビショップにより完全に遮断された。この後黒キングを隅に追い詰めるのは簡単である。

5...Kf5 6.Kd5 Kf6 7.Bg4 Kg5 8.Bd7 Kf6 9.Bh4+ Kg6

 黒キングの行動範囲はさらに狭められた。これを詰ませるには隅に追い込まなければならない。

10.Ke5 Kf7 11.Kf5 Kg7 12.Be8 Kf8 13.Bg6 Kg7 14.Be7 Kg8 15.Kf6 Kh8 16.Bf5 Kg8 17.Kg6 Kh8 18.Bd6 Kg8 19.Be6+ Kh8 20.Be5#

 もちろんもっと早く詰ませることができるかもしれないが、要領はすべて同じである。

2007年11月29日

実戦に役立つエンディング(4)

第1章 初歩のエンディング

1.4 キング+2ナイト対キング

 キングと1ナイトでは単独のキングを詰ませることができないことは明らかであるが、2ナイトの場合は強制的に詰ませることができないことはそれほど明白ではない。2ナイトの場合理論上は詰み形があるが、正しく受けられれば白はその形に持って行くことができない。次の図4でそれが分かる。黒キングが隅にいるにもかかわらず白はこれ以上進展させることができない。

YKeres004.JPG 図4

 黒キングの動きを制限する 1.Ne7 や 1.Nh6 はステイルメイトになってしまう。以下のようにいろいろ試してみても

1.Nf8 Kg8 2.Nd7 Kh8 3.Nd6 Kg8 4.Nf6+

 もしここで 4...Kh8? と間違えてくれれば 5.Nf7# で詰みになるのだが黒は

4...Kf8

 と逃げて白はまた最初からやり直しとなる。つまり白がどんなに頑張っても2ナイトでは黒キングを強制的に詰ませることはできないのである。

2007年11月30日

実戦に役立つエンディング(5)

第1章 初歩のエンディング

1.3 キング+ビショップ+ナイト対キング

 この駒割だと白は確実に詰めることができ、その手法は習得するに値する。当然ながらここでも黒キングは隅に追い込まなければならない。そして詰み形はどの四隅でも可能である。しかし強制的に詰むのはビショップのいる枡と同じ色の2隅でのみ可能である。他の2隅では2ナイトの場合と同様にキングが逃げ方を間違えた場合のみ詰めることができる。

 ということは詰ませる方はかなりややこしくなる。まず敵キングを盤端に追い詰め、次に隅に、そしてもしその隅の色がビショップの枡の色と異なる場合はさらに別の隅に追い込まなければならない。クイーン、ルーク又は2ビショップの場合はキングを縦や横や斜めの筋に沿って遮断することは容易であったが、ビショップ+ナイトの場合は難しい作業になる。この2駒は絶えず味方のキングの助けを必要とする。つまりキングとナイトでビショップの利かない枡を押さえることができるようにしなければならない。それでは図5からどのような手順でやっていくのかを見てみることにしよう。

YKeres005.JPG 図5

 白はもちろん敵キングの方に近づいていかなければならないし、一方黒キングはできるだけ中央に留まろうとしなければならない。黒キングは中央から追われたら「誤った」隅、即ちa8又はh1を目指す。そこなら正しく受ければ詰まされることはない。以下は具体的な手順の例である。

1.Kb2 Kd3 2.Nc7 Kc4

 黒キングは敵キングの進路を抑えるようにする。

3.Ne6 Kd5 4.Nd4 Kc4 5.Kc2

YKeres005A.JPG

5...Kb4

 5...Kd5 は 6.Kd3 で良くない。

6.Kd3 Kc5 7.Bh2

 局面を見れば分かるように白の2駒はキングの協力の下に黒キングから多くの枡を奪っている。

7...Kd5 8.Nb3

YKeres005B.JPG

8...Kc6

 黒キングは後退しなければならない。それでa8を目指す。8...Ke6 は 9.Ke4 でh8の方に追われてしまう。

9.Kc4 Kb6

 9...Kd7 10.Kd5 となるよりもこちらの方が良い。

10.Nc5 Kc6 11.Na4

YKeres005C.JPG

 白の8手目の局面と似ている。ビショップとナイトで敵キングを後退させる典型的な手法が見られる。

11...Kb7 12.Kb5 Kc8

 12...Ka7 13.Kc6 は本譜の後の局面と同じになる。

13.Kc6 Kd8 14.Kd6

YKeres005D.JPG

14...Kc8

 もし黒キングが 14...Ke8 と逃げると 15.Ke6 Kf8 16.Be5 又は 15...Kd8 16.Nb6 でa8に遁走する暇なくh8に追い詰められる。

15.Nb6+ Kb7 16.Kc5 Ka6 17.Kc6 Ka5 18.Bd6 Ka6 19.Bb8

YKeres005E.JPG

 黒キングをa8に逃げ込めなくし、a1に追い込む作戦を開始する。

19...Ka5 20.Nd5! 21.Ka4

 20...Ka6 と戻るのは 21.Nb4+ Ka5 22.Kc5 Ka4 23.Kc4 Ka5 24.Bc7+ で白の作業がもっと簡単になる。

21.Kc5 Kb3 22.Nb4!

YKeres005F.JPG

 ナイトのこの動きは非常に重要で、ある隅から隣接する別の隅に敵キングを追い込む典型的な手法である。

22...Kc3 23.Bf4

YKeres005G.JPG

 ナイトがいかに絶好の位置で敵キングの逃走を防いでいるかが分かる。

23...Kb3 24.Be5 Ka4 25.Kc4 Ka5 26.Bc7+ Ka4 27.Nd3 Ka3 28.Bb6

YKeres005H.JPG

 ビショップは手待ちをする。黒キングはa1に向かわざるを得ない。

28...Ka4 29.Nb2+ Ka3 30.Kc3 Ka2

YKeres005I.JPG

31.Kc2 Ka3 32.Bc5+ Ka2 33.Nd3 Ka1

YKeres005J.JPG

 ようやくa1に追い込んだ。黒キングはあと3手で詰まされる。

34.Bb4 Ka2 35.Nc1+ Ka1 36.Bc3#

YKeres005K.JPG

 読者はこのエンディングが決して易しくないことを実感されるであろう。白の8手目、19手目及び22手目の典型的な局面は特に注意が必要である。初心者は白の3駒の協力の手法に習熟するために、盤上のいろいろな枡に駒を配置して黒キングを隅に追い込む練習をしてみるのが良い。忘れてならないのは敵キングを50手以内で詰めなければならないことである。さもないと規定により引き分けになってしまう。そのためには敵キングを追い込む際に貴重な手数を無駄にしないように勝ち方の手法に完全に精通することが肝要である。

2007年12月01日

実戦に役立つエンディング(6)

第1章 初歩のエンディング

1.4 キング+ポーン対キング

 このエンディングは次章のポーン・エンディングで採り上げても良かったのだが、本章では最も簡単なエンディングを採り上げているのでこの章に入れるのが適当だと判断した。この種のエンディングでは一般的な原則を挙げるのが難しい。それはすべてが駒の配置によって変わってくるからである。勝ちはポーンが昇格できる場合にのみ可能であることは言うまでもない。そこで要件は昇格が可能かそうでないかをはっきりさせることにある。

 もちろん敵キングが遠く離れていてポーンのクイーン昇格を阻止できない場合は白の勝ちは明白である。同様に白キングが自分のポーンが取られてしまうのを防げない時も引き分けになることは明らかである。それでここでは黒キングがポーンの前方に待ち構えている場合に議論を絞ることにする。まず図6のようにポーンが6段目にいて黒キングがその前方の最下段にいる基本的な局面を調べよう。

YKeres006.JPG 図6

 左半分はこのエンディングの典型的な局面である。もともとポーンがもっと後ろの位置にいたとしても、黒がこのポーンの6段目への前進を防ぐことはできないので必ずこの局面に到達できる。勝ちかどうかはどちらの手番かによって決まる。白の手番ならば

1.c7+ Kc8 2.Kc6

ステイルメイトになるので引き分けである。それに白は同じ局面で黒に手番を渡すこともできない。例えば

1.Kd5 Kc7 2.Kc5

の後黒は正着の

2...Kc8!

を指せば以下 3.Kd6 Kd8 でも 3.Kb6 Kb8 でも図6左側と同じ状況になる。黒の受け方は易しい。つまり自分のキングをできるだけ長くc7とc8に留め、白キングが6段目に来たらすぐにそれと相対するように指せば良い。

 このようなエンディングに関連して二つのキングの位置に関する非常に重要な関係を紹介しておきたい。すべてのポーン・エンディングにおいて図6のようにキング同士が向かい合っている時(即ち同じ列または段で1枡だけ離れた位置にいる時)「見合い」、もっと正確には「近接見合い」の位置にあると言う。3又は5枡離れている場合は「遠方見合い」と言う。1、3又は5枡離れた斜めの見合いの場合もある。

 このような状況で相手に手番が渡っている時「見合いを取る」と言う。そのような場合相手は見合いを失っている。以上により図6の左半分を次のように定義することができる。「この局面で勝ちがあるかどうかはどちらが見合いを取っているかによる。白が取っているならば白の勝ちである。黒ならば引き分けである。」

 この規則はルーク・ポーン以外の全ての類似の局面に当てはまる。例えば図6の右半分では白が見合いを取っていても勝てない。

1...Kh8 2.h7

ステイルメイトになってしまう。

(この節続く)

2007年12月02日

実戦に役立つエンディング(7)

第1章 初歩のエンディング

1.4 キング+ポーン対キング(続き)

 ポーンが6段目でなくもっと後ろにある場合は黒の引き分けの可能性はもっと大きくなる。図7の下半分を考えてみよう。

YKeres007.JPG 図7

 この局面や類似の局面はどちらの手番でも引き分けである。黒は前にあげた原則に従って指せば良い。手順は次のようになる。

1.c3+ Kc4 2.Kc2 Kc5 3.Kd3 Kd5 4.c4+ Kc5 5.Kc3 Kc6 6.Kd4 Kd6 7.c5+ Kc6 8.Kc4 Kc7 9.Kd5 Kd7 10.c6+ Kc7 11.Kc5 Kc8! 12.Kd6 Kd8!

これで黒が見合いを取っている既知の引き分けの局面に到達した。

 これでキング+ポーンのエンディングが済んだと思われるかもしれないが実際はそうではない。例えば白キングが自分のポーンの前の地点を占めていたらどうなるだろうか。この場合にも勝ちかどうかの一般的な原則はない。しかし白の勝ちの可能性ははるかに高くなる。特に図7の上半分のようにポーンが前進している場合は特にそうなる。

 白キングは自分のポーンの直前の要所に到達することができた。そしてどちらの手番であろうとポーンがどれほど後ろにいようと白の勝ちは動かない。黒の手番ならば 1...Ka8 2.Kc7 又は 1...Kc8 2.Ka7 の後ポーンが進んで白が簡単に勝つ。白の手番でも特に問題はない。1.Ka6 Ka8 2.b6 で白が見合いを取っているので前に説明したとおり白が勝つ。類似の局面はすべて勝ちであるが例外はやはりルーク・ポーンの場合である。

 しかしナイト・ポーンの場合はちょっとした注意点を指摘しておきたい。図7の上半分で白の手番の場合ちょっと見には 1.Kc6 1...Kc8 2.b6 で白の勝ちのように思われるかもしれない。しかし正着は 1.Ka6! である。もっとも白は 1.Kc6 の後でもやり直して 1.Ka6 の局面に戻すことができる。1.Kc6 に対して黒は 1...Ka7! と応じる。ここで白が不注意に 2.b6+? と指すと黒は 2...Ka8! と応じ以下 3.Kc7 でも 3.b7+ Kb8 4.Kb6 でもステイルメイトで引き分けになる。従って白は恥を忍んで 2.Kc7 Ka8 3.Kb6! Kb8 4.Ka6! と勝ちの局面に戻らなければならない。

(この節続く)

2007年12月03日

実戦に役立つエンディング(8)

第1章 初歩のエンディング

1.4 キング+ポーン対キング(続き)

YKeres008.JPG 図8

 白キングが自分のポーンの前にいるけれどそのポーンがあまり進んでいない場合は図8の左半分のようになる。この典型的な局面で勝ちがあるかどうかはどちらの手番かによる。もし白が見合いを取っていれば次のような手順で白が勝つ。1...Kb7 2.Kd6 Kc8 (2...Kb8 3.Kd7) 3.c5 Kd8 4.c6 Kc8 5.c7 しかし白の手番ならば次のような手順で周知の引き分けの局面になる。1.Kd5 Kd7 2.c5 Kc7 3.c6 Kc8! 4.Kd6 Kd8

 この例から白のポーンがもっと後ろにあれば白が簡単に勝つことが分かる。それはポーンを動かすことにより常に見合いが取れるからである。そこでこの種のエンディングに対処する際に有用な原則は次のようになる。「まず白キングをできるだけポーンより先に進め(もちろんポーンを取られないように)、それからポーンを進める。」

 図8の右半分はこの原則の応用例である。もし黒の手番ならば 1...Kg4 又は 1...Kf4 で簡単に引き分けである。しかし白の手番ならば次のような巧妙な手順で白の勝ちになる。1.Kg3! これで見合いを取る。1.Kf3? は 1...Kf5! で黒が見合いを取り引き分ける。1...Kf5 2.Kf3! 見合いを保つ。2.f4? は 2...Kf6 で引き分けになってしまう。2...Ke5 3.Kg4 Kf6 4.Kf4! ポーンを動かさずに先にキングを動かすという原則を応用してここでも白が見合いを取る。4.f3? は間違いで 4...Kg6 5.Kf4 Kf6! で引き分けになる。4...Ke6 5.Kg5! Kf7 6.Kf5 ここは 6.f3 でも良いが 6.f4? はだめで 6...Kg7! で引き分けになる。6...Kd7 7.Kg6 Ke8 8.f4 キングが6段目に達したので今度はポーンを動かす番である。8.Kg7 は意味がなく 8...Ke7 9.f4 Ke6 に 10.Kg6 とするしかない。8...Ke7 9.f5 Kf8 10.Kf6! ここでも見合いを取らなければならない。10.f6? は 10...Kg8 で引き分けである。10...Ke8 11.Kg7 Ke7 12.f6+ これでポーンがクイーンに昇格できる。

(この節続く)

2007年12月04日

実戦に役立つエンディング(9)

第1章 初歩のエンディング

1.4 キング+ポーン対キング(続き)

 最後にルーク・ポーンに関する二つの例外的な場合について触れておきたい。この種のエンディングではポーンが他の筋にいる場合は絶望的な局面でも防御側が引き分けにできる可能性が大きい。例えば図9の左半分では白の手番でも勝てない。

YKeres009.JPG 図9

 1.Ka7 Kc7 2.a6 Kc8 3.Ka8 (3.Kb6 Kb8) Kc7 4.a7 Kc8

で白自身がステイルメイトになる。原則的には黒キングが急所のc8(盤の反対側の場合ならf8)の地点に到達できれば引き分けにできると言える。この原則の明らかな例外は白キングが既にc6又はb6の地点を占めていて 1.a7 とポーンを突ける場合である。

 図9の右半分はポーンがルーク筋以外の場合だったら負けなのに引き分けにできる例である。ここでも白は手番でも勝てない。

1.h5 Kf6 2.Kh7 Kf7 3.h6 Kf8

 これで直前に見た引き分けの局面と同じになる。だから一般的にはルーク・ポーンに対しては黒は引き分けにできる。

 これで初歩的なエンディングを終えることにする。次章からはポーン、クイーン、ルーク、ビショップ及びナイト・エンディングの順にもっと複雑なエンディングについて採り上げる。そして色々なエンディングに応用できるような一般原則を含むような局面だけを解説する。前に述べたように終盤の参考書を編集するつもりはなく、全てのチェス愛好家が知っておかなければならない重要で基本的な局面だけを採り上げるつもりである。

(この節・章終わり)

2007年12月05日

実戦に役立つエンディング(10)

第2章 ポーン・エンディング

 ポーン・エンディングから始めるのは奇異に感じる人がいるかもしれないが、これにはそれなりの理由がある。まず、ポーン・エンディングは駒数が少なくて形が比較的単純であり(内容は必ずしもそうとは限らないが)、エンディングの概観と対処の仕方を学ぶのに最も適している。次にポーン・エンディングは通常は他のエンディングから移って来て、エンディングの理論全般の基礎となっているからである。

 これまで見てきた初歩のポーン・エンディングは全てのポーン・エンディングの基礎となるものであった。もし読者がポーン・エンディングは最も易しいという印象をもたれたら残念ながらそれは当たっていない。いずれ分かるが一部のポーン・エンディングは非常に複雑で、慣れていない人にはどう指したらよいか難しい。

2.1 キング+ポーン対キング

 初歩のエンディングで見て来たこのエンディングをまた採り上げる。図10は以前紹介した原則をそのまま適用できない例である。この機会に「遠方見合い」についてもっと詳しく説明する。

YKeres010.JPG 図10

 もし黒の手番ならばキングが何の妨げもなくf4の地点に到達でき、これまで見てきたように引き分けになる。白の手番だと状況はもっと複雑である。この局面をもう少し詳しく調べなければ結果については答えられない。これまでの例で見てきたように、白キングがf6の地点に到達した時に黒の手番になっていれば白の勝ちである。白の初手は当然 1.Ke2 (1.Kg2 でも同様) で、黒は最善の受けが要求される。明らかに 1...Kf5? は 1.Kf3! で白の目的を達成させるし、1...Ke5 2.Ke3 Kf5 3.Kf3 も同様である。唯一の正しい受けは 1...Ke6 である。 2.Ke3 には 2...Ke52.Kf3 には 2...Kf5 で見合いを取って引き分けにできる。1...Ke6! により黒は遠方見合いを取り、両方のキングが近づくにつれて近接見合いになった。この例は遠方見合いの基本的な構図である。後に遠方見合いの応用のもっと複雑な例を紹介する。

 見合いの理論は重要だが適度に簡明である。しかし「対応枡」の理論を理解していれば見合いを用いなくても済む。この理論は時には見合いの応用よりも幅広く理解し易い。そこで図10をもう一度見てみよう。

 「対応枡」とは何だろうか。白キングがf3にいて黒キングがf5にいる局面を考える。これはすでに知っているように黒の手番ならば白が勝つ。この2枡のことを「対応枡」と呼ぶことができる。つまり黒キングがf5にいる時、白キングは勝つためにはf3にいる必要がある。逆に黒が引き分けるためには白キングがf3に来た時に自分のキングを対応枡のf5に置かなければならない。

 受け手の立場からもっと他の対応枡の組を見つけてみよう。白キングがf4に到達するとどう変化しても白の勝ちになるので黒はそれを許してはいけないことが分かっている。だから白キングがe3にいて次にf4に行こうとしている場合、黒キングはe5,f5又はg5に行ける状態でなければならない。しかしg5は白キングがe3からe4に行くとf4の地点を確保されてしまうので良くない。f5も白キングがe3からf3に行った場合このf5の地点を占めなければならないのでだめである。そうすると残るはe5だけである。これがe3に対する対応枡となる。それでは白のe2の枡に対応する黒の枡はどこだろうか。白はe2からe3とf3の両方に行けるので、黒の対応枡はe5とf5とに行ける枡、即ちe6又はf6ということになる。

 このように考えていくと黒の正しい受けを再び見つけることができる。1.Ke2 の後 1...Ke6 だけが引き分けにできる。これまでの考察から他の手ではすべて黒が負けることが分かる。

 以上はもちろん対応枡の簡単な例である。後にこの考え方の非常に役に立つ例を紹介する。

(この節終わり)

2007年12月06日

実戦に役立つエンディング(11)

第2章 ポーン・エンディング

2.2 キング+ポーン対キング+ポーン

 この型のエンディングでもやはり全てが駒の配置によるので勝ちか引き分けかの一般的な原則を述べることはできない。しかし普通は引き分けになるので、ここでは主に白が強制的に勝てる局面に話を限る。以下では局面を2種類に分けて考えることにする。

A ポーンが同じ列にある場合

 この場合は図11を基本的な局面として考えることができる。

YKeres011.JPG 図11

 このような局面はどちらの手番であろうと駒の配置がいくら後ろにあろうと引き分けである。白の手番ならば黒は見合いを取っているので 1.Kg4 Kg6 2.Kf4 Kf6 で簡単に引き分けにできる。黒の手番ならば次のようにポーンを取られる。

1...Ke6 2.Kg5 Ke7 3.Kf5 Kd6 4.Kf6 Kd7 5.Ke5

 ここで 5...Kc6 でも 6.Ke6 でポーンは助からない。しかし黒は次のように初歩のエンディングで示した原則を応用して引き分けにできる。

5...Ke7! 6.Kxd5 Kd7!

 これで見合いが取れて引き分けになる。

 しかし駒の配置を一段ないしは二段上に上げれば状況はがらりと変わる。もちろん白の手番ならば勝ちのないことは変わりない。しかし黒の手番ならば今度は負けになる。上で見たように黒はポーンを取られる。そしてその時白キングは6段目に達する。ポーンがルーク筋以外ならばすべて白の勝ちである。例外は黒ポーンがg7又はb7にいる場合である。この場合黒キングは隅に逃げ込めば良い。白キングが近づいてくればステイルメイトになる。ポーンがルーク筋にある場合はこれまでと同じように引き分けである。

(この節続く)

2007年12月07日

実戦に役立つエンディング(12)

第2章 ポーン・エンディング

2.2 キング+ポーン対キング+ポーン

A ポーンが同じ列にある場合(続き)

 次に両方のキングにもっと動く余地がある場合を少し考えてみよう。まず図12から。

YKeres012.JPG 図12

 このような局面は実戦でよくできるので正しい結果を知っておくことは大切である。白が黒のポーンを取ることができればたとえその時手番でも黒が見合いを取ることができないので白が簡単に勝つことは既に学んだ。手順は次のようになる。

1.Kc4

 勝つための唯一の手である。1.Kd4 は 1...Kd8 で黒が見合いを取り引き分けになる。

1...Kd7 2.Kb5!

 再び斜めの見合いを取る。2.Kc5? は 2...Kc7! で引き分けになってしまう。

2...Kc7 3.Kc5 Kd7 4.Kb6 Kd8 5.Kc6 Ke7 6.Kc7 Ke8 7.Kd6 Kf7 8.Kd7

 後は白が簡単に勝つ。

 これは一つの想定手順である。黒は 1...Kf7 で次のように白ポーンに対する逆襲を企てることもできる。

1.Kc4! Kf7 2.Kc5 Kg6

 このように両方のキングがそれぞれ反対側からポーンに近づいて来る局面も良く現れる。ここでのよくある間違いは 3.Kd6? でそれは 3...Kf5! で黒の勝ちに変わる。このような局面で覚えておくと役に立つ原則は1枡下(ここなら d7)からポーンを攻撃することである。そうすれば次の手 (Kd6) で自分のポーンを守りながら相手のポーンを攻撃することができる。したがって白の正着はつぎのようになる。

3.Kc6!

白キングは d7 の地点を目指し黒キングは f5 の地点を目指す。ここでは白の方が先に到着する。

3...Kg5

 3...Kf5 ならば 4.Kd6 で白の勝ちであることはすぐ分かる。

4.Kd7! Kf5 5.Kd6

 これで白の勝ちである。

(この項続く)

2007年12月08日

実戦に役立つエンディング(13)

第2章 ポーン・エンディング

2.2 キング+ポーン対キング+ポーン

A ポーンが同じ列にある場合(続き)

 ポーンがルーク筋にある場合は当然勝つ可能性は少なくなる。しかし図13の局面は巧妙で思いがけない手順が存在する。

YKeres013.JPG 図13 白の手番
シュラーゲ対アフーエス、ベルリン、1921年

 この局面は1921年ベルリンでの大会でのシュラーゲ対アフーエス戦に現れた。白の手番で黒は当然ポーンを取られる。しかし白が5手かけて黒ポーンを取る間に黒キングは引き分けにできるc7の地点に到達するので問題ないように見える。本当にこの局面は引き分けの局面なのだろうか。実戦の進行は 1.Ke6 Kc3 2.Kd6? Kd4 3.Kc6 Ke5 4.Kb7 Kd6 5.Kxa7 Kc7 で以下引き分けになった。

 しかし実際には白キングが正しい道筋を選んでいれば勝つことができた。ポーン・エンディングではキングが斜めの道筋を通っても同じ手数で同じ地点に到達し、しかも敵のキングの進路を制限できることがある。白は次のように指すべきであった。

1.Ke6 Kc3 2.Kd5!

 こう指しても白は5手で黒ポーンが取れる。しかも黒キングのd4-e5-d6の道筋を妨げている。従って黒はc7の地点に間に合わずに負けてしまう。

2...Kb4

 2...Kd3 なら 3.Kc6 Ke4 4.Kb7 Kd5 5.Kxa7 Kc6 6.Kb8 でやはり白が勝つ。

3.Kc6 Ka5 4.Kb7 Kb5 5.Kxa7 Kc6 6.Kb8

 これでポーンがクイーンに昇格できる。

 単純だが非常に参考になる例だった。面白いことに図13で黒キングがb2でなくもっと条件の悪そうなh2にいたならば、白は黒キングの進路をじゃまして無駄な手を指させることができないので引き分けになるところであった。

(この項続く)

2007年12月09日

実戦に役立つエンディング(14)

第2章 ポーン・エンディング

2.2 キング+ポーン対キング+ポーン

B ポーンが異なる列にある場合

 この場合もしポーンが相手のキングによって止められてしまうと、白が敵ポーンを有利な条件の下で取れない限り結果は通常は引き分けである。この例として図14を考えてみよう。

YKeres014.JPG 図14 白の手番
デドルレ 1921年

 白が黒ポーンを取るのは簡単である。例えば 1.Kc3 Ke5 2.Kb4 Kd5 3.Kxa4 で何も問題ないように見える。しかし黒にも策があり 1...a3 で引き分けにできる。以下 2.bxa3 なら 2...Ke6 3.Kc4 Kd6、2.b4 なら 2...Ke6 3.Kb3 Kd6 4.Kxa3 Kc6 5.Ka4 Kb6 である。白が勝つためにはこの黒の手を考慮に入れなければならない。そして自分のポーンをできるだけ後ろに置いたままの状態でキングで黒ポーンを取らなければならない。その手順は次のとおりである。

1.Kb1 a3

 最善の受けである。1...Ke5 は 2.Ka2 Kd4 3.Ka3 Kc5 4.Kxa4 Kb6 5.Kb4! で白が簡単に勝つ。

2.b3!

 後で分かるように 2.b4 は引き分けにしかならない。

2...Ke5 3.Ka2 Kd5 4.Kxa3 Kc5 5.Ka4 Kb6 6.Kb4!

 これで白の勝ちである。

 明らかに白ポーンがb4にあったらこの最後の手は指せないところであった。本譜ではおなじみの勝ちの局面になった。

(この項続く)

2007年12月10日

実戦に役立つエンディング(15)

第2章 ポーン・エンディング

2.2 キング+ポーン対キング+ポーン

B ポーンが異なる列にある場合

 お互いに相手のポーンを止められない時には非常に面白い状況になる。その場合直前の例で見たようにチェスでは2地点間の最短の道筋は必ずしも直線とは限らないという事実を利用したキングの動きで勝てることが良くある。そこでGMドゥラスのエンディングを見てみよう。

YKeres015.JPG 図15

 ちょっと見たところでは両方のポーンともまだ原位置にあり白キングの位置がわずかに勝っているだけなので互角の局面に思われる。しかし驚くべきことに、白の手番であることとこの最小限の有利が最終的には白に必ず勝ちをもたらす。しかし勝つためには白は極度の正確さが要求される。特にキングの位置には注意が必要である。

1.Kc5!

 明らかに白キングは自分のポーンの前進を助けなければならない。さもないと黒キングによって止められてしまう。しかしどうして白キングはわざわざ黒ポーンが将来クイーンに昇格した時チェックになるような地点に行くのであろうか。以下の手順でその理由が分かる。

a)1...Kg6

 黒はキングで白ポーンを止めようとする。1...g5 と競争するのは次のb)で述べる。

2.b4 Kf7 3.b5 Ke7 4.Kc6!

ここで 1.Kc5! でなければならなかった理由が分かる。4.b6 Kd7 と 4.Kb6 g5 5.Kc7 g4 は引き分けである。

4...Kd8

 要点は黒キングが最下段の不利な位置に置かれたということである。このため後に白クイーンによってチェックされる。

5.Kb7! g5 6.b6 g4 7.Ka7 g3 8.b7 g2 9.b8=Q+ で白の勝ち。

b)1...g5

 今度は敵ポーンの前進を止める代わりに黒が自分のポーンを突き進めてみる。チェックでクイーンに昇格できるかもしれない期待が持てる。しかし白キングの適応能力は次のような巧妙な手順で勝利する。

2.b4 g4 3.Kd4!

 黒ポーンは味方のキングの助けが必要である。これにより白はクイーンができた時にチェックになる地点に黒キングを追いやることができる。3.b5? は 3...g3 で逆に黒の勝ちとなる。

3...Kg5

 3...g3 は 4.Ke3 Kg5 5.b5! で本譜と同じになる。ただし 5.Kf3? は間違いで 5...Kf5 で引き分けになる。

4.b5 g3

 黒が 4...Kf4 で白キングを押さえようとすると白ポーンが先にチェックでクイーンに昇格する。

5.Ke3 Kg4 6.b6 Kh3 7.b7 g2 8.Kf2 Kh2 9.b8=Q+ で白の勝ち。

(この節続く)

2007年12月11日

実戦に役立つエンディング(16)

第2章 ポーン・エンディング

2.2 キング+ポーン対キング+ポーン

B ポーンが異なる列にある場合

 前回はほんの少数の駒数のポーン・エンディングの中にも単純にはいかないものがあることを示した素晴らしいスタディであった。比較的単純な局面から驚くほど深い着想を秘めた例はまだ数限りなくある。ここではもう一つだけスタディを採り上げる。それはキング+ポーン同士のチェスの局面の中で恐らく最も有名なものである。

YKeres016.JPG 図16
レティ 1922年

 白の手番であるが、クイーンに昇格しようとしている黒ポーンを止めるには少なくとも2手足りないので負けは避けられないように見える。白のポーンは黒キングによって簡単に止められるのでほとんど助けにならないように見える。しかしここでもチェス盤における幾何の原則を用いることにより白キングは奇跡を呼び起こすことができる。

1.Kg7 h4 2.Kf6 Kb6

 黒キングに一手かけさせることにより白は一手稼いだ。2...h3 は 3.Ke7 h2 4.c7 で両方のポーンが同時にクイーンに昇格するので引き分けになる。黒の最初の2手は逆でも良い。1...Kb6 でも 2.Kf6 で次に 3.Kg5 があるので 2...h4 としなければならない。

3.Ke5!

 手順全体の核心の手である。白には次に 4.Kf4 で黒ポーンを捕まえる手があるので黒は以下のように進めるしかない。

3...h3 4.Kd6 h2 5.c7 h1=Q 6.c8=Q

 これで明らかな引き分けである。

 最初の局面で誰がこのような可能性を予想したであろうか。もちろんこれまでの例ですべてが尽くされたわけではない。しかし最も単純なポーン・エンディングにさえ色々な可能性が含まれているということはお分かりになったと思う。後にもっと複雑な局面が単純化されて行く過程に出会うことになる。

(この節終わり)

2007年12月12日

実戦に役立つエンディング(17)

第2章 ポーン・エンディング

2.3 キング+2ポーン対キング+ポーン

 キング+2ポーン対キング+ポーンの局面はポーン・エンディングの中でも非常に複雑な部類に入る。局面の可能性は多種多様である。全体の理解を得ようとするならば体系的に学ばなければならない。一つの原則はポーンの数の優勢な側は自分のパスポーンが他のポーンから離れていて敵のキングをおびき寄せることができるならば勝つことができるということである。

 もちろん簡単には勝てない局面も多い。我々にとって関心があり以降で採り上げるのはそういう局面である。

 孤立ポーンがパスポーンの場合

 2ポーン対1ポーンのエンディングを白ポーンの配置によって分類する。まず白ポーンが孤立していてその内の一つがパスポーンとなっている場合を調べる。前に述べたように白ポーンがある程度離れていると白が比較的簡単に勝つ。そこでここではポーンが1列だけ離れている場合だけを考える。この場合パスポーンは黒キングを主戦場からあまり遠くへ誘い出すことができない。図17は典型的な局面である。

YKeres017.JPG 図17

 この局面はどちらの手番であろうと白の勝ちである。ここでは白の手番として考える。

1.d5 Kd7

 1...Kc5 は 2.Ke5 Kxb5 3.d6 Kc6 4.Ke6 で白の簡単な勝ちである。

2.Ke5 Ke7 3.d6+ Kd8!

 最も巧妙な受けで、白にはちょっとした問題がある。3...Kd7 だったら 4.Kd5 で勝てるが、本譜の手に対しては 4.Kd5 Kd7 又は 4.Ke6 Ke8 5.d7+ Kd8 でうまくいかない。しかし白はここで初歩のエンディングの一つに誘導することができる。

4.d7!

 これが勝つための最も簡単な手で、ポーンを捨てて見合いを取りその後黒ポーンを取って標準の勝ち方に持ち込むことができる。4.Kd4 Ke8 5.Ke4 Kd8 6.Ke5! というもっと手の込んだ勝ち方もありこれについては後にまた触れる。

4...Kxd7

 4...Ke7 ならば 5.d8=Q+ Kxd8 6.Kd6 で勝てる。

5.Kd5 Kc7 6.Ke6 で白の勝ち

(この節続く)

2007年12月13日

実戦に役立つエンディング(18)

第2章 ポーン・エンディング

2.3 キング+2ポーン対キング+ポーン

 孤立ポーンがパスポーンの場合(続き)

 今度は全体の配置を1段下に下げたらどうなるかを見てみよう。

YKeres018.JPG 図18

 この局面もやはり白の勝ちである。しかし今度は自分のポーンに対する黒の逆襲にもっと注意しなければならない。具体的には次のようになる。

1.d4 Kc4

 何の望みもないのは 1...Kd6 2.Ke4 Ke6 3.d5+ Kd7 4.Ke5 Ke7 5.d6+ Kd7 6.Kd5 から 7.Kc5 で白の勝ちである。

2.Ke4 Kxb4 3.d5 Kc5

 黒は白ポーンが先にクイーンに昇格するのを防ぐためにこの不利な地点にキングを置かなければならない。

4.Ke5 b4 5.d6 b3

 5...Kc6 でも 6.Ke6 で同じことである。

6.d7 b2 7.d8=Q b1=Q

 両者同時にクイーンができたが黒クイーンは次の手順で取られてしまう。

8.Qc8+ Kb4 9.Qb7+ で白の勝ち

(この節続く)

2007年12月14日

実戦に役立つエンディング(19)

第2章 ポーン・エンディング

2.3 キング+2ポーン対キング+ポーン

 孤立ポーンがパスポーンの場合(続き)

 図18のような局面はすべて白の勝ちと思われるかもしれない。しかし驚くべき例外がある。それは図19のように黒と白のポーンがビショップ列にある場合である。

YKeres019.JPG 図19

 ちょっとみただけでは何も変わりないように思われる。例えば 1.e4 Ke6 2.Kf4 Kf6 3.e5+ Ke7 4.Kf5 Kf7 5.e6+ 又は 1...Kd4 2.Kf4 Kxc4 3.e5 Kd5 4.Kf5 c4 5.e6 c3 6.e7 c2 7.e8=Q 8.c1=Q 8.Qd8+ の後 9.Qc7+ でこれまで見てきたように白が勝つ。しかし実際には以下のようにわずかな違いがある。

1.e4 Kd4! 2.Kf4 Kxc4 3.e5 Kb3!!

 この手で黒は白キングが遠く離れている時そのクイーンはビショップ列の7段目のポーンに勝つことができないという特異な事実を利用している。ただし 3...Kd3 はだめで 4.e6 c4 5.e7 c3 6.e8=Q c2 7.Qe3+ で白が勝つ。

4.e6 c4 5.e7 c3 6.e8=Q c2

 これで白は黒キングがb2の地点に行くことを阻止できないので引き分けである。この局面については後のクイーン・エンディングの章でもっと詳しく述べる。それでも一応ここで言及しておく価値はあるだろう。

 図18の局面の駒配置が1段下だったら黒はいつでも白ポーンを攻撃できるので引き分けであることは明らかである。しかし驚くべきことに、2段上に上げて黒ポーンが原位置にいるようにすると白の勝つ可能性はやはり制限を受けてしまう。黒キングは白ポーンの前に立ちはだかり通常はステイルメイトで終わる。しかしここでは指摘するに留めておく。

 最後に図17から図19の局面で黒の手番ならば白が簡単に勝つことを述べておく。この場合白ポーンは攻撃を受けることがないので白は自分のパスポーンを進めるだけで良い。ただし唯一の例外はやはり黒ポーンが原位置にある場合である。

(この節続く)

2007年12月15日

実戦に役立つエンディング(20)

第2章 ポーン・エンディング

2.3 キング+2ポーン対キング+ポーン

 孤立ポーンがパスポーンの場合(続き)

 ルーク・ポーンの場合は白の勝つ可能性は大幅に減ってしまう。しかし意外なことに今回の駒配置の場合はそれが当てはまらない。図20を見てみよう。

YKeres020.JPG 図20
ファールニ対アラピン

 この局面は図17の駒配置を1列左へ移動し白がパスポーンを進めた局面と考えることができる。この局面で黒番なら白の勝ちは容易だが、白の手番ならばどう指したら良いだろうか。図17の時と同じ手順ではうまく行かない。つまり 1.Kd5 Kc8 2.c7? Kxc7 3.Kc5 Kb7 も 2.Kd6 Kd8 3.c7+ Kc8 も黒が引き分けにできる。だから単純な手段では勝てず、もっと深く考察しなければならない。黒の手番ならば白が勝つのだから、手を渡して同じ局面に持って行けないだろうか。

 ここでちょっと対応枡の理論を用いて考えてみよう。黒は白の Kc5 には ...Kc7、Kd6 には ...Kd8 と応じなければならないからこの二組が対応枡である。白のd5に対応する黒の枡はどこだろうか。この枡から白キングはc5とd6に行けるので黒キングは対応枡のc7とd8に行けなければならない。c8が唯一の枡でありこれがまた対応枡になる。

 これを続けて行くと白のc4(d5とc5に行ける)は黒のb8とd8(c8とc7に行ける)に対応していることが分かる。このように二つの枡がたった一つの枡に対応していることもあり得る。それでは白のd4の枡の場合はどうなるだろうか。この枡からはd5とc5に行けるので黒の対応枡はb8とd8である。

 このような事前の考察を行なって我々の課題はもう解決したも同然である。白が Kc4 と指し黒が対応枡のうちb8を選んだとしよう。そこで白キングはd4へ行き、黒に対応枡のb8かd8に行かなければならないようにする。しかし黒キングは既にb8にいる。b8からd8へ二枡行くことは当然できない。だから黒は対応していない枡へ行かなければならず負けてしまう。いよいよ具体的な手順を見てみよう。

1.Kd5 Kc8 2.Kc4

 ここはc4でもd4でも関係ない。どちらでも同じ結果になる。

2...Kd8

 2...Kb8 でも同じである。

3.Kd4! Kc8

 3...Kc7 なら 4.Kc5 でもっと早く白が勝つ。

4.Kd5! Kc7 5.Kc5

 これで図20の局面で黒の手番になった。5...Kd8 6.Kd6 Kc8 7.c7 Kb7 8.Kd7 Ka7 9.Kc6(9.c8=Q はステイルメイトになってしまうので要注意)で白はあと2手で詰みにできる。

(この節続く)

2007年12月16日

実戦に役立つエンディング(21)

第2章 ポーン・エンディング

2.3 キング+2ポーン対キング+ポーン

 孤立ポーンがパスポーンの場合(続き)

 本項の最後に同種のエンディングをもう一つ見てみる。

YKeres021.JPG 図21

 パスポーンがルーク筋にあることとこのポーンの左側でキングが活動する余地がないために白の課題はことのほか難しくなっている。白の唯一の希望は右側から攻撃することだが黒キングの逆襲には絶えず気を配らなければならない。例えば単刀直入に 1.Kc3 Ka4 2.Kd3 と指すと黒は 2...Kb4(2...Ka3 は誤りで 3.Ke4 Kxa2 4.Kd5 で白が簡単に勝つ)で白の片方のポーンを取って明らかな引き分けになる。ここでも深い分析が必要である。

 白が勝つためには自分のキングがd5の地点に行く間に、黒にaポーンを取らせずに、そして ...Kb4 でポーンを保護する態勢にさせないようにしなければならない。黒が ...Kb4 と指した時白は Kd3 と指せる態勢になければならない。そうなった時黒はツークツワンクの状態で、白の Ke4-d5 を防ぐことができない。だから最初の対応枡の組は白のd3と黒のb4である。

 この作業を続けてみる。黒キングがa3にいてa2のポーンを取ろうとしている時白は Kd5 で応えなければならない。だから白のe4と黒のa3が対応枡となる。従って黒のa4(a3とb4に行ける)と白のe3(e4とd3に行ける)が対応枡、黒のa5(a4とb4に行ける)と白のd2(d3とe3に行ける)が対応枡となる。

 ここまでが最も難しい部分であった。残っている作業は白キングが注意深くd2に行くことで、そうなれば黒は白キングがd5に到達することを防げない。念のために言うと黒キングがa6又はb6にいる時白キングはc1、c2又はc3のどこにいても良い。その位置ならば ...Ka5 に対して Kd2 と応じることができる。

 直前に述べたことから黒の手番ならば早く負けになることは明らかである。すなわち 1...Kb6(又は a6)に対して白はすぐに 2.Kc3(又は c2)Ka5 3.Kd2! と指せる。白の手番ならばことはもっと複雑であるが次のように強制的に勝つ手順がある。

1.Ka3!

 勝つにはこの手に限る。他の手だと黒は 1...Ka4 と指す。白キングは関連枡のe3から遠過ぎて間に合わない。白は本譜の手で1手かせぐことができる。

1...Kb6 2.Kb2 Ka5

 最善の手である。他の手では白は 3.Kc3 で簡単に勝つ。黒キングが中央方面に行っても何もならないことは言うまでもない。

3.Kb3!

 また手をかせぐことができる。

3...Kb6 4.Kc3(又は c2)Ka5

 4...Ka6 ならば白は Kc2(c3)-d3-e4-d5 で勝つ。

5.Kd2!

 勝ちを決定付ける手。クリングによって初めて発見された。しかし対応枡の理論を用いれば簡単に分かる。

5...Ka4 6.Ke3! Kb4 7.Kd3

 白は目的を達成した。以下は 7...Ka3 8.Ke4 Kxa2 9.Kd5 又は 8...Ka4 9.Kd5 Kb4 10.a3+ で簡単である。

 このように一見複雑そうな局面でも対応枡を用いると楽に理解できる例は数多くある。これから先の局面でも対応枡の重要性にまだまだ出会える。

(この節続く)

2007年12月17日

実戦に役立つエンディング(22)

第2章 ポーン・エンディング

2.3 キング+2ポーン対キング+ポーン

B 孤立ポーンがパスポーンでない場合

 この型の局面は防御側が引き分けにできる可能性が非常に大きくなる。攻撃側のポーンに手待ちの余裕がない場合は特にそうである。勝敗を分けるのはキングの配置と見合いが取れるかどうかである。図22で考えてみよう。

YKeres022.JPG 図22

 これは一つの典型的な局面である。ちょっと見ただけでは白に勝ちがあるのかどうか判断するのは難しくて、十分な分析が必要である。一般原則としては防御側は白ポーンの自由をできるだけ制限して手待ちの余裕をなくさせるようにしなければならない。一方攻撃側はこの自由を保ったままできるだけ前に自分のキングを進めるようにしなければならない。これらの要点を頭に入れておけば以下の手順は容易に理解できるであろう。まず最も簡単な場合として黒の手番から始める。

1...e5! 2.f4

 キングが動いても 2.Ke4 Ke6 又は 2.Kd2 Ke6 3.Kc3 Kd5 のようにうまくいかない。本譜の手は唯一の勝つ可能性のある手である。

2...Kf5

 黒が引き分けるにはこの手しかない。2...exf4+ 3.Kxf4 Ke6 4.Ke4 Kd6 5.Kd4! は白の勝ちである。本譜の手の後は 3.fxe5 Kxe5 で明らかな引き分けである。

 この簡単な手順のほかに黒には次のように別の引き分けの手がある。ただし正確な手順が要求される。

1...Ke5

 ただし 1...Kf5 はだめで 2.d4 Kg6 3.Kf4 Kf6 4.Ke4 の後 5.Ke5 で白が勝つ。この局面は後で出てくる。

2.Ke2

 2.d4+ Kd5 又は 2.f4+ Kf5 の後黒は 3...e5 を狙う。もし白が 3.f4(又は d4)と指せば黒が最初に 1...e5 と指した場合の対称的な形になる。

2...Kf4

 キングが他の地点に動いても引き分けであるがこの手が一番参考になる。

3.d4 Kg5!

 今度は絶対の手である。3...Kf5? はこれまで見たように 4.Ke3 で白の勝ちである。黒は白が Ke3 と指した時 ...Kf5 と指せる状態でなければならない。白はこれ以上どうすることもできないので引き分けになる。

 図22に戻って白の手番ならば次のような手順で勝てる。

1.Ke4!

 キングをできるだけ前に進ませるという先ほどの原則に従った手である。この手しか勝ちはない。1.Kf4? は 1...e5+ 2.Kg4 Kg6、1.f4 は 1...Kf5 2.Kf3 e5、さらに 1.d4 は 1...Kf5 2.Kd3 Kf4 3.Ke2 Kg5! でいずれも引き分けになる。

1...Kf7

 最も可能性のある手。1...e5 には 2.f4!、1...Ke7 には 2.Ke5 Kd7 3.d4 Ke7 4.f4 Kd7 5.d5(又は 4...Kf7 5.f5)で白が楽に勝つ。

2.Ke5 Ke7 3.f4 Kd7

 3...Kf7 は 4.f5 ですぐ負ける。

4.Kf6!

 4.d4? は 4...Ke7! で引き分けになることは読者自身で確かめられたい。

4...Kd6 5.d4

 見合いを取り勝ちも確定する。5.Kf7 も可能で 5...e5 6.f5 で勝つ。

5...Kd7 6.Kf7 Kd6 7.Ke8! Kc6 8.Ke7 Kd5 9.Kd7 Kxd4 10.Kxe6 で白の勝ち

 注意を要するのは白が勝てたのは 5.d4 と指す余裕があったからである。その証拠に白の6手目の局面で白の手番だとすると最善を尽くしても引き分けにしかならない。このことをもっと詳しく調べてみる。

 白が勝つためには黒キングがd7にいる時に本譜のように白キングはf7に行って見合いを取らなければならない。他の対応枡は白のf6とf8に対して黒のd6とd8である。白キングがg筋にいる場合g8とg7に対応する黒の枡はe8とe7である。g6はどうであろうか。黒のe6の枡は自分のポーンがいるので遠方見合いのc6の枡だけが対応する。白キングがg6に行くとすぐに黒キングはこのc6に行かなければならない。

YKeres022A.JPG

 以上のことから手順は次のようになる。

1.Kf6 Kd6 2.Kg7 Kc7!

 2...Ke7? は誤りで 3.Kg6! Kd6 4.Kf6 Kd7 5.Kf7 で白が勝つ。

3.Kg6 Kc6! 4.Kf7 Kd7 5.Kg8 Kc8!

 ここでも唯一の手である。5...Ke8 は 6.Kg7 Ke7 7.Kg6!、5...Kc6 は 6.Kf8 Kd6 7.Ke8 で黒が負ける。

6.d5

 他に適切な手がない。

6...Kd7!

 6...exd5? は誤りで 7.f5 で白がチェックでクイーンを作れる。

7.Kg7

 7.dxe6+ と取るのは 7...Kxe6 から 8...Kf5 で黒は問題ない。

7...exd5

 これで両者のポーンが共にクイーンに昇格する。

(この節続く)

2007年12月18日

実戦に役立つエンディング(23)

第2章 ポーン・エンディング

2.3 キング+2ポーン対キング+ポーン

 孤立ポーンがパスポーンでない場合(続き)

 白の2ポーンが二重ポーンになっている場合は、後ろのポーンに動く余裕がある時だけ白に勝つ可能性がある。面白い図23を考えてみる。

YKeres023.JPG 図23

 黒キングの方が白キングよりはるかに活動的なのでちょっと見たところでは白が勝てそうにないように見える。しかしf3のポーンが急所の場面で決定的な役割を果たす。巧妙な勝ちの手順は次のとおりである。

1.Kf5!

 後ろのポーンがf3でなくf2だったら白は何の問題もなく 1.Kg5 Ke5 2.f3 ですぐに勝てる。しかしこの局面では 1.Kg5 は 1...Ke5 2.f4+ Ke6 3.f5+ Ke5 で引き分けにしかならない。1.Kg4 も 1...Ke6 2.Kg5 Ke5 で手詰まりである。白はまずポーンをf4に進めて黒キングがe5の地点に来れないようにしなければならない。

1...Kd6

 白の狙いは 2.f4 で、その後キングがh5からh6へ侵入することであった。例えば 1...Kd4 ならば 2.f4 Kd5 3.Kg4!(3.Kg5 は 3...Ke6! で白が手詰まりになる)Kd6 4.Kh5 Ke6 5.Kg5 から 6.Kh6 で白が勝つ。それで黒キングはこの侵入を防ぐために後ろに下がる。

2.f4 Kd7 3.Kg4!

 ここでも 3.Kg5? は 3...Ke6! で引き分けになる。

3...Ke8 4.Kh5

 後で分かるが 4.Kg5 は 4...Kf8 で白が手詰まりになる。

4...Kf8 5.Kg5

YKeres023A.JPG

 手詰まりに置かれたのは黒で、白にいずれの側からの進入を許すしかない。興味深いことに全体の配置が一段下だったら黒は 5...Kf8! で白キングがどちらへ行くかを見定めることができて引き分けにできた。しかし本譜の局面では黒キングにはこの余裕がない。

5...Kg8

 5...Ke8 6.Kh6 Kf8 7.Kh7 は白が楽に勝つ。

6.Kf5 Kh7

 6...Kf8 はもう間に合わず 7.Ke5 Ke8 8.Kd6 Kd8 9.f5!(勝利の手待ち)Ke8 10.Kc7 で白が勝つ、。

7.Ke4!

YKeres023B.JPG

 白はまだ慎重に指さなければならない。7.Ke5 は 7...Kg6! で黒に引き分けにされてしまう。白は黒の手番でこの局面を迎えたいのである。

7...Kh6 8.Kd5 Kg6 9.Ke5 Kh5 10.Kd6 Kh6 11.Ke7 Kg6 12.f5+ で白の勝ち

YKeres023C.JPG

 妙手と美の兼ね備わったスタディであった。

(この節続く)

2007年12月19日

実戦に役立つエンディング(24)

第2章 ポーン・エンディング

2.3 キング+2ポーン対キング+ポーン

 連結パスポーンの場合

 白のポーンが連結していてその内の一つがパスポーンの場合は白の勝つ可能性は非常に大きい。黒の受けの可能性は限られ、引き分けが望めるのは白のポーンがあまり進んでいない場合か黒キングが異例の好位置にいる場合だけである。以降では局面を評価する要素について説明していく。

 まずポーンがa筋とb筋にある場合から考えてみる。それと同時にポーンがどのくらい進んでいるかも考慮する。これにより全ての型が尽くせる。

YKeres024.JPG 図24

 図24はこの型のエンディングの基本である。どちらの手番でも結果は同じなのでここでは手順が少し難しくなるように黒の手番として考える。

1...Kc5 2.Kd3 Kd5 3.Ke3 Ke5 4.Kf3!

YKeres024A.JPG

 ここで分かるように連結パスポーンの大きな利点は白キングが近くにいる必要がないことと敵キングの動きを厳しく制限することである。この例では黒キングは b5-b8-e8-e5 の正方形から出るわけにはいかない。もし出れば白のbポーンがクイーンに昇格してしまう。つまり黒は 4...Kf5 とは指せず見合いを放棄しなければならない。

4...Kd5 5.Kf4 Kd6 6.Ke4

YKeres024B.JPG

 6.Kf5 は 6...Kd5 とされてまた4段目に戻らなければならないので何もならない。

6...Ke6 7.Kd4 Kd6 8.Kc4 Kc7

YKeres024C.JPG

 このように黒は白に5段目を譲ることを余儀なくされた。しかし黒にはまだいろいろな抵抗手段がある。

9.Kc5

 9.Kd5 Kb6 10.Kd6 Kb7 11.Kc5 の方がもっと簡単な勝ち方である。しかし一、二の参考になる点を示すために長い手順の方を取る。

9...Kb7 10.Kd5!

YKeres024D.JPG

 10.b6? は 10...Ka6! 11.Kc6 でステイルメイトになってしまう。10.Kd6 は 10...Kb6 11.Kd7 Kb7 で黒キングが見合いを保つ。

10...Kc7 11.Ke6 Kb6

 11...Kb7 は 12.Kd7 Kb6 12.Kc8 で白の勝ちである。

12.Kd6 Kb7 13.Kc5(d7) で白の簡単な勝ち

YKeres024E.JPG

 もし図24の駒配置を1段上に上げれば(白のポーンがa5とb6など)もはや白の勝ちはない。白キングはc6に行けるが既に見たようにステイルメイトになるのでbポーンを突くことができない。同様にさらに1段上げても(白のポーンがa6とb7など)明らかに黒キングがb8とc7から追われないので引き分けである。

 図24の駒配置を1段下に下げても(白のポーンがa3とb4など)まだ白の勝ちであるが、2段下げると(白のポーンがa2とb3など)状況が変わってくる。白番ならば 1.Kc2 Kc5 2.Kd3! Kb4 3.Kd4 Kb5 4.Kc3! Kc5 5.b4+ で勝つ。しかし黒番ならば 1...Kc3 2.Kd1 Kb2! と白ポーンに逆襲して白がステイルメイトを選ばなければならないので引き分けになる。

(この節続く)

2007年12月20日

実戦に役立つエンディング(25)

第2章 ポーン・エンディング

2.3 キング+2ポーン対キング+ポーン

 連結パスポーンの場合(続き)

 今度は白ポーンがb列とc列にある場合を考えよう。図24の駒配置を1列右へ移動した局面(白ポーンがb4とc5など)は白がもっと楽に勝てる。1段下に下げた局面(白ポーンがb3とc4など)も同様である。これ以上説明を要しないだろう。

 2段下げた局面(白ポーンがb2とc3など)と2段上げた局面(白ポーンがb6とc7など)は白に勝ちがないことは明らかである(図24で同様の局面を既に調べた)。しかし図24から1列右に移動しさらに1段上に上げた局面は結果が異なってくる。それが図25である。

YKeres025.JPG 図25

 この局面は以下のように白が勝つ。

1...Kd6 2.Ke4 Ke6 3.Kf4 Kd6

YKeres025A.JPG

 白のパスポーンは黒キングの動きを厳しく制限しているので白はすぐにキングを進めることができる。

4.Kf5 Kc7 5.Ke6 Kc8

YKeres025B.JPG

 ここで白には一つ問題がある。6.Kd6 は 6...Kd8 7.c7+ Kc8 8.Kc6? で黒キングがステイルメイトになってしまう。だからポーンを犠牲にする必要がある。

6.c7! Kxc7 7.Ke7! で白の勝ち

YKeres025C.JPG

 黒ポーンはまもなく取られ白は図7の白勝ちの局面に到達する。

(この節続く)

2007年12月21日

実戦に役立つエンディング(26)

第2章 ポーン・エンディング

2.3 キング+2ポーン対キング+ポーン

 連結パスポーンの場合(続き)

 さらに図24の駒配置を2列右へ移動した局面を考える。この局面と1段上に上げた局面(白ポーンがc5とd6など)が白の勝ちであることは簡単に分かる。同様に2段上に上げた局面(白ポーンがc6とd7など)も白キングがa6を通ってクイーン翼から侵入することもできるので白の勝ちである。1段下にしてキングの位置を少し変えた局面が図26である。

YKeres026.JPG 図26

 これまでの似たような局面と比べるとこの局面には面白い新たな手段がある。黒に最も有利な受けの可能性を与えるために黒キングをe4に置きさらに手番を与えた。しかしこれでも局面の基本的な性格は変わらない。まず黒が白の通常の勝ち手順にどのように対処するかを見てみよう。

1...Kf4 2.Kf2? Ke4

YKeres026A.JPG

3.Ke2!

 白は前の手の誤りを認めなければならない。当然の 3.Kg3 はこの局面ではうまくいかない。それに対して黒は 3...Kd3! と応じ以下 4.d5 Kxc3 5.d6 Kb2 6.d7 c3 7.d8=Q c2 で引き分けとなる。これは図19の分析で既に触れた。これは白の通常の勝つ手段では十分でないということである。しかし白はクイーン翼から侵入することができる。

3...Kf4 4.Kd2 Ke4 5.Kc2 Kd5

YKeres026B.JPG

 黒は Kd2 には ...Ke4、Ka3 には ...Kb5 と指せるようにしなければならない。そしてそれはうまくいっているように見える。例えば 6.Kb2 には 6...Kc6 7.Ka3 Kb5、6.Kd2 には 6...Ke4 で白はどうにもならない。しかし一つだけ手段がある。

6.Kc1!

YKeres026C.JPG

 この手待ちにより黒は手詰まりにおちいる。6...Ke4 なら 7.Kb2 Kd5 8.Ka3 で白が勝つ。6...Kc6 なら 7.Kd2 から 8.Ke3 で黒の負けとなる。

 この勝ち手順を知ればもう1段下げた局面(白ポーンがc2とd3など)も正しく判断することができる。

YKeres026D.JPG

 白番ならば 1.Kd1 Kf3(2.Ke2 を防ぐため)2.Kc1 Ke3 3.Kb1 で白が勝つ。

YKeres026E.JPG

 しかし黒番ならば 1...Kf3! 2.Kd1 Ke3 3.Kc1 Kd4 で引き分けにすることができる。

YKeres026F.JPG

 黒キングは既に最下段にいるので図26での 6.Kc1! のような手待ちの余地がない。以下は 4.Kb1 Kc5 5.Ka2 Kb4 又は 4.Kd1 Ke3 で引き分けである。

(この節続く)

2007年12月22日

実戦に役立つエンディング(27)

第2章 ポーン・エンディング

2.3 キング+2ポーン対キング+ポーン

 連結パスポーンの場合(続き)

 図26の駒配置を1列右に移し白の両ポーンが中央の列にいるようにすると白の勝つ可能性は高まる。最も複雑な局面は図27のように白のdポーンがd2にある場合である。

YKeres027.JPG 図27

 白の手番ならば 1.Ke1 Kg3 2.Kd1 で楽に勝てる。しかし黒の手番でもa列を使ってクイーン翼から侵入できるので白が勝つ。

1...Kg3 2.Ke1 Kf3 3.Kd1 Ke4

YKeres027A.JPG

 以前に検討した駒配置が1列左の局面では白に勝ちがなかった。しかしここでは状況が異なる。

4.Kc1 Kd5 5.Kb2 Kc4 6.Ka3! で白の勝ち

YKeres027B.JPG

 この例の結果から(図27のように)両方のポーンが中央の列にあるとそれらのポーンがどのくらい前に進んでいるかにかかわらず常に白が勝つと言うことができる。白キングがa3又はf2から侵入して来るのを黒キングが止めることができないのでキングの位置は関係ない。中央から逆襲するのも同じくうまくいかない。例えば白のポーンがd2とe3、キングがc1、黒のポーンがd3、キングがc4の局面で黒が次のように指したとする。

YKeres027C.JPG

1...Kb3 2.Kd1 Kb4 3.Ke1 Kb3

YKeres027D.JPG

 4.Kf2 に対して 4...Kc2! を用意した。しかし白は次のような手順で勝つ。

4.e4! Kc4 5.Kf2 Kd4 6.Kf3 Ke5 7.Ke3

YKeres027E.JPG

(この節続く)

2007年12月23日

実戦に役立つエンディング(28)

第2章 ポーン・エンディング

2.3 キング+2ポーン対キング+ポーン

 連結パスポーンの場合(続き)

 さらに右に移した図28もまた少し複雑である。

YKeres028.JPG 図28

 白の勝つ可能性が非常に少なくなっていることは言うまでもないだろう。白はh筋からは侵入が絶望的なのでクイーン翼からの侵入を試みるしかない。しかしクイーン翼で前進するためには見合いを取らなければならないが、遠方見合いがうまくいかない。図を見れば黒が遠方見合いを利用して正しく守れば白がうまくいかないことは簡単に分かる。

 白はもちろん黒キングがc4-c8-g8-g4の正方形から出られないことを利用してa筋から侵入を試みることはできる。しかしこれに対しても黒は見合いを利用してうまく守ることができる。それに白は自分のfポーンに対する逆襲も考慮に入れておかなければならない。具体的な手順を見てみよう。

1...Kd4

 これが最も簡単な手であるが 1...Ke6 又は 1...Kd6 でもよい。黒は Kd3 には ...Kd5、Kc3 には ...Kc5 と応じられるようにしなければならない。白キングがa筋に行くのを止めることはできないので今の時点では遠方見合いを取るのは意味がない。

2.Kd2

 2.Kf2 Ke5 3.Kg2 Kf6 4.Kh3 Kg5 は引き分けである。

2...Kc4 3.Kc2 Kd4 4.Kb3

YKeres028A.JPG

4...Kd5!

 黒はすぐに斜め見合いを取らなければならない。4...Kd3 は 5.g5 でだめだし、4...Kc5? には 5.Kc3 で見合いを取られてしまう。しかし 4...Ke3 5.g5 Kxf3 6.g6 Ke2 7.g7 f3 8.g8=Q f2 と逆襲して図26の白の3手目の変化と同様のエンディングにするのはどうだろうか。
YKeres028B.JPG
実は駒の配置が違うために白は 9.Qg2 Ke1 10.Kc2! f1=Q 11.Qd2 ときれいに詰めてしまうことができる。

5.Kb4 Kd4

YKeres028C.JPG

 白はこれ以上どうすることもできない。6.Kb5 なら黒は今度は 6...Ke3 が可能だし 6...Kd5 でもよい。6.Kb3 には 6...Kd5 7.Ka3 Kc5 でよい。最後に 6.g5 には 6...Ke5 7.Kc5 Kf5 8.Kd5 Kxg5 9.Ke5 Kg6 10.Kxf4 Kf6! で基本の引き分けの局面になる。

 今までのことから図28の局面を1段下に下げれば白の勝つ可能性はさらに少なくなることは明らかである。しかし逆に1段上に上げるとパスポーンにより白キングの自由がさらに狭まるので白が勝てる。例えば白ポーンがf4とg5、キングがe3、黒ポーンがf5、キングがe6とすると黒キングはd5-h5-h8-d8の正方形の中にいなければならず白キングがc5の地点に来るのを妨げることができない。

YKeres028D.JPG

1...Kd5 2.Kd3 Ke6

 2...Kc5 は 3.g6 で白の勝ち。

3.Kd4 Kd6 4.Kc4 Ke6 5.Kc5

YKeres028E.JPG

 白はまもなく黒ポーンが取れる。

(この節続く)

2007年12月24日

実戦に役立つエンディング(29)

第2章 ポーン・エンディング

2.3 キング+2ポーン対キング+ポーン

 連結パスポーンの場合(続き)

 今度は図29のようにパスポーンがh筋にある場合を考える。

YKeres029.JPG 図29

 図28の検討を元にするとこの局面は引き分けであると言える。しかし受け側に一、二の相違点があるので少し詳しく見てみることにする。

1.Ke3 Ke5 2.Kd3 Kd5

 前の例のように黒は白キングに急所のd4の地点を占拠されないように見合いを保たなければならない。

3.Kc3