「キングズ・ギャンビットの不思議」第1回
初めに
この最も物議をかもす戦法は時代と共に大きく変容して
きました。それは1950年頃までの過去100年間で外見の
変化が顕著だった良い実例です。
19世紀においても多様な見解がありました。穏健な考え
方のスタントン(Staunton)はキングズ・ギャンビットを「最も
難解で美しい手筋を産み出す賞賛すべき戦法」と称えて
いました。他方メーソン(Mason)は自著の「Art of Chess」
(チェスの技法)で「概してこれらのギャンビット類は正当な
戦法とはみなされておらず、結果的に今日の実戦ではあ
まり大した地位を占めていない」と書いています。
今日ではメーソンの見解を指示する人が多数派になって
います。もっと洞察力のある人たちはブラックバーン
(Blackburne)の見解に同調しています。彼は「現在のとこ
ろキングズ・ギャンビットは重要な大会ではめったに指され
ない。それは重要なものが賭かっている時には、わざわざ
この戦法につきものの訳の分からない危険がいっぱいの
局面に跳び込んで行こうという者はほとんどいないことに
ある。従って他の者たちより冒険心のある者がこの戦法を
やろうとしても相手は数ある拒否の戦型を選択する策にで
るのが普通である。」と書いています。
実際多くの著名な選手たちは簡単に対処できるという考
えのもとにギャンビットを見下していました。しかし本当に
そうでしょうか?これは独りよがりにより、容易に解決でき
ない問題を避けたいという人間の精神の潜在的な怠慢か
ら引き起こされたものです。このギャンビット退治の問題
は何人かの名手達によって研究されました。彼らの結論
は考えているほどには布局の問題を簡単に解決すること
はできないというものでした。布局から指せる局面に至る
には黒は複雑で危険を伴う防御を採用するか、又はより
安全な防御型の見返りに白に永続的な主導権を与えな
ければなりません。
昔のキングズ・ギャンビットの指法には多くの偏見があり
ました。しかし1920年代にはルビーンシュタイ(Rubinstein)
とタルタコーワ(Tartakower)、続いて1930年代にはシュト
ルツ(Stoltz)、そして1940年代にはケレス(Keres)とブロン
シュテイン(Bronstein)が、キングズ・ギャンビットが大局
的に指せる戦法であることを実証しようとしてきました。彼
らの幾つかの努力により、19世紀にこの戦法に付きまとっ
ていた魅惑と神秘のベールをが今日ようやく取り払われつ
つあります。しかし今日でもまだ真実は不透明なままです。
第1章 キングズ・ギャンビット受諾
キーゼリツキー・ギャンビット
【第1局】アンデルセン(A.Anderssen) - キーゼリツキー(L.Kieseritzky)
ロンドン、1851年
1.e4 e5 2.f4 exf4 3.Nf3 g5 4.h4 g4 5.Ne5 h5
キーゼリツキー推奨のこの手は g4 のポーンの保持が目
的で黒の陣型の維持には欠かせません。この手の評価
は当時は確固としたものでした。
6.Bc4 Rh7 7.d4
7...d6
ブロンシュテイン(Bronstein)対ドゥビーニン(Dubinin)戦(ソ
連選手権戦、1947年)で黒は 7...Bh6 と指し、以下 8.Nc3
Nc6 9.Nxf7! Rxf7 10.Bxf7+ Kxf7 11.Bxf4 Bxf4 12.O-O
Qxh4 13.Rxf4+ Kg7 14.Qd2 d6 15.Raf1 Nd8 16.Nd5 Bd7
17.e5! dxe5 18.dxe5 Bc6 19.e6! Bxd5 20.Rf7+ Nxf7
21.Rxf7+ Kh8 22.Qc3+ Nf6 23.Rxf6 と進み 27 手目で
黒の投了となりました。ドイツの名手のアンデルセンより
も積極果敢な攻撃で、アンデルセンの手は最強手ではあ
りませんでした(次の手の解説を参照)。
8.Nd3
緩手です。シュレヒター(Schlechter)によればここでもビ
ショップを f7 で切るのが決め手でした。
8...f3
9.g3
この手もキーゼリツキーの推奨手です。しかし今日では緩
手と考えられていて、正着はスタントンの発案で、現代の
「Larobok i Schack」(訳注 スウェーデンの Collijn の名著)
が保証している 9.gxf3 Be7 10.Be3 Bxh4+ 11.Kd2 gxf3
12.Qxf3 です。
9...Be6
受けの好手で後にキングズ・ギャンビットのフィリドール
(Philidor)防御で採用されました。白はセンター・ポーンの
固定化を余儀なくされます。
10.d5 Bd7 11.e5 dxe5 12.Nxe5 Bd6 13.Bf4 Ne7
14.O-O Bf5 15.Nc3 Nd7 16.Nxd7 Qxd7 17.Bb5 c6
18.dxc6 Bc5+
キーゼリツキーは巧妙な防御によりセンター列での白の
攻撃の可能性をすべて排除しました。面白いことに現代
の見解としてスタントンは黒の 18 手目を「このチェックが
できたことは黒にとって幸運だった」と評していました。こ
の手がキーゼリツキーの当初からの防御の構想だったと
スタントンが考えていなかったことは明らかです。今日で
はこのチェックは防御の戦術の一部として特に言及され
ないでしょう。
19.Kh2 bxc6 20.Bd3 Bxd3 21.cxd3 f5 22.Re1 Rd8
23.Qa4
23...f2
スタントンは 23...Qb7 の方が優ると考えていました。しか
しその手に対しては 24.Qc2 で Re6 又は Na4 を狙う手が
あり黒の応手が難しくなります。従ってクィーンの交換を狙
うキーゼリツキーの手の方が今日の指し方とはるかに調
和しています。
24.Re2 Kf8 25.Be3 Bxe3 26.Rxe3 Qd4 27.Qxd4 Rxd4
28.Rf1 f4 29.Rxf2 Nf5!
上手いナイトの捌きで、ラスカーの指し方をほうふつとさせ
ます。黒はポーンを返して白の攻撃力を削ぎポーンの優
勢を強調します。
30.Ne2!!
アンデルセンも「目には目を」で迎え撃ちます。当面の負
けを免れるにはこの手しかありません。興味深いのは黒
の次の手の後キングを含む両者のすべての役駒が戦闘
に関わってくる有様です。局面はまるでプロブレムのよう
な構造を呈しています。
30...Rf7
この手で有利なルーク収局になります。30...Nxe3 とルー
クを取るのは 31.Nxd4 f3 32.Nxc6 Rc7 33.Ne5 Rc1
34.Nxf3! Nd1 35.Rf1 gxf3 36.Rxf3+ Kg7 37.Rf5 となり黒
が駒得ですが勝つ可能性はありません。
31.Re5
31.Nxd4 は 31...fxe3 32.Rxf5 Rxf5 33.Nxf5 e2 で白が負
けてしまいます。
31...fxg3+ 32.Nxg3 Nxg3 33.Rxf7+ Kxf7 34.Kxg3
34...Rxd3+ 35.Kf4 Rd4+ 36.Kg3 Rd5 37.Re3 Kf6
38.Rc3 c5 39.Ra3
39...Kf5!
黒はルーク収局を上手く指し回してきました。39...Rd7 と
消極的に守るよりも本譜のようにキングを活用するのは現
代の指し方と同じです。
40.Rxa7 Rd3+ 41.Kf2 Rd2+ 42.Kg3 Rxb2
43.Rg7!
唯一のチャンスです。43.Rc7 Rc2 44.a4 Rc3+ は白の敗
勢です。
43...c4 44.Rg5+ Ke4 45.Rxh5 c3 46.Rc5 Kd3
47.Kxg4
この手は疑問手です。正着はすぐに 47.h5 と突く手でした。
47...Rb4+ 48.Kg5 Rc4 49.Rd5+ Ke2 50.Re5+
50...Kf2
50...Kf1 と逃げると 51.Rf5+ Kg1 52.Re5 から53.Re1 で
黒のポーンが止まります。
51.Rb5 Kg3
51...c2 は 52.Rb2 の後 Rxc2 から h5 です。
52.Rb1 Rc5+
これは悪手です。52...Rxh4 なら黒の勝ちでした。
53.Kf6 Kf4
53...Kh4 とポーンを取ると 54.Ke6 で引き分けです。
54.Rc1 Ke4 55.Rxc3 1/2-1/2
(Fritz9 の分析によると 55...Rxc3 で黒の勝ちです。55.h5
又は 55.Kg6 なら引き分けです。)