米国チェス連盟の機関誌「Chess Life」の2000年8月号に5月26日から29日にかけて開催されたシカゴ・オープンの報告記事が掲載されています。全部で4ページですがその内ほぼ1ページが羽生さんの棋譜の詳細な解説に当てられていました。ただし羽生さんのプロフィールについては何も書かれていませんでした。だから米国の読者は何でレイティング2300の選手と米国の一流GMの対戦の棋譜が載せられているのか分からなかったと思われます。
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キングズ・インディアン防御(King's Indian Defense) [E99]
クラシカル戦法(Classical Variation)
白 GM アレックス・ヤーモリンスキー (Alex Yermolinsky)
黒 羽生善治 (2300)
シカゴ・オープン、2000年
1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 d6 5.Be2 O-O 6.Nf3 e5 7.O-O Nc6 8.d5 Ne7 9.Ne1 Nd7 10.Be3

シカゴのGMドミトリー・グレビッチ(Dmitry Gurevich)はこの手に再び興味をかき立てられた。この手は長らく 10.Nd3 のために影が薄かった。白は2手かけてビショップをキング側に移す。しかし f2 からは戦略的に重要な c4-c5 の仕掛けを支援できる。
10...f5 11.f3 f4 12.Bf2 g5 13.Rc1 Ng6 14.c5

ヤーモと彼の親友のトルコのGMスアト・アタリク(Suat Atalik)はこの戦型の発展に大きく貢献した。
14...Nxc5 15.b4 Na6 16.Nb5 Bd7 17.Nxa7 h5 18.a4 Rf7 19.Nd3

この手には利点と欠点がある。b4 の地点に利いているが e2 のビショップの利きを阻害しているので c7 の地点に対する狙いは放棄している。
19...Bf8 20.Nb5 Rg7 21.Kh1 Nh8 22.g3 fxg3 23.Bxg3 Nf7!?
ナイトが g6 の地点に戻るのがこれまでの手だったがこの手は新しい手である。
24.Rg1 Rc8 25.Bf2 Qf6 26.Be3 Rg6 27.Qd2 Be7 28.Nc3

白のキングが安全になったので盤の反対側のポーンを前進させることができる。
28...Kh7 29.b5 Nc5 30.Nxc5 dxc5

31.d6?!
この手は主眼の手だが正確ではなかった。正着は 31.a5 Ra8 32.Ra1 で次のように優勢になる狙い筋が残る。
32...Bc8 (32...c4 33.d6!-このタイミングなら絶好だった-33...Qxd6 34.Bxc4 Qxd2 35.Bxd2 Nd6 36.Be2)
33.Na4 c4 34.b6! c6 35.Nb2 cxd5 36.exd5 e4 37.Bd4
どう変化しても白が明らかに優勢である。
31...Qxd6

32.Nd5?!
32.Qd5 と指す方が良かった。黒は正確に応じなければならない。32...Nd8 (32...Be6 33.Qxb7 Qb6 34.Qxb6 cxb6 35.Nd5
は白が良い。)
33.Qxd6 Bxd6 (33...cxd6 は 34.Nd5 Bf6 35.Nxf6+ Rxf6 36.Bxg5 Rg6 37.Be7
でやはり白が良い。)
34.Bxg5 Ne6 35.Be3
で形勢不明である。
32...b6 33.a5 Ra8 34.a6 Bd8 35.Rcd1 Be8

黒はここまでうまく守ってきた。白は駒の組み換えを図らなければならない。
36.Qb2!? Qe6 37.Bd2

37...Nd6
黒は 37...c6 38.bxc6 Bxc6 39.Bc3 b5 40.Bxb5 Bxb5 41.Qxb5 Rxa6 42.Qxc5 Bb6 43.Nxb6 Rxb6
と指せば互角の形勢を維持できた。
38.Bc3 g4

黒の強力な反撃が始まったように見えるが白も強手の受けを用意していた。
39.Bxe5! gxf3 40.Nf4

40...fxe2
羽生氏の時計の旗が落ちそうになっていたので他の手を考慮する時間がなかった。f2 での一手詰みを狙う 40...Nxe4! が最も難しい手だった。

A)41.Bxf3 Qxe5 42.Qe2 Nf2+! 43.Qxf2 Qxf4 44.Rxg6 Bxg6 45.Qg3 Qxg3 46.hxg3 Ra7 47.Rxd8
白が好調なように見えるが勝ちはあるのだろうか?
47...c4 48.Bb7 (48.Bc6 c3 49.Rd4 c2 50.Rc4 Kg7)
48...c3 49.Rd7+ Kh6 50.Rxc7 Be4+ 51.Kh2 c2
これは互角の形勢である。
B)41.Rxg6 Nf2+ 42.Kg1 Nh3+ 43.Kf1 fxe2+ 44.Qxe2 Qf5 45.Qxh5+ (最も実戦的な判断)
45...Qxh5 46.Rg7+ Kh6 47.Nxh5 Kxh5 48.Kg2 Bxb5 49.Kxh3 Bxa6 50.Bxc7
白が優勢である。
41.Nxe6 exd1=Q 42.Nf8+ Kg8 43.Rxd1 Kxf8 44.Bxd6+

44...cxd6
44...Rxd6 は以下の一本道の手順で白が勝つ。45.Qh8+ Ke7 46.Qg7+ Ke6 47.Rxd6+ Kxd6 48.e5+ Ke6 49.Qh6+!
49...Kd5 (49...Kf7 50.Qxh5+ Ke7 51.Qf3) 50.Qf8 Bxb5 51.Qf3+
45.Qh8+
白は引き分けにできることは分かっていたが勝利を目指した。
45...Ke7 46.Qh7+ Bf7 47.e5!

これが勝ちを決めた手である。
47...Ke8
他の手も無駄である。
(a) 47...Ra7 48.Rf1 Ke8 49.Rxf7
(b) 47...dxe5 48.Rd7+
(c) 47...Kf8 48.Rf1 Rg7 49.Qh8+ Rg8 50.Qxh5 Ra7 51.e6
48.Rxd6
48.exd6 は黒が一本道の長手順で引き分けにできる。48...Bf6 49.d7+ Kf8 50.Rd6 Rd8 51.a7 c4 52.Rxf6 Rxf6 53.Qh8+ Ke7 54.a8=Q Rxa8 55.Qxa8 Kxd7
48...Rxd6
48...Ra7 なら 49.e6 である。
49.exd6 Ra7

50.Kg1!
最後まで正確である。黒は駒が乱れているので白のクイーンと2個のパスポーンに太刀打ちできない。
50...c4
50...Bf6 は 51.Qe4+ Kd8 52.Qb7! Rxb7 53.axb7 Bd4+ 54.Kf1 Bc4+ 55.Ke1 で白の勝ち。
51.Qe4+ Kd7
51...Kf8 ならヤーモは 52.Qb7 c3 53.Qc8 c2 54.Qxc2 と締めくくるだろう。
52.Qc6+ Ke6 53.Qc8+ 黒投了

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キングズ・インディアン防御に詳しくない人のために少し補足説明します。白の 14.c5 に対する羽生さんの 14...Nxc5 は本手です。14...dxc5 は良くなく 15.b4! cxb4 16.Nb5 となります。
このクラシカル戦法ではc8の白枡ビショップが黒の命です。黒のgポーンが進んでいってg3に到達した時(白が途中でポーンを交換するのは黒に調子付かせる)白はh2のポーンをh3に突きます。その時黒は白枡ビショップでh3のポーンをたたき切って攻撃を続けます。もし白枡ビショップがなければ黒は白の連鎖ポーンに対して何も手出しができなくなります。だからちょっとやそっとのことでは黒駒と交換できません。それほど大事な白枡ビショップなので変化によってはこのビショップを助けてa8のルークをただでくれてやることもあります。このことは昔渡辺暁さんから教わりました。