「British Chess Magazine」2009年7月号(2/2)
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棋譜のデパート(続き)
IMサム・コリンズ - 意見感想はsamcollins@bcmchess.co.ukまで
2009年名古屋オープン
白 渡辺暁
黒 IMサム・コリンズ
キング翼インディアン防御 [E94]
名古屋オープンの最終戦に入る時バブーリンと私が3½/4で首位に並んでいた。この日既に2局を指していたので相手も私も疲れていた(彼は前の2回とも最後に終わっていたので私より疲れていたに違いない)。このような状況では気の抜けないキング翼インディアン防御を選んだのは良い選択だったと思う。もっとも私の指し方には反省すべき点が多かったが。
1.d4 Nf6 2.c4 g6 3.Nc3 Bg7 4.e4 O-O 5.Be2 d6 6.Nf3 Na6 7.O-O e5

日本でこの戦法を使ったところ好成績だった(3戦3勝)。6...e5 7.O-O Nc6 よりも一本道の手が少ないので、研究豊富だけれど実戦経験の少ない選手に対して用いれば効果的ではないかと思う。
8.Be3
全日本選手権戦の飯沼対コリンズ戦で相手は 8.d5?! と指してきた。しかし 8...Nc5 9.Nd2 a5 10.Rb1 Bh6 11.f3?! Be3+ 12.Kh1 Nh5 13.Nb3 Bxc1 14.Nxc1 f5

と進んで黒の楽な展開になり勝った。
8...c6
これは非常に難解であまり研究の進んでいない戦型である。目指したのは両者が自分の道を行く不均衡な局面である。この点ではうまく行ったが多大の犠牲を払うことにもなった。というのは暁氏はキング翼インディアンの経験が豊富だったのでそれが以降の進行に生きてきたからである。全日本選手権戦の別の黒番では 8...Ng4 9.Bg5 Qe8 10.h3 h6 11.Bh4 exd4 12.Nxd4 Nf6 13.f3?!(13.Bf3 Nh7)13...Nh5 14.f4?? Nxf4 15.Rxf4 Qe5

と進んで楽勝だった。この手順中白が穏やかに指したいならば 10.dxe5 dxe5 11.h3 が正確な手順である。また 10.c5!? はポーンの犠牲を伴う非常に攻撃的な手で、チェパリノフによって始められハリフマンによって何度も用いられた。
9.d5 Ng4 10.Bg5 f6 11.Bh4 c5

ポーンをc5まで進ませることができて黒は陣形的に大きな成果を収めた。しかしキング翼ではh4のビショップのためにすぐに ...f5 と突くことができないので通常のようには指せない。
12.Ne1
白はよくここでナイトをd2に引くが実戦の Ne1-d3 の方がずっと機敏だと思う。
12...Nh6
他には 12...h5 13.h3 Nh6 という手順もある。初めはこの方がキング翼で活発に動けh3に弱点を作らせるので実戦より明らかに良さそうに見える。しかしキング翼のポーンを動員するのはそう簡単ではない。
13.f3 Bd7?

ゆっくり指し進めて ...g5 から ...f5 を狙うというのが私の基本方針だった。しかし ...Bd7 はb7の地点を弱めて陣形をだいなしにしてしまった。
14.Nd3 Qe7 15.Rb1 b6

16.b4!
白が 16.a3 に一手かけることを期待していたのだが暁氏は必要ないことを見破った。
16...Nxb4 17.Nxb4 cxb4 18.Rxb4

18...g5
18...Nf7 19.a4 Bh6 という手順もある。しかし白のクイーン翼での進攻が進んでいるので私は黒側を持って指す気になれない。
19.Bf2 f5 20.a4

このあたりで私は長考に沈んで自分の陣形をひどく嫌っていた。私の次の手順は反撃を狙う最善手だったと思う。
20...g4 21.a5 gxf3

22.Bxf3
22.gxf3 fxe4 23.Nxe4 という手順も気にしていた。23...Bh3 の後白は交換損を受け入れることもできるし拒否することもできる。
22...Ng4

23.Bxg4
ポーンの犠牲を拒否した黒の判断は正しかった。23.axb6 Nxf2 24.Rxf2 axb6 25.Rxb6 は黒に黒枡での永続的な代償がある。客観的にはこの代償は十分なものだが実戦的にはそれ以上のものがあると思う。
23...bxa5 24.Rb7 fxg4

ここは白に色々な選択肢がある。以前の戦いで疲労困憊の暁氏が争点をできるだけ解消しようとしたのは意外に当たらない。しかしキング翼インディアンの収局では黒が負けるという常識はここでは当てはまらない。私の黒枡ビショップはまだ死んでいないし、aポーンの一つは貴重な資産になるかもしれなかった(後にそれが分かる)。
25.Qxg4
25.Rxa7 Rxa7 26.Bxa7 は 26...Qg5 で黒も反撃に希望が持てる。しかし 25.c5! が有力な手だった。アレックス・バブーリンはこれが正着だと確信していて、一見しただけの局面や自分では指さない定跡で最善手を示唆するグランドマスターらしいおせっかいさをここでも見せてくれた。
25...dxc5 は 26.d6 Qe6 27.Nd5(27.Bxc5 は 27...Rxf1+ 28.Qxf1 Rc8 29.Qf2 Qc4 で黒が良い)となって黒はどうやっても互角にできない。例えば 27...Rab8 なら 28.Rxa7 c4 29.Ne7+ Kh8 30.Nf5

となって白は陣形的に圧倒的に良くなる。黒のクイーン翼のポーンが両方とも攻撃目標となっている。
25...Bxg4 26.Rxe7 Rfc8

この手は即座に指した。通常なら白のc4のポーンは勝ちを決める要因(c5突きによって)なのだがここでは弱点となっていることを強調しようとしたものである。しかし白の突進の可能性を軽視していた。
27.Nb5
27.c5!? はわけの分からない変化になる。27...Bf8 28.Rb7 dxc5 29.h3 Bh5 30.Bg3 Rcb8 31.Rxb8 Rxb8 32.Bxe5 Rb3

となって、三とおりのどの結果のうちどれもありそうである。一般に乱戦ではビショップが好きなので黒の方が分があると思うのだが、どちらの陣形が良いかは歴然である。
27...Bf8 28.Rxa7 Rxa7 29.Bxa7 Rxc4 30.Bb8

この局面では持ち時間をほとんど使い切っていた。これは実戦的にまずいやり方だろう。というのは明快な方針を見つけることができていなかったし残り時間が十分にあれば後で有効に使えるかもしれないからである。
30...Rxe4
30...Rb4? は 31.Bxd6 がうまい切り返しである。30...Be2 31.Re1 Rb4 32.Rxe2 Rxb5 33.Bc7 a4 なら黒が良かった。この変化にいかなかったのは私のポーンとビショップが同じ色の枡にいるのを気にしたからだった。しかし実際は白のe4のポーンの弱点の方がもっと重大だったろう。
31.Bxd6 Bxd6 32.Nxd6 Rd4

33.Ne8
これが私の期待していた手だったが最善手ではないだろう。33.Ra1 Rxd5 34.Nb7 ならaポーンが取れる。そうなれば黒の勝てる見込みはなかったと思う。
33...Be2
33...a4 の方が本筋だったろうが残り時間2分では指し切れない(少なくとも私のような穏健派で年長の者にとっては)。
34.Re1 Rd1 35.Kf2 Rxe1 36.Kxe1

36...a4??
この手は残り時間1分に迫っていたので(毎手加算の30秒はあるが)ぱっと指した。36...Bc4 ならまだいくらか優勢だった。
37.Kd2??
しかし暁氏はまだ10分残っていたのでここはe2のビショップを取る手が成立するかどうか腰を落ち着けて読むべきだったろう。次のようにこのビショップは取れたのである。
37.d6! Kf8 38.d7 Ke7 39.Kxe2 a3 40.Nd6 a2 41.Nb7 Kxd7 42.Nc5+ Kd6 43.Nb3

黒がこの収局をしのげるとは思えない。最初は楽観的でaポーンがナイトと相殺できると考えていたが、実際はそうはならない。例えば 43...e4 44.Ke3 Kd5 45.Na1 Ke5 46.Nc2!

でd5の地点に地雷が仕掛けられて持ちこたえることができない。
37...a3 38.Kc3 Kf7 39.Nd6+ Ke7 40.Nf5+ Kf6 41.Ne3 e4

42.Nc2??
アレックス・バブーリンによれば 42.Kb3 が絶対で、やはり正しかった。もっとも今度は少なくとも私の直感も同じだった。想定手順は次のとおりである(対局後の検討で見つけた手順もいくつか入っている)。42...Ke5 43.Kxa3 Kd4 44.d6 Bb5 45.Kb4 Be8 46.Nf5+ Kd3 47.Nh4 e3 48.Nf3 Ke2

49.Kc5 Kf2 50.Nd4 e2 51.Nxe2 Kxe2 52.Kd5 Kf2 53.Ke6 Kxg2 54.Ke7 Bc6 55.Kf6

これで引き分けになる。
42...a2 43.Kd4 Bd3 44.Na1 Kf5 45.g3 Bb5 0-1

早すぎる投了のように思えるかもしれないが、白は次のように指す手がなくなる。46.Nc2 Ba4 47.Na1 Bd1 48.h3 Ba4 49.h4 h6 50.h5 Bd1 51.d6 Ke6 52.Kxe4 Kxd6

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(この号終わり)