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2006年04月 アーカイブ

2006年04月15日

戦いは終わった

「唐沢!一杯やってくか?」
「ああ・・・・いいですよ」
「高村!お前も来るか?」
「はっ、はい!」

「さてと。それじゃあ、乾杯!」
「乾杯」
「おつかれさんです!」
「ぷわー!!んん?高村、なにしてるの?」
「いやあ、今日の三局目を検討しようと思いまして」
「お前なあ!いくら何でも、そのチェスセットは大きすぎるよ!こっちにしろ」
「ああ、ありがとうございます」
「それだったら、目立たないから」
「う~ん、こういうの、一個欲しいですねえ」
「二セット買っとくんだよ!!」
「予備でね、失くしたときのために。俺もそうしてるよ」
「ああ、なるほど」
「外に持ち歩くとな、いくら気をつけてても、ピース失くしたりするんだよ!」
「郡山さん!俺なんか、前泊した(大会などの前日に試合会場近辺に宿泊すること)ホテルに携帯セット丸々置き忘れたことがありましたからねえ」
「俺も一回やったよ!まあ、俺の場合はネットカフェだけど」
「一局目が終わってから気づいたからなあ。あのときは、顔面蒼白になったなあ」
「俺も、郡山さんや唐沢さんみたいに、あっちこっち遠征する実力をつけないとなあ」
「そんなの関係ないよ!!時間に余裕があるんだったら、どんどん行け!!」
「高村君、もう少し頑張ったら、俺なんかには、すぐに勝てるようになるよ!!」
「まだ唐沢さんはキツイなあ。郡山さんだったら、ともかく」
「おい!それは、どういう意味だ?」
「唐沢さん、さっきの局なんですけど」
「何かな?」
「おい!高村!!」

「唐沢、電車、大丈夫か?」
「そろそろ行きます」
「唐沢さん、あとでメール送りますね」
「うん。じゃあ、おつかれさま」
「おつかれ~」
「おつかれさまです」

「唐沢さん、だいぶ元気になったみたいですね」
「・・・・どうかなあ?」
「以前に比べたら、全然違ってましたよ?」
「俺たちに気遣ってたんじゃないか?」
「まさか唐沢さんみたいな良い人が、奥さんに逃げられちゃうなんてねえ・・・・」

半年前の出来事

<あの爺の言った通りになるとは・・・・>

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教えてあげる

「あと、コップ、コップ」
「ちょっと!」
「何?」
「誰・・・・あの娘?」
「あっ??」
「さっきの人」
「ああ、学校の先輩」
「どんな人?」
「うるせえなあ!どうでもいいだろ!!今、急いでんだからよお」
 秀明はポテトチップスとコップ二つを抱えて二階へ駆け上がっていった。
「あの娘・・・・そういえば前にもウチに来たことあったなあ」
「そうなの?」
「何かさあ・・・・かなり勉強できるみたいね。『千日前、受けます』とか、言ってたよ」
「千日前って、あの、千日前総合大学?」
「うん」
「あそこは・・・・関西で一番入るのが難しいとこでしょ?」
「予備校に勤めてる友達に聞いた話だと、今はあたしたちの頃より厳しいんだって!」
「そうなの?」
「もしかしたら・・・・全国で一番難しいかもしれない」
「ええー?」
「だってさあ、あたしが知ってる一番勉強のできた子でもダメだったんだよ!!」
「・・・・」
「それにさあ・・・・秀明、最近、変わったよね?」
「秀明が?」
「顔つきも、男らしくなったしさあ」
「・・・・」
「ねえ、お母さん・・・・心配?」
「何、言ってんのよ」
 娘の美沙をたしなめはしたが、雅代は心が落ち着かなかった。無意識のうちに二階に上がり秀明の部屋の前まで来てしまった。
<真面目に勉強してんのかしら?>
 耳をすませると、かすかに声が聞き取れた。

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隣にいたサラリーマンの会話

「もう一杯、頂戴!」
「おいおい!飲み過ぎじゃねえか?」
「飲まなきゃ・・・・うっ、うううう」
「安西・・・・泣いてるのか?」
「村田さん・・・・話、聞いてくれる?」
「何があった?」

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プレイ スタイル

「さっき・・・・言い忘れてたんですけど」
「何ですか?白石さん」
「近い将来・・・・あたしが結婚したいと思う男性が現れたとしても・・・・あたしは、今の仕事、ずっと続けていきたいんです!!」
「・・・・」
「黒澤さんは・・・・専業主婦になってくれる女の人が・・・・良いですか?」
「・・・・」
「・・・・」
<おい!何か、言えよ!!>
「必ずしも、そうではありません!私が尊敬できる女性でしたら≪仕事に全力を尽くして頂きたい!≫と考えます。勿論、私もバックアップをすることを、お約束します!」
<『趣味は料理です!』と、ぬけぬけと、ほざきやがった三十一のババアだったから≪三食昼寝付を狙ってやがるのか?≫と警戒したが・・・・少しくらいは、話を聞いてやるか>
「そうですか!」
<まだ二十四なのに、見合いに来る男だったから≪マザコンか?≫と思ってたけど>
「人は・・・・自分のしたい事をしている時が、一番、輝いていると思います!!」
「その通りだと思います・・・・話は変わりますけど・・・・『趣味はチェス』と仰ってましたけど、本当ですか?」
「ええ・・・・大した実力では、ありませんが」
「あたしも・・・・時々、和歌山チェスサークルの例会に参加するんです!」
「そうなんですか!ちなみに・・・・白石さんが黒番のとき、d4プレーヤーには、どのようなディフェンスを採用されているんですか?」
「ブダペストです」
「あっ・・・・はいはい」
「黒澤さんは、何をされてるんですか?」
「クイーンズ・ギャンビット・ディクラインド」
「ああ~」
「今度は、白石さん、e4プレーヤーには?」
「スカンジナビアンです」
「おお!」
<ギャンビット・プレーヤーかよ・・・・>
「黒澤さんは?」
「カロカンです」
「あっ・・・・はい」
<堅いのが・・・・好きなのね>
「・・・・」
「・・・・」
「白石さん・・・・白番は?」
「e4・・・・です」
「ああ・・・・私はd4・・・・です」
「・・・・」
「・・・・」
「白石さんが・・・・好きなチェスプレーヤーは誰ですか?」
「          です」
「ああ~」
<やっぱ、そうか!俺の嫌いな奴だ!!>
「黒澤さんは?」
「          です」
<最悪!退屈な奴だわ!若いくせに>
「・・・・」
「・・・・」
「チェスに・・・・罪は無い!」
「オープニング自体は・・・・悪くないの!」
「波長が・・・・合わんなあ」
「・・・・そうみたいね」

プランニング

「高野君!昨日、君が出した企画書なんだが、やってみる価値はあるな!」
「ありがとうございます」
「有能な部下をもって、私も心強いよ!」
 肩を叩いてエレベーターに乗り込んだ課長の背中を、高野直樹は軽蔑して見つめた。
<ケッ!馬鹿が!!テメエみたいな無能な上司に言われたかねえよ!!>
 高野直樹の人生は順風満帆そのものだ。同期で誰よりも早く係長になり、社内でも、結婚するなら一番良い女、と言われた島村晴美と三年前に一緒になった。
 仕事を終えた金曜日の夜、直樹は沢野千鶴のマンションに寄った。
「もうすぐ、御飯できるわ!」
「ああ。風呂沸いてる?」
「ええ」
 千鶴との関係も一年になる。いい加減、単調な結婚生活に飽きてきた直樹には、良い刺激となった。可もなく不可もない毎日で満足する奴は能無し、と常々思っている直樹は、浮気しても気づかないと判断して、晴美と結婚したのだ。
 食事の後、直樹と千鶴は二十分チェスを一局してから、快楽の時間を過ごした。
 帰りがけに、千鶴が直樹に話しかけた。
「おととい、晴美が来たの」
「何か、言ってた?」
「そろそろ子供が欲しい、って」
「ふ~ん、そう」
 直樹はマンションを出た。
<女なんて馬鹿な生き物だ!一人は浮気なんて頭になく、もう一人は友達のダンナと良い関係になっている自分に酔いしれてるんだからな!」
 直樹が自宅のリビングに着いた頃、晴美は丁度、電話を終えたところだった。
「あら?おかえりなさい」
「ただいま」
「ご飯は?」
「すませてきた。風呂、入るよ」
「お風呂あがったら、一緒に飲まない?」
 晴美はワインを手に微笑した。
 ワインを飲み干し、晴美とブリッツ(通常は持ち時間五分の快速チェス)を始めた。いつもならブリッツで負けることのない直樹が続けて三局落とした。
<あれっ、酔いがまわったのか?千鶴の家でも少し飲んだからかな?>
 気を取り直そうとした直後に、激痛がはしった。
「うっ、あっ、あっ」
 直樹は口をおさえて倒れた。
「やっと、効いてきたみたいね」
「はっ、晴美!」
「直樹!楽しかったわ」
「なっ、な・・・・」
「千鶴に、手出してたの、知ってるのよ!」
「えっ・・・・」
「だって、前に比べたら、千鶴のチェスが良くなってたし。それと、彼女は昔、駒取りのときは相手の駒を取ってからだったのが、この頃は、自分の駒を掴んでても出来るようになったからねえ」
「・・・・」
「あなた、いつも私に言ってたわね『チェスで大事なことは、しっかりプランを立てること。まあ、チェスに限ったことじゃないけど』て・・・・すぐに千鶴も送ってあげるから、安心して死になさい!!」

旅先の出来事

 <奴は何者だったんだ?>

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大一番

「先生、村井さんが参りました」
「うむ、ここに通しなさい」
 家政婦を退け、衆議院議員の橋爪勘九朗は、政策秘書の村井晋平が来るのを待った。
「お休みのところ、すみません」
「こうやって自宅で、のんびりできるのも、君のおかげだ!さあ、座って一杯やりなさい!」
 橋爪は村井に日本酒を勧めた。十二畳の和室には、橋爪と村井の二人だけだ。
「村井君・・・・『大事な話がある』と言ってたね?」
「は、はい・・・・」
「何だね?」
「はあ・・・・」
「どうしたんだ?んん?いつもの君らしくないじゃないか?遠慮なく、言いたまえ!」
「先生・・・・私と先生のお嬢さんとの結婚をお許しして頂けませんか?」
「はっ??」
「私は、お嬢さんを、恭子さんを愛してます!必ず、幸せにする自信があります!」
「ほ、本気で言っとるのか、君は?」
「先生、お願いします!どうか!」
「村井君、頭を上げなさい!しかし議員が秘書に縁談を持ち掛けることはあっても・・・・」
「・・・・」
「村井君。そういえば、以前『趣味はチェスです』と言っておったなあ?」
「はい」
「実は、昔、私も少しやってたんだよ!」
「初めて聞きました」
「私と対局して、君が勝てば許そう」
「えっ?!しかし・・・・」
「私に勝てる自信が無いのか?」
「・・・・」
「村井君!男はな、勝算が無くても腹をくくって勝負しなければならんときもあるんだよ!」
「・・・・わかりました」

 白:村井晋平  黒:橋爪勘九朗
1.d4 g6 2.c4 Bg7 3.Nc3 f5 4.Nf3 Nf6 5.g3 d6 6.d5 0-0 7.Bg2 Na6 8.0-0 Qe8 9.Be3 c6 10.dc6 bc6 11.Nd4 Bd7 12.Qa4 Nc5 13.Qc2 Rb8 14.Nb3 Nb3 15.ab3 c5 16.Ra7 Ng4 17.Bg5 h6 18.Bd2 Ne5 19.Nd5 Nc6 20.Rd7 Qd7 21.Bc3 Nd4 22.Qd1 e5 23.b4 Ne6 24.b5 f4 25.Bh3 g5 26.Qd3 fg3 27.hg3 Qe8 28.b6 Rb7 29.Qe4 g4 30.Bg4 Ng5 31.Nf6+ Bf6 32.Qb7 Qb8 33.Qd5+ Kg7 34.b7 Nf7 35.Ra1 Nd8

 白三十六手目Bf3で、橋爪は自分の負けを村井に告げた。
「先生、まだRf7とすれば」
「いや、それでも白が優勢なことに変わりない。黒二十手目Rd7、ポジショナル・エクスチェンジ・サクリファイスだな」
「・・・・」
「・・・・約束だったな。健治、出てきなさい!お前も私たちの話を聞いてたんだろ!」
「オヤジ・・・・いや、お父さん!今はアタシ、恭子よ!!」
 隣の部屋から、恭子が入ってきた。
「恭子、私からは何も言うことは無い!あとは二人で、よく話し合え」
「お父さん、ありがとう!!」
「まあ、村井君なら恭子を安心して任せられるよ!どうした、村井君?顔色が悪いぞ!まさか『性転換手術で女になった奴は愛せない』とか、言うんじゃないだろうな?」

よりによって・・・・

<からだ、壊してなきゃいいけど・・・・>
 藤野恵美は遠沢綾乃の身を案じながら、駅の階段を降りた。昨日、梅雨明け宣言がされたのに朝からの雨はやみそうにない。

「恵美!あんた、チェス詳しかったよね?」
「う、うん。少しだけ」
 会社で同期の綾乃から『チェスを教えてほしい』と頼まれたのは今年の一月だった。綾乃の彼氏が、チェスクラブに通ってる話を綾乃にしてたので興味をもったようだ。でも綾乃の彼がチェスを趣味にしてたのは、彼が、まだ大阪にいたときから綾乃は知ってたはずだ。
「何で、そのとき、彼に教えてもらわなかったの?」
「だって、難しそうだったし。まさか、彼が東京に行くことになるなんて、考えてもいなかったから」
「彼はあと半年で、大阪に帰ってくるんじゃなかったっけ?」
「だからさあ、そのときまでに相手ができるようになりたいの!」
 恵美は戸惑っていた。綾乃の彼氏とは何度かネットでチェスをしたことがある。彼の実力は初段くらいだ。将棋の経験者であれば、半年で初段クラスになることは可能だが、綾乃は将棋をやったことが無いからだ。
「綾乃、結構大変だよ?」
「あたし、頑張るから!」
 その日から、猛特訓が始まった。一生懸命に技術を吸収しようとする綾乃に、恵美は自分の持っている全知識をそそいだ。
 三月の終わり頃。綾乃の実力は恵美が真剣に考えてゲームをしないと負ける状態にまでなっていた。
「綾乃、すごいわ!!こんな短期間で、ここまで強くなるなんて!」
「えへへ。私だって、やればできるもん!!」
「たぶん、彼とゲームしても勝てるよ!」
「そう言ってもらえるなんて嬉しいわ!」
 いつものように、綾乃の家でゲームをこなした後、ショートケーキを食べ談笑していた。
「これ見て!!恵美」
「あっ!これ、最新型のデジタル・クロックと試合用のチェスセットじゃない!!このチェスセットって・・・・かなりの値段したでしょ?」
「前に、彼が『これ欲しいなあ~』て、言ってたの!」
「でも、綾乃の彼、吃驚するだろうね!内緒で綾乃がチェスを覚えたのと、セットまで買ってくれたのを知ったら!!」
「ふ、ふふ~ん」
「羨ましいなあ」

 手続きを済ませて、恵美は拘置所の面会室に入った。
 拘置所を出た恵美は、駅まで急いだ。雨は激しさを増し、雷鳴が轟いている。
<彼の帰りが待てず、東京に行った綾乃。綾乃が一番ショックだったのは、綾乃が買ったのと同じ対局時計とチェスセットで、彼と浮気相手が楽しそうにゲームをしてたことだ!彼と女が寝てる現場だったら、まだ・・・・>

戦いがはじまった

「あら?まだ、起きてたの?」
「・・・・」
「どうしたの?電気もつけないで」
「・・・・」
「明日はチェスの例会でしょ?朝、早いんじゃなかった?」
「・・・・」
「何で・・・・黙ってるの?」
「・・・・どこ、行ってたんだ?」
「えっ??」
「どこ、行ってたんだよ??」
「朝、言ったでしょ!!今日は朋美と逢うから遅くなるって」
「ああ?」
「何よ?」
「本当のこと、言えよ!!」
「・・・・どうしたの?」
「だから『本当のことを言え』て、さっきから言ってんだろうが!!」
「何で・・・・怒ってるの??」
「・・・・誰と、いたんだよ??」
「だから朋美と」
「おい!!もう一回訊くぞ!!誰と、どこに、行ってたんだよ??」
「ちょっと・・・・どうしたの??」
「じゃあ・・・・これは何だよ??」
「何、これ?」
「ここに写ってるのは、誰だ??」
「誰?これ?」
「じゃあ・・・・こっちは??」
「・・・・」
「お前を・・・・尾行してたんだよ!!」
「・・・・」
「ふざけやがって!!」
「・・・・アンタも、暇ねえ」
「はあ??」
「最初から、そう言えばいいじゃない!!」
「なんじゃ、そりゃあ?逆ギレか??」
「言っとくけど・・・・あたしと『一緒になりたい』て、言ったのはアンタの方でしょ!!」
「それが??」
「あたしはね・・・・アンタみたいな安い男に、ずっと縛られたくないの!!」
「・・・・テメエ」
「アンタ・・・・チェス、やってんでしょ?」
「それが、今、何の関係があんだよ??」
「あたしみたいな女王様が、アンタみたいな小物ひとりで、満足できるわけないでしょ!!」

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