「あと、コップ、コップ」
「ちょっと!」
「何?」
「誰・・・・あの娘?」
「あっ??」
「さっきの人」
「ああ、学校の先輩」
「どんな人?」
「うるせえなあ!どうでもいいだろ!!今、急いでんだからよお」
秀明はポテトチップスとコップ二つを抱えて二階へ駆け上がっていった。
「あの娘・・・・そういえば前にもウチに来たことあったなあ」
「そうなの?」
「何かさあ・・・・かなり勉強できるみたいね。『千日前、受けます』とか、言ってたよ」
「千日前って、あの、千日前総合大学?」
「うん」
「あそこは・・・・関西で一番入るのが難しいとこでしょ?」
「予備校に勤めてる友達に聞いた話だと、今はあたしたちの頃より厳しいんだって!」
「そうなの?」
「もしかしたら・・・・全国で一番難しいかもしれない」
「ええー?」
「だってさあ、あたしが知ってる一番勉強のできた子でもダメだったんだよ!!」
「・・・・」
「それにさあ・・・・秀明、最近、変わったよね?」
「秀明が?」
「顔つきも、男らしくなったしさあ」
「・・・・」
「ねえ、お母さん・・・・心配?」
「何、言ってんのよ」
娘の美沙をたしなめはしたが、雅代は心が落ち着かなかった。無意識のうちに二階に上がり秀明の部屋の前まで来てしまった。
<真面目に勉強してんのかしら?>
耳をすませると、かすかに声が聞き取れた。
「・・・・先輩、いいんですか?」
「いいよ」
「でも、俺・・・・やったこと無いし」
「大丈夫だって!」
「この後・・・・どうしたらいいんですか?」
「教えてあげるから!ねっ!!」
<あたしの息子に、何やっとるんじゃあ??あの女!!>
怒りにまかせて雅代は突入した。
「あんたたち!!何、やってんの!!」
雅代の怒号が家中に響きわたった。一瞬、面喰った秀明が怒鳴り返してきた。
「何だよ!!何しに来たんだ??」
目の当たりにした光景が想像と違ったので、雅代は放心状態になった。
「ああ、これか!チェスだよ!!先輩が『勉強の合間に良い気分転換になるから』て、持ってきてくれたんだよ!!」
「・・・・あら・・・・そう」
「先輩、すみません。吃驚させてしまって」
「・・・・ううん。気にしないで」
「さっきの続き、お願いします」
「ええ~と・・・・キングス・ギャンビット・ディクラインドで・・・・」