「もう一杯、頂戴!」
「おいおい!飲み過ぎじゃねえか?」
「飲まなきゃ・・・・うっ、うううう」
「安西・・・・泣いてるのか?」
「村田さん・・・・話、聞いてくれる?」
「何があった?」
「俺、四月で・・・・三十六になるんです」
「うん」
「人並みに・・・・家庭持ちたいから・・・・長沢しゃんに、プロポーズしたんでしゅ!!」
「えっ??誰に?」
「長沢しゃん」
「第一営業部の長沢遥・・・・だな?」
「はい」
「おまえ・・・・いつの間に?」
「村田さんには・・・・黙ってたけど」
「ほえー!!う~ん、長沢は三十過ぎたバツイチの子持ちだけど・・・・俺も長沢に『奥さんと別れて!』と言われたら、別れても良いね!ウチは子供もいないし!」
「・・・・」
「それで、長沢は・・・・何て答えたんだ?」
「『キングが心配だから・・・・今は、お受けできません』と・・・・言われました」
「はっ??キング??」
「他に好きな男がいるなら、言ってくれりゃいいのに!」
「・・・・そうだな」
「やっぱり・・・・若くて仕事ができる男が、良いんかなあ?」
「キング・・・・キング」
「うわ~ん」
「・・・・まさか」
「うえ~ん」
「もしかして・・・・長沢、チェスやってねえか?」
「長沢さんの家に、アンティークのチェスセット・・・・置いてまちた」
「・・・・そっか」
「はあ?」
「俺の後輩で“ヤザワ”て奴がいてな!昔、そいつに俺は、チェスを教えて貰ったんだ」
「チェスなら、俺も中学の頃、やってました」
「それなら、話が早いな!ヤザワに、こう言われた憶えがある『条件が揃えば、左右どちらでもキャッスリングできるときがある』」
「それくらい、知ってますよ!」
「続きがあってな!くだらねえ例え話をしやがったんだよ『キャッスリングで使用したRは、Qにとっては夫、恋人の存在。使われなかったRはQの愛人、友人である』とね」
「それだと・・・・長沢さんには“他に好きな男がいる”ということになりますよ?」
「そうとも限らんぞ!長沢の言葉をもう一度、よく思い出してみろよ!」
「???」
「おまえも知ってると思うが・・・・俺も長沢と一緒に仕事をしたことは、昔、何度もある。とても責任感が強い奴だったよ!」
「・・・・うん」
「まして・・・・今は六歳の息子の母親だからなあ・・・・とにかく、おまえも長沢の子供のことを、最優先で考えてやれ!!」
「うん!そうですね」
「さて・・・・これから、どうする?今日は最後まで付き合うぞ!」
「飲みましょう!!勘定は俺が払いますから」