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旅先の出来事

 <奴は何者だったんだ?>

「キングス・ギャンビットか・・・・久しぶりだ」
 老人は暫くしてから、2...ef4。ノータイムで三枝は、3.Bc4。
「Bかあ!これまた、久しぶりじゃ」
「爺さん、悪いけど静かにしてくれねえか」
「いいじゃないか!こうやってだな、喋りながらするチェスも楽しいもんだよ」
 中盤の考えどころになっても、老人はあれこれ喋りかけてくる。
<海、眺めてたのに・・・・こんな爺の道案内なんか、するんじゃなかった!おまけにだ、ホテルのレストランに食事を付き合わされて、チェスまでやる羽目になっちまうとは!さっさと終わらせて宿に帰ろう>
 三枝が白十九手目を指し対局時計のボタンを押したとき、老人が口を開いた。
「何か、悩みがあるなら、言ってごらん」
「ああ?」
「君の悩みを解決できるとは言えんが・・・・話して楽になるなら、話してごらん」
「何、言ってんだよ?」
「私も君ぐらいの年のときは大変だったよ!けど、今思えば、つらかったことも良い思い出だ」
「・・・・」
「・・・・今は、つらいかもしれんが」
「・・・・うるせえんだよ」
「ううん?」
「だから、うるせえって、言ってんだろうが!!ちょっと、時計止めるぞ」
 三枝は左手で対局時計のボタンを中立にして、右拳でテーブルを叩いた。
「あのなあ、オッサン!!」
「そんな、怒鳴らなくても」
「おまえは『努力して頑張れば何とかなる』とか言いてえんだろうが、そんなもん、何かを得た人間がだなあ、何も得れなかった人間を見下して言う台詞だろうが!!」
「ちょっと、落ち着いて!」
「ああ?くだらねえこと、ぬかしやがって!どう考えても、この国はよお、人を騙して金を得て、自分の都合の良い女か男を捕まえてだ、一人でも多く愛人を作った奴がよお、評価される国じゃねえのか??」
「そんなことはない」
「大体よお、何で初対面のおまえに、いちいち話さなきゃいけねえんだ?おまえは、そんなに偉いのか?」
「別に、偉いとは言ってない」
「じゃあ、何だ?」
「君は・・・・人を騙して金が欲しいのか?愛人を作って、結婚相手を困らせたいのか?」
「それは・・・・」
「悪い人間のやってることを真似しなくても、君にしか、できないこともあるだろ!!」
「・・・・」
「・・・・さあ、ゲームを続けよう」
 老人は三枝側のボタンを押し、盤面に目を戻した。
<ケッ!こんなの続けて何になるってんだ?ここから黒が勝てるわけねえだろ!!>
 三枝は敵意というより殺意を抱いて、老人を睨んでいる。
「よし・・・・勝負だ!!」
 老人は着手した後、睨み返してきた。
<むむん!随分、鋭い手だな!!・・・・まさか、今まで加減してたんじゃねえだろうなあ?いや、まて、この爺の眼、どっかで見た憶えがある!!誰だ、こいつ?>

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2006年04月15日 02:12に投稿されたエントリーのページです。

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