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サクリファイス 番外編 1

「上がっていけよ!話があるんだ」
 航一は渋る絵里子を応接間に通した。
「話って、何?」
「まあ、座れよ」
 いくら言っても絵里子は座ろうとしない。
「お前がいなくなって三ヵ月、俺も考えたよ。お前の言う通り俺は家のことを全然かまってなかったな。この頃になって、ようやくわかったよ」
「また『やり直したい』とか、言いたいわけ?」
絵里子が航一を見る目は、玄関にいた時と少しも変わっていない。
「もう、そう言うつもりはない。ただ、もう少し俺が気をつけていたらと思うとな・・・・」
「話は、それだけ?」
「とにかく、今言ったことは俺の本心だ!」
「わかった・・・・それじゃ」
「あと・・・・麻美を頼む」
「・・・・ええ」
 絵里子は家を出た。航一はネクタイを外すと大きくため息をつき天井を見上げた。
 十分後、航一は息子の拓也の部屋を覗いた。電気は消えていて拓也は眠っている。
<八時半なのに、もう寝たのか?>
 廊下の灯りが拓也の枕元に置かれた木箱を照らす。二年前、絵里子が与えたチェスセットだ。
<そういえば『相手してあげて』と絵里子に何度か言われたなあ。あのとき・・・・>
 頭を横に三度振った後、航一は扉を閉めた。

翌朝。航一は自宅で仕事に没頭した。頭が冴えていたのか、予定より二時間も早く片付ける事ができた。昼食の用意まで時間があるので、インターネットで情報収集にかかる。
<チェスも調べてみるか>
 検索してみると、NSSR(日本西洋将棋連合)のHPに辿り着いた。更に調べると航一の家から徒歩七分の所に、公認のクラブがあった。
 午後一時半頃、航一と拓也は喫茶アイソレート ポーンに向かった。
 店に入ると、客は二人。入ってすぐ右のテーブルについた航一は店員に尋ねた。
「ここ、チェスができるんですよね?」
「はい、できます。あちらにいらっしゃる親娘はプレーヤーでして。ええっと、プレーされる方は?」
「私と息子」
「あっ!そうですか!」
 五分後、航一は三十代後半の母親と、拓也は小学生とゲームを開始した。

午後四時過ぎ、帰宅の道中。
「拓也、あの娘強かったな、美咲ちゃん」
 拓也は無言で頷いた。
「お母さんもなかなかやるな~。危うく負けるとこだったよ!次に対戦するときはどうかなあ?まあ・・・・次は無いか」

 転居先の生活にも落ち着いた航一は、暇をみつけては拓也とチェスをした。対局時計が必要と感じた航一はNSSRのHPを久しぶりに開くと、思いがけない記述を見つけた。

<京都チェスサークル??何だ、これ!?ここから歩いて五分のとこにあるのか!何か、変に縁があるなあ~>

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2008年04月22日 00:45に投稿されたエントリーのページです。

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